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完結『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』  作者: カトラス


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【第16話】『コード:L-Disaster──新たなる怪人計画』

『影翼、咆哮す──初任務:議員誘拐と街区制圧作戦』


──深夜2時20分、港区第三区・山王街。

静まり返ったオフィス街に、ひときわ低く重いエンジン音が響いた。


 黒塗りの装甲ジープが一台、路地裏に滑り込む。

 その後方から現れたのは、異形の影たち──イツキ直属の特殊怪人部隊「影翼」だった。


 


「標的の政庁舎まで、あと150メートル」

 狼獣型怪人・ファング=ハウルが低く唸りながら言う。


「やるなら、静かに頼むよ……」

 影術使い・セピア=ミールが地面に溶けるように姿を消した。次の瞬間、警備詰所の裏に潜り込み、警備兵の首筋に触手を絡める。男は抵抗すらできずに意識を失った。


 政庁舎前に立つ8名の警備兵が、異変に気づきざわめき始める。


「なんだ、今の音……!?」「警報鳴らせ!」


「ムダだよ」

 頭上から声が響く。

 ビルの壁面に立っていた幻術使いのユル=トゥームが、静かに手を広げた。


 ビルの窓という窓に、血の雨と崩れ落ちる死体の映像が映し出される。

 同時に街灯が一斉に落ち、異様な静寂が訪れる。


「錯視フィールド展開完了。区域内の混乱率、78%。目標建物に突入可能です」


 


 その報告に頷いたのは、重装型怪人・グラディア=ゴア。

両腕の砲門から高温ビームを放ち、政庁舎の正面扉を融解させる。


「開門。目標は最上階──逃がさない」


 内部に突入したのは、イツキ本人だった。

重く静かな足音だけが、政庁舎の廊下を響かせる。

 最上階に逃げ込んだ特別行政顧問・南條勲は、机の陰に隠れながら震えていた。


「な……何者だ貴様! ここがどこだと思っている!」


「お前が隠れているのは、すでに“終わった国家”の影の中だ」

 イツキは淡々とマスクを外す。


 かつて“正義の戦隊リーダー”として市民から慕われていた男の顔が、議員の目に焼きついた。


「お前……まさか……!」


「地獄の門はもう開いた。お前は、正義の代償として“使わせてもらう”」


 外では警備隊の増援を乗せた輸送ヘリが接近していたが、

爆発物使いのクラグ=リースがにやけながらスイッチを押す。


「ドーン、いっちゃえ~!」


 ワイヤー爆弾が空中で炸裂。

 輸送ヘリは業火に包まれ、鉄屑となって落ちていく。


 作戦開始からわずか12分後。

山王街全域の映像・通信は掌握され、南條議員は拘束された。


 市民がSNSに投稿した動画や画像は、すべて“映画の特撮ロケ”と誤認され、笑いと恐怖のフェイクニュースとして拡散していく。


 ──その夜、誰もが気づかぬまま「影翼」という名が記憶の片隅に刻まれた。


「本部へ。影翼初任務、完了。目標人物確保、街区制圧済み」


『了解──イツキ・日向。お前は、英雄として次なる扉を開け』


 黒き英雄の影が、夜の奥へと消えていった。


『情報中枢制圧作戦──コード:Echo Break』


──時刻は深夜0時。

 場所は新日本政府・霞ヶ関再構築区画、中央データリンク本庁舎。


 そこは“情報統制の心臓部”と呼ばれ、全国の通信監視・報道フィルタリング・市民ランクデータなどを一元管理する絶対防衛区だった。


 ネメシス本部が下した次なる任務は、この“情報中枢”の制圧。

それは、表向きの暴力ではなく、国家中枢の神経を根絶やしにするという静かなるクーデターだった。


 今回の任務に当たっては影翼は使わずにベテラン怪人を任務に当たらせた。

 イツキが他の怪人の能力を知る為の意味も兼ねているからだった。

 部隊編成:

