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④労咳


私達は今、総司の労咳治療をしに病院に来ている


この病院は慎吾さんのお友達が勤めている病院で、総司を治療するにあたり便宜を図ってもらえることになったのだ―――…



『――緊張、してます?』


沖田「…はは。僕が緊張すると思う?」



そう鼻で笑いながら総司は逆に質問をしてくる



『…いえ、思いませんけど…。でもさすが総司くん、強いですね。』



総司の言葉に安心して私がそう言うと、総司はお得意の笑みを浮かべる



沖田「――そう?」



総司は強い…


私が昔大病を患い、血液検査の結果待ちをした時はすごく緊張したものだけど―――…



そんな事を考えながら総司を見遣ると、彼は私から壁に視線を移した


その時、一瞬だったけれど総司が奥歯を強く噛み締めたのを見逃さなかった



沖田「……………。」


『……総…ッ。』



…私、何勘違いしてたんだろう…?


総司は“強い”んじゃなくて“弱さを見せない”だけなんだ―――…



『…大丈夫ですよ。』



私はそう言って、総司の手を握り締める



沖田「――ッ。」



総司は肩を小さく反応させ私を見た



『――大丈夫、ですから。』



私は敢えて視線を前に向けて、もう一度力強く言った



沖田「…うん。」



私の言葉に総司は頷き、手を握り返してくれる



…今は昔とは違う

…そして此処は総司の世界とは違う



だから絶対に大丈夫なんだ―――…




ピンポンパン…




「――沖田さん、沖田総司さん。病室へどうぞ」



名前を呼ばれた総司は立ち上がる



『…いってらっしゃい。』



私がそう声をかけると総司はにこりと微笑み、病室に入って行った




****************************************



トントントン


カチャ…



『――失礼します。…こんにちわ、吉野く…じゃなかった。…吉野先生。』



総司が病室に入って暫く後、私も病室に呼ばれた


病室に入ると白衣を着た吉野くんこと“吉野先生”が総司の向かい側に座っていた


吉野くんは慎吾さんの親友であり、私の友達でもある


総司達がこちらの世界に来たばかりの頃、私が倒れた時に自宅で診察してくれたのも吉野くんなのだ



吉野「――沖田くんには説明させてもらったけど―――…」



吉野くんはそう切り出して私にも説明してくれる



まず総司の状態は私生活を送るには問題ないレベルとのこと。ただ大分体力が落ちている為、無理は禁物


薬の服用についても最初は毎日同じ時間に飲む事と、毎月検査する為に受診は必須らしい



吉野「――そんな感じかな。時間はかかるけど、ちゃんと薬飲み続ければ治る病気だから心配いらないよ。」


『良かった…。』



吉野くんの説明を聞いて私は息を吐き出しながら呟いた



『…じゃあ、私少し吉野先生とお話があるので、申し訳ないのですが…総司くんは外で少し待っていて頂けますか。』



私は総司くんに向き直って言う



沖田「――うん、わかった。」



そう言って総司は診察室を出て行った




パタン…




吉野「――で、話って?」


『……はい…。…実は、処方薬を全部まとめて戴きたいんです。』



総司達がいつ元の世界に戻るか判らない以上、手元に薬があるに越したことはない


勿論、薬を総司達の世界に持ち帰れるかは判らないけれど…ね



吉野「――それは出来ない。」



吉野くんにそう言われるのは判っていた


…けれど私だって諦める訳にはいかない


だから必死に頼み込んだ



『…無理を言っているのは重々承知していますが…どうしても彼を治したいんです…ッ。どうか、どうかお願いします…ッ!』


吉野「……………。」



私は頭を下げ、目を瞑る



『お願いします…ッ!』


吉野「……………。」



吉野くんが無言なのは拒否を意味しているのは判っていたけど…今回だけは譲れない



吉野「……はぁ。」



吉野くんは大きな溜息を吐き出した



吉野「――その1、薬は俺の指示通りの種類を服用すること。」


『―――ッ!』



吉野くんの言葉に私は弾かれたように顔を上げる



吉野「その2、薬の服用時間は厳守すること。」


『――吉野く…』



私は呆然と吉野くんを見ていた



吉野「その3、出来る限り月一の検査には来ること。そして彼の体調に異常があるときは、直ぐ俺に連絡すること。…以上、約束出来る?」


『――で、出来ます…ッ!』



私がそう言うと吉野くんは表情を崩し、溜息をつく



吉野「…君は無茶な事を簡単に言うよな。…まったく、こっちの気も知らないで…。」


『ご、ごめんなさい…。』



そう言われると謝る事しか出来ず、ただただうなだれてしまう



吉野「――まぁ、何か深い理由があるんでしょ?…理由は聞かないけど…、大切な友人の頼みだし?俺が出来る事は協力するよ。」



そう言って吉野くんは苦笑いを浮かべた



『…ありがとう、ございます…ッ!』



薬があれば、もう総司が病気で苦しむことがなくなる…


そう思うと嬉しくて目に涙が浮かんだ



吉野「…まったく…。相変わらず君は馬鹿だな…。」


『う、うるさいですよ…ッ!』



溜息を吐きなから憎まれ口を叩くクセに、吉野くんの表情は穏やかになっている



『――でも、本当に良かった…。』



これで総司は助かるんだ――――…















沖田「……………。」





それから私達は薬剤薬局で薬を受け取り、駅に向かっていた



『今日はお疲れ様でした。…それと…。私の我が儘を聞いて頂いて…、ありがとうございました。』


私は歩きながらそう言い、総司に軽く会釈をする



沖田「………。」



総司は足を止め、私を見て目を瞬かせた



沖田「――ぷっ。あはは!普通、お礼言うのは僕の方だよ?…全く君ってば…!」



肩を揺らしながら笑う総司



『なッ!何で笑うんですか…ッ!…もう…ッ。』



私は、笑い続ける総司に背を向けて歩き始める



沖田「…本当に…ありがとう。」



総司は背後からポツリと呟く


振り返ると夕日に照らされた総司はにっこり微笑んでいて、それにつられて私も笑顔になった



『…いえ。私には、これくらいしか出来ませんから…。』



…そう…私はこれくらいの“罪滅ぼし”しか出来ないのだ―――…



それから私達はまた歩き始めたが…私はふと、この近所に夕陽の綺麗な場所があるのを思い出す



『――あ、そうだ!今なら丁度良いかも…。ねぇ、総司くん。少し付き合ってもらっても良いですか?』


沖田「……?僕は構わないけど、何かあるの?」



少しだけ首を傾げる総司



『ふふっ。実は、この近くに私のお気に入りの場所があるんです。久しぶりに寄りたいなぁ…と思って。』


沖田「ふ~ん。別に構わないよ?」



二つ返事で快諾してくれる総司に顔が綻ぶ



『じゃあ、善は急げです…!』



はやる気持ちが抑えられず、つい小走りになる私



沖田「あ、ちょっと美月ちゃん…!」



そんな様子を総司に笑われつつ、私達はお気に入りの場所へ急いだ




****************************************



『――此処です。…少し座りましょうか。』



そう言って私がベンチに座ると、総司も隣に腰を降ろす



『…やっぱり此処から見る夕陽は綺麗…。』


沖田「………。」



公園に入ってから無言のままの総司を見遣ると、少し寂しそうに夕陽を見つめていた



沖田「…ねぇ、美月ちゃん。」


『…はい?』



総司に呼び掛けられ私は夕陽を見つめたまま返事を返す



沖田「…僕達が元の世界に戻ったら…君は寂しいと思ってくれる…?」



思いもよらぬ総司の言葉に胸がつきりと締め付けられる



『…あ、当たり前です…ッ!寂しいに、決まっているじゃないですか…ッ!』


沖田「………。…そう、だよね…。」



伏せ目がちに頷く総司



『…いつか総司くん達が元の世界に帰ってしまって、二度と会えなくなるくらいなら、いっそ私も連れて行ってくれたら良いのに。…なんて本気で思っているんですよ…?』



私はそう言いながら、膝の上に乗せている自分の拳を握り締めた



沖田「…君は僕達の世界に来ちゃ駄目だ。」



私の言葉を総司はすぐに否定する



『…それは…私が居ると邪魔になるから、ですか…?』



遠回しに“足手まとい”と言われているみたいで声が震えた



沖田「違う。…美月ちゃんに戦場なんて似合わないからだよ。…それに――…」



総司は立ち上がり、私のおでこに自分のおでこをコツンとくっつける



『………ッ。』



いつもならば恥ずかしさで動揺するのに、私は寂しさで自分の手元から視線を離せずにいた



沖田「――僕は君に倖せになって欲しい。…ずっと笑っていて欲しいんだよ…。だから、美月ちゃんは慎吾くんと一緒にこの世界に居なくちゃ…駄目なんだ。」



まるで自分自身に言い聞かせるように言う総司に、つい私は顔を上げる


至近距離にある翡翠の瞳は、今にも泣きそうに揺れていた



『…総司、くん?』



ギュ…



名前を呼んだ瞬間、突然総司に抱き締められる



『―――ッ!?』


沖田「…ごめん。少しだけ…。…少しだけでいいから、このまま…。」



総司はそう言って、私を抱き締める腕に力を込めた


…まるで総司が壊れてしまいそうな…そんな気がして私は振り払う事が出来ない



『…総司、くん…。…大丈夫ですよ。』



私は総司の背中に腕を回し、宥めるようにポンポンと軽く叩いた



もしも…

私が総司たちの世界に行けたなら…私には成さねばならないことがある


新選組を“護る”為に必ず―――…



『――私は此処に居ますから…。』



私は子供を落ち着かせるように、総司の背中を撫で続けた



“もしも”なんて例え話、非現実的だと思う


それでも考えてしまうのは私の“願い”だからなのかも知れない



沖田「――でも、もし美月ちゃんまで僕達の世界に来てしまったとしたら…。今度は僕が君を護『駄目です。』…美月、ちゃん…?」




総司の気持ちはすごく嬉しい


けれど私が足枷になる訳にはいかないのだ



『――総司くんは“何の為に”労咳を治療しているんですか…?一体“何の為に”変若水まで飲む覚悟をしていたんですか…?…そして“何の為に”刀を振り続けているんですか…?』



