主人公はこんな人
乙女ゲーム【薄桜鬼】のif物語です。
主人公が基本的に逆ハーレム話。
別サイトに投稿していましたがChat GTPをテスト運用する為に【小説になろう】へ投稿させて頂きます。
本編
私は普通のOL。去年結婚して旦那様が居る既婚者。子供なし。公言している趣味は【音楽鑑賞・料理・映画】だけど、本当の趣味は【アニメ・漫画・乙女ゲーム】だったりする。…そしてそんな元々ヲタクな私が最近ハマっているのは“薄桜鬼”という作品で。夢小説やらの同人小説サイトを巡ったり、動画投稿サイトで神動画探すのが日課なのだ。先月なんてとうとう自分で石田散薬を作ったほど。天然理心流に入門しようとしたり、聖地巡礼のために仙台に行く!京都に行く!函館に行く!とか頭には薄桜鬼しかない。
…え?旦那様が可哀相って?
あはは、ごもっとも!!
正直、旦那様も私の羅刹k…ゲフンゲフン!もとい暴走に手を焼いている…と思う。…いや、間違いなくドン引きですよ。…が。そんな私を笑って受け止めてくれる優しさに感謝してます。(最近スルーされたり、冷たい視線はあれど…ね。)そんな平凡なヲタク生活をエンジョイしていた私にとんでもない事が起きました。
それは昨日のこと――…。
平日最後の金曜午後6時。一週間の仕事を終え、私は週末特有の浮き足立ったテンションで帰宅途中だった。《食材買ったし、B'sL●G買ったし…。よし、帰ろうッ。》必要な買い物を済ませた私はそんな事を考えながら、極々普通にいつもの道をいつものように歩いていたのだけど。
ドサドサドサッ!
『………ん…?』
いつも通り公園を横切った時に変な物音が聞こえて一瞬私は肩をびくつかせる。明らかに公園で異変があったであろうことには気付いているものの、《猫、かな…?》なんて己の恐怖心を和らげるような想像をしながら怖いもの見たさで公園に視線を移すと、そこには――…。
和服姿をした複数の男性が倒れていたのでした―――…。
『えぇ!?人が…ッ!!どどど、どうしよう…!この公園、人があんまり通らないんだよ!?警察…!?いや、その前に救急車…ッ!?』
私はそんな事を口走りながら突然の事でパニックに陥っていた。…が。その人達の服装に違和感を覚えた私は首を傾げる。…あれ?あの羽織りって見覚えありすぎる――…。…まさか――…。
『…………。』
…いやいやいや!ないないない…!!!そんな夢小説みたいな展開は現実に起こるはずない…ッ!!私は自分の頭に浮かんだ考えを頭を振って否定する。例えば劇団の人とかコスプレーヤーの人達で全くの別人だとしても――…。ちらりと彼らを見遣るとこの寒空の下、地面に突っ伏しぐったりとしているように見えてしまって。《一体どれだけの時間倒れていたのだろう?》と少し心配になった。
『(…彼らが何者だとしてもどの道放っておけないよね――…。)』
私はそう呟きながら息をひとつ吐き出して、声をかけるべく恐る恐る彼らにゆっくり近付き顔を覗き込む。そして予感は的中し、その顔を見て絶句する。やっぱりこの人達新選組だ…!!しかも薄桜鬼のッ…!!
『―――ッ!!』
…いやいやいや!ないないない…!!!いくらなんでもこんなの有り得ないしッ!!まさか、これが噂の…逆トリップ…!?…いやいやいや!ないないない…!!!※本日3回目私は目眩がする位の勢いで自分の頭を振って再度否定する。
『あ、そうだ判った!これ夢だ。…うん、夢に違いない…ッ!最近連日ゲームもやり過ぎてたし、絶対そう!!そうに決まってる…!』
そう閃いた私は、一人で頷きながら自己完結してみた。それに例えこれが夢だとしてもこれだけは胸を張って言える。
『グッジョブ!私~ッ!!』
つい拳を握り締めガッツポーズをしつつ歓喜の雄叫びを上げながら、ジタバタと興奮で足踏みする明らかに第三者からみたら不審者極まりないアラサー女子一名。
「「「「「…ん…。」」」」」
『―――ッ!!』
と、突然彼らが反応した事に驚き、私は思い切り後ずさり勢いあまって後ろの木にぶつかってしまう。この歳になって後頭部を気にぶつけるなんて事は滅多にないし、その痛みに患部を摩りながらも皆の様子を伺った。
藤堂「――あ、れ…?…此処は…?」
その音がきっかけとなり、平助くんと思わしき少年を始め、他の皆も次々と目を覚ましては周りを見渡し首を傾げている。…恐らく私以上にまだ状況が飲み込めていないのだろう。私は木にぶつけた後頭部の痛みと、新選組の様子を目の当たりにしてようやくこれが現実だと思い知らされた。
『……………。』
はぁ…。信じられない…。何がグッジョブなのよ…と先程の馬鹿みたいなテンションに多少の後悔をしつつ、今どうすることが最善なのか思考を巡らせる。そして何が一番かは判らないけど、まずは取り敢えずーー…。
『…み、皆さんおはようございます…?』
そう挨拶してみた。だってそれしか浮かばなかったから仕方ない。いきなり質問するのもどうかと思うし。それに言ってしまったものは仕方ない。後悔したって後の祭りよ( ゜Д゜)ァハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
「「「「「「―――ッ!!」」」」」」
《ソリャソウデスヨネ、ワカリマスヨー。私すごく怪しさ満点ですもんねー。》などと心中で自嘲するが、寝ぼけていても流石は新選組。私の声で一気に目が覚めたのか、彼らは飛び起き全員が私に向かって腰の鞘に手をかけた。
『―――ッ!!デスヨネー…。』
あまりの殺気に顔を引き攣らせながら、私の顔は恐怖で凍り付く。ここで選択を誤れば命がないのも理解出来るし、そうなれば彼らはこの先この世界で生きていく事も難しくなるだろうことは容易に想像出来た。だったら声が震えようとも、怖かろうとも、言葉を間違えるわけにはいかない。
土方「…お前、誰だ…?」
『えと、わわ、私は矢城…美月と申します…。…皆さんは、その…新選組ーー…ですよね?』
土方さんに問われた私は吃りつつも何とか答え、恐る恐るそう尋ねてみると彼らは訝し気に私を睨みつけてきた。全員からの殺気は怖い以上に何か悲しくて心が折れそうになるわ…。
「「「「「「……………。」」」」」」
土方「…あぁ。」
《やっぱり…。》と土方さんの回答を聞いて、私は嬉しいような悲しいような複雑な気分になる。…いや、嬉しいのだけど。
沖田「…ねぇ君、見慣れない格好してるけど…何者?」
総司は刀に手をかけているものの、今のこの状況をまるで楽しんでいるかのような笑みを浮かべてそう私に問い掛けてきた。《…う~ん、何者って言われてもなぁ…。》正直なんて答えるのが妥当なのかは判らないのだけど、ここは素直に答えるべきだろうと私は覚悟を決める。
『…そう、ですね…。私は――み、未来人、です…?』
「「「「「「はぁ??」」」」」」
沖田「ねぇ…君、ふざけてるの?」
カチャリ…
そう笑いながら言いつつも、怒気を孕んだ目でこちらを警戒している総司の右手は刀の柄を掴み、今にも抜刀しそうな雰囲気だ。
『いっ、いいえ!滅相もございません!――それに皆さんを慕っている証拠ならありますよ!…ほらコレ!!』
私はそう言って携帯に付けてる薄桜鬼ストラップを彼等に差し出してみた。…するとそこに一同の視線が集まる。
土方「…なんだそれ。」
私の差し出したストラップを見て土方さんが眉間に皺を寄せながら問いかけてくる。予想以上に皆が興味を示してくれたことに私は僅かながら安堵した。
『えっと…これは、携帯電話という絡繰りです。見て頂きたいのは、この携帯に付いている物です。…ほら、新選組の隊旗と土方さんの名前が刻まれた小さい板がありますよね?』
土方「……ん?…確かに――俺の名のようだが…。」
私の言葉に土方さんは眉間の皺を更に深くする。あぁ、そんな困った顔しないでください…。私は別に困らせたい訳じゃないんですよ…?
『ち…、ちなみに首から下げているコレには一くんのがありま~す!』
自分のテンションを上げるべく、また不審者じゃないアピールのつもりで敢えて陽気な口調でそう言いながら私は一くんにストラップを見せ付けてみる。
斎藤「―――ッ!?」
…すると、一くんはストラップを見て一瞬目を見開く。それを見てちょっとだけだけど反応してくれた事が嬉しくて心の中でニヤついてしまった。――そして私はふと先程購入した某乙女ゲーム雑誌の存在を思い出す。
『――あっ、そうだ!こういう物もありますよ?』
そう言ってバッグから雑誌を取り出して土方さんと総司の足元へ滑らせた。
土・沖「「―――ッ!!」」
雑誌の表紙を見て驚く二人。…まぁ、今月の表紙は二人なのだから驚くのも当然だけどね。
『――それは土方さんと総司くんです。…驚くのも無理ないと思いますが――…。皆さんは、今の時代にも語り継がれている程の武士で、新選組を題材にした書籍なども沢山あります。今お二人が見ているそれは、そのひとつです。…そして未来の証として、こういうのもあります。』
私はそう説明し、スマートフォンと携帯をテレビ電話として繋いで一台を雑誌と同じ様に土方さん達の足元へ滑らせた。
『拾って下さい。そして、その絡繰りに写っている人物を見てください。』
土方さんが手に取ったのを確認してから、私は繋いでいる自分の携帯電話に向かって手を振った。
土・沖「「――なッ!?」」
そして二人は画面をみた瞬間、目を見開いて私と画面を交互に見比べている。驚くのも無理はない。だって写真でさえ、まだ浸透していない時代の人からすればまるで狐につままれているような気分になるかもしれない。
『納得、してくださいましたか…?』
それでもきっとこれで多少は理解してくれる筈…。そう思い、少しだけの安堵と不安を抱きながら私は二人に問い掛けた。
土・沖「「……………。」」
…だけど二人は無反応な訳で。あはは…。流石に現実は夢小説みたいに甘くないよね…。どうしたものかな…?…なんて考えていた時、
警官「おい!お前ら!何をしている!?」
突然公園に怒声が響き渡ったのだった―――…。
「「「「「「―――ッ!!」」」」」」
どうやら私達のやり取りを見た誰かが交番に通報したらしく、あろうことか此処に警察官がやってきたのだ。あー…なんて運の悪い…。というかタイミングの悪い…。と私は額に手を当てて溜息を吐く。
警官A「なッ!?本物の刀…!?き、貴様ら…銃刀法違反の現行犯で逮捕だ!!!」
新選組の腰にある刀に気付いた警察官は焦ったのか物騒な事を口走る。いやいや、まだ抜刀もしていないし…。って、もしかして左之さんの槍!?いやいや、だとしても警察官としての冷静さを失いすぎでしょう…。
沖田「へぇ…。僕たちを捕縛しようってこと?君たち…殺すよ?」
土方「…ちッ。いい度胸じゃねぇか。」
怪しい笑みを浮かべて警察官達に向き直り抜刀する総司と土方さん。いやいやいや!殺人は駄目だから!犯罪だから!タイーホだから…ッ!