隊長:幹部昇格後の【日向イツキ】


 副隊長:改修型戦術怪人【クロム・リーパー】(元死刑囚)


 ハッキング支援:旧実験棟出身【メルト=カーヴァン】(情報型怪人)


 強襲破壊担当:脳幹兵器化改造個体【GZ-6“グリードッグ”】


 隠密潜入:再構築型女性怪人【ノア=シラハネ】(元N市警特捜部)


 作戦経緯:

 作戦は午前0時10分に開始された。


 電力供給を担当する変電ユニットが、グリードッグの咆哮波で破壊され、庁舎の3割がブラックアウト。

 その直後、ノアが中枢地下B3階の通気ダクトを通じて侵入。

 防犯センサーに反応せず、エレベーター制御を内部からハイジャックする。


「陽動完了。GZ、突入せよ」

 イツキの指示により、中央エントランスへクロム・リーパーが強襲。

 爆破音とともに、装甲ドアが粉砕され、応戦に出た警備兵たちは酸性液をまとった鉄鞭により、次々と引き裂かれる。


「手加減はしねぇぞ……これが“再教育”ってやつだ」


 その様子を、ビル外部からメルト=カーヴァンが監視。

 ネメシス製のデータ侵食AIを端末に走らせ、施設のネットワークを掌握。

 市民ランク操作データ、報道スクリプト生成アルゴリズムなどがリアルタイムで吸い上げられていく。


 中枢突破:

地下最深部、情報統制中枢には特級セキュリティが施されていた。

 だがそこも、ノアの毒入り投影ナノミストにより、警備ドローンは全機沈黙。


 イツキは誰もいないその中枢の椅子に腰掛け、言った。


「これが……この国の脳味噌か」


 数秒後、カウントダウンが始まり、“情報独占フレーム”が解除された。


 その瞬間、国家が抱えていた全ての“欺瞞”が、暴露ファイルとして民間ネットに流出。


 作戦後:

 撤収する部隊の前に、ネメシス戦術通信に届いた暗号化通信。


「……お前たちの“正義”は、誰のためだ?」


 それは、政府の情報将官である“高遠シズカ”からだった。


“反ネメシス・地下抵抗勢力”の存在が、この一夜にして現実味を帯び始めた。


 作戦は完遂した。

だが、代償として日本という国家は、真に“騒乱”の時代に突入する。


 イツキの口元は歪み、呟いた。


「闘いに“終わり”を望んだのは、どっちだ?」


 彼の背後では、爆破された情報中枢の塔が、静かに崩れ落ちていった──。



──ネメシス本部・地下第七研究棟。


 冷たい金属の床を響かせ、足音がゆっくりと通路を進む。鈍い照明の下、左右に並ぶ培養チューブが幽かな光を放ち、その中には異形の肉体が蠢いていた。だがそれらは、まだ“人間”だったもの──いや、これから“怪人”へと変わるための“素材”でしかなかった。