例え話だと解っていても、真剣に話さなくてはいけない事…そう思う



沖田「それは…ッ。」


『近藤さんの為。――そうでしょう?…だから私なんか気にしちゃ駄目ですよ?』


沖田「―――ッ。」



私の言葉に反応した総司は、私の肩を掴んで身体を離した


私を見つめる翡翠の瞳は揺れている



『――それに護ってもらわなくとも、私の剣術は既に土方さんのお墨付きですから…!』



そう言って笑うと、総司は思い切り溜息を吐いた



沖田「…はいはい。そういうのは僕に勝ってから言おうね、美月ちゃん。」



総司は私の頭をポンポンと撫でながら言う



『むぅ…ッ!私がもっともっと強くなって…万が一、敵になったとしたら、総司くんでも勝てないかも知れないじゃないですか…!?』



私がキッと睨んで反論すると、総司お腹を抱えて笑い始める



沖田「あはは!美月ちゃん、それ本気で言ってる?ははっ!」


『ひ、ひどい…。そこまで笑わなくても…!』



馬鹿にされ、うなだれる私を見て総司は口角を片方だけ吊り上げた



沖田「…まぁ、両方とも有り得ないと思うけど。…もしそんなことになったら、僕が君を殺してあげる。」



そう言いながら総司は笑っていたけれど、瞳だけは私を真っ直ぐ捕えていた



『…約束、ですよ。』



私がそう言うと総司は頷く



『――でも…ひとつだけ覚えていて欲しいことがあるんです。…私はどんなことがあっても、例えどんな立場になったとしても…、新選組の“味方”です。…それだけは忘れないでくださいね…?』


沖田「……え…?…何?」



総司はきょとんとして私を見る



『――さてと。お話はこれくらいにして、いい加減お家に帰りましょうか!皆さんがお腹空かせて待ってます。…特に新八さんと平助くんが。』



私は笑いながら立ち上がり、腕を伸ばす



沖田「……?まぁ、いいけど。…で、今夜は何にするの?」



駅に向かい歩き始める中、総司に今夜のメニューを聞かれ私は唸った



『う~ん…。何にしようかな…。…簡単に出来るもので、栄養価の高いもの…。…あっ!豚肉の塩にんにくしゃぶしゃぶが良いかも…!』


沖田「しゃぶ…?」



私が人差し指を立てながらそう言うと、総司は疑問符を浮かべる



『ふふっ。食べれば判りますよ。』



隣で首を傾げる総司に顔を綻ばせながら、私は携帯を出しメールを打つ



『――今日は少し大荷物になりそうなので、荷物係してくれそうな人に助けを求めないと…ね。』



パシッ…



『あっ…!』


沖田「――荷物くらい、僕だけで平気だよ。」



総司は私の携帯を取り上げながらそう言った



沖田「…と言うか、何で美月ちゃんの携帯には土方さんの名札だけ付いてるの。何か気に入らないなぁ…。」



総司は土方のネームプレートを指で掴む


携帯を取り返そうと必死に腕を伸ばすものの、身長差がありすぎて全く届かない



『い、意味はないんです…!じゃあ誰のだったら良いん「僕の。」…は…?』



今何て言いました、この人?



沖田「――美月ちゃんが僕のを付けてくれるって約束するなら携帯返してあげる♪」



意味が判らないよ、総司…


でも取り敢えず携帯は返してもらわないといけないし…



『わ、判りました…!総司くんのネームプレート付けますから…ッ!』


沖田「うん、よくできました。」



総司は満面の笑みを浮かべて携帯を返してくれる


…総司のネームプレートを“追加して”付ければ良いだけなら簡単だし…まぁ良いか









それから私達は買い物を済ませ、家路を急ぐのだった―――…



















(じゃーん!今日は皆さんにささやかな贈り物がありまーす。)

((贈り物…!?何々!?))

(…ったく。新八、平助、二人とも落ち着けよ。)

(ふふっ。贈り物はサプリメントとそれを入れるケースです!)

((((((さぷりめん…?)))))))

(…えっと、栄養補助食品です。不足しがちな栄養分を補う為のものです。例えば苛々しがちな人にはカルシウムとか…。)

(((ぶはっ…!)))

(はは!それって土方さんじゃない?あはは!)

(総司、てめえ…。)

(あ!いや、それ以外にも色々な種類があるので良ければ飲んでみて下さい。)

(――特に我々には必要ないと思うのだが…。)

(まぁまぁ斎藤、そう言うなって。美月、ありがとな。)

(へへ。どういたしまして…!)

((((((……犬みたい…。))))))





気になりだしたら止められない①




『ふっふふ~ん♪』


原田「ん?今日はやけにご機嫌じゃねーか。…って、着物まで着て、何処か出掛けるのか?」



私が鼻歌を歌っていると左之さんがにこにこしながら話し掛けてきた



『えへへっ。今日は楽しみにしていた催し物があるんですよ。』



私は満面の笑みで左之さんに答える



『それでどうせならと着物にしてみました。…おかしく、ないですか?』



そう言って私はその場でくるりと回って見せる



原田「――あぁ、大丈夫だ。綺麗だぜ?」


『…ふふッ。ありがとうございます。』



左之さんに褒められて、お世辞と判っていてもつい顔が緩んでしまう



永倉「のわ…ッ!?美月ちゃんが着物着てる…だと!?」


藤堂「本当だ…!美月、すげぇ似合ってる…!」



そんな事を言いながら現れた二人に恥ずかしさが込み上げた



『褒めても何も出ないよ?ふふっ。』



私は照れ臭くて、ついそんな事を言ってしまう



沖田「で、今日は誰と出掛けるの?慎吾くん?」



不意に総司が尋ねてくる



『…え?一人ですよ。(駅までは。)』


「「「「「「…は!?」」」」」」



私がそう言うと何故か皆の動きが止まった



『?????』



私は皆が固まる理由が判らず、疑問符しか浮かばない



土方「あー…。なんだ、その…。ちなみに、その催し物は何処でやるんだ…?」


『えっと…横浜です…?』



確か…

パシフ○コ横浜とかいう会場だったはずだけど…何でそんなことを聞くんだろう…



斎藤「――念の為に聞く。美月がそこに行くのは初めてではないのだな…?」


『え…?初めてですけど…。(友達が案内してくれるし。)』


「「「「「「………。」」」」」」



先程よりも皆は凍り付き

何故か顔を引き攣らせているような気がするのは…気のせいじゃ、ない…?



慎吾「まぁまぁ。皆の気持ちは判るけど“可愛い子には旅をさせろ”ってやつだよ。」


原田「いやいや、美月は“子”じゃないだろ。」



慎吾さんの言葉に左之さんがすかさず突っ込みを入れる



『あ、っと!もうこんな時間…!それじゃあ私行ってくるので、皆さん後は宜しくお願いしますね。』


慎吾「…はいはい。いってらっしゃい。」



そして私は慎吾さんに見送られて私はリビングを後にした



パタパタ…


パタン…!



慎吾「…さてと。俺も用事あるから出掛けてくるけど…。皆“ほどほど”に、ね?」


「「「「「「…………。」」」」」」



当然、私はこの時――…


皆が勘違いしてるなんて少しも気付かないで家を出ていたのだった―――…



****************************************


斎藤side



美月達が家を出た後、俺達は言葉を失っていた



その理由は―――…



藤堂「美月、迷子にならないか…?」


原田「いや、電車乗り過ごして終点まで行っちまいそうだ…。」


沖田「…誰かに絡まれそうだよね。」


「「「「「「…………。」」」」」」



美月に対して、何とも言えない不安が俺達を包んでいたからだ



土方「――そういや前に、あいつ丸腰のくせに銃を携帯してる輩に喧嘩売ってたな…。」


「「「「「―――ッ!?」」」」」



何故、そんな馬鹿な真似を…!?


