第5話 聖女と風呂!
森でのスライム討伐を終え、俺たちは無事にギルドへと帰還した。
「おかえりなさい! 討伐報告を確認しますね!」
受付の美人エルフが目をみはった。
「えーー!マジカルゲル討伐!?」
ギルドの中はいつも以上にざわめいた。
何せ、目玉焼きがランクBの魔物を倒したんだ。話題にもなるだろう。
リリアはいつものように柔らかな笑みを浮かべ、静かに頷いた。
「無事に済みました。すべて、タマちゃんのおかげです」
俺はリリアの頭の上でぷるんと跳ねる。
もう慣れてきたこのやり取りにも、だいぶ"冒険者っぽさ"が出てきた気がする。
報酬と経験値、さらにマジカルゲル討伐証明アイテム(謎の粘液)が渡されたあと、リリアがぽつりと言った。
「じゃあ……タマちゃん、一緒にお風呂に行きましょうか?」
——えっ?
「森で汗をかいたし、あなたの黄身も少し汚れてるみたいだから……洗ってあげるわ、行きましょ」
いやいやいやいや!
それ、いろいろアウトじゃない!? 倫理的にとか、構造的にとか!
けど、リリアはあくまで無垢な笑顔。
聖女系美少女が手のひらサイズの俺と温泉に入る、という奇跡のビジュアルに、ギルド内の冒険者たちがざわめきまくっていた。
「……俺、卵になりたい……」
「目玉焼きに嫉妬する日が来るとはな……」
そんな中、ジークが突然口を開いた。
「リリア様。申し訳ありませんが、目玉焼き殿をお借りしてもよろしいでしょうか」
「え……? タマちゃんを?」
リリアが小首をかしげる。
ジークは真剣な顔で言った。
「装備の整備と、素材売却に向かわねばなりません。ついでに、目玉焼き殿のための装備も探しておこうかと」
……は?
なんで俺、ジークとお買い物デートみたいな流れになってんの?
「そうですか……残念ですが。タマちゃんのこと、よろしくお願いします」
——リリアァァァァァ!
俺は、風呂がいい!風呂どこいったーー!!
そのまま、俺はジークのごつい手のひらに移され、街へと連れ出された。
***
「……というわけで、マジカルゲルの粘液は高位魔導素材として使える。魔術師ギルドに持ち込めば良い金になる」
ジークの語りは、もはや講義だった。
行商人たちの露店を回りながら、彼は次々と素材を見極め、価格交渉し、俺の装備品"塩の粉"(身体強化付き)まで発注してくれた。
「目玉焼き用防御装備など、聞いたこともないが……これが使えそうだ」
真面目か!!
そして、行商人のおっさんも真剣だった。
「なるほど……卵白部分を魔力干渉媒体にすれば……」
おい、みんなノリノリじゃねーか!!
***
夕暮れ時。買い物袋を両手に下げたジークが、騎士らしい無表情のままぽつりと呟いた。
「……聖女様を頼む」
「……え? 何、唐突に?」
「奇妙な存在だ。だが……姫様が笑うようになったのは、お前が来てからだ」
ジークの目は真剣だった。
「聖女は、笑顔の裏にたくさんの痛みを抱えている。
だからこそ……その笑顔を絶やさせたくはない」
俺は静かに揺れた。
たしかにリリアは、いつも柔らかく笑っている。
でも、その奥に隠れているものを、俺はまだ知らない。
「頼む。これからも、そばにいてくれ。——タマ殿」
「……殿、いらねえよ。下ネタみたいじゃん」
ジークと買い物という、思わぬ方向へ進んだ日だったが、
少しだけ、大切なことを教えてもらえた気がした。
俺はリリアを守る。
それが、俺の使命だ。
たぶん。