『ちょっ!ちょっと待ってください…ッ!』
私は慌てて二人を止めようとするが、制止も虚しく二人に習って新選組一同は抜刀し警察官三人に刀を向ける。そして総司が警察官に斬りかかろうとした、その時―――…。
パン!パン!パン!
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
警官B「う、動くな…ッ!!」
そう言って新選組の足元に発砲する警察官。発砲した警察官はがくがくと身体を震わせている。膝が笑ってる人を初めてみた気がした。…なんて今はどうでもいいのだけれど。流れ弾が当たったらどうするつもりなんだろう。と怖さよりも怒りが込み上げてくるけれど。
沖田「―――ッ!」
警察官の予想外な威嚇に新選組の殺気は更に高まり、ついに警察官へ斬りかかろうとする総司に気付いた私は思わず―――…
ガッ。
『…あっ、あの…ッ!すいません!今、け、稽古中なんです…!!』
…咄嗟に総司の前に飛び出て、後ろ手に刀を掴んだ。そのまま刀を背中に隠すようにゆっくり下げていく。
「「「「「「ッ!?!?」」」」」」
私は皆を振り返って安心するように、にこりと笑えば新選組一同は目を見開いて驚いている。いや、うん…そうだよね。でも今は少しの間だけで良いから大人しく見守っていてほしい。と祈りつつ再度警官に向き直る。
警官C「――稽…古、だと?」
警察官は私の言葉を訝し気に問い返す。だからこそ私は咄嗟に出た言葉に繋がるよう、頭をフル回転させながら笑顔で説明を始める。
『はい…ッ!うちの劇団の初舞台で新選組をやるのですが…お恥ずかしい話、旗揚げで資金不足なんです。――そのため稽古場を借りることが出来ないので…こうして人がいなくなった公園を使い稽古していただけなんです。驚かせてしまって申し訳ありません…!』
そう言って私は勢いよく頭を下げた。そうしている間も傷口は激しく脈動を刻んでおり、刀を伝って血が滴り落ちていくのが自分で判る。
沖田「――ね、ねぇ…ちょっと君…。」
『(…静かに。私は大丈夫ですから。)』
沖田「………ッ。」
私は総司をチラリと見遣り、小声でそう伝えた。総司は私の意図を汲んでくれたのか、それ以上は何も言わない。その事に私は内心安堵する。
警官A「…し、しかし、その刀は本物にしか見えないのだが…。」
どうしても納得出来ない警察官は眉間に皺を寄せ、信じられないといった表情で尋ねてきた。…まったく疑り深い警察官だわ。まぁ、そりゃあ本物の刀だし、その点だけで言えば優秀なのかもしれない。ただ彼らはーー…新選組。現代の人間じゃない。…なんて思いは心にしまっておいて私はより一層満面の笑みを浮かべて喜んだフリをした。
『えっ!…本当ですか!?本物に見えます!?本職の方にそう言って頂けるのが一番自信持てますよ~!…ねっ、み ん な!!』
〈みんな〉のところを殊更強調して言いながら私は笑顔の圧力をかける。此処は意地でも何でも頷いてもらわなければ全てが無駄になるため、もしかすると凍てつくような笑みだったかも知れないけれど。
「「「「「「…あ、あぁ(う、うん)。」」」」」」
そんな私の笑顔の呼びかけに顔を引き攣らせつつも、ちゃんと頷いてくれた皆に私は心中でガッツポーズした。《ごめんなさい!でもありがとうございます!!》…と、私は満足してから、すぅっと息を吸い、今まで我慢していた怒りを警察官へ向ける。
『――それよりも。…無実の私達に発砲したあなた達は罪に問われませんかしら…?』
私はさっきとは違う低い声色でゆっくり冷静に警官に問いかける。無事だったから良かったものの、流れ弾が誰かに当たっていてもおかしくなかった訳で。…もしもの事を考えると沸々と怒りが込み上げてくるもののそれを押し殺しながら、決して感情的にならぬように淡々と話す。
『あぁ、そういえば――…。こういう話ってマスコミの大好物でしたよね…?それともSNSに動画付きで投稿すれば炎上間違いなしかも知れませんね…?』
私はにやりと笑みを浮かべながら警察官達に追い打ちをかける。それでようやく自分たちのしでかした事の重大さに気付いたのか、サーッと顔を青くしている。これが公になれば罪に問われるのは間違いなくこの警察官たちの方なのだ。新選組の手にしている刀は本物だけれど、複数人が本物の日本刀を振り回してるなんて現代の日本では常識的に考えて有り得ないしね。故にこの後の私の行動によっては警察官達の一生を無駄にさせることは容易なのです。…まぁ、例え何もしなくても銃声を聞いた人もいるでしょうし、球数減っていたら始末書なり下手すれば何かしら処分下る可能性もあるし。
「「「―――ッ!!!」」」
『もしこのまま立ち去って頂ければこの件は口外致しませんけどーー…如何致しますか…?』
顔を引き攣らせている警察官達を余所に私はにっこりと最上級の笑顔を向けた。これが決め手となって警察官たちは顔色を変え目を泳がせつつ、サッと拳銃を仕舞い互いの顔を見合わせ空笑いをする。
警官B「…け、稽古なら仕方ないな!」
警官C「あぁ、邪魔して悪かった!」
警官A「よく見ると皆美形だし、稽古に決まってるよなっ。うん!…じゃあ我々はこれで…!」
藤堂「なッ!?ちょ、ちょっと待てよ!?」
早口で言ったかと思うと急いで立ち去ろうとする警官達に対して納得出来ないと平助くんは引き止めようとするものの、一刻も早くこの場から退散したい警察官達は彼を無視し「くれぐれも内密に…。」と私に念を押して、そそくさと立ち去っていく。まったく情けない――…。
永倉「…なんだったんだ…?」
原田「――さぁ…?」
「「「「…………。」」」」
カチャリ…
警察官達が立ち去ったのを見送り、刀を鞘に戻す新選組一同。それにしてもーー《…あ、焦った…ッ!!警察に連行されたら本当にどうしようもないもんね…ッ!ふぅ…。》と一息ついて私は総司の刀から手を離した。
『――あっ…と。ごめんなさい…。余計な真似、しました。…それに刀も汚してしまって――…。』
私はそう言って総司に謝罪する。止めただけでなく、刀を汚してしまって間違いなく総司は怒っているだろうし…。そう思うと自然とうなだれてしまう。
沖田「…………。…ぷっ。あははっ!…君って、おかしな子だね?あははっ!」
そう言いながら笑いすぎて涙目になる総司。そんな総司の反応を見て私の頬は一気に熱くなる。えっ?ここ笑うところなの!?
『ちょ、ちょっと…ッ!?笑うことないじゃないですか…ッ!』
私は真剣に謝ったのに、それを笑うなんてこの人は…ッ!《うぅっ。土方さんはいつもこんな思いをしているのね…。》と改めて同情してしまう。
斎藤「…総司。失礼だぞ。」
一くん、ナイスフォローです…!!
永倉「一体、何だったんだ…?」
原田「…だから知らねぇよ。」
去った警察官の後姿を見つめ、呆然としながらそう呟く二人。それに直ぐ答えられる程、気力が残っていない私は二人と同じように警察官達の去った方を見ながら夢を見ていた気持ちになる。
土方「――おい。ひとつ…聞いて良いか?」
すると、しばらく黙っていた土方さんが突然私に問い掛けてきた。最初の時のような敵意は大分薄れている様子。それでもまだ警戒心は当然の如く解いてはくれない。
『…えっと。はい、なんですか?』
土方「…お前ーー…何で怪我してまで俺達を庇った…?」
私が聞き返すと土方さんはひとつ間をおいてから口を開く。そう見つめてくる菫色の瞳があまりにも綺麗で…私は目を逸らす事が出来なくなる。
『う~ん…。なんで…でしょうね…?』
私は改めて自分の行動を思い返してみると、つい苦笑してしまう。本当に突然の新選組登場からの警察官まで登場して修羅場になって…。本当にどうしたものかと思ったけれど。
『さっきはーー…勝手に体が動いたんです。ふふ、正直自分でも驚いているんですよ…?…う~ん。そう、ですね…。きっと皆さんを失いたくなかったから――…だと思います。』
それが私の本音。土方さんの瞳を真っ直ぐ見て素直にそう答えた。というか、口に出して初めて自覚したのかも知れない。
土方「………。」
私の答えを聞き、困惑顔で押し黙る土方さん。そりゃそうだ。見知らぬ異世界に突然飛ばされて、怪しい格好をした女はいるわ、更に怪しい男の人たち(警察官)には捕縛されそうになるわ、威嚇射撃されるわ。その上、その怪しい女に庇ってもらっただなんて武士の矜持が許さないのかも知れないけれど…。でも後悔はしていない。だから私は改めて皆を励ますように口を開いた。
『大丈夫ですよ…ッ!皆さんは絶対、元の世界に帰れますから。…だからそれまで――…
私が皆さんを護ってみせます。』
そう私は皆に誓うのだった――…。
ザァッ――――!!!
その時――…。彼等の後ろに狂い咲きの桜を見た気がしたのは…夢や幻なんかじゃなく、きっと―――…。
(…ねぇ、ちょっとこの子頭大丈夫?)
(つか此処どこだ…?)
(俺に聞くなよ、新八っつぁん…。)
(あいつ“未来”とか言ってるけど…なぁ?)
(………。)
(新手の間者か…?)
(ち、違います…!皆さんをお慕いしている者ですッ!!!)