 白衣をまとった一人の男がチューブの前で立ち止まり、鋭い眼差しでその中を見つめる。


 ドクトル・メディアス。


 ゲロスを生み出した狂気の創造主にして、ネメシスの頭脳たる存在。


「暴走した時に密かにゲロスは俺を狙っていたようだが……殺されるとは思ってなかったさ。だが、生き残ってしまったからには、やるしかない」


 彼は顎に手をやり、笑った。皮肉でも自己憐憫でもない。純粋な、科学者の笑みだった。


「G-Omega作戦──確かにあれは見事だった。だが、我々はまだ“神”を創れていない」


 研究棟の奥、封印されていた特殊素材庫のロックが解除される。


「L計画、始動。コードネーム──“L-Disaster”」


 ゲロスの遺伝子データをベースに、精神抑制装置を複合した新型個体。その素材に選ばれたのは、先の戦闘で捕らえられたセイガン兵士たちだった。


 イツキがその事実を知ったのは、幹部会議に提出された試験報告の中だった。


──


 ネメシス本部・戦術会議室。


「……これは、正気か?」


 イツキは報告書を握りしめたまま、眉をひそめていた。


「捕虜の人権は、我々の管轄下にない。義務もない。あるのは、可能性と効率性だけだ」


 正面の長机で語るのは、情報幹部ナヴァール。冷徹な口調で続ける。


「ドクトルの計画は、軍事的には理に適っている。君もゲロスを討った者として理解しているだろう?」


 イツキは何も言えなかった。


 ゲロスの圧倒的な力、その後の暴走。そして、ラミアが傷つき倒れた現実。


「制御可能な“神”を──か」


 彼の呟きに、誰も答えはしなかった。


──


 研究棟に戻ったイツキは、ガラス越しに培養チューブを見つめた。


 そこには、まだ“人間”の目をした青年が浮かんでいた。


 イツキは拳を握る。


「……これが正義だと、言えるのか」


 その声は誰にも届かない。


 だが、闇の中で胎動する“L-Disaster”は、確かに動き始めていた。


 ゲロスを超える存在を目指して。


 そして、それを止められる者は──今のところ、誰一人いなかった。



──ネメシス本部・幹部居住区、第3観察ラウンジ。


 夜。鉄と煙の匂いに満ちた本部施設の高層から、イツキは暗い地平を眺めていた。窓越しに見えるのは、変わらぬ黒い夜。いつの間にか、満月すら目を逸らしたように雲の向こうへ隠れていた。


「……見慣れた景色だ。けど、何一つ、慣れない」


 彼はそう呟きながら、手にした報告書を眺めた。


 “L-Disaster計画:進行中。第1期被験体群、13名。全員セイガン兵士、うち9名が中等神経系損傷、4名が廃棄対象候補”


 無機質な活字が、静かに脳裏を削る。


 先の戦闘で捕らえられたセイガン兵士たち──本来なら拘禁・交換の交渉材料になるはずの存在が、ドクトル・メディアスの手によって“素材”として処理されていく。人としての名も、意思も、魂も、すべて切除されて。


 その現場に、イツキは足を運んだ。


 生体管理フロア。そこは「眠っている人間たち」が“未来の怪人”として横たわる、沈黙の牢獄だった。


「まるで……」

 彼は思った。

 「かつての俺を見ているみたいだ」


 イツキ自身、ネメシスの実験を経て強化された“怪人幹部候補”。力を与えられ、組織の矢として放たれる存在。その痛みを、彼は知っていた。

 いや──忘れられなかった。


 ゲロス。狂気と腐敗に堕ちた、かつての“同胞”。

 ラミア。戦場で身体の一部を失い、今も昏睡の檻にいる少女。

 そして、何より“自分自身”。


「俺は、ここで何をしてる……?」


 誰に問うわけでもない独白。


 だがその問いが、イツキの中に確かに“軸”を生み出した。


 ドクトル・メディアスは、狂気そのものだ。

 彼の“科学”は、ただの創造ではない。破壊の美学だ。

 力を賛美し、倫理を踏みにじり、正義を捨てた神の模倣。


 だが、それを支えているのは──ネメシスという組織そのものだった。


「壊すしかないのか?」


 誰にも聞かれぬ声で、イツキは言った。


 ネメシスに牙を剥けば、即座に排除される。

 だが、このまま従えば、自分自身が“ゲロスの再来”になる。


 ラミアが眠る治療室に、彼はそっと視線をやった。

 かつての自分を救い、戦場でともに血を流した“仲間”。


 その姿が、今のイツキの“歯止め”であり、“火種”でもあった。


「まずは……情報を集める。味方を探す。内側から、この体制を……」


 それは、まだ言葉にならない反逆の胎動。

 英雄となった“怪人”イツキは、その夜、誰にも見せぬまま小さく拳を握りしめた。


 “正義”を失った世界で、彼が求めたのは──

 ほんのわずかでも“誰かの涙を止める力”だった。



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