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奇跡

倭国の女性、イヨが幼子を病で亡くしてから三年、新たな命を身ごもった


3人目の子となる女の子は元気な産声を上げた

イヨは涙を流して無事に我が子が誕生したことを喜んだ

少し高齢の父母は、愛らしい目をした女の子をそれはそれは大切に育てた


母親に似て、身体が弱く風邪ばかりひくその女の子は、ユメと名づけられた

性格は父親似で、とても優しい思いやりのある子だ


「ユメー、ご飯だよー」


田んぼの周りでトンボを追いかけていたユメは、泥んこの顔ではーい!と満面の笑顔で返事をする


母様(かあさま)、見てー、トンボ捕まえた」


「あら、大きなトンボ!クルクルしたの?

でも、放してあげようね、トンボさん死んじゃうよ」


「うん、トンボさんサヨナラー」


ユメの手から自由になったトンボは宙返りをすると、夕焼け空へと飛んで行った

真っ赤な太陽が山の向こうへと沈んでいく


「山の向こうに兄様たちがいるんでしょ?」


母親のイヨはいつも山の夕焼けに向かい手を合わせるので、ユメも真似して同じようにする


「そうだよ、ちょうど今のユメくらいの年の頃に兄様たちはお山の向こうへと行ってしまったの」


悲しそうな顔をする母に、ユメが言う


「ユメは母様の側にいるよ

お山には行かない!」


うん、ユメは行かないでね、と抱きしめる


母様に抱っこされると、無条件で幸せな気持ちになる

さっきトンボを追いかけて転んだ膝の痛みも消える


「母様、大好き」


何度でも言う

毎日言う

どれだけ言葉にして伝えても足りない

母様のにおいも声も、あったかい柔らかさも全てが安心をくれる


手を繋いで、家路につく

日が沈んで、辺りは暗くなっている


ユメが生まれて、もうすぐ五年になる

物心がつくと共に、アルとしての意識も芽生えてきた

通称ワンダラーと言われる、誕生からの転生をしたライトワーカー

ユメは、アルの転生した女の子だ


少しずつアルは感覚を取り戻していた

近頃、子どものユメの理解力を超えて自分が何者なのかを思い出し始めていた


三次元の現実に飲み込まれて、覚醒しない人間のままのワンダラーもいるという

アルは意識の覚醒に成功したようだ


しかし、ここまでくるのに本当に困難な道のりだった

奇跡の連続、奇跡の連鎖により、今、ここにいる


まず、イヨが子を宿すまでが簡単ではなかった

アルのブループリントでは、申請してすぐに妊娠する計画だったが、そうは問屋が卸さない


父母の体調やメンタル、外的要因によるストレス等、身体をコントロールすることはできない

三年の月日を要してようやく、命が宿った

出産時も、命がけの闘いだった

母親も赤ちゃんも、少しの誤算が命取りになる

人間の命の誕生は、奇跡でしかない


体の弱いユメが幼児になるまで成長する過程も、病気やケガ、事故など

目を離すことはできない、身近な危険を何度も何度も経験した

優秀な守護天使を配属してもらっていなければ、危ういところだった


人間の命の尊さを、身をもって感じる

健康であることは、何よりの宝だ


そんな思いをヒシヒシと感じていたアルだが、またやってしまったと後悔していた

記憶が曖昧だが、五歳の頃に大病をする経験をブループリントに記入した気がする…


記憶に間違いは無かった

五歳を迎えたユメは重い流行病にかかる


高熱が出て、食欲が出ない

あれほど好きだった米も、食べる気にならない

苦しい、こんなに苦しいなんて

辛くしんどい思いが続くと、身体だけでなく心まで弱ってくる


初めて人間として病を経験したアル

アルとして覚醒していなければ、病に負けていたかもしれない

アルの計画では、死なないことがわかっている

そして、一番大事な母様のために絶対に死ぬわけにはいかないという強い思いがアルを支えた


母親のイヨは、朝から晩まで必死でユメを看病した

夜もろくに寝ないでユメの世話をした

父親も休まず働いて、ユメのために貴重な米を毎日食べさせてくれた


全然食べたくなかったけれど、ユメ(アル)は死ぬ気で米を口に入れた

苦痛で歪む顔を、懸命に笑顔にした

愛する父母のために

母様を悲しませないように


朝晩、太陽に向かい祈り続ける母親の背中は震えていた

ユメの前では明るく笑って涙を見せないようにしているのは、わかっていた


「母様、ユメは絶対にお山へは行かないから…」


寝床で背を向けて泣く母へと声をかける

自分では元気な声を出したつもりだが、絞り出される声はか細い


「母様の側にいる…いるから…」


くしゃくしゃの涙顔をしたイヨが振り向くと、ユメ!と強く抱きしめる

親子三人は川の字になって寄り添って眠った


病気との闘いは長く続いたが、ゆっくりと少しずつ、ユメは快方へと向かった


イヨは、毎日祈っていた夕陽に感謝の言葉を言うようになっていた


「ありがとうございます、ありがとうございます…

ユメの病を治してくれてありがとうございます…」


ユメも一緒に、ありがとうございます、と手を合わせた



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