(((((((………。…怪しい…。))))))
藤堂「って。おい、おまえ!すげぇ血が…ッ!」
《どうにかやり過ごせた――…。》私はそう思い安堵しながら再度左之さん達と同様に警察官の後姿を見ていると、平助くんが私の流血している手を指差してオロオロする。
『――あ。大丈夫だから平助くん落ち着いて?…私ちょっと傷口洗ってくるね。』
平助くんに指摘されて手を見ると確かにかなりの出血をしている。さすがにこのままの状態で近所は歩けないなぁ…と思い、私はそう言って平助くんから離れた。
藤堂「…あ、あぁ…。」
そう頷きながら美月の後ろ姿を見つめる平助。そして先程から疑問に思っていたことを口にする。
藤堂「――なあ、総司…。お前、あいつに自己紹介なんてしてねーよな?」
沖田「うん。する状況もなかったしね。」
「やっぱり、そうだよな。」と平助は呟く。総司の言葉を聞き、改めて女に対して自分が抱いていた違和感は間違いないのだと確信する。そしてもしかするとあの女は敵なのかも知れないという疑心。それと同時に自分達を庇ってくれた女を信じたい気持ちも僅かながらにある複雑な心境。
土方「――だが、奴は俺を始め、斎藤、平助、総司の名も【知っていた】。そして恐らく原田たちの名も――…。」
「「「…………ッ。」」」
土方の言葉に驚きを隠せない幹部達。何故自分達を知っているのか、何故自分達を怪我してまで守ろうとしたのか…女の意図が全く判らない。
永倉「さっきの奴ら、俺達の時代じゃ見慣れない服装の上に、すごい性能の銃使ってたよな…。俺ら、本当に未来に来ちまったのか…?」
原田「…あぁ。そうなのかも知れねぇな…。」
疑問を口にする永倉の言葉を肯定する原田。同じ日本だと判ってもこの異常な状況に狐に摘まれた気分になる。もしかして全員夢を見ているのではないのか――…とさえ思えた。
斎藤「――副長これからどうするおつもりで…?」
土方「………わからねぇ。」
斎藤の現実的な質問に明確な答えなど出る筈もない。…此処は頼れる者が居ない世界なのだろう。そして何もわからない未知の世界でもあるのだろう。自分達はこの先一体どうすれば――…?あの女を頼っても良いのか…?と、土方は心中で自問を繰り返しながら美月の後ろ姿を見つめ続けるのだった―――…。
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ジャー!!
『~ッ!!し、染みる…!』
流水に傷口をつけるとあまりの激痛に思わず顔をしかめてしまう。流石に日本刀は切れ味抜群ですこと…ッ!自分のした行動に後悔はしていないけれど、想像以上に深く切れていたことに驚いているのも事実。今回は刀が止まっていたから良いけど、もし動いていたらと思うとゾッとしてしまう。
沖田「…傷、大丈夫?」
そんな私に総司が苦笑いを浮かべて問いかけてくる。初対面の人間にも関わらず気にかけてくれることが嬉しい。つい笑みが溢れてしまう。
『あ、総司くん…。全然大じょ「大丈夫じゃないでしょ?見せて。」…はい。』
総司は私の言葉を遮ってそう言いながら私の手を取り綺麗に洗ってくれた。…あれ?総司ってこんなに優しい子だったっけ?と不思議に思うけれど、総司の行動は素直に嬉しくてつい頬が緩むが今笑ったら絶対に総司が不審に思うため下唇を噛み堪えた。
沖田「――何か手ぬぐいみたいなもの、ある?」
『あ~…。えっと、これが代わりになるかと…。』
私は片手でバッグからハンカチを取り出し、総司に差し出す。このハンカチはお気に入りの一枚なのだけれど…仕方ないか。少し…いや結構残念だけれど仕方ない。そう自分に言い聞かせる。
沖田「うん。…これ使うよ?」
「はい」と私が頷くと総司はハンカチを一旦広げてから畳み直し、手際よく傷口をきつく縛る。
『~っ!!!』
私はあまりの痛みに声さえ出せず必死に奥歯を噛み締めて我慢する。…ただ、いくら我慢しても生理現象までは止められず、目元にじわりと涙が浮かぶのが判った。
沖田「――ごめん。怪我させて…。」
『……え――…?』
意外にも素直に謝ってきた総司に驚く。“斬っちゃうよ?”が口癖みたいな総司なんだよ?その総司が何で私なんかに――…。
『…あ…。い、いえ!謝らないで下さい。自業自得ですから。…手当て、ありがとうございましたッ。』
私はどうして良いのか判らなくなり、お礼だけ言って総司の前から離れようと立ち上がった。…とその時。
沖田「待って。」
そう言って私の腕を掴む総司に振り返り、顔を見上げた。まだ何かあるのか…と嬉しいやら恥ずかしいやら逃げたいやらで目が泳いでしまう。
『…えと?どうかされました?』
内心は心臓が飛び出そうなのを必死に勘付かれないよう平然を装いながらそう尋ねると、総司は目を逸らして気まずそうな表情を浮かべている。
沖田「………ぁりが…とぅ…。」
総司は少しだけ口を尖らせながらそう小さく呟いて腕の拘束を解いてくれた。《…ああ、そっか。近藤さん以外にはお礼なんて言い慣れてないもんね…?》それなのにこうやってお礼言ってくれるなんて、やっぱり総司は良い子だわ。そう思うと何だか可愛らしく微笑ましく思えて笑みが込み上げる。
『ふふっ。どういたしまして!』
私はそう笑顔で返事をし、今度こそ皆の元へ戻るのだった―――…。
――トクンッ
沖田「………?」
『…さて、皆さん帰りますよ!』
土方さんたちのいる場所に戻り、バッグを肩にかけ買い物袋を持った私は当然のように皆の方へ向き直りそう口にした。皆私の言葉が理解できないといった何とも言えない顔をしている。
藤堂「は!?お前…何言ってんの?」
『…え?だって皆さん行く所ないでしょう?』
平助くんが目を丸くして言ってくるから、またしても私は当然のようにそう言った。逆トリップが初めてでないのであれば話は別だけれど…。彼らを見ていていれば今回が初めてなのだと判っていたし。行くところないならうちに連れて行くしかないと思ったのだけれど、おかしいのかな?
永倉「そりゃ、そうだけどよ…。」
私の言葉に新八さんは頭を掻きながら苦笑する。まぁ、初対面でしかも女の言うことを聞くなんて“武士”としては耐え難い事なのかも知れないけれど。…いや、誰でも普通こんな状況で素直についていく人間なんているのだろうか?居ない…よね。あはあは。
沖田「僕は、君を傷付けたんだよ?…そんな人間を連れて帰ろうだなんてーー…正気なの?」
皆に向かって《何か文句ある?》と言わんばかりの表情をしている私に対抗してくるのは…やはり総司だった。やっぱり怪我のことを総司は気にしているのかしら…?…例えそうだとしても関係ない。
『あれは私が勝手にやったことで総司くんのせいじゃありませんと、さっきも言いましたよね?』
私は改めてもう一度、総司にそう言った。…まぁ、確かに彼等じゃなかったら119番だけして逃げ出していた…と思う。――なんて、そんな事を考えてしまった自分の小心者っぷりに苦笑いしてしまう。
斎藤「…あんたはーー…俺達が怖くないのか?」
そんな私の心境を露程にも知らない一くんは、怪訝そうな表情を浮かべて私に問い掛ける。それを聞いて私は首を傾げた。
『???…どうしてです?怖いわけないですよ。』
だってあの新選組だよ?夢にまで見た新選組だよ?怯えるどころかニヤニヤしてしまうのを必死で堪えているというのに、怖いなんてある訳ない。
「「「「「「……………。」」」」」」
《何でそんな当たり前の事を聞くのか》と言いたげな私の心中が言葉に表れていたのだろう。数人は私の言葉を聞いて溜息を吐いた。…まぁ、それでも全く動こうとしないのだけれども。
『…そう、ですよね…。まだ私のことなんて信じられませんよね…。』
今更ながらそんな当たり前の事に気付くなんて…。…こうなる事は最初から解っていた筈。私は情けないことにその事実を少し寂しく感じてしまい、思わず視線を下に向けながらそうポツリと呟いた。皆に信じてもらえるには一体どうすれば良いんだろう――…?
藤堂「い、いやッ!そういう訳じゃ…!な、なぁ左之さん!?」
原田「――あぁ…。だが――…。」
慌ててフォローしようと平助くんに話を振られた左之さんは困惑の表情を浮かべながら頭を掻いて気まずそうに言葉を濁し目を逸らした。こんな時でも気遣ってくれる平助くんの優しさに少しだけ頬が緩む。けれど左之さんが言い淀んでいる心境は理解できる。きっと皆はこう思っているはず。
『――意図も判らないし、皆さんを助ける義理は私にはない。ましてや初対面の人間に頼っても良いのか判断しかねている――…。そうですか?』
私がそう確認すると皆は無言で頷く。…そういう反応されるのは判ってはいた。でも――…本音を言えば少し胸が痛む。だけどそれは当然のことで。これが逆の立場なら同じように不審に思うだろう。だからこそ私は皆が納得するように説明をしなければならない。
『…皆さんは――…。…いえ新選組はこの平和な時代になっても皆さんの残した功績や名前がこの国の【誇り高い武士】として語り継がれています。だから私は貴方達を【知って】いるのですよ。私は…皆さんの【武士としての考え方】【武士としての生き様】を心から尊敬しています。…そして私が辛い時に――…沢山力を貰いました。それが皆さんをお慕いしている理由です。――だからこそ皆さんの支えになりたい。…そう心から思っています。』
直ぐに信じてもらおうとは思わない。だけど今はまだ少しだけでも良いからーー…私は胸にあるお守りをぎゅっと握り締めながら、どうか皆に想いが伝わるようにと、願いを込めてゆっくり話した。
「「「「「「―――ッ!!」」」」」」
顔を上げると皆は驚き、互いに顔を見合わせている。それを見た私は少し安堵し皆に向かって笑いかけ話を続けた。それはきっと皆にとって不利なことはない条件だと確信しながら。
『――では、こうするのはどうですか?皆さんは元の世界に帰るまで【私を利用する】。私は皆さんに衣食住を約束します。好きなだけ利用してください。もちろん怪しい動きあればいつでも斬って頂いて構いません。…如何ですか?』
「「「「「「…………。」」」」」」
藤堂「り、利用しようだなんて思わねぇよ!よく…わかんねぇけどさーー…俺はお前を信じる!」
沈黙に耐え兼ねたのか、平助くんはニカッと彼らしい笑顔を私に向けてそう言ってくれる。そういう気遣いは彼らしくて心がほっこり温かくなった。
永倉「ああ!食い物ないのは正直耐えられねぇしな!ありがてぇ!」
原田「――だな。大体、女にここまで言わせてるんだ。信じるしかねぇよな。」
新八さんも平助くんと同様に満面の笑みを浮かべ、そんな二人に便乗した左之さんスマイルが私に向けられる。嗚呼…!ものすごく素敵です、左之さん…ッ!
