第111話 とけいのなかのねこ
時間を知らせてくれるとけい。ふつうは「チクタク」と音を立てるだけですが、ときにはふしぎな秘密をかくしているかもしれません。今日は、りくくんとさえちゃんが体験した“とけいのなかのねこ”のお話です。
ある日の夕方。
りくくんは学校の図書室で本を読んでいた。ふと顔をあげると、壁にかかっている大きな古いとけいが目に入った。
「チクタク、チクタク」
その音を聞いていると、なんだか目がとろんとしてきた。
「りくくん、まだいるの?」
声をかけたのは、さえちゃんだった。
「うん、ちょっとね……」
とけいを指さすと、さえちゃんも見上げた。
すると、不思議なことがおこった。
とけいの文字盤のすみっこから、灰色のしっぽがひょこっとのぞいたのだ。
「い、いまの見た!?」
「うん、ねこのしっぽだよね!?」
ふたりが目をこらすと、しっぽにつづいて、小さなねこの体がにゅるっと出てきた。
まるでとけいの中から、ねこが飛び出してきたようだった。
「にゃあ〜」
ねこは二人の足元におりると、ぐるぐると円を描くように歩きはじめた。
すると、図書室の空気がすこし変わった。窓の外はまだ夕方のはずなのに、まるで時間がゆっくりになったような気がした。
「なんだか……静かすぎない?」
「ほんとだ。時計の音も止まってる」
ふたりが顔を見合わせると、ねこはぴたりと止まり、金色の目でじっと見つめてきた。
そして、小さく「にゃ」と鳴いたかと思うと――ぱっと体が光って、またとけいの中へすべりこんでいった。
その瞬間、時計の針がカチッと動き、再び「チクタク」と音を立て始めた。
窓の外を見ると、さっきまで止まっていたように感じた雲がまたゆっくりと流れている。
「……夢だったのかな?」
「でも、ちゃんと見たよね」
ふたりはとけいを見上げて首をかしげた。
すると、文字盤の端に、小さな足あとマークがひとつだけ残っていた。
「やっぱり、あのねこは本当にいたんだ!」
ふたりはどきどきしながら、とけいを見つめつづけた。
これからもときどき、ふしぎなねこが顔を出すかもしれない――そんな気がしてならなかった。
時間をきざむとけいも、ときには不思議な住人をかくしているのかもしれません。みなさんの家のとけいも、じっと見つめていたら何か出てくるかもしれませんよ。




