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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小獣人は見た!これがザマァというものなのね

作者: 白木もふ

初短編です。前半コミカル、後半シリアス?

 「エルマジール、お前との婚約は破棄する!私は、このマカロニアと新たに婚約する!」


 このマリアベル王国の第二王子であるビリアム・ムー・マリアベルは、十代にしては異様なまでの色気を醸し出している少女を侍らせながら、権高に言い放った。


 「⋯⋯さようでございますか。了承致しましたわ」


 淡い金の髪と静謐な青い瞳を持つエルマジール・カロン侯爵令嬢は、王子の非情な言葉に驚くこともなく、淡々と応えた。




 ??

 変ニャの。どうして、こんな城内での大規模なパーティーの時に、ワザワザ相手に恥をかかせるのニャ?


 私、ラブラ・ウナナンは、猫の獣人──小柄なので、小獣人と分類されている者の一人である。遠く離れた小獣人の国から、観光ついでに期間限定の侍女の仕事をしている。

 私のような小獣人の侍女は、貴族たちの間では人気があり、雇用率が高い。よく解らニャいが、彼らの目から見ると、私たちはとても愛らしくて可愛いのだそうニャ。ちなみに私は、白と茶と黒の三色の体毛がチャーミングだと言われているのニャ。


 「ラブラ。貴女また、人間って変だと思ったでしょう?」

 「はいニャ。人の国ではこれが常識なのニャ⋯でしょうか?」

 いけないニャ。口調が素になってしまったニャ。え~と、敬語、敬語っと。


 「そんな訳ないでしょ。これは、常識外の事よ。ハァ⋯⋯」


 私の期間限定の主──この国の王妃様が、歪めた口元を扇で隠しながら、ため息を吐かれた。


 「⋯⋯さすがは、あの下品な女の息子だわ。することが幼稚過ぎて、あとの対処が本当に面倒」


 確か、第二王子様は、下位貴族出身の側妃様のお子様だったっけニャ。でも、側妃様は何年も前に亡くなっているから、一応、王妃様が義母として面倒をみてたのニャね。


 「さて──」

 王妃様が扇を下げて、視線を上げる。


 「ビリアム。貴方、どういうつもりなの?王や王妃である私に、それを事前に報告した?していないわよね?」

 王妃様は、よく通る声でビリアム王子に問い掛けた。


 「えっ──そ、それは、この場で報告しようと⋯⋯その⋯あの」


 先ほどの権高さが霧散したかのような弱々しい声と、あわてた様子に、私は二本の尾を揺らした。


 ──だめニャ、ラブラ!笑っちゃダメ!!多分、人間には獣人である私の表情は読めないとは思うけど!心の中だけで笑うのよ!ウニャニャニャニャー!!


 視線を王妃様に向けることで笑いをおさめようとした私とは違い、王妃様は強い視線をビリアム王子に向けていた。


 「侯爵家の()()()であるエルマジールを貴方の婚約者に据えたのは、貴方を侯爵家の婿とするためよ」

 「それは、このマカロニアでも可能です!彼女もカロン侯爵令嬢なのですから!」


 マカロニアって、王子にピッタリ張り付いてる胸の大きな人間の女性よね。ウニャ?今まで見てきた『貴族のお嬢様』ぽくニャい感じ。フツーのお嬢様は、あんなふうに男性と密着しニャいもんね。


 「愚かな。その娘は、カロン家の養女。家督を継げる直系ではないわ」

 「⋯⋯は?」


 あの王子様、お顔だけが取り柄だったのに、とてもおかしな顔をしているわ。ニャッフ!


 「カロン侯爵。貴方、どういうつもりなの?まさか、後妻の連れ子をビリアムと婚姻させるつもり?」


 カロン侯爵って呼ばれた髭の人と派手なドレスの女性が、真っ青になってる。どうしたのニャ?


 「その⋯⋯それは」

 「お、王妃様!マカロニアには確かに侯爵家の娘ですわ!この人と私の間に生まれた子供ですもの!」


 派手な女性が、真っ赤な唇を大きく開けて、叫んだ。

 ⋯⋯貴族の女性がこんなに大きな声を上げるなんて、初めて見たニャ。彼女たちには、大声が出せない魔法でも掛けられてるのかと思ってたニャ。


 「その娘は、エルマジールと同じ歳よね?それはつまり、前夫人と同時期の出産──」

 「いえ、違います⋯!マカロニアは私の娘ではございません!妻の連れ子でございます!!」

 「はあ!?あなた、何を言って──」

 「黙れ!!」


 ⋯⋯?同じ歳だと駄目ニャの??