沖田「…じゃあ遠慮なく甘えさせてもらうよ。よろしくね美月ちゃん。」
あ~…、えっと…?総司の笑顔にだけ一抹の不安がよぎるのは私だけでしょうか…?というか何で含み笑いなの…ッ!いや、あの総司だし当然なんだけども!!
斎藤「…感謝する。」
一くんと目が合うと無表情ながらそう言ってくれた。まさか一くんにお礼される日が来るなんて、感無量です…ッ!
土方「――世話になる。」
そう言って私に軽く頭を下げる土方さん。いやいや、土方さんにそんな態度を取られると私の方こそ恐縮してしまいますよ…!何はともあれ、皆に判ってもらえて一安心。
『皆さん、これから宜しくお願いします…!』
こうして私と彼等との不思議な共同生活が始まったのだった―――…。
(ところで美月って歳いくつなんだ?)
(?26ですけど…?)
((((((!!!))))))
(…あ、慎吾さん!)
(…ん?美月、何してるの?…その人達は?)
(新選組の皆さんでーす!)
(…え?…本物?)
(本物ですよ!)
((((((…誰だ?))))))
(私の旦那様です。)
(慎吾です。よろしく。)
((((((!!!))))))
あれから皆を自宅に連れていき、簡単な食事をしつつ、私はこの世界の事を掻い摘んで説明していた。皆が一体いつまでこの世界にいられるのかは判らないけれど――…。少なくともこの世界で生活する以上、説明せずに生活することで弊害が出ないとも限らないのだ。
『皆さんに守って頂きたい事は2つあります。
①人を殺しちゃダメ。
②刀(槍)を持ち歩くの禁止。…以上です。』
永倉「はぁ~。武士の魂である刀を持ち歩けないなんてなぁ~!」
『…ご、ごめんなさい…。』
肩を落としながらそう言う新八さんに少し胸が痛む。…確かに彼らに帯刀を禁じる事は仕方ない事なのだけど、なんとも言えない罪悪感で私はつい俯いてしまう。
…ポンポンッ
《…え?》と頭を撫でる手に気付いた私が顔を上げると左之さんがにこりと笑って撫でてくれていた。もしかして…慰めてくれているの?自分達のほうがよっぽど辛いはずなのに――…。
原田「――美月のせいじゃねぇよ。気にすんな。」
『左之、さん…。』
そんな左之さんの優しさに私の涙腺が緩んでしまう。どうしてこんな時まで人を気遣えるの?冷静ではいられなくなっても仕方ない状態だというのに…。
土方「あぁ、原田の言う通りだ。…それだけ平和な時代になったのは良い事じゃねぇか。」
苦笑いしながらそう言う土方さんに皆も頷いてくれる。そう、“今(現代)”の日本はとても平和。人が斬り合い、殺し合いの世界とは無縁なのだから。そこだけを考えれば確かに“幸せ”なこの時代は喜ばしいことなのかも知れない。
斎藤「――俺達は世話になる身。しかも時代も違う。…ならば仕方あるまい?」
少し寂しそうに笑って一くんが言うから余計に切なくなってしまう。…あ、なんか涙出そうかも。私はぐっと奥歯を噛み締めて涙が零れない様、必死に我慢した。
慎吾「…さて。とりあえず今日の説明はここまでにして、今から皆の歓迎会をしよう。」
「「「「「「歓迎会!?」」」」」」
突然慎吾さんが言い出した事に皆は驚いて声を上げる。…というか私も正直少し驚いてしまった。まさか慎吾さんが提案してくれるなんて思いもしなかったし。もしかして慎吾さんも歓迎してくれてるの…かな?――というか、こういう時に声が揃うって、何だかんだ言ってもやっぱり皆仲良「何か言った?」
『!?!?イ、イエ…。ナンデモアリマセン…!』
何故心の声が聞こえてるし…。永倉「つか駄々漏れしてるぞ?」私がそう答えると総司は満足そうな笑みを浮かべた。藤堂「全然聞いてねぇよ、こいつ。」――というか何で心の声が総司に聞こえてるの!?
「「「「「「……(馬鹿だ)。」」」」」」
慎吾「はは。…まぁ皆の歓迎会という名の宴会かな?」
永倉「酒!?酒が呑めるのか!?」
藤堂「やりー!!」
沖田「二人とも、煩い…。」
慎吾さんの計らいに歓喜する新八さんと平助くん。そうよね、歓迎会して親睦深めるのって大切だものね。しかも私が提案するより慎吾さんがした方が皆も受け入れやすいでしょうし。一方、総司は顔をしかめて耳を指で押さえながら呟く。至ってマイペースさを崩さないところはさすが総司というべきか。それを見て思わず笑みがこぼれる。
土方「おい慎吾、良いのか?」
慎吾「――ああ、構わないよ。それに皆この時代の酒に興味あるだろう?」
原田「…まぁ、確かに。何か気ぃ遣わせて悪いな。」
常識人である二人は少し申し訳なさそうな表情を浮かべて慎吾さんを気遣う。大人組みのそんな対応に私はひとり嬉しくなった。…でも。歓迎会なんて、そんなに気にすることじゃないのにな――…。って私が言う台詞でもないのだけれど。
『じゃあ、私はお酒の肴を用意しますね。』
《えっとアスパラのベーコン巻きに、出汁巻き卵、それに鯵のレモン〆に――…材料足りるかな…?》私はそんな事を考えながら席を立ちキッチンに向かった――のだが。
斎藤「…手伝う。」
『……え?』
一くんはそう言うやいなや、直ぐさま私の後ろについてくるから私は立ち止まってしばし考え始める。う~ん…。気持ちは嬉しいけどそんなに気を遣われると正直逆に何だか申し訳ない気持ちの方が強くなるんだよね。――かといって一くんの気遣いを無下にする訳にもいかないし…。
『…良いんですか?皆さんと一緒に寛いで頂いていても構いませんよ?』
斎藤「――あぁ。あんたにだけ負担はかけらないからな。…手伝う。」
私の遠まわしの拒否はどうやら一くんには伝わらなかったみたい。一くんはそう言いながら少し形の崩れた首巻きを直した。そんな一くんを見て私は「う~ん。」と唸りながら彼に背を向ける。……………。…ん?ちょっと待って…?まままままさか…!一くんの襷掛け姿を見れるチャンス到来ッ!?しかも隣で…ッ!?
ガバッ!
光の速さで一くんに振り返る変態一名。※ヒロインです。そんな私をきょとんと首を傾げて見てる子犬がいっぴk…ゲフンゲフン!おおお落ち着け私ぃぃィィ…!!おぉぉおお落ち着け私ぃ…ッ!!!すーはーすーは!!
斎藤「???…どうか、したのか?」
妄想爆発パーン\(^o^)/しそうな私に一くんが顔を覗き込みながら問いかけてくる。だめですから!これは色んな意味でアウトですから…!!可愛すぎるぅ!素敵すぎるぅ!死ぬぅ!死んでしまうぅ!!…あ、鼻血…。
ガタタッ…!
『ッ!!い、いや…ッ!?だだ、だだだ大丈夫ですよ…!あははは…!』
美しすぎる一くんを間近で見るのに耐え兼ねた私は、思わず反射的に一くんから飛び退き、その拍子に壁にぶつかってしまう。至近距離はダメッ!絶対!!!私、失神寸前の鼻血が出そうでしたから…ッ!!(ちょっと出たけど!)
斎藤「???何をしてる?」
『い、いやぁ!何デモナイ…デスヨ?あはっははは。さ、さぁさ!台所に行こうじゃありませんか!』
斎藤「????…あ、あぁ。」
自分の奇怪な行動を誤魔化すかの如く手をパンパンと叩いて私は仕切り直す。今の私のキャラがおかしいことは重々承知している。でも誰だってこうなっちゃうものでしょう!?もうどうにでもなってしまえ!私に怖いものなんてないのさ!あはははh…ってごめんなさい。調子に乗りました。…ホント、すいません。
※ヒロイン崩壊中
斎藤「――で、俺は何をすれば良いのだ?」
『…で、では最初に――…。』
あぁ、神よ…!私になんという試練を与えるのだ…!私既に貧血気味なんですけど!あばっばばば…!そして私は心臓が飛び出しそうになりながら、(鼻血が出そうになるのも堪えながら)一くんと二人で料理を始めるのだった―――…。
(あの一くん?レバーの肴作っても良いですか?)
(ればー…?)
