第10話 終焉の城、そして目玉焼きの決意!
魔王城——それは、黒く沈む大地の果てにそびえる、絶望の象徴だった。
空は赤黒く染まり、瘴気が風に乗って流れる。 生きとし生ける者の力を奪い、意志をねじ曲げる呪いの城。
だが、俺たちはその門前に立っていた。
「ここが……最後の戦いになるわ」
リリアの声は震えていなかった。だが、その横顔は、どこか寂しげで。
俺は、彼女の掌の上で小さく跳ねる。
「……あなたがいるから、大丈夫」
そう言って微笑む彼女は、やっぱり誰よりも“聖女”だった。
——絶対、守らなきゃ。
たとえ俺が目玉焼きでも。
***
城内は静まり返っていた。兵も罠もない。ただひたすら、空っぽ。
「……まるで、待ち構えてるみたいだな」
「ええ。魔王は、私たちが来ることを知っていたのかも」
階段を登り、玉座の間の扉を開けた瞬間。
そこにいたのは、一人の男。
血のように赤いマント。鋭い眼差しと、狂気の微笑み。
「来たか、聖女。そして、白き勇者はどこだ?」
「いや確かにパッと見、一人だけど!?一応、俺も居るから!」
魔王は立ち上がり、ゆっくりと宙へ浮かび上がる。
「まぁ、よい!この世界に秩序などいらぬ。苦しみも争いも、すべて私の手で終わらせてやるのだ」
「それは……ただの独善よ!」
リリアが叫ぶ。光がその身を包む。
「人が苦しみながらも歩くのを、あなたが勝手に終わらせていいはずがない!」
「ならば、力で示せ。聖女よ」
——決戦、開始!
***
リリアの聖なる光が空間を裂き、魔王の放つ瘴気を押し返す。
俺は聖浮遊目玉焼きモードで空中を舞う!
「いっけえええええええええええええ!!」
俺の高速回転が、魔王の顔面をかすめる。
「ほう、なるほど。鬱陶しい」
魔王が両手を広げた瞬間、玉座の間の空間が歪んだ。
「空間操作!? タマちゃん、下がって!」
リリアの叫びと同時に、黒い稲妻が天井から落ちる。次いで、魔王の周囲に浮かび上がる六つの魔法陣。
「六属性同時詠唱……!? そんな無茶苦茶な!?」
「喰らうがいい。我が魔王奥義——『終焉の六連星』!」
「名前かっこよすぎかよ!!」
火、水、風、土、光、闇——六色のビームが同時に襲いかかる。
「リリア! 俺を投げろ!!」
全力でパントマイムをする。
「え!? どこに!?」
「真ん中だ! 魔法陣の核を叩く!!」
「分かったわ、いくわよ、タマちゃん!!」
リリアの手から俺が投げられた瞬間、俺の中の黄身が共鳴する。
【この前覚えた新スキル:回転突破「エッグ・トルネード」発動!】
ぐるんぐるんと超高速回転。俺は黄色い刃と化し、魔法陣の中央に突撃した!
「うおおおおおおおおおおお!! 黄身をなめるなああああ!!」
スパパパパパパンッ!!
魔法陣の中心が裂け、エネルギーが暴発。六属性の魔力が逆流し、魔王自身を襲う。
「ぐっは、何ッ……!? 目玉焼き?」
「俺はな……ただの朝食じゃねぇ……!」
回転から抜け出し、焦げた体でリリアのもとへ戻る。
「参ったか!でも、次やったらスクランブルエッグになりそうだ!!」
「……!」
魔王は怒りに燃えた目で俺たちを睨みつける。
「認めん! この私が卵ごときに押されるなど……断じて認めんぞおおお!!」
魔王の背後から黒き翼が展開される。瘴気が城全体を包み、空間が漆黒の世界に変貌していく。
「フィールド変化……完全なる魔界の顕現……!」
「このままだと……人の魂すら砕かれる!」
リリアの顔が緊迫に染まる。
「くそ!本物の勇者、結局現れなかったな……」
俺は最後の力を振り絞り、黄身を金色に染めていく。
「タマちゃん……まさか!」
「リリア。手伝ってくれ!俺の全力を、出し切る!」
「……分かったわ!聖女の加護を受けし者よ……その魂に、祝福あれ!」
神託が降り、リリアの両手から聖なる光が俺に注がれる。
【奥義・目玉奥義「ハイパー目玉フレアバースト」発動】
俺の黄身がまばゆい神聖光に包まれる。
「なっ……これは……!? 神聖魔力だと!?」
「そりゃそうだろ! リリアにあったかくされた目玉焼きなめんな!!」
全力の突撃。黄身がまっすぐ魔王の胸元へ——
俺の体はもはや、ただの目玉焼きじゃない。
——神聖・究極完全体【タマ・オブ・ゴッド】。
「これが……俺の、ラストアタックだああああ!!」
魔王の放った黒炎が俺を迎え撃つ。
それを正面から突き破って、俺は——突撃する。
「受け取れえええええ!!」
命がけの一撃が、魔王の胸元を貫いた。
全ての瘴気が、光に浄化されていく。
「ば……ばかな……我が……卵に……!」
魔王は断末魔と共に崩れ落ち、灰となって風に消えた。
***
静寂が戻った玉座の間。
リリアの手のひらに、焦げ焦げになった俺が落ちる。
「……タマちゃん!!」
「……もうダメかも。俺……黄身、半分くらい飛んでった……」
リリアの涙が、俺の卵白にポトリと落ちる。
それが奇跡を起こしたのか——
【スキル「リザレクト・オムレツ」発動】
俺の体がじわじわと修復されていく。
「……これ、名前違くない? 俺オムレツじゃないよ?」
黄身はとろとろ。卵白も半透明。
「無事で……よかった……」
リリアが、涙ぐみながら俺を抱きしめた。
その温かさが、なによりの報酬だった。
***
魔王が倒れたことで、世界には穏やかな風が戻った。
王都では祝賀の鐘が鳴り響き、人々は英雄の帰還を祝福した。
「目玉焼きが……世界を救った……」
「朝ごはんの見方が変わるな……」
「ついでにベーコンも神聖化しとくか?」
そういう微妙な空気は置いといて——
リリアは、俺をそっと抱えて言った。
「タマちゃん、今日はゆっくり……一緒にお風呂、入りましょ?」
俺の黄身が、爆発寸前まで熱くなったのは言うまでもない。
——こうして、世界を救った聖女と目玉焼きの物語は、一つの区切りを迎えた。
そして新たな旅が、また始まる。
~END~