 「もうよい!沙汰はのちに下す!──音楽を!」


 王妃様の声で演奏が始まると、それまで唖然としていた貴族さんたちが、一斉に踊り出した。ニャんか、全員、人形みたい。変ニャの。





 ◇◇◇◇◇ 


 王妃様のお部屋で寝支度を手伝っていた時、私はあの時の疑問を、王妃様に尋ねてみた。


 「この国ではね、正妻の子供が三歳になるまでは、他の者との間に子を作ってはならないの」

 「どうしてニャ──どうしてですか?」 

 「正妻の特権の一つだからよ。貴族の血の濃さを保つためのね。⋯⋯貴女達からすれば、おかしな話でしょうけど」

 「そうですね~。そもそも私たち庶民は、愛人ありきで結婚しませんから」

 「そう。私たちは、普通では無いのよ。王族や貴族の血の濃さというのは、支配者の証。政を担当する者であり、国を代表する者──代々重ねた実績の継承を、血によって、国民に認識させているの」


 王妃様は明るい翠の瞳を伏せた。そして、笑みを浮かべる。


 「本当に好きな人と結ばれて、子を成す──人としてはそれでいいのよ。だから、ビリアムの心は正常なの。ただ、王家や貴族のルールとしては、違反したことになる。今の国王──私の夫も本当はビリアムの母親を正妃にしたかった。でも、王はルールを守った。そして、側妃となった彼女はルールを破り、いろいろしでかして、排除されてしまった」


 排除⋯⋯え~と、それは⋯⋯そういうことニャのかな?


 「どうやら、カロン侯爵はあの後妻と娘の行動を把握していなかったようね。間抜けだわ」

 「王妃様は⋯⋯もしかして」 

 知ってたニャ?


 「私はね⋯⋯あの女と同じ顔をしたビリアムが邪魔だった。だから、これはチャンスだと思ったの。それに、エルマジールを見ていると、昔の私を思い出すから⋯⋯」

 「第二王子様は、これからどうなるのでしょう?」

 「公式の場であれほど無様な失態を犯してしまったのだから、当然、行き先の変更になるわね。カロン侯爵家もエルマジールが成人したからには⋯⋯」


 王妃様はフフフ、と笑われた。あ、ホントに楽しいんだニャ。感情の少ない方だと思っていたけど、そうでもニャいんだ。


 平民はそうでもニャいけど、貴族ってヤッパリ変ニャ生き物。好きな人と結婚できないし、顔も知らニャい兄弟姉妹もいるし、特に秀でた能力もないのに、偉いって言われてるし。

 まあ、これも他国の文化の違いってやつなのニャ。私も、もうすぐ雇用契約が終了するし⋯⋯次は、まったく文化の違うエルフの国にでも行ってみるのニャ。

 





 ◇◇◇◇◇ 


 私は、エルマジール・カロン。正妻だった母が五年前に亡くなり、父の愛人だった女が後妻になると、私は侯爵家内で肩身の狭い思いをするようになった。

 あのマカロニアという、男に媚びを売りまくる下品な女は後妻の連れ子だが、父親は同じなので、私たちは異母姉妹ということになる。

 先代の侯爵──お祖父様は嫡子である父を信用しておらず、結局亡くなるまで爵位をお譲りにならなかったが、今ならその理由がよく解る。

 愛人を母と同時期に孕ませるとは。あの愚父は、この国の貴族のルールを頭では理解していながら、実際には無視していた。

 マカロニアは父の娘だが、形式上は、養女──あの男爵家出身の後妻には、あえて伝えなかったらしい。彼女自身も男爵の庶子だったらしく、貴族のルールを知らず、娘と共謀してビリアム王子を狙ったようだ。


 おそらく彼女も焦っていたのだろう。愚父は、二年ほど前から若い愛人を新たに囲い、後妻から心が離れていたようだから。だからこそ愚父は、彼女たちの行動を把握できず、今回のような大きな恥をかいたのだ。

 でも、それは全て、王妃様のシナリオ通り。私もまた、与えられた役割を果たしだからこそ、王命で、カロン女侯爵となったのだから。


 王命と言っても、実際は王太子様と王妃様の意向によるものだったが。現王は、最愛の側妃を突然の()()で亡くした後、落胆し、半ば屍のような状態になった。いろいろと問題のある方だったが、陛下にとっては大事な女性だったのだろう。


 王妃様は私にかつての自分を重ねておられるようだが、あの方と私とでは決定的に違う事がある。──それは、愛だ。いえ、恋情というものかしら?私は、未だ、それがどんなものか知らない。けれど、知らなくて良かったとも思う。

 王妃様は、結局、あの側妃には勝てなかった。地位も権力も手に入れながら、その一点で幸福にはなれなかった。それさえなければ、あの方の人生は完璧だったのに。


 ⋯⋯ともあれ、爵位を継いだからには、夫も選ばなければならないし、愚父と後妻と、ついでに愛人も、早急に、領地のどこかに移転させなければならない。

 面倒だが、一応は侯爵家の養女であるマカロニアも、下位貴族か裕福な商家に嫁がせる事にしよう。本当は、ビリアム王子が責任を持って彼女を引き取ってくれたら良かったのだが、王子自身が新たに婿入りする家を探している状況なので、それどころではないのだ。


 はぁ。別の意味で疲れるわ。⋯⋯そういえば、王妃様の、あの小獣人の侍女。彼女を側に置く王妃様の気持ちがよく解るかも。ストレスの多い私たちには、癒しが必要なのよね⋯⋯

『花冠のモフ〜異世界加護種〈カリス〉のこってり転生記』を連載しているので、ついでに見て頂けるとうれしいです。こちらは、ほぼギャグですが。

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