(レバーは鶏肉や豚肉などのお肉の肝臓で、葉酸、鉄分が沢山含まれていて造血を助ける働きがあるんですよ。)
(…何故、造血を助ける必要が?…あぁ、あんたは先程の怪我でかなり出血していたな。俺は構わない。)
(ち、違うんだけどな…。)
そして宴会も中盤にさしかかった頃、恒例の“アレ”が始まった―――…。
永倉「慎吾!筆あるか!」
慎吾「筆ペンならあるけど?」
永倉「ああ、それで構わねえ。おまえも左之の腹芸見たいだろ!?」
慎吾「え、腹芸?ははっ。見たいかも。」
永倉「よし、じゃあ左之脱げ!!」
原田「…ったく仕方ねえな~。」
藤堂「よっ!左之さん!待ってました~!」
土方「…おいおい、またかよ…。」
勿論歓迎会はとても盛り上がっている。しかも先程から何度も熱燗やらビールやら色々追加してるものの彼らは止まることなく飲み続けているわけで。《流石にお酒切れそうだし、そろそろ買い出しに行かなきゃな――…。》…そう思い立った私は立ち上がり、お財布とエコバッグを手にして慎吾さんに声をかける。
『慎吾さ~ん!ちょっと買い出しに行ってきますけど何か必要なものあります??』
慎吾「ん~…。特にないから任せるよ。」
慎吾さんは少し間を置き首を捻って考えてからそう言った。《それならビーフジャーキーとか皆が食べたことないおつまみ買って来るのも良いかも知れないな。》そんな事を考えながら私は玄関へ向かう。
『はーい。じゃあ、行ってき…「まさか美月ちゃん、一人で行くつもり?」!?うへ…!?』
玄関に向かおうとする私の腕をにっこり笑顔で掴む総司。《…それにしても彼は話してる最中で遮るのが好きなのだろうか…?》と余計な事が頭をよぎる。
『…あ~…、えっと…?お店まで近いですし、そのつもり…ですけど…。』
私が素直に答えると総司は溜息を吐き、でも顔は笑顔のままで口を開いた。あれ…?何かちょっと総司が怖いのは気のせいですか?気のせいですね。気のせいだと…信じたい。
沖田「はぁ…。あのね、いくら平和になったからって女の人がこんな遅くに一人で出歩くのは危ないでしょ?」
額に手を当てながらそう呆れた声色で言ってくる総司に違和感を感じる。《…ん?怒ってる…だけじゃない?もしかして心配してくれてるの――…?》そんな考えに至った私はつい顔がにやけてしまった。
沖田「何にやけてるの。…それに大体、君は手に怪我していて荷物をどうやって運ぶつもり?」
私のふわふわした高揚感をぴしりと窘め、総司は壁に寄り掛かり私を見下ろすように腕を組んでそう尋ねてきた。しかも背が高いせいか、圧迫感がすごいんですけど…。
『えっと…あはは。…き、気合い?』
「「「「「「………(馬鹿だ。)」」」」」」
沖田「…はぁ。もういい。僕がついてくよ。」
私の答えを聞くとそう言って大きな溜息を吐き出しながら玄関に向かう総司。《えぇ?何か私おかしなこと言ったの?こういうの慣れてるから平気なのに…。確かに手は負傷してるけれど、エコバックなら肩にかければ良いし問題ないのになぁ…。》なんて考えながら慌てて総司に声をかける。
『ちょ、総司くん…!?大丈夫ですよ…!?』
そう訴えてもそ知らぬ顔で「ほら、早く行くよ。」と言って総司は勝手に外へ出てしまう。もしかしてーー…ただ単に外に行きたいだけなんじゃ…なんて思ってしまう。《…はぁ、もう仕方ないなぁ。》と、そんな事を考えながらエコバッグと財布を用意する私。
斎藤「俺も同行する。…案ずるな。総司は、あんたに怪我をさせた手前、責任を感じているだけだ。…行くぞ。」
そう言い、一くんも玄関へ向かう。《…なるほど。一理ある。…って、はい?何で一くんまで…??》私は意味が判らず一瞬ぽかーんと口が開いてしまった。
『えぇッ!?あ、ちょっと一くん!?…ん~ッもう!じ、じゃあ兎に角行ってきますね!!』
私の言葉など関係ないと言わんばかりの二人の行動の意図が読めず、私は取り敢えず小走りで二人の後を追う。…あ。もしかして二人とも酔ってる…とか?
「「「「「…行ってらっしゃい。」」」」」
訳が分からないと怒りながらも二人の後をパタパタと追いかける美月。そんな美月の後姿を愛おしそうに見つめる慎吾。いつもの彼奴らじゃない…と不思議な心境になりながら見送る居残り新選組四人。
バタン…ッ!
この時の美月を始めとする皆は、この先どんな試練が待ち受けているかなど知る由もなかった―――…。
(…ぷっ。総司くんってツンデレなんだね。)
((((…つん…でれ?)))))
(素直になれなくて怒り口調になる人のこと…かな?)
(だははっ!確かに違いねえ!)
(ぎゃはは!総司素直じゃねぇもんな!)
((………。))
(…なぁ土方さん、ありゃ…)
(…いや、総司の気まぐれ…だろ。)
(………。…だよな。)
自宅を出た私達はスーパーまでの道をゆっくり歩いていた。そして総司と一くんはと言えば――…周りを多少警戒しつつ、無言で私の後をついてきている。こんなの当たり前の事かも知れないけれど、私はそれが嬉しくてくすりと笑ってしまう。
沖田「この時代はこんな夜遅くにも買い物出来るんだね。」
『…そう、ですね。結構24時間営業の店舗も多いですし。』
沖・斎「「…24じかん?」」
そう呟き二人は揃って首を傾げた。《あぁぁぁ…!ふ、二人揃って首傾げるとか…!それは反則だ…!可愛すぎる…!私死ぬ!私萌え死にするぅ…ッ!はぐぁぁぁ…!!》…なんて一切口には出せない心の声を私は間違っても脳内から外に出ないように鍵をかけた。
『…あ。えっと…、一日中好きな時にお買い物出来るっていう意味です。』
私はそんな心の叫びを抑えて説明をする。《きっと上手く誤魔化せてる…はず。さすが私、さすが大人…!》と日頃アニヲタを隠しての社会生活を送ってきたことは今更ながらやってて良かったと身に染みて思う。
沖田「へぇ~?随分、便利になったんだね。」
そう言って目を細めながら夜空を見上げる総司。まるで他人事のようにそう言っていた――…のに。
沖田「…夜空は大して変わらないのにね。」
そうぽつりと呟いて総司が立ち止まり空を見上げるものだから、つられて私も足を止めてちらりと総司を見遣ると彼の横顔があまりにも寂しそうで――…。私はつい反射的に総司の服を掴んでしまった。
『絶対、帰れますから――…ッ!』
総司の表情がそうさせるのか、何故だか私の方が泣けてきてしまって私は必死に涙を堪える。泣きたいのは総司の方だと判っているのに関係無い私が泣きそうになるなんて…涙腺が緩い自分が今とても憎らしい。…だけど。総司はそんな私を見ると少し驚いた表情を浮かべてから目を細めて笑った。
沖田「そう、だよね…。…うん。僕もそう信じてる。」
総司は私の言葉に頷き、笑顔を見せてくれた。そしてまた夜空を見上げる。…だけど、その笑顔もまた寂しそうで胸が苦しくなった。
『…総司くn「ッ!? なんだあれは!?」…へ?』
突然の大声に驚いて声のする方へ視線を移すと、どうやら一くんは一くんで車に驚いたらしく少し離れた場所で道路を指差しながら訴えている。…あの一くんが大声を出すなんてーー…珍しいこともあるものだ。
『あぁ、えっとですね…。あれは馬より速くて、雨風も凌げる籠…みたいな乗り物です。』
呆然と車道を見ながら私の説明に相槌をうつ一くんがあまりにも可愛いらしくて、つい頬は自然と緩み私は小さく笑ってしまう。――それにしても幕末時代の人でも判るように言葉を選んで説明するのって中々難しい。
沖田「…へ~。危なくないの?」
『う~ん…。怪我したり、時には亡くなる方も居ますから危険が無いといえば嘘になるかも知れませんね。…でも乗るにはそれなりの知識や技術を有していなければならないので、必ずしも危険というわけではないですよ?』
沖田「…ふ~ん。」
斎藤「…なるほど、な。」
少し釈然としないような表情を浮かべつつも二人は一応納得してくれる。その事に安堵しながら歩いていると気付けばスーパーへ到着していた。
『――此処ですよ。』
ウィーン
沖・斎「「!!!」」
突然開いた自動ドアに驚き瞬時に身構える二人。それも二人揃ってその状態でフリーズしている姿なんて中々見られるものではないだろうから私はまたしても頬が緩む。
斎藤「美月!勝手に扉が開いたぞ…!?」
『ふふっ。それは【自動ドア】といってその扉の前に人が来ると反応して扉が開く絡繰りなんですよ?』
目が乾かないのか心配になるくらい瞬きもせずに目を見開きながら尋ねて来る一くん。真新しいものを見た時の反応って大人でも子供のようになってしまうものだけど、それが一くんなら尚更可愛く見えてしまう。
斎藤「…み、未来はすごいのだな。」
そう言って身構えていた姿勢を正しつつも呆然とする一くんが絞り出すように呟く。そんな表情も可愛すぎ…!もはやこの可愛さは犯罪級。…罪作りめ!
沖田「ねぇ、美月ちゃん。あの動く階段みたいなの何?」
『…あれは【エスカレーター】といって、あれに乗ることで階段を使わずに上の階に行ける絡繰りですよ。下の階に行く時にも使います。』
沖田「へぇ~…。」
私がそう説明するとニヤリと怪しげな笑みを浮かべる総司。その顔を見てぞわりと一瞬鳥肌が立った。…あ、れ…?ちょっとなんか嫌な予感がするんですけど気のせい、よね――…?まさか走り出したりしませんよね?
「あれは何だ…!?」
「ねぇ、これは何?」
私の心配は杞憂に終わり、それから私が暫く二人に質問攻めにされたのは言うまでもない。…さて、一体いつになったら私は買い物が出来るのでしょうか…?《でも、まぁ二人とも楽しそうだから良いか。》…なんて思ってしまう私はやっぱり甘いのかも知れない。
****************************************
そしてあれから大分時間を掛けて買い物を終えた私達が帰宅したのは十二時を回ってからだった。…うん、ついてきてもらって良かったかも?いや、でも一人ならもっと早く帰れt…ゲフンゲフン!
『ただいま~!!…って皆さん寝てるし…。』
そう呟きながら視線を移すと平助くん、新八さん、左之さんは既に夢の中。…時間かかりすぎちゃったし、当たり前か。そんな三人の姿に自然と頬が緩む。
慎吾「三人とも、おかえり。」
土方「総司、斎藤、ご苦労だった。」
そう言って出迎えてくれた二人だけはどうやら起きていたようだ。お酒好きの三人が慣れないお酒で酔い潰れるのはある意味納得出来るけれど、この組み合わせが何とも不思議。二人で何話していたのか後で慎吾さんに聞こう、そうしよう。
沖田「…あれ?珍しいですね、下戸の土方さんが起きてるなんて。」
土方「ったく、うるせぇよ。慎吾が…俺まで呑みすぎねぇように気利かせてくれたんだよ。それに俺は下戸じゃねえ。」
すかさず土方さんに嫌味を言う総司に反論する土方さん。《…あはは、帰ってきた早々に喧嘩ですか。ホントこの二人は仲が良いんだか悪いんだか判らない。》ゲームの時は微笑ましかった光景だけど、実際目の前で繰り返しされると…ね。
沖田「やだな~、土方さん。下戸じゃないなら、わざわざお酒を避ける必要ないじゃないですか。」
土方「うるせぇっ。」
沖田「鬼の副長ともあろう方が酒に弱『じ、じゃあ…そろそろお開きにしますか!私達は皆さんの布団用意するんで寛いでいて下さい。』…あ、美月ちゃん。」
いい加減二人を取り巻く空気にいたたまれなくなった私は二人の口論の間に横槍を入れながら強引に慎吾さんを連れてリビングを出ていった。《…というか総司って土方さんにはホント素直になれないよね。戯れるのを見てるのは楽しいけど毎回止める一くん達は本当に大変だわ。》なんて思っていると、つい口角が吊り上がってしまう。
慎吾「…ん?どうかした?」
『ううん。何でもありません♪』
慎吾「????」
そして私達は皆の布団を用意するため、急いで和室に向かうのだった―――…。
(…美月ちゃんて――…。)
((…………?))
