神の国
「ネリシアの一部だった島国はどうですか?」
(倭の国か?)
(興味深い国ではある)
(アルの思うように決めるがよい)
ガイアの次の行き先について、カークサスと天使に意見を求めてみたところ、案の定わちゃわちゃと話し始めた
(そなたの提案はいつも求めるものが多い)
(アルを信頼しておるのであろう)
「そうですよ、アルの成長にはそのくらいでいいのです」
愛ですよ、と天使が言う
確かに、今まで天使のすすめてくれたことはハードルが高いことばかりだった
ハイリスクハイリターン
大いなる力には大いなる責任が伴う
倭の国か…
ネリシアやカドラータから避難した宇宙人や他にもたくさんの宇宙人が訪れていると聞く
「我々天使も、よく訪れます」
(まだ生まれたばかりの小さな国)
(可能性は計り知れぬ)
(宇宙の行く末には鍵となるやもしれぬ)
ありがとう、参考にする
アルは、倭国について少し調べてみることにした
アカシックレコードには、女王の治める国、とある
黒髪に黒い瞳の農耕民族
王位を巡り小競り合いが続いていたが、女王がその座につき、邪馬台国という国にまとまり始めた
万物に八百万の神が宿る神の国、か…
稲を栽培して、米、という食物を主食としている
パンじゃないのか、米?
美味しいのかな…
長く滞在するなら、食事は美味しい方がいい
そんな基準で決めてはいかん、いかん…
しかし、人間の体を維持するのに食べ物は不可欠
女王が治める国というのも、気に入った
この国で、私にできることがあるのだろうか
初めて単独でガイアに行ってから、何度も短期滞在では訪れている
そろそろ、ウォークインではなく誕生の転生から挑戦してみようと思っている
生まれてから死ぬまでの一生
倭国の平均寿命は…ガイアの30年位か
戦いで命を落とすというより、病気やケガによるものが多いようだ
身分の差による、過酷な労働、不十分な暮らし…
何ができるのだろう?
どうすれば、救いの光となれるのだろう?
人間の苦しみ
身体を維持するのに精一杯な人生
戦いが落ち着いても、生きていくのは困難だ
人は生まれてからずっと、死と隣り合わせ
病、飢えに怯え、老いていきやがて死ぬ
儚い生の中で、どう希望の光を見出すのか
何を願い、夢見るのか
想像もつかない
たった30年の寿命
わからない、何もわからない
自分が体験しなければ、理解なんてできやしない
結局、やってみるしかない
アルは、邪馬台国へ下見に行くことにした
毎度おなじみDPに月まで送ってもらう
自分ひとりでも行けるのだが、DPの背中は居心地が良い
“下見だけなら、ここで待っててやる”
いつもありがとう、DP
行ってくる!
さあ、倭の国へ
目的地のポータルは、巨大な前方後円墳?大きな墓?の地下に出る
アルは小さな鳥になって、空から邪馬台国の様子を見る
おや?溺れてる?
黒髪の女性が川の真ん中辺りで、首まで水に浸かっている
違う…身投げだ
アルは大きな鳳凰に姿を変えると、人がいる方へと飛んだ
火の粉を振らせて、合図を送る
人々が火の鳥に気づいて、騒ぎ出す
川の方角へ誘導する
溺れている女性を発見し、女性は無事救助された
アルは小さな鳥の姿に戻ると、ほっと一安心した
「アル?やはり、あなたでしたか」
振り返ると、天使が飛んで来る
「奇遇ですね、こんなところで」
あの女性は、なぜ死のうとしたの?
「ふむ……、守護天使によると、彼女は幼い子供を二人続けて病気で亡くしたようですね…」
そうなんだ……、ミカエル、お願いがある!
「何ですか?何か思いついたのですか?」
彼女に、次は無事に子が育つと、お告げをしてほしいの
私が、あの女性の子として、転生するから
それまで、生きていられるように、お願いします!
「ほう、倭国へ転生することにしたのですか?いいでしょう、お安い御用です」
ところで、ミカエルは何をしに来てたの?
「人柱の根絶です
この文明では、王が亡くなると近親者を共に鎮魂のために生き埋めにする慣習があるものですから…
それを、土でできた人形や馬に移行させるよう働きかけています」
人柱…、そんな慣習があるんだ…
それは、是非やめさせて
私が生まれるまでには、無くなるようにお願いする
せっかく生まれても、埋められたら元も子もない…
「その件は任せておいてください、お告げは今晩にでもしておきます、では」
そう言うと、天使は消えた
よし、早速帰ってブループリントの作成をしよう
この国でできること、少し見えてきた
身分の違いによる命の扱いの違い
命の重さに差など無い
全ての命は、尊い
大人も子どもも
男性も女性も
生まれた身分や個性も
何も関係ない
皆同じ、人間だ
生まれて生きる奇跡を
命への感謝を、身をもって体験して示すこと
生きる幸せを、命の有り難みを伝える
その晩、倭国の平民イヨは不思議な夢を見た