副長の言葉を聞いて俺達は絶句する



沖田「…あのさ、僕ちょっと出掛けてくるね。」


原田「――俺も。」



総司と左之はそう言って足早に玄関へ向かう



藤堂「総司!左之さんまで…!…ずりぃ。」



平助は恨めしげに総司達の後ろ姿を見ながら呟いた



藤堂「あ~…えーっと。…そ、そういや、俺も用事あったんだったっけ!うん!…じゃあ悪いけど土方さん、一くん。あと、よろしくな!」



頭を掻きながら早口でそう言うと平助は一目散に玄関へ走り出す



永倉「――ちょ!おい、待て平助…!」



新八も平助の後を追いかけ玄関へ走る



土・斎「「…………。」」



俺と副長は無言で皆が出て行ったリビングの扉を見つめていた



土方「ったく、しょうがねぇ奴らだな…。」



くくっ、と喉を鳴らしながら副長は笑う



斎藤「…しかし皆、美月を心配してのこと。…副長は如何致しますか?」



俺がそう問い掛けると副長は口角を吊り上げて言った



土方「当然、美月を護衛する。」


斎藤「――御意。」




そして俺達も足早に後を追うのだった―――…











気になり出したら止められない




彼女はあまりにも無鉄砲で無防備だから…

目を離すと何かしそうで心配なんだ―――…





斎藤side



俺と副長が家を出ると、案の定皆は美月の後をつけていた



藤堂「ちょ!総司押すなよ…!」


沖田「だって平助、邪魔なんだもん。」



視線は美月を見たまま平助と総司は互いを押し合っている



原田「おい、二人とも静かにしろ…!美月に気付かれるだろうが…!」



そんな二人の首根っこを掴みながら、左之は顔を引き攣らせていた



土・斎「「…………。」」



通常、電柱に身を隠せるのは小柄な女一人くらいだろう


そう、例えば美月のような…


そこに身体の大きな男三人と小柄の男一人が電柱に身を隠すなど、いくらなんでも無理があると思うのだが…



土方「…馬鹿だな。」



副長はそう言って溜息を吐き出す



斎藤「…全くです。」



俺は頷きそう言うと、新八が隠れていない身体を縮こませながら美月を指差した



永倉「おい、あれ見ろよ…!」



俺は新八に促され視線を移すと、美月と擦れ違う男達が皆恍惚としながら美月を見ている



「「「「「…………。」」」」」



美月は見世物ではない


その光景を見た俺は、何故か胃のあたりがキリキリする


…気にいらぬ。



…そんな事を考えているとハイカラな格好をした男(見るからに低俗そうな男)が美月に近付いてきた



男A「ひゅ~!姉ちゃん綺麗なカッコしてんじゃ~ん?」


男B「一人で何処行くんですかぁ~?」



そう言って男達は美月の肩を抱く



「「「「「「―――ッ!!」」」」」」


沖田「ねぇ、あいつら全員斬っても良「待て、総司。」…何です。」



総司が動こうとした時、副長が総司の肩を掴む



土方「今はまだ…ドカッ…!バキッ…!グシャ!…!?」


男A「ぐはっ…!」



副長が総司を抑えている最中、打撃音と共に男の呻き声が聞こえてきた


視線を移すと、男の一人が地面に倒れている



『ちッ…!カスが。』


「「「「「「―――ッ!!」」」」」」



横たわる男を冷眼している目つきで判った


あれは間違いなく…



「「「「「「…ナオ…!」」」」」」


男A「…ぅっ…うぅっ…。」


男B「な、何すんだよ!?てめぇ!!」



か弱い女だと思っていた美月ナオに想定外の攻撃をされ、混乱状態の男が叫ぶ



『ギャーギャー喚くな、クソ野郎。てめぇらみたいな雑魚がアタシに触んじゃねーよ。こっちまで腐っちまうだうが。』



ナオは男達に触れられた部分を払いながら言い放った



男B「んだと、このアマ!もう一遍言ってみやがれ…!」



逆上した男が美月に掴み掛かろうとする



藤堂「お、おい…!土方さん、いいのかよ…ッ!」


原田「いくらナオだからって無視して良い訳ねぇだろ…!」


斎藤「―――ッ!」



平助と左之が副長に訴えるのを横目で見ながら俺は――



土方「…おいッ、斎藤…!」



副長の制止の声を無視して飛び出していた



沖田「へー?一くんでも、土方さんに逆らう事あるんだね。」



俺と同時に飛び出した総司が隣で呟く



斎藤「…煩い。」



そしてすぐ美月、いや“ナオ”の元に着いたのだが――



『あ"ぁ"!?何度でも言ってやるよ。てめぇらみたいな雑魚に触られると、こっちまで腐るんだよ!だから――…』



バキッ! ザクッ…!



ナオは男の鳩尾に重い蹴りを入れ、倒れた拍子に日傘を男の首筋ギリギリに刺した


…いや、少し切れているだろうが。



『アタシの手元が腐ったせいで、てめぇの喉を突き刺しちまう前にさっさと消えな。』


男B「ひ、ひぃー!」



男は顔面蒼白にし、足元をふらつかせながら逃げて行く



――故に俺達の出番は皆無だった



沖田「あはは…ッ!ナオちゃん、お見事。全く出番なかったね、一くん?」



総司は拍手をしながらそう言って、ナオに近付く



斎藤「…………。」



激しい動きで着崩れした着物を直しながら、ナオは男達に向けたものと同じ眼で俺達を見る



『沖田、斎藤…。てめぇらがさっさと美月を助けてりゃ、アタシが出る必要無かったんだからな。』


斎藤「――だがアンタは美月を守ってくれた。感謝する。」


『…チッ…!』



俺がそう言うと、ナオは舌打ちをして大きな溜息を吐いた



『ちょ!?えぇ!?こ、この人、一体どうしたんですか!?き、救急車~!!』



すると突然、ナオは挙動不審になる


いや、これは――…



斎・沖「「…美月ちゃん?」」


『――はい??』



きょとんと首を傾げながら美月は俺達を交互に見上げる


その様子に“いつもの美月”だと安堵し溜息が零れる


またそれと同時に、先程までの出来事がまるで白昼夢の出来事だったのではないかと…思わずにはいられない



ポフポフ…


ポンポン…



“美月が目の前に居る”


それが嬉しくて、つい美月の頭を撫でてしまう



沖田「――あのさ、一くん。真似、しないでくれる?」


斎藤「…それはこちらの台詞だ。」


『?????』




俺達は美月の頭上で火花を散らしながら頭を撫で続ける



…が。



『いやいやいや…!そんなことしてる場合じゃないですよね…!?は、早く救急車…!!』



慌てふためく美月


その後、事態を収拾すべく副長達も出てきたが、状況の判らない美月は豆鉄砲をくらった鳩の様に目を丸くしていた


そして――



『あぁ!!時間…ッ!申し訳ないですけど、後はお願いしますね…!』



そう言って一目散に駅に向かって消えてしまうのだった―――…



















(一体、今日は何の催し物があるんだ?)

(…さぁ?)

(というか、この人どうするの?)

(そのままで良いんじゃねーの?)

(――ちっ…!そんな奴、放っておけ…!…おい、お前ら。そんな事より、さっさと美月を追うぞ。)

(…言われなくとも、そのつもりですよ)

(…はいはい。)

((…へーい。))

(…御意。)



ガタタン…ガタタン…



『…はぁはぁ…。ま、間に合った…。』



私は滑り込みセーフで何とか電車に乗り込めたことに安堵し、呼吸を整えながら窓側の隅へ移動した



シャラン…



視線を向けると、そこには顔を引き攣らせ作り笑いを浮かべる皆とのプリクラが電車の動きに合わせて揺れている



…そういえば皆がこの世界に来てから、もう三ヶ月以上経つのか――…



『…早いなぁ…。』



最初はどうなることかと思ったけど…

私必死だったもんね



『ふふっ…。』



私は皆と出逢った時の事を思い出し、笑いが込み上げる









…けれど私はすぐに苦渋の表情になった









…私、ね?





今では当然の様に皆と一緒に居るけれど、時々思うんだ








【何で《私》だったの――…?】と…。


















…ううん、本当は“解っている”んだ



















何故なら私は…














新選組の“敵”なのだから―――…













動かぬ歴史




嘘、だよね…?



私の血縁者が新選組を追い詰め、皆を殺したなんて――…



そんなの信じたくなかった――…




小さい頃、私は祖父の話す昔話が大好きだった―――



戦国時代の話…

毛利元就の話…

第二次世界大戦の話…

毛利家の話…


…そして幕末の話。



毛利家直系本家の当主である祖父は、幼い私に毛利家の家系図を見せながら沢山の話を聞かせてくれた



祖父「――美月、見てごらん。私達の祖…つまり毛利家の始まりは平城天皇という方なんだ。」


『へいじょ…てんのう?』



そう言って、祖父が開いた1ページ目には【平城天皇】ただ一人の名前が書かれていた



祖父「ああ、そうだ。…だから私達には天皇の血が受け継がれているんだよ。」



祖父曰く、禁門の変の際に長州藩士が御所へ押し入りしたのは、天子様を政治的利用させないように“護るため”だったのだと――…


“血族だからこそ”ただ純粋に護りたかっただけだったのだと――…



もちろん幼い私に全ては理解出来なかったけれど、“大切なものを守りたい”という強い想いだけは解った



祖父「――いいかい?美月。いつの時代も形に残る歴史と事実は異なるものなんだ。…だからこそ、お前はその目と、その心で真実を見つけなさい。」



笑いながらそう言って、首を傾げる私の頭を撫でてくれた祖父は…もういない
















とても聡明な人だった




とても優しい人だった




とても偉大な人だった




そして誰よりも私を可愛がってくれた












…だからこそ、私は祖父に誇れる自分でありたいと思う



『――でもまさか私が“敵”だなんて誰も思わないだろうな…。』



そう私は呟き、自嘲する


…正直、私は新選組を好きになって自分の祖先に対し嫌悪感を抱いていた


自分の血が汚らわしくて、悔しくて、恨めしくて。


変えることの出来ない歴史や血を呪ったりもした



…それでも“敵”の私が新選組を…皆を好きになったのはきっと意味のあること――…



それに…

過去の事や病気の事で思い悩み、動けなくなっていた私に前を向いて歩く勇気をくれたのは、他の誰でもなく“新選組”だったから…


…だからこそ皆と出逢った時、決めたの



“私が皆を護る”と――…



…それはきっと神様が与えてくれた使命


そして皆と出逢ったのは“運命”だと思うから――…



『…だから、私は絶対に皆を死なせたりしない…。』



例え私の命と引き換えにしたとしても、ね――…



私はそう誓いながら、目を瞑りストラップを握り締めていた―――…




****************************************


原田side



俺は美月の事で皆に言っていないことがある


…いや、言えなかったんだ



“それ”を知ったのは初めて美月の兄、准也に会った日のこと


准也の店で働くために顔合わせをしていると、美月の携帯に慎吾から連絡が入った


そして俺は慎吾に手伝いを頼まれ、美月の携帯を借りて一人店を後にしたのだが…、肝心な使い方を聞き忘れた為に店へ戻った



『――准兄も知っての通り、私達は毛利家直系血族者。そして私は唯一“証”を受け継ぐ者。先祖は新選組の“敵”だった長州藩だけど、末裔だからこそ出来る事がある。ううん、“私だけにしか”出来ない事があるの。…私は皆を護りたい。絶対に皆を死なせたくない。…だから私が護ってみせる――…。』


原田「………ッ!?」



あの時は流石に店に入って問い詰める事など出来ず、その後も聞ける機会が無かったし、美月の話を皆で共有した時にもこの話だけは出来なかった


皆に知られたら美月を――…


…だからこそ、皆に言わなかった



原田「――言える訳、ねえよな…。」



美月が長州藩主の祖である毛利家の末裔…?


じゃあ…

美月はあの毛利元就の末裔って事、だよな?


“証”って…?


美月だけが出来ることって何だ…?


疑問ばかりが俺の頭を占領する



…なぁ、お前は“何を”するつもりなんだ…?



そして美月が“何か”をする時、俺は…



原田「お前に何をしてやれる――…?」



そう呟きながら、俺は美月の笑顔を思い出すのだった―――…







恵「美月!!」


『お~!恵~ッ!』



駅の改札口を出ると、薄桜鬼仲間の恵が手を振っていた


私は急いで恵に走り寄り、手を合わせる



『ごめん、待たせちゃった?』



普段は遅刻なんてしないのだが、地元駅で“あんな事”が起きた事もあり、遅刻してしまったのかと心配になる



恵「――いんや、待ってないよ。あたしも丁度来たとこだし。…にしても、さすがだね。指定時間の10分前に到着か。…あ~あ、今日は初めて美月の前に着いたと思ったのに~。」



そう嫌味っぽく言いながら歩き出した恵に、私は着いていく



『ん~…。でもちょっと地元でトラブったから、かなりギリギリだったんだよ?』



そう口にすると、私の頭にさっきの出来事が蘇る


さっき――…


予定していた電車に乗り遅れそうになった私は、着物をたくし上げ可能な限りの速さで猛ダッシュしたのだ



『うぅ…。』



折角の着物にも関わらず、まさかあんな格好で走る羽目になるなんてね…


思い出したくもない自分の愚行がより鮮明に蘇り、つい私の口から溜息が零れる



恵「はぁ?トラブル?何それ。」


『ん~。まぁ色々あって、ね…。はは。』



すかさず突っ込まれたものの、さすがに説明するのも面倒になり、私は苦笑いしながら言葉を濁した



恵「ふ~ん…。ま、言いたくないないなら別に良いけどさ?――というか、美月着物似合ってるよ。すっごい可愛いんだけど…!」


『へッ!?…そ…そう、かな?へへ、ありがと。』



まさか褒められるなんて思わなかった私は、驚きのあまり一瞬言葉を詰まらせてお礼を言う



恵「うんうん!素直でよろしい!」



恵は満足げな表情を浮かべながらそう言った



****************************************



そして会場に近付くにつれ明らかに薄桜鬼ファンと思われる人が増えて、大きなイベント初参加の私は緊張してしまう



『――やっぱ、すごい人多いね…。』



私がそう呟くと恵は口角を吊り上げた



恵「当ったり前でしょ!薄桜鬼単独イベなんだから!」



バシッ!



そう言って恵は私の二の腕を思い切り叩く



『…い、痛い…。』



まぁ、確かに今春以来の単独イベントだしね


アニメ効果もあってか、チケット争奪戦には苦労したもの


それに…


私の場合は“彼らにバレないように”が含まれる為、更に苦戦したのだ


見事、チケットを入手出来た時に私は嬉しさのあまり叫んだものだから、平助くん達が慌てて部屋に飛び込んで来たりして。



『…そう。あの時は特に一くんをごまかすのが大変で…「何それ。新しいサイドストーリーにそんなのあったっけ?」――へ!?あ!いや、違うよ…!?えっと、さささ最近お気に入りの夢小説の話だよ、うん!!』



独り言をまさか恵に拾われるなんて…私は咄嗟に言い訳をしつつも、焦りすぎてつい目が泳いでしまう


ぼやきも同然の言葉に鋭く反応するなんて、恵は薄桜鬼の事になると本当に地獄み…ゲフンゲフン!…もとい薄桜鬼が好きなんだと改めて思った



恵「なんだ、夢小説か。あんたも好きだね~。」


『まぁ、ね。あはは…。』



そんな恵が“もし私の家に新選組が居る事を知ったら…”


なんて想像するだけで恐ろしい


いや…ッ!

それよりも此処に皆が来てしまう事の方がよっぽど大変な事に…!



『―――ッ。』



…そんなこと考えただけで目眩がする



恵「ん?何、青い顔してんのよ。」


『へッ!?き、気のせいじゃない…!?』



いやいや…。


皆は大人しく家でお留守番してるんだし!


うん!大丈夫だ、問題ない…!!






…はず、よね―――…?






****************************************



沖田side



沖田「――ん?左之さん、何か言った?」



電車の外を見ながら呆けていたと思ったら、何か小声で左之さんが言った気がした



原田「…あ、いや。何でもねぇ。」


沖田「――そう?」



僕が話かけると、ハッと僕を見て苦笑いを浮かべる左之さんは何だか変な感じする


…でも僕は敢えて聞かないことにした


何かよくわからないけど本能的に嫌な予感がしたから――…



藤堂「あっ!美月が降りたぞッ!」


永倉「おい、左之!総司!ボサッとしてねぇで降りるぞ…ッ!」



どうやら美月ちゃんが電車を降りたらしく、新八さんが僕達に叫ぶ


《言われなくても降りるのに》と心中で悪態をつきながらも皆に習って下車する



沖田「――と、いうか新八さん声大きすぎ。美月ちゃんに見付かるよ?」



そう言って僕は大きく溜息を吐いた


僕達は彼女を陰ながら護衛しているのに…

これだから空気の読めない人は困るよね



永倉「んなことねぇって!ほら。美月ちゃん、友達と楽しそうにしてんじゃねぇか!」



新八さんは階段の端に隠れながら言う


勿論、全員同じ様に隠れて美月ちゃんの行動を見守っているんだけど。



土方「――いくらなんでもこれは怪し過ぎるだろ。それに美月一人じゃねぇようだし、大丈夫なんじゃ「じゃあ、土方さんは帰って良いですよ。」…んだとッ!?」



僕達の様子を一番後ろで見ていた土方さんがつまらないことを言い出す


だからこそ僕は言い終わる前に釘を刺した



沖田「大丈夫だって思うなら土方さんだけ帰れば良いじゃないですか。僕は気になるし、楽しそうだから帰りませんよ。」


藤堂「俺も!」


永倉「俺も当然残るぜ!」


原田「――俺も、だな。」


斎藤「…副長。申し訳ありませんが、自分も残ります。」



そう僕達が次々と宣言すると土方さんは青筋を浮き上がらせた



土方「…誰も…帰るとは…言ってねぇだろうがぁぁあ!!!」



やれやれ…。


今からこんな状態で、僕達は無事に美月ちゃんを護衛出来るのだろうか―――…





美月side



会場に着いた私達は、パネルやら看板やらを記念撮影し、グッズを購入し、アンケートを出した後、そのまま入場して公演を楽しんだ



そして約2時間後――…



退場した私達は余韻を楽しむ為と休憩を兼ねて会場裏側にある広場に来ている



恵「ねぇ、ちょっと美月!原田さんと土方さんが居るよ!!」



会場の至る所に居たコスプレイヤーさん達が、広場では更に沢山集まって撮影をしている



『…おぉ!ホントだ。』



毎日“本物”と生活しているためか感動は少ないものの、それでも本来であれば皆が着ているであろう服装を身に纏っているレイヤーさんが新鮮に見えた


…そっか。


此処なら皆が羽織りを着て、刀や槍を持っていても問題ないんだ

※実際は本物の刀や槍は持てません


だったら“皆を連れて来れば良かったんじゃ…?”と、少し考えて私は頭を振る



『いや、ダメだ!そんなことしたら…ッ!』



間違いなくファンに囲まれて大変な事になるに決まってる…!


そもそも女性に囲まれるなんて皆嫌がるだろうし、土方さんに至っては怒鳴り付けそう


まぁ…、怒鳴られたところでファンは動じないだろうけどね


きっと女性に囲まれて喜ぶのは新八さんだけだと思う。うん。



恵「――ねぇ。今日の美月、ちょっと変だよ?何かあったの?…って、あ!アレはヤバい!」



恵は呆れた顔をして私に問い掛ける途中、急に叫んだ


釣られて私は恵の指差す方を見遣ると――…



『ざき…だと!?』



視線の先には――…


とんでもなくクォリティーの高い山崎コスをした素敵レイヤーさんが居ました☆



恵「ちょwあの山崎パネェwww」


『ううううん!!激しく同意!!…というか、これは突撃DQN!!』


恵「古ッ!そしてDQNはあんただよって…。あ!ちょっと美月…ッ!」



恵のツッコミ&制止の声を華麗にスルーして、私は山崎さん(※レイヤーさん)の元へ全力疾走する



『はぁはぁ…ッ!ああああの!私、山崎さんが大好きです…ッ!!』


レイヤー「あ、私も大好きです~。」



初対面で(しかも息切らせながら)愛の告白をするKY(かつ気持ち悪い)な私に可愛く微笑む山崎さん(※レイヤーさん)


何この可愛い生き物…!!



レイヤー「――というか貴女の着物姿、とても素敵ですね。」


『!!!』



嗚呼…ッ!


大好きな山崎さん(※レイヤーさん)がそんな爽やかな笑顔を私に向けてくれるなんてhshsすんぞゴルァ!!!

※美月、只今羅刹化暴走中



『そそそんなこと…ない、です!あああの、失礼ですが写真一緒に撮ってもらっても、いいい良いですか?』



私がそう言うと山崎さん(※レイヤーさん)はにっこり笑って快諾してくれた



レイヤー「――じゃあ、どうせなんで貴女を抱き締めてる構図で撮りません?」


『え!?何それ俺得すぐry…ゲフンゲフン!いい良いんですか!?是非ともそれd…「ねぇ、どうせなら山崎くんっぽい子とじゃなくて僕と撮ろうよ?」…そ、総司くんッ!?』



突然、レイヤーさんとの間に割って入って来た総司に愕然とする




《きゃー!》


《やだ!SSL沖田だよ!》


《というか全員居るんだけど!!》



全員…ですと!?



ガバッ…!



私が焦って振り返ると、何故かそこには新選組が全員集合していました\(^o^)/



『なッ!?ちょ!?どうして…ッ!?』



私は、混乱して今の状況に頭が追いつかない



藤堂「ごめん!家を空けた事は謝る!」


永倉「悪気はないんだぜ!?」


原田「そうそう!俺達はただ、美月が心配だっただけだ。」


『―――ッ!?』



三人の弁解も受け止められず、私はただ開いた口をパクパクすることしか出来ない



恵「ちょ!美月、どういう事よ!?」



血相を変えて飛んできた恵が私の腕を揺する



『いやいや…!私だってよく判らんのだよ…!あああ悪夢が現実にぃ…!いや、違う!むしろ私は今、悪夢を見ているのだよ!(゜Д゜)ァハハ八八ノヽノヽ』


恵「み、美月…!?」



だって“皆だけ”で電車に乗ることも、わざわざ此処に居る理由も現実的じゃないもの…ッ!



斎藤「…美月、これは現実だ。」



残念すぎるお知らせキタコレ\(^o^)/


なんてことなの…


ほら、ファンの子達目の色変えてるよ…?


ほら、恵が激昂してるよ…?


あはは…。もう泣きたい、私…。



『――しかも何で土方さんまで…。皆さんを止めてくださいよ…。』



呆れた様に私が土方さんに言うと土方さんはバツの悪そうな顔をする



土方「あ~…。一応俺は止め…「あの!普段は六人でコスされてるんですか!?」…は?こすだと?お前何者だ…?」



土方さんが話している途中に痺れの切らしたファンの一人が話しかけてきた



《きゃー!声も口調も似てるー!》


《なりきりスゴイー!》



いやいや、そりゃ本物ですから!


…なんて心中で突っ込んでいると――…



ファン「是非とも六人で新選組の格好をしてみませんか!?」


「「「「「「はぁ!?」」」」」」



ファンの一人に素晴らしい提案をした人がいた



《ざわ…ざわ…》


《…ざわ…》



藤堂「新選組の格好してって言われても、なぁ…?」


永倉「美月ちゃんと約束したしよ…。」



そう言って二人は私をちらりと見る


うっ…!

そんな目で見ないで…!



沖田「面白そうじゃない?それに“此処なら”羽織りとか着ても良いんだろうし、そもそも僕達の“こすぷれ”美月ちゃんも見たいでしょう?」



総司はにっこり笑いながら私に聞く


いや、“聞く”口調なだけで“YES”以外は認めないのだろうけれどね


あはは…流石は総司。何でもお見通しですか


それに見たいか見たくないかと問われれば当然見たいッ!…訳で。



『――わかりました。“今日だけ“かつ、“この場所でだけ”ですよ…?』



私がそう言うと総司達は大きく頷いたのだった―――…





それから皆は着替える為、目を輝かせたファンの子達に連れられて行った



『…なんでこんなことに…。』



私は見えなくなった皆の後ろ姿を見つめ、うなだれながら大きく溜息を吐き出す



恵「――で?ちゃんと説明してくれるかしら?」


『…あ"っ。』



ゆっくりした口調で尋ねてきた恵が末恐ろしすぎて、つい顔が引き攣った



恵「“あ"っ。”じゃない。彼らは誰?どうして美月を心配して追ってくる訳?」



“誰”って言われても…



『ほ、本物…?』


恵「あははは!!確かに似てるけど本物じゃないのは誰でも判るって…ッ!」


『…え?』



恵には本物に見えないの…?


…そういえば…


ファンの子達も《なりきってる》とか《そっくり》だとか言ってたっけ…?



『…で、でも彼ら名前も薄桜鬼キャラのままなんだよ?』


恵「へぇ…!本当になりきってるんだねえ!…って、そうじゃなくて!あたしはあんたとあの人達の関係を聞いてるのッ。」



やっぱり“本物”として見えてないんだ――…



『…皆さんと私の、関係…?』


恵「そう、関係。」



う~ん…。


ある意味“家族”でもあるけれど少し違う


素直に言うなら――…



『護らなくちゃいけない人達…?』


恵「ぷっ!何それ。答えになってないじゃん!」



そう言って苦笑する恵



『――だって皆さんが私の事をどう思ってるか判らない以上、勝手に代弁は出来ないもの。…だけど、例えどんな風に思われていても、私にとって皆さんは大切な人に変わりないから。』


恵「…ふ~ん?まぁ、あんたはちゃんと“大切に”されてると思うけど…。」


『へ…?今何て言っ「そりゃあ、こいつは放っておくと何しでかすか判らねぇからな。」…あ、土方さん!皆さんも…!』



振り返ると着替え終わった皆が居た



恵「――確かに。この子、危なっかしいですもんね。」



恵がそう言うと、皆は苦笑している


でも…

私は皆を見て動きが止まってしまった



『…………。』



どうやらウィッグも借りたらしく、皆の姿は出逢ったあの日のままで――…



藤堂「美月!どうだ!?」


永倉「なかなか様になってんだろ!?」



平助くんも新八さんもすごく嬉しそう



『――うん。平助くんが和服になる時は、やっぱり髪結ってた方が平助くんらしいね!新八さんもやっぱり鉢巻きがある方がしっくりきます。』


私がそう言うと二人は満足げに笑った



『皆さん、やっぱりすごく似合ってr《ぎゃあああ!!》《さっきの人達が着替えてきたー!!》…っと…!』



皆を格好に興奮したファンの女の子達が詰めかけ、ぶつかりそうになる



恵「ちょ、美月大丈夫?」


『うん、平気。…じゃあ私達は離れておこうか。』


恵「――そだね。」



この場所に居ては間違いなく邪魔になるので、私達は皆から離れようとした


その時――…



ガシッ!




「行かせないよ?」


『…へ?』



腕を捕まれ振り返ると総司がにっこり笑っている



『そ、総司…くん?』



何だかとっても嫌な予感がして腕を引いたものの、当然びくともしない



『さ、左之さ~ん…。』



私だけではどうにもならないと判断して、すぐ横に居る左之さんに救援の視線を送ってみる


…が。



原田「…………。」



左之さんまでにっこり笑っていた


ひぃ~恐すぎる…


こうなったら最終奥義…ッ!



『一く…!?!?ちょ!何してるんですかッ!?は、一くん助けて~ッ!!』



突然、私は総司の背に担がれてしまい身動きが取れない



斎藤「総司…!何をして…ッ!」


原田「あ~、斎藤。大丈夫だ。ちょっと久々にこんな格好したんだからよ、少しくらい巡察みたいに町を歩きてぇだけだ。」



一くんが止めようとしてくれた時、左之さんが口を出した



沖田「そうそう。美月ちゃんも着物だし、どうせなら皆で甘味処にでも行きたいなってね。」


『それ私を担ぐ理由になってませんから~!』



私は総司の行動が理解出来ず、ジタバタともがいていると――…



沖田「…あのさ。美月ちゃんが暴れる度に胸が押し付けられてるの、もしかして判ってやってる?」


『―――ッ!!』



そんなの故意的な訳ないでしょう…ッ!


総司の破廉恥…!



恵「おぉ~!美月が茹でダコのようになってますぜ、沖田の旦那~。」


原田「ぷくくっ…!」


『わ、笑うなぁ…!!というか恵も何なのよ、そのキャラ…!!遊んでないで助けてよ!』


恵「だが断る☆」



私が必死に助けを乞うても即断る恵


うぅっ…


私がこのよく判らない状況にうなだれていると――



…バタバタバタッ!



藤堂「総司ッ!美月を離せぇ~ッ!」



ファンの子達に囲まれていたハズの平助くんが凄い勢いで走ってきた



藤堂「総司!おまえ何してんだよ!美月を下ろせッ!」


沖田「うん、いいよ。」


「『…へ…?』」



物判りの良すぎる総司に平助くんと私は呆気にとられる



沖田「――はい。“貸して”あげる♪」



そう言って総司は――



藤堂「は?貸すっておまえ…!」


グッ…!…ドサッ!


藤堂「なッ!?」



――私を持ち上げ、平助くんの上に無理矢理乗せた


…当然、いきなりの事にバランスを失った平助くんは、私を上にしたまま倒れてしまう



藤堂「…ッ!痛っぇ…!おい、美月大丈夫か!?つーか総司!いきなり何すんだよ!?」



平助くんは総司に対して怒りの訴えをする



沖田「えー?…だって君が“下ろせ”って言ったんじゃない。それに平助が怒る理由は“僕ばかり”美月ちゃんを抱き上げてる事が羨ましかったから、でしょう?」



総司は悪びれること無く、笑顔で言ってのけた



藤堂「なっ…!」


『…はい?』



それは、どういう意味…?


私は総司の言葉に平助くんが赤面している意味がわからず、眉を寄せながら首を傾げる



『ねぇ、平助く…「ったく、平助はだらしねぇなあ!」し、新八さん!?』



かかかっ、と頭上から笑い声が聞こえ、それと同時に私はふわりと身体が浮き、視界が高くなった



『ちょ、ちょっと新八さん!?何で私を肩に乗せてるんです!?』



…どうやら私は新八さんに担がれていたようで。



永倉「美月ちゃんを交代で担いでんだろ?あまりにも平助がだらしねぇから見てらんなくてよ!――それに俺の肩は美月姫の特等席だしな!」



そう言って豪快に笑う新八さん


えっと…?

一体どこから突っ込めば良いんでしょうか…



『こ、交代で担がれている訳ではありません!それに私は“姫”なんかじゃ「良いんだよ、俺にとっちゃそんくらい大事なんだからよ!」…な、何を…ッ!』



新八さんの言葉に思わず顔が熱くなる


この人何言ってるか判ってないよ、絶対…!



原・土「「……………。」」



ほら、左之さんと土方さんも驚いて目を見開いてるじゃない…!


うぅ~!天然キラー新八め…ッ!



ガッ…!



斎藤「…その汚い手を離せ。」



永倉「うぉ!?」


『きゃッ!?』



ドサッ…!



斎藤「…美月、無事か?」



突然体勢を崩した新八さんから放り出された私を、上手く抱き留めてくれたのは一くんだった

※斎藤さんはお姫様抱っこしています



『――ぶ、無事です…?』



一くんが何に対しての確認をしたのかは判らないけれど、私が無事なのは間違いないからそう答える



永倉「“無事か?”じゃねぇ!斎藤、おまえ何で俺の膝裏を思い切り蹴るんだよ!?」



新八さんがすごい剣幕で一くんに食ってかかる


すると一くんは小さく溜息を吐き出した



斎藤「――島原通いで女好きのあんたが触れると、美月に汚れが伝染する。…故に阻止したまでだ。」


永倉「なッ!?ひ、ひでえ…。」



新八さんは顔を引き攣らせて一くんを見ている


ご、ご愁傷様です…



斎藤「…あんたも気安く男に触れられぬよう、もう少し危機感を持て。」



一くんは少し不機嫌そうにそう言った


うっ…。


私は総司にいきなり担がれただけなんだけどなぁ…


けど、それは私を心配してくれてるからなんだよね


そう思うと私は自然と頬が緩む



『――でも、困ったら一くんが助けてくれるんですよね?…なら、きっと大丈夫ですよ。』



私はそう言って笑った



斎藤「―――ッ。」



すると言葉を失っている一くんの肩を左之さんは軽く叩き――



原田「くくっ、一本取られたな斎藤。」



そう言って肩を震わせながら笑いを堪えていた


一くんは、そんな左之さんを見てほんの少しだけ笑みを浮かべ息を吐き出した



土方「――斎藤。」



土方に呼び止められた一くんが立ち止まる



斎藤「…?如何致しまし「貸せ。」…副長ッ!?」




『!?!?』



土方さんは一くんの腕から私を抱き上げた



『土方さんまで、何してるんです~!?』



私が暴れると土方さんは口角を吊り上げて笑う



土方「…すげぇ顔。」



くっくっくっ、と土方さんはやたら機嫌が良いみたいだけれど。



『笑い事じゃありませ~んッ!』



もう今日は一体何なの…?


あぁ、もうホント泣きたい…


私は頭痛のする額に手を当てると女の子達の声が聞こえてきた



ファン1「あの…!」


ファン2「その女性は皆さんの何なんですか…?」



あわわわ…!


そ、そんな事を聞かないで…!


皆が女の子達に振り返るのを見て、私は慌てて耳を塞ぐ



土方「あぁ…?」


永倉「美月ちゃんが…?」


藤堂「俺達の――」


沖田「――何なのかって?」


斎藤「…そんなの決まっている。」


原田「美月は俺達の――」


















「「「「「「“護るべき存在”だ(よ)。」」」」」」








『?????』







恵「…ほらね。あたしの思った通りじゃん。」



けたけたと恵が笑っているのが視界に入り、私は耳から手を取った



『…え、恵?何笑ってるの?』


恵「――さぁね♪」


『ちょっと!…というか、いい加減土方さんも下ろして下さいぃ!!』


土方「だが断る。」


『はぃぃい!?!?』














その後――…

私は左之さんにまで担がれてしまった


…当然、私は甘味処に着くまで担がれたまま




でも――…


皆で食べたぜんざいはとても美味しくて楽しくて、つい私は怒っていたのを忘れてしまった


それを見た総司に《単純だよね。》って笑われたけど、自分では得な性格だと思う



そして折角の機会なので着替える前に皆で記念に写真を一枚撮った



あ、そういえば写真立てがひとつ足りないかも…



ふと大事な事に気付いた私は、皆が着替え終わるのを待つ間、明日の仕事帰りに、またひとつ新しい写真立てを買って帰ろうと密かに決めたのだった―――…
































(つーか皆ずりぃよ!俺だけ美月担げてないんだからな!)

(…日々鍛練を怠るせいであろう。)

(う"っ…!)

(美月ちゃんて良い匂いするんだよな~。)

(華奢だしよ。)

(…やたら柔らかいしね。)

(く、口に出すなよ、馬鹿総司!)

(…へたれな平助に言われたくないんだけど。)

(おまえら、うるせぇぞ!)

(…ふぅ。そんな事言ってる誰かさんが――)

(――1番長い間担いでたよな。)

(なッ!?)

ガラッ!

(あ、れ…?皆さんまだ起きてたんですか?)

((((((!!!!!))))))

(ん?どうかしました?)

(いいいいい、いや!何でもねぇよ!)

(おおおお、おう!今から寝るとこだ!)

((((コクコクコク!))))※頷く一同

(??…じゃあ、おやすみなさいませ…?)

カラカラ…パシン

((((((………。…はぁ。))))))





閉ざされた心 開く心①




ナオSide



《きゃーッ!》


《平ちゃんずるぃー!》


《あははは…!》




『…ちっ…!』




ガッ…!



ガキ共の楽しそうな様子に苛立ったアタシは【ひまわり】の門を思い切り蹴りつけた


…そもそも何でこんな場所に来たんだアタシは。


判んねぇけど…

気付いたら此処に来てたんだよな…



『――折角、身体使えてるっつーのに…。』



そう呟き、アタシ肩を竦めながら苦笑いする


はぁ…

ホント意味わっかんねぇ…



藤堂「おい!おまえ何してんだよ!…って美月…?」


『!?!?』



何でコイツが此処に居るんだよッ!?


って、そういやコイツ此処で働いてたんだっけ…


うっわ…よりにもよってコイツに見付かるなんてツイてない――…


アタシは溜息を吐き出しながら踵を返した



藤堂「おい!美月!?」



あいつが呼んでいるのは、あくまでも“美月”であってアタシじゃない


故に立ち止まる必要はない


そう自分なりの勝手な解釈をしてアタシは【ひまわり】から離れる



『…アタシは“美月”じゃねぇっつーの。』



そんな独り言を呟いて、アタシは足早に歩く



ガシッ…!



藤堂「ちょ!美月、待てって…ッ!」


『―――ッ。』



わざわざご丁寧に追ってきた平助はアタシの腕を掴み引き止める



『…痛ぇな、離せよ。』


藤堂「―――ッ!?」



アタシがそう言って睨みつけると平助は目を見開いた



藤堂「…ナオ、なのか…?」


『…ちっ。離せって言ってんだろが。』



固まってる平助の手を振り払って、アタシはそう吐き捨てる



『――ついてくんなよ…?』



アタシはひとつ息を吐き出し、横目で平助を見遣りながらそう言った



藤堂「…ナオ…。」



縋る様な声色で呟く平助を無視してアタシは行く宛もないまま歩き始める



【そんな事…。俺は絶対認めないからな…ッ!】


【くだらねぇな。何なんだ、お前。美月だけが皆に好かれてるのがそんなに気入らねぇんだったら、まずお前のその曲がった性格を直しやがれ。それで努力すりゃ良いだろうが。】



歩いていると自然にこの前の事が蘇った



…あの時――


あいつら、まるで仇でも見る様な目で見やがったんだよな――…


…アタシだって別に好きでこんな身体に生まれた訳じゃない


普通に生まれてさえいれば、アタシが“美月”だったのに――…


皆に愛される“美月”であれたのに――…


…そう思うと胸が酷く痛んだ



『…美月なんて大嫌いだ…。』


藤堂「俺はそんなナオが大嫌いだ。」


『!?!?!?』



突然真横から発された声に驚いて、アタシは飛び退く



『と、藤堂…!おまえ、何で「平助。」…はぁ!?』



言葉を遮られた事に苛立ちながらアタシはつい反応する



藤堂「“藤堂”じゃなくて、“平助”って呼べよ。俺もナオって呼んでるし。」


『はぁ?んなの、どうでも良いでしょ?あんたの考え押し付け「平助。」…ッ!

へ、平助の考え押し付けんなよ。はぁ…。これで満足?』



押しに負けて名前を呼んでやると平助はニカッと笑った



藤堂「おう!」



犬みたいに寄ってきやがって…馬鹿なのか、こいつ


アタシは大きな溜息を吐き出して煙草を取り出す



『…っふぅ~…。…で、おまえはアタシが嫌いなんだろ?ならさっさと目の前から消えてくれる?』



煙草の苦い煙を思い切り身体に入れ、落ち着きを取り戻したアタシは冷静にそう言った



藤堂「――まぁ、確かに俺はナオが大嫌いだ。…でもそれは、おまえが美月を傷付けようとするからでさ。きっと普通に出会えていれば俺はナオを嫌ったりしてないし、友達になれてたんだと思う。」


『…………。』



だから何…?


それが本音だったとして、どうしろって言うんだよ


そもそも、こいつは一体何がしたい訳…?



藤堂「――おまえは、さ…。何で美月を憎むんだ…?」



ふと平助を見ると、平助は視線を下に向けたままアタシに問い掛けていた



『…あんたには関係ない。』



アタシはそう言って足早に平助から離れる

そして数歩歩いた所で振り返った


『――今度こそ、ついて来るなよ?』



そう忠告してアタシはその場から離れようとする


…が。



《…貴方の幸福を一緒に――…》


《お兄さんホストに興味は――…》



そんな声が聞こえてきて振り返ると案の定、慣れない勧誘に引っ掛かり、平助はあわあわと顔を引き攣らせていた



『…ったく、しょうがねぇな…。』



それを見たアタシは今日1番の大きな溜息を吐き出し、再度踵を返す



藤堂「な、何なんだよおまえら…!?」



アタシが近くに来ても判らない位、平助は焦っているらしい



「じゃあさ、一度俺の店に『アタシの連れに何か用?』――え!?な、ナオ、さん…ッ!?」


藤堂「え…?ナオ…?」



平助をホスト勧誘していた男は、アタシを一目見て驚愕する


…はっ、なんだ――…


アタシを“知ってる”奴なのか…


…なら話は早い



『――こいつさ、アタシのツレなんだよね。だから手出さないでくれる?新興宗教のあんたも同じ。…ほら、平助行くよ。』


藤堂「あ、ああ…。」


「あ、ちょ…!ナオさん…!」



アタシはこんな奴“知らない”


覚えていないだけかも知れないし、アタシや美月以外の人格が――…


…いや、例えそうだとしても関係ない


今は関わりたくないんだよ


そんなことを考えながらアタシは立ち止まり、少しだけ顔を向けて男を横目で見遣る



『…おまえ絶対着いてくんなよ?もし、ついて来たら…わかってるよな…?』


「―――ッ!ナオさん…!!」



アタシは男の声を無視し、平助の腕を引いて暫く歩くのだった―――…



****************************************



アタシ達は喧騒から抜けた街の外れまで来て平助の腕を離した



『――じゃあね。』



アタシは役目を果たして、その場を立ち去ろうと踵を返す



藤堂「ちょ…!ナオ待てよ!」



ガシッ…!



今度は平助にアタシの腕を捕まれてしまう


その事にアタシは溜息を吐き出した



『――何?もう大丈夫でしょ。心配なら、慎吾にでも連絡して迎えに来てもらえば?』


藤堂「違ぇよ!」



そう言って平助はアタシの腕を勢いよく離す



藤堂「いいから!此処でちょっと待ってろ!絶対逃げんなよ!?」


『はぁ!?何でアタシが――ってもう居ないし…。』



意味わかんない


あーもう、ホント無駄な時間過ごしたわ…



『やってらんね…。』



アタシはそう呟いてすぐ近くにあったベンチに腰掛ける


まぁ、この身体を“アタシ”が使っていても新選組と関わるくらいなんだから、そういう運命なのかも知れないけどさ…


でも、やっぱそういうのって“美月”に因果関係があったにしても“アタシ”には関係ないと思うんだよね――…



『――それでも結局、“アタシ”は“美月”。それは変わらない…。そーだろ?じいちゃん。』



アタシは空の彼方に居るじいちゃんに向かって問い掛ける



コトン…



『…ん?』


藤堂「――さっきのお礼。」



すぐ横に何か置かれた音がして視線を向けると、おしるこの缶が置かれていた



『――お礼?…あぁ、別にさっきのは気まぐれだし。…にしても“おしるこ”かよ。もっとコーヒーとか気の利いたもんにしろよなぁ~…。』



くくく、と笑いながらアタシは缶を手にする


どうせ人の見様見真似で平助は自販機と格闘したのだと簡単に予想がつく



藤堂「なんだよ!文句言うなら返せ…!」


『ぷはっ!嘘うそ…!サンキューな。』



“サンキュー”は“ありがとう”って意味ね、とアタシは付け加え、手中にある缶を奪おうとする平助を押さえつけた



カシュ…!



一口飲むとおしるこ独特の優しい甘さが口いっぱいに広がる


そして冷えた身体に温かさが染み渡った



『甘っ~。…でも懐かしい味。』


藤堂「――そうか?まぁ、悪くはないけどさ。」



二人揃って白い息を吐き出しながらおしるこを飲む


何か不思議と気分が落ち着いてアタシは珍しく自然に笑みが零れた



藤堂「――なんだ。ナオもちゃんと笑えるんじゃん。」


『…うっせ。』



それを直ぐさま指摘する平助に悪態をつくと、平助は笑い出す



『――笑うな、ガキ。』


藤堂「なッ!?餓鬼って言うな!ヘソ曲がり!」


『ヘソ…ッ!?』



思わぬ言われように思わず平助を見遣ると――



『「…すげぇ顔…。ぶっ…!」』



平助は顔を真っ赤にして怒っているもんだから、思わず笑いが込み上げた



『ばっか!平助なんつー顔してんだよ!』


藤堂「いや、今のは絶対ナオのがすげぇ顔してたし!」



そんな事を言いながらアタシ達はお互い腹を抱えて笑い合う


つか、何でアタシはこんな笑ってるんだ…?


何でアタシはこんな楽しいんだ…?


判んないけど、すげぇ居心地良い――…




藤堂「――なぁ、ナオ。」


『あぁ?んだよ?』



ひとしきり笑った後、平助が問い掛ける



藤堂「…俺さ、やっぱナオが好きだ。」



一息間を置いて平助はそう言った



『はぁ?な、何だよ、いきなり。』



突然すぎて目が泳いでしまう



藤堂「――俺さ、ずっとナオを誤解してた。おまえは“美月を傷付けるだけの存在”ってさ。」



…間違いではない


アタシは美月を傷付けるだろう


…今までもこれからも。



藤堂「――だけど、それはナオなりに“理由がある”んだよな。その本意を知りもせずに、ナオだけ非難するのは何か違うと思う。…それに今日見てたらさ、実はすっげえ良い奴じゃん?おまえ。…だから、そんな奴の本心をいつか聞けたらなぁ~って思った!以上!」


『…………ッ!』



何なんだ、こいつ…馬鹿なの…?


アタシは驚きのあまり目を見開いてしまう



藤堂「…また何て顔してんだよ!」



そう言って、バシッとアタシの肩を叩き、ケタケタと笑う平助



『…いや…。んな事初めて言われた、から…驚いた…。』


藤堂「――そっか。」



アタシが素直にそう言うと平助はふわりと笑った


そんな平助を見て、トクンと胸が反応する



『????』


藤堂「どうかしたか?」



自分の反応の意味が判らず首を傾げると平助に不思議に思われてしまった



『…なんでもない。』


藤堂「そうなのか…?」



釈然としないものの、アタシの言葉に平助はそれ以上は聞いてこない


今なら――…平助なら――…


大丈夫、だよな――…?


ふう、とアタシは心を決めて口を開く



『――アタシは多分“美月を護る為に()る”んだ――…。』



藤堂「どういう、事だ…?」



平助は眉間に皺を寄せて問い掛けてくる


まぁ、無理もないよな

アタシはこれだけ美月を攻撃しているんだから。



『――美月の話は聞いただろ?美月の精神にかかっている負荷はもう限界なんだ。これ以上、精神的ダメージがかかると耐え切れずに美月は完全に壊れる。…廃人になっちまう。その防衛反応でアタシは生まれた。アタシの役目は“美月が耐え切れない事を全て代わりに受けること”。そうすることで美月は護られる。…けどアタシは――…?…美月のように人に想われず、護ってくれる人も解ってくれる人も――アタシには居ない。…だったら少しくらい美月を恨んだって罪にならねぇだろ…?』


藤堂「ナオ…。」



そう自嘲しながら言葉を紡ぐアタシに、平助は寂しそうな顔をする



『――アタシが美月を傷付けるのは恨んでる気持ちがあるからなのは否定しない。…でも、そうする事で“本当に美月を支えられる奴か見定める”事が出来るんだ。そうする事で美月の周りに美月を理解出来る人間しか残らなければ、美月が余計な傷を作らずに済むんだよ。…まぁ、その分アタシは残った奴らにとって厄介者でしかないんだけど。ははっ…。』



そこまで言って、おしるこをまた一口飲んだ


温かいおしるこがまるでアタシを励ましてくれてる気がした



藤堂「おまえ…。それ、他にも知ってるやつ『居ない。』…なん、で…。」



頬を少し上げて悲しそうな顔をする平助にアタシは苦笑いして告げる



『“知らなくて良いから“だよ。』


藤堂「知らなくて良い…?」



確認するように言葉を繰り返す平助にアタシは頷く



『美月を護るなら美月にとってアタシは“敵”と認識されていた方が都合いい。その方が美月の周りの奴らは遠慮せずに“美月だけを”護れるから。アタシを気にしたら美月は護れないし。…そもそも、アタシなんかを心配するやつなんて居ないだrガツン…!――ッ!!いってぇ…!』



平助は言葉を遮って思い切り頭突きしてきた


あまりの痛さに涙が浮かび、頭を摩りながら平助を見る



藤堂「馬鹿野郎!心配するに決まってんだろ!?少なくても俺はする!だから…ッ!…だから自分のことを“なんか”とか言うなよ…。」


『――ッ。…ぜ、善処する…。』



怒っていたかと思ったら、いきなりしょげる平助


そんな喜怒哀楽の激しい平助に嬉しさが込み上げる


…だってそれは“アタシを”想ってのことだと解るから。



『――アタシも…平助好きだ。あんたの前だけは素のアタシで居られる気がする。』



そうぽつりと口にすると満面の笑みを浮かべる犬っころ…じゃねぇや、平助に尻尾が見えた気がした



藤堂「本当か!?じゃあこれからは俺とナオは親友な!だから辛いことは必ず俺に言うこと!」


『は!?親友て、おまえやっぱ馬鹿だろ?…え、本気?』



ほんの数時間前までアタシを大嫌いだと言ってたやつの台詞とは到底思えない


勝手に一人で盛り上がる平助に顔が引き攣る



藤堂「ほんっと失礼な奴だよな…!別に良いだろ?俺おまえ気に入ったんだよ。それに実はおまえ良いやつだしな!おまえも俺なら素直になれるんなら問題ないだろ。」


『―――ッ!』



馬鹿正直というか、単細胞というか、なんつーか…平助は言ってて何とも思わないのか?


…聞いてるこっちが恥ずかしくなる



藤堂「…ん?ナオ照れてんの?か~わい~!」



アタシが無言でそっぽを向くと平助はそう言って頭を乱暴に撫でた



『うっせぇ…!ガキ扱いすんなガキ…!』


藤堂「だから餓鬼って言うな…!」



アタシ達はお互いの頬を抓りながら主張し合う



ガツン…!



アタシは一瞬の隙をついて平助に頭突きをお見舞いする



『はは!さっきの仕返しだ、バーカ!』


藤堂「いってぇー…!俺こんなに強く頭突きしてねぇのに…!」



うずくまる平助をよそに勢いよくベンチから立ち上がった


すう、と軽く深呼吸をしてアタシは口を開く



『――平助が新選組と伊東を天秤にかけて悩んでいるように――…美月も悩んでる。』



そう――…

美月はあらゆる可能性を考え、その中で最善の策がどれか悩んでいる。



藤堂「…ナオ?何言って…。」



頭を摩りながら起き上がった平助がそう呟いた



『――でも、それは自分ひとりで決めなきゃならないことだ。…美月が例えどんな道を選んだとしても《美月は絶対新選組の“敵”にはならない。》…それだけは忘れないで欲しい――。』



きっと美月の選ぶ道は新選組にとって“裏切り”にしか映らない


でもそれを説明しても混乱させるだけ


ならば言わずに実行した方が都合良いのだ



藤堂「???…よく判んねえけど…。うん、覚えとくよ。」



平助のその言葉を聞いて安堵し、アタシは歩き出す


少し歩いたところで言い忘れていたことを思い出し足を止める



『…平助、ありがとな。』



前を向いたままアタシはそう告げてまた歩き出した



藤堂「あ、ちょ!ナオ…!」



アタシを呼ぶ平助に手で応える



藤堂「次は一緒に美味い甘味処行こうな!約束だぞ…!」



そう叫ぶ平助に、また勝手に約束決めやがってと悪態をつきながらも頬が緩む


仕方ないから付き合ってやろうと思いつつ、アタシは“次があること”を切に願うのだった―――…













閉ざされた心 開く心



友達ってこんな温かいんだな…


アタシ初めて知ったよ…












(藤堂くん!?今まで何処行ってたの?)

(あ、わりー。ちょっと気になることあってさ…。)

(そうなの?まぁ、今回はいいけど次からは一言声かけなさい。)

(ああ、わかった。)

(平ちゃんのサボり魔~!)

(平助のサボり魔~!)

(うるせえ!違う!)

(きゃ~ッ!平ちゃんが怒った~!)

(平助の怒りんぼ~!)

(…お ま え ら…ッ。)


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