(…何でもない。)
(――総司。)
(…やだな~。何でもありませんって。)
((…………。))
藤堂「だ~か~ら~新八っつぁん!いい加減起きろってば!」
中々起きない新八さんを必死に揺すって起こそうとする平助くん。新八さんって寝坊とかしないようなイメージだったんだけど、実は寝起き悪いだなんて――…。新たな発見しちゃったかも。
永倉「う~ん…。俺は…まだ食え…る…モゴモゴ…Zzzz」
思い切り揺すられてもなお、いまだ夢の中の新八さん。《どれだけ寝起き悪いの?というか、夢の中でも何か食べているのですね…。》とつい平助くんを同情しつつ笑みが零れてしまう。
原田「夢ん中でも食ってるのかよ。ったく、しょうがねぇ奴だな…。っおい、起きろ新八ッ…!」
ベシッ!
呆れつつも新八さんの背中を叩き、平助くんと一緒に起こそうとする左之さん。《うっ…!あれは流石に痛そう…。…というか、それでも起きないって…どれだけ寝起き悪いんですか…。》さすがに私も苦笑してしまう。
沖田「ははっ。こんな状況でも熟睡出来るなんて空気の読めないところは新八さんらしいけどね。」
当然と言うべきか前出の二人とは違い、起こすのを手伝う事なく明らかに傍観者を決め込んでる総司。…まぁ、総司らしいって言えばそうなのだけど。でも総司は別の部屋で寝ていたはずなのに様子を見に来ているのが少し可愛いというか、うん。やっぱり可愛いです。あれ、これ何の感想?
土方「総司ッ!感心してないで、お前も手伝いやがれッ!」
髪を結いながら部屋に現れた土方さんがそんな総司を見兼ねて叱り付ける。《…というか土方さんが起こせば一発なのでは?》なんて今の私には言えません。なんだってそれはですね…モゴモゴ。
沖田「はぁ。…土方さんは真面目だなぁ。新八さんのことだし、お腹空けば黙っていても起きると思いますけど?大体そういう面倒臭いこと、何で僕がしなくちゃならならないんですか。」
土方「!!! なんだとッ!?もう一遍言ってみろ…ッ!」
焼石に水とはまさにこのこと。悪びれることなく、そう言ってのける総司の態度に土方さんが声を荒げる。総司は土方さんが怒るツボを熟知しているから質が悪いと思うのよね…。いや、土方さんじゃなくても短気な人に対してあんな風に反応されたら怒る可能性は高いだろうけれど。
斎藤「…副長、落ち着いて下さい。それでは総司の思う壷です。」
そんな土方さんを冷静かつ的確な一言で宥める一くん。さすがです。…だけど、その言葉を聞いた土方さんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて顔を背けたと思ったらーー…
土方「~っ。…チッ!」
ヒィ!!!今この人、舌打ちしたよ…ッ!?怖ッ…!物凄く怖ッッッ!!でもそんな悪態つく土方さんも素てk…ゲフンゲフン!!
平・原「「おいっ!起きろ(ってば~)!!」」
え~…皆さん、おはようございます。私は今どうやら幸せな夢を見ている模様です(真顔)※否、これは現実です。薄桜鬼ファンならば誰もが泣いて喜ぶ展開、The逆トリップ!!!もちろん私も例外なく感動しています。萌えていますッ。たぎっていますッ。だからこそ現実かどうかを確認するために寝起きの皆さんを覗いt…ゴホン!!ではなく観察している真っ最中ですが何か。(ドヤ顔)
『(ふぉぉぉ!!生新選組~!!)』
「…というか覗き見してないで部屋に入れば?」
『!!!!!』
私が生新選組を堪能していると突如うしろから溜息と共に声がかかり、ぐぎぎと木製の重い扉を開くような動きをしながら驚いて振り返ると――…。そこには呆れ顔の旦那様が居ましたorz
『え~っと…?あ~え~…あは、あはは…。今日は早起きなんですね~?おはようございま~す…。』
慎吾「そりゃあ…早朝から興奮してる嫁さんと大騒ぎしてる居候がいれば目が覚めるよ。」
顔を引き攣らせ目を泳がせながら挨拶をする私に苦笑いで答える慎吾さん。嫌味に聞こえないところが逆に罪悪感でいっぱいになるのですが…!Give me 嫌味!!とはいえ、まぁ…正論ですけどね!( ゜Д゜)ァハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
私が今困っていること――…。それは皆さんの部屋に入る勇気が出ないのです。ヘタレな私はどうしたら…ッ!!誰か教えて下さい…!切実に…ッ!!
ガチャ
慎吾「皆おはよう。」
『(え?あ、ちょっ…!)』
中々部屋に入ることの出来ない私を尻目に慎吾さんは爽やかな笑顔で部屋に入っていく…な、なんとッ!!
簡単に入りやがりましたよ、この人…!?いつもは内心憧れている大人の余裕が今は少し憎らしい。…いや、かなり憎らしい。
藤堂「お!慎吾、おはよう!…ってあれ?美月は??」
元気よく挨拶を返しながらも不思議そうに首を傾げ、きょろきょろと周りを見渡す平助くん。これは…もしかしなくても私を探して…??《やだ、可愛すぎ…ッ!!》と、そんな平助くんを覗き見しながら部屋の外で一人悶える変態一名。
土方「…で、お前はそこで何してんだ?」
『!!!!!』※本日2回目
観察に夢中になっていた私の頭上から、突然低音イケメンボイスが降ってきたのと同時にサァーッと血の気が引く音が聞こえた。…心臓がバクバクと激しく鼓動を刻んで、身体はその脈動に合わせて揺れる。私は恐怖で逃げ出したい気持ちを何とか押さえ込み、グギギギ…と古い木戸の如くゆっくり顔を上げれば。…案の定そこには私を見下ろしながら眉間に皺を寄せた鬼の副長が――…居た。
『ヒャッ!ひ、土方さんッ。オ、オハヨウゴザイマ~ス…。』
視線は合わせられないわ、声は上擦るわ、吃るわで不審者極まりない私だけど、無理矢理取り繕った笑顔を浮かべて土方さんに挨拶をする。そんな誤魔化しが通用する相手ではないことは百も承知だけれども。
土方「“ヒャッ”じゃねぇ。…ったく、なんて声出してんだよ。…で?何してたんだ?」
さっきまで呆れた顔を浮かべていた土方さんは、そう言って私を見遣る視線を鋭く細める。所謂じと目というやつだ。ひぃ~!怖い~!睨みつけないで下さい~ッ!
『あ~っと…?』
①事実を言う
②ごまかす
③逃げる…どうする私!!!
沖田「…そんな睨みつけなくてもいいじゃないですか。彼女、怯えてますよ?」
そう言いながら私を見て笑っている総司。嗚呼ッ!神よ…ッ!例え私を小馬鹿にしたような笑いを浮かべている総司でも、助けてくれるなんて紳士すぎる…!(ということにしよう。)私はこのチャンスを待っていたと言わんばかりに、すかさず総司の背に逃げ隠れた。
土方「ちッ。総司は黙ってろ。…おい美月、どうなんだ?」
…だけど。土方さんはそんなのお構いなしに私の顔を覗き込んでくる。…あぁ、なるほど。私が貴方に怯えて総司の後ろに隠れているのは関係ないんですね、わかります。《そりゃそうですよね。土方さんが言い淀むとすれば近藤さんくらいなものだろうし、総司の嫌味は誰よりも一番分かっているだろうもの。》そう納得すると私は恐る恐る土方さんを見上げて口を開いた。
『えと…。う…麗しい皆さんの姿を観察してました…?あ、言っちゃった。あはは…。』
「「「「「……………。」」」」」
そんな私の言い分を聞いて言葉を失う一同。《そこは笑って流すのが世渡り上手というか、常識の作法ですよ~!》と心中で叫んでみても誰かに届くわけもなく。
慎吾「…ほら、美月。皆を呼びに来たんでしょ?」
意味も無く空笑いしながら顔を引き攣らせている私の窮地を救うべく、そう声がかかった。そう、それは微妙な空気が漂う朝の一室でまさに鶴の一声…!ようやく本来の目的を思い出した私は手の平を拳でポンッと叩く。
『あっ!そ、そうです!皆さん朝餉の準備が出来ましたので顔洗ったら居間に来て下さい…!』
そう私が口にすると平助くんの目がきらきらと輝いた。《…わ、本当に無邪気というかワンコみたい。》と平助くんの可愛さに思わず頬が緩む。
藤堂「よっしゃー!俺腹減ってたとこだったんだよ!」
原田「まぁ確かに、な。」
永倉「Zzzz…」
全身で喜びを笑わす平助くんに同調する左之さん。どうやら二人は既に新八さんを起こす事を諦めたらしい。可哀想に…と思いながらもまた起きた時に温め直せば良いかと思い直す。
沖田「…で、この人どうします?」
土方「放っておけ!」
斎藤「副長、お言葉ですが我々は居候の身。早起きをし、手伝いはしても寝坊は失礼かと…。」
土方「…そう言われてもなぁ…。」
三者三様な反応を見せてくれる中、一くんの進言に困惑する土方さん。そこまで気にすることじゃ無いのにな…。一くんはやっぱり真面目な人だ。
『あ、大丈夫ですよ!気持ち良さそうに寝てる新…いえ、永倉さんを起こすのも可哀相ですし、まずは起きてる方からご飯にしましょう?』
私の言葉にうんうんと頷く慎吾さん。つい、いつもの癖で新八さんと呼んでしまいそうになったけれど、もしかすると目上の人かも知れないし何となく苗字呼びに言い換えた。非常に慣れない呼び方すぎるからいつか気付いた時には新八さん呼びになってるだろうことは想像に難しくないけれどね。
「「「「「…………。」」」」」
沖田「美月ちゃんは優しいね。…誰かさんと違って。」
土方「…おい総司。それどういう意味だ?」
沖田「やだな~。僕は別に土方さんの事なんて言ってませんけど?…ちょっと自意識過剰なんじゃないですか。」
土方「てめぇッ…!」
沖田「大体土方さんは―――…。」
土方「――っ!」
総司は笑顔で嫌味を言いながら横目で土方さんを見遣る。そして言い争いリターン。飽きもせず喧嘩を続ける二人。周りのみんなは呆れた顔を浮かべているものの、リアルで二人の口喧嘩見れてる私にとっては非常に幸せこの上ないものでして。どうしよう萌えてしまう…。
原田「…はぁ。朝から騒がしくて悪いな。」
萌えてるなんて思いもしないだろう左之さんは、私の頭に手を乗せながら謝罪してくる。もしかして萌えているのを必死に隠してた私の態度が困ってるように見えた…とか?
