第1話 転生したら目玉焼きだった!
——ここはどこだ? 俺は誰だ? っていうか……なんだこれ。
目がないのに、何と無くわかる。カリカリに焼かれたベーコンが前にあり。サラダの緑が目に優しい。しかし何よりも……自分の身体が白くて、中心に黄色い丸が浮かんでいることに気づいた。
「目玉焼きじゃねえか!!」
思わず叫ぼうとしたが、声は出なかった。
混乱する脳内に、唐突に一枚のスクリーンが現れる。
【転生おめでとうございます! あなたは目玉焼き型生命体に生まれ変わりました。】
【チュートリアル:食卓を生き延び、自由を掴め!】
……なんだこれ。ふざけてんのか、神様。
いや、俺の人生、そもそもそんなに真面目に生きてなかったから、これくらいが丁度いいのかもしれない。
ともかく、現状を把握しよう。
俺は今、食卓に並べられた朝食の一品だ。しかも、めっちゃうまそうに焼かれてる。すぐにでも誰かに食べられそうなポジションにいる。
実際、目の前には金髪の可愛い少女が座っていた。ナイフとフォークを持ち、にこにこしながら料理を眺めている。
やべえ。食われる。
このままだと確実にフォークが突き刺さってくる!
前世の俺なら、少女になら食べられても良いと思っていたが、現実になると怖い。
俺は必死で身体(白身)を動かした。
ビタンッ。おっ!腹筋に力を入れるとちょっと動く!ベチャッ。ふん!ぐにゅっ。
目玉焼きとは思えないほど不気味な動きに、少女が目を丸くする。
「きゃっ! た、卵が……動いた……?」
よし、驚かせたぞ!
この隙に皿から脱出だ!
べちゃぁ……と、テーブルクロスに滑り落ちる。
重力に引かれながら、俺は必死に転がった。転がるというか、這ってる感じだったけど、とにかく前進あるのみ!
「お父様ー! お料理が、動きましたー!」
少女の叫び声に、奥の部屋から屈強そうな男がやってくる。
いかん、これはマズい。大人に捕まったら絶対にアウトだ。昔見た巨人のマンガを思い出す、むっちゃ怖い。
——生きろ、俺!
心の中でそう叫びながら、俺は全力で床を這っていった。
どうにか台所の隅っこまで逃げた俺は、物陰に潜んで状況を整理した。
どうやらここは、貴族の屋敷らしい。普通は「はじまりの村」とかじゃないの?
さっきの少女は、貴族の娘っぽい。可愛いけど、俺を食べようとしたからな。油断ならん。
スクリーンに新たなメッセージが現れる。
【次の目標:『スキルを使えるようになる』】
ふざけんな!説明が足りなすぎる!
けどまぁ、たしかにこのままだと、また誰かに見つかって焼き直されるかもしれん。もっと素早く動けるようにならないと。
俺は試しに、精神を集中してみた。
ビクンッ!
少しだけ白身が跳ねた。
おおっ! これなら、跳ねながら移動できるかもしれない!
ぴょん、ぴょん、と小さく跳ねる。……めちゃくちゃ遅いけど、確実に前進してる。
これなら……ワンチャン、脱出できるかも!
数時間後。
俺は城の裏口にたどり着いていた。
床に這いつくばり、時に人の目を盗みながら、ここまで来た。もうすぐ自由だ……!
だが、最後の障壁が立ちはだかる。
それは、巨大な黒猫だった。
「ニャアアアア!」
獲物を見つけた猫が、目を輝かせる。
やべえ。あいつ、絶対俺をオモチャにする気だ!!
俺は跳ねた。必死に跳ねた。
猫の爪が紙一重で俺を掠める。
【スキル「エグゾーストジャンプ」発動!】
何だそれ!? と思う間もなく、俺の身体は爆発的に跳ねた。
まるでロケットのように空中を飛び、窓の外へ、城下町にあった大きな桶にドボンと落ちる。
水に浮かびながら、俺は見上げた。
青い空が広がっていた。
——ああ、これが自由か。
不思議と満たされた気持ちになった。
たとえこの先、どうなろうとも。
【チュートリアル達成】
【次のクエスト:『異世界グルメを制覇せよ!』】
……いや、次の目標おかしくない?
俺、目玉焼きだぞ??
こうして、俺の異世界目玉焼きサバイバル生活が始まったのだった。