『い、いえ。大丈夫です。…むしろ幸せです。』
原田「は?…幸せ…?」
『…あ。いえ、こちらの話です。』
原田「???」
藤堂「あんなの放っておいて早く飯にしようぜ!」
私の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げる左之さん。そしてその反対側から平助くんが笑顔で私の肩をバシッと軽く叩いた。
斎藤「…案ずるな。いつもの事だ。」
『ふふっ、ありがとうございます。…じゃあ、皆さんだけでも顔を洗ってきてください。場所は昨日のお風呂場と同じです。』
私は三人の優しさが嬉しくて思わず顔が緩んでしまう。何だかんだ言っても皆は元来優しい性分なのだ。それを見に染みて感じることができる日が来たことが堪らなく嬉しく思う。
藤堂「///わ、わかった!左之さん、一くん行こう!」
原田「///あぁ…。」
斎藤「///…承知した。」
『???』
何故か頬を朱くしながら洗面所に向かう三人を疑問に思いながら、私は隣に居る慎吾さんに振り返った。
『慎吾さん、悪いんですが念のため皆さんの使い方を見ててくれますか?』
慎吾「はいは~い。」
そう言って苦笑しながらこちらに手を振り、三人の後を追う慎吾さんなのだった―――…。
****************************************
さて、と。残った私はこの二人をどうにかせねば…ね。そう思いながら相変わらず口喧嘩を続けている室内の二人に向き直る。…というか、こんなに騒がしくしているのに新八さんってすごい…。ここまで寝起き悪いと有事の際に大変なんじゃと要らぬ心配が過ぎった。
沖田「あっ…。ちょっと土方さんのせいで皆いなくなったじゃないですか。」
土方「何言ってやがるっ!お前が原因だろが!!」
『ははは…。(まだ喧嘩してるよ。)』
《この二人放っておくと一日中ずっと喧嘩し続けるんじゃ…。》と要らぬ心配までしてしまう。そして私は息をひとつ吐き出した。
グイッ
土・沖「「――ッ!!」」
私は二人の間に入り、彼らの腕を両脇に挟んで強引に歩き出す。当然二人とも私より背が高くて力も強いのだけれど隙をついたこともあってか、あっさり私に引き摺られる形になる。
『さあ、二人も顔洗いに行きますよ!』
沖田「…うん。」
土方「あ、あぁ…。」
『………??』
おや?抵抗するか引き摺っても口喧嘩を続けるかと思いきや予想外に大人しくついてくる二人に私は拍子抜けしてしまう。左には総司。右には土方さん。二人とも鍛えてるだけあって男性らしく逞しい腕に自然とにやけてしまうのは致し方ない。すると先程までの険悪な雰囲気は何処吹く風な楽しそうな声色で笑顔で総司が私の顔を覗き込んできた。
沖田「…ねぇ、美月ちゃん。何か嬉しそうだね?」
『はいッ。嬉しいですよ?だって夢にまでみた二人と此処にこうやって居られる事が本当に嬉しいんですもの!』
土・沖「「――ッ////////」」
私は少し照れながらも満面の笑顔で素直に答えた。私の言葉に二人が予想外の反応をしていたことなど気付きもせず、私は先に洗面所へ行ってる皆を追いかけるべく足早に二人を引っ張るのであったーーー…。
こんな朝が日常なんです
色々な不安や心配がある中で
君のその笑顔に救われたんだ―――…。
(この子、天然…?)
(…だろうな。)
(ふっふ~ん♪)
((コイツ全く聞いてない…))
(♪~)
((………。))
本日は土曜日。天気は快晴。週休二日制の私の休日は暦通りなのでタイミングの良い事に仕事は休み。…であればと朝食を済ませた皆に私は考えていた事を切り出すことにした。
『…ということで、皆さんお買い物に行きましょうか。』
藤堂「買い物?」
『――うん。皆がこの世界で生活するのに必要な衣類や雑貨が無いと困るでしょう?』
皆は着の身着のままの状態でこの世界にトリップしたわけだから当然何も持ち合わせていない。格好は巡察時と同じで着物の上に羽織を着ているだけ。まぁ色々揃えたところでいつまで皆がこの世界に居られるかは検討もつかないけど、ね…。
永倉「…確かにそうだな。」
頭を掻きながらそう答える新八さん。着慣れない洋服はきっと窮屈だったり違和感あるだろうけれど、このままではちょっと外に出るにも目立ちすぎてしまい好奇の目に晒されてしまう。とてもじゃないけれどそんなのは居た堪れない。要は郷に入っては郷に従え、というやつだ。
慎吾「俺は今日も仕事だから一緒に行けないけど…。美月すぐ迷子になるから気をつけてね?」
『ちょ!何言ってるんですか!?』
食後のコーヒーを飲みながら出勤の準備をする慎吾さんが余計な一言を投げ掛けてくる。それに焦った私は席を立って慎吾さんに反論した。
「「「「「「………。」」」」」」
『ほら!皆さん無言になっちゃったじゃないですか…ッ!!』
辺りを見渡すと皆は無言で顔を引き攣らせている。…そりゃそうだ。異世界に迷い込んでしまった皆に土地勘はない。ということは当然頼りになるのは私だけ。その私が方向音痴なんて知ると不安になるのは当たり前だ。それが判るからこそ私は更に慌てて前言撤回を訴えたのだが「じゃあ行ってきます。」と慎吾さんはいつも通りに家を出て行ってしまった。≪あぁ…ッ!!華麗にスルーですか…!この状況で一人にして行くとは…隠れSめ…ッ!≫と心の中で慎吾さんへの不満を叫ぶ。うぅっ…。ちょっと泣きたい。
藤堂『――えっと、取り敢えず美月の傍にいれば問題ないんだよな…!?』
『…迷子になんかならないもん…。』
原田「まぁ、お前がいなきゃ何も判らない俺らがお前から離れることなんか有り得ないしな。」
『…迷子になんかならないです…。』
永倉「――あ。でも、もしも万が一の事が起きたらどうするんだ?」
『迷子になんかならないですってば…ッ!!』
フォローをしているつもりの三人の言葉が余計心に突き刺さる。私はわなわなと身体を震わせながら渾身の眼力で平助くん達を睨みつけてやった。
「「「「「「…はいはい。」」」」」」
…なのに皆は哀れむように返事をするから完全に私のガラスの心は砕け散ってしまう。誰かひとりくらいは味方になってくれても良いと思うんだけどな…!
『…うぅ…。』
なんか無性に悔しいんですけど…。私の行き処のない思いはどうすれば良いんだ…ッ。…それでもお買い物は行きますけどね?それにもしもの時は皆も道連れだわ!と私は良い意味でも悪い意味でも開き直るのであった―――…。
(…なんつーかさ…)
(…美月ってお子様だよなぁ。)
(――なっ!?大人です…!)
(僕はそういうの嫌いじゃないよ?)
(う る さ い ッ)
(…美月、とりあえず落ち着け。)
(は、一くんまで…ッ!うぅっ)
(………。…泣くな。)
――ポンポン。
(!?!?…えへへ。)
((((((……やれやれ。))))))
正直お買い物なんて、ある意味どこでも良いと思うんです。なのに何で私は…お台場なんて来ちゃったの~!?※近いからです。あれから、私達は皆の洋服雑貨を買うべくお台場にやって来た。ちなみに新選組の初電車は見てるこっちが緊張する程で、例えていうなら“初めて電車に乗る男の子”という感じ。だからこそ世のお母さん方は偉いなと改めて思った。駅の改札を抜けショッピングモールを目の当たりにした皆は驚きの声をあげ、きょろきょろと辺りを見渡す。そんな皆の反応をくすりと笑いながらモールの中へと入っていく。
『まず何から買おうかな…。』
洋服?歯ブラシ?パジャマ?下着??って私が選ぶの、よね?しかも全員分。≪あぁッ!慎吾さんにそれだけでもお願いするべきだった…ッ!下着を私が全員分選ぶとか色々恥ずかしい!!≫と今更ながら後悔してしまう。
原田「…おい、美月大丈夫か?」
沖田「ぷっ。美月ちゃん百面相になってる。」
そんな私の心境を察してか左之さんが気遣ってくれた。もちろん総司は私の反応を楽しむだけ。…うん、判っていたけどね。
『左之さん、ありがとうございます。何から買おうかちょっと考えていただけですから。…で、総司くんは煩いです。』
私はそう言ってからかってくる総司を少し睨みつけてやった。現実は甘くないというか、いくら好きなキャラでも実際に対応すると案外普通に接することが出来るものなのね。大好きなのにイラっとするなんて人間てホント不思議な生き物だわ。
沖田「あはは。それ、睨んでるつもり?全然怖くないんだけど。」
『―――ッ!』
斎藤「…総司、いい加減にしろ。」
は、一くん…ッ!私をからかう総司を嗜める一くんの優しさに私は思わずキュンとしてしまう。ゲームでもアニメでも三次元でも斎藤一という人物は変わらず素敵だ。素敵すぎてにやける、ヤバい。
土方「ったく。総司は放っとけ。…で、何から買うんだ?」
土方さんにそう尋ねられて『う~ん、そうですねぇ…。』と考えの纏まっていない私は唸り、皆を見遣る。明らかに周りから浮いてるその姿を見て私は決めた。
『じゃあ、まずは皆さんが着替える為にも洋服買いましょうか。』
取り敢えずその着物姿を現代風に変えるのが先決かな、と判断して私達はメンズファッションフロアに移動する。勿論その間も私は昨晩の総司や一くんと同じように皆から質問責めに合いつつ、まずは靴屋さんへ向かった。買うのは洋服からでも良いのだけれど、洋服に足袋とか草履とか合わないから絶対におかしなことになるよね。…まぁ、着物に靴も合わないとは思うのだけど洋服買うまで履かなければ良いだけだし、先に靴を買っておけば洋服を買ってすぐに靴も合わせられる。だから結局敢えて先に靴を選ぶ事にした。《この後買う予定の洋服のイメージに合う靴があると良いな。》そう思いながら靴屋さんの店内を物色しているとイメージ通りの靴がいくつも見付かった。
『すみませーん!』
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
突然私が大きな声で店員さんを呼んだことに皆は驚く。…だってちょっと離れたところに居る店員さんと目が合ってしまったんだもの。連れてくるより来てもらった方が早いし、何より楽だし。
店員「――はい、お客様。何かご所望でしょうか??」
『えっとコレと、コレとコレのサイズって他にもありますか?それと―――…。』
こちらに来てくれた店員さんに在庫の確認をしてもらいつつ全員の靴のサイズも確認してもらい、それを踏まえた上で次々と靴を選んでいった。1人2足ずつ、計12足…って多すぎッ!この後も色々と買う物がある事を考えるとさすがに持ち帰ることは厳しいかな。
『…あのお手数ですが半分は郵送でお願い出来ますか?』
「畏まりました。」
そうして靴屋さんで会計を済ませ、配達の伝票を書き終えた私達は次に洋服を選びにショップへ向かう。※靴はそれぞれ一足ずつ自分で持ってもらっている。お店に着くと皆の洋服を大体決めていた私は皆と洋服を合わせながらテキパキと選んでいく。
『――左之さんはコレです。』
そう言って私はシンプルなVネックの黒カットソーに、ベージュのカーゴパンツを左之さんに手渡す。
原田「判った。」
『――総司くんはコレです。』
総司には白メインで、グレーと黒の3色を使ったフェイクトリプルドレープカットソーに、カーキのカーゴパンツを渡す。
沖田「はいは~い。」
『――新八さんはコレです。』
そう言って新八さんにはオフホワイトとブラウンのボーダーになってるシャギーモヘアのカットソーにデニムを渡す。
永倉「くぅ~ッ!女の子に自分の服を選んでもらえるなんて、幸『判りましたから、先に着替えてくれません?』…はい。」
私は喜んでもらえているところに遠慮なく突っ込みを入れて着替えを促した。…悪いとは思うけれど…何て言っても買うものは全て6人分。故に時間短縮出来るところはどんどん短縮しないとね。
『――土方さんはコレです。』
次にインナーを白シャツにしてカーキのシワ加工ミニタリーシャツジャケットとデニムを土方さんに渡す。
土方「あぁ。わかってる。」
『一くんは、コレです。』
私は一くん君にグレーのラビット襟フェイククレリックシャツ(襟は白)に黒の針抜きカットソーを合わせて、チャコールグレーのスキニーパンツを渡す。
斎藤「…承知した。」
『――最後に平助くんはコレね。』
チェックのハイネックブルゾンのパーカーにクロップドパンツ(ハーパン)を平助くんに渡す。…これで最後だ。
藤堂「やっと俺の番か!じゃ、着替えてくるな!!」
そう言って嬉しそうに洋服を持って試着室に入っていく平助くん。…何度も言いますが多過ぎです!他の皆は既に試着室に入っている。…それにしてもこのお店沢山試着室あって本当に良かった。そんな事を考えつつ私は一息つく。念のため私は男性店員さんに皆の着替えを見てくれるように頼んだ後、ベルトと靴下を物色して皆に渡した。そしてそれぞれの試着室の前に先程購入した靴を置いておく。一体どんな感じになるんだろうと期待と不安で私は緊張してしまう。…それからしばらく待っていると着替えを終えた皆が揃って出てきた。
『……………。』
「「「「「「……………。」」」」」」
店員「――皆さんとても素敵ですよッ…!?」
な、なんていうこと…。こんな、こんな…ッ!!私は予想を遥かに超えた皆の美麗っぷりに言葉を失ってしまう。
藤堂「み、美月…?って、おわッ!?」
そしてこれは現実なのだと我に返った私は不安そうに覗いてくる平助くんに我慢出来ず思い切り飛び付いてしまった。
『可愛い…!素敵!どうしよう!?』
藤堂「み、美月…苦しい…ッ!!」
土方「…はぁ。美月、とりあえず平助を離せ。」
私は興奮の勢いで強く抱き締めていると土方さんに首根っこを掴まれ猫の様に引っぺがされ、私は土方さんの目の前に下ろされた。はぅ!何という美形ッ!!と本能的に土方さんに抱き着こうと身体が動く。
ガッ…!
土方「や め ろ 。」
『…ぁぃ…。』
抱きつく前に本人に頭を押さえ付けられました。ガード固いなぁ!…あはは、残念☆
沖田「――美月ちゃん、そんなに抱き着きたいならこっちへおいで。」
少しだけしょげてると背後から声がかかる。振り向くと私に総司が手招きをしている…だと?≪ あなた様はは神ですか…!?≫と、一気に元気になった私は思い切り総司の腕に飛び込んだ。
『!!!総司くん!』
ギュッ
勢いよく抱きついた私を総司は力強く抱きしめてくれる。はぅぅぅ。何か良い匂いするし温かい…。≪…これ本当に夢じゃない、三次元の現実なんだ…。≫と嬉しさが込み上げて頬が緩んでしまう。
原田「…総司、もう離せ。――美月、こっちこい。」
そう言って左之さんが私の腕を引く。
『!!!!』
ギュッ
総司から奪い取るように私は腕を引かれ気付けば左之さんの腕の中にいた。総司とはまた違う逞しい胸に心臓が飛び出しそうに跳ねる。何という天国…。何この素敵展開…!幸せすぎて禿げそう…!!
永倉「――左之、もういいだろ?美月ちゃん、俺にも抱き着いて良『だが断る。』…ですよね。」
流れに乗るように腕を広げて私を待ち構える新八さんを拒否すると、予想以上に凹まれてしまった。そんな新八さんが可愛く思える。
『…スキありッ!!』
永倉「――おわっ!?」
ギュッ
不意をついて抱き着いてきた私に驚きつつも受け止めてくれる新八さん。新八さんて何だかお兄ちゃんみたい―――…。
店員「あ、あの~…お客様?商品は如何致します…?」
『!!!』
忘 れ て た ッ !!
店員さんの困り果てた声に私は本来の目的を思い出す。興奮しすぎてすっかりお買い物の事を忘れてしまっていたわ…!なんたる失態。そして店員さんゴメンナサイ。
『――も、勿論全て購入します!』
私は新八さんから離れ、店員さんに慌てて購入意思を伝える。これだけ似合っているのを買わずして何を買うというのだ。それにさっき購入した靴もそれぞれ洋服に合ってるみたいだし良かった…!
店員「ありがとうございま~す!」
斎藤「………。」
『???』
意味深の一くんを余所に私は次に行くお店を考える。さて、次はどこに行こうかな?
(――何故俺だけ…。)
(ん?一くんどうかしました?)
(…………。)
(洋服、気に入りませんでしたか?)
(――いや、そんなことはない。ただ…)
(…ただ?)
(――なんでもない。)
(??そうですか…?)
(――ああ。)
(…あ、そうだ一くん?)
(――なんだ。)
(とっても似合っています。素敵ですよ!)
(!!!!!)
『――皆さんに質問があります。』
ショッピングモールから出て次のお店に向かう前に私は大切なことを皆に確認しなければならない。
「「「「「「????」」」」」」
『この中で髪を切りたくない人が居たら挙手願います。』
「「「「「「……………。」」」」」」
私は皆を見渡し反応を確認する。よし、全員反応なし。故に問題なしッ!皆の意思を確認した私は携帯を取り出す。かける相手は次行くお店だ。
ピッピッピッ…
プルルルッ
プルッ…ガチャ
「――はい、ヘアメイクEleganceBeautyです。」
『恐れ入ります、矢城ですけれども…。』
「――あっ、美月ちゃん?どうしたの?予約??」
『…はい。あの急で申し訳ないのですが今から男性6人のカットをお願い出来ませんか?』
「――は!?6人ですって!?…それは流石にちょっと――…。」
『…ですよね…。全員超イケメンなんですけど…。…残念です。じゃあ、また連ら――』
「ちょっと待ちなさい!!」
『…はい?何か?』
「――はぁ。全く、貴女も上手くなったわね…。…いいわ、連れて来なさい。」
『はい!ありがとうございます!今から行きますね!!…それではッ。』
ピッ
今の新選組に足りないもの――…。
それはヘアチェンジ!!今のままでも十分素敵だけれど、洋服を着ているんだし出来れば髪型も…と思ってしまった。
原田「――美月…。お前…色々大丈夫か?疲れてるんじゃ…。」
そう言って左之さんが心配そうに顔を覗き込んできた。…え?どういうこと?私は左之さんの言っていることが理解出来なくて首を傾げる。
『…あっ!もしかして今の会話ですか!?あっはは!大丈夫です。今のは独り言じゃありません。これは【携帯電話】といって遠く離れている人とこのカラクリを通して会話出来るんですよ。』
藤堂「…そう、なのか?」
そう説明しても心配そうな表情を浮かべたままの平助くん。≪百聞は一見に如かず、よね。≫と私は皆に携帯電話の機能を教えてみるか、と思い立つ。
『――うん。じゃあ試しに…はい、コレ。』
相変わらず心配そうな表情をしたままの平助くんに私は携帯を渡した。携帯とスマートフォンの2台を持ってる私はスマートフォンから携帯へ電話をかける。
チャララ~♪ラララ~♪
藤堂「おわっ!?何だコレ!?」
「「「「「!?!?!?」」」」」
携帯の着信音に驚く平助くんと皆。…というか皆の着ボイスから変更しておいて良かった、うん。もし聴かれたら確実に引かれるし言い訳がその…苦しい。――そんなことに安心しつつ簡単な操作方法を教えるべく私は平助くんの手元の携帯を覗き込んだ。
『音が鳴ったら、ココを押して?』
藤堂「!?!?顔近ッ――!」
『――ココだよ?…ねぇ判ってる??』
全く携帯を見てない平助くんに対して私は自然と眉間に皺が寄ってしまう。だから私は携帯のボタンを指差しながら顔を上げて平助くんを睨んだ。
藤堂「わ、わかった!わかってるッ!これだろ!?」
ピッ
茹でタコみたいに顔を赤くしながら慌てて平助くんは私が示したボタンを押す。…何で顔が赤いの?…まぁ良いけど。
『…そうそう、ソレね。――で、このカラクリを耳に――こう、当てて?あ~。平助くん聞こえますか~?』
そう言って私は平助くんから数歩遠ざかって声を出した。
藤堂「!!!!なんだコレ!?美月の声がカラクリからも聞こえてくるぞ!?」
1mも離れていない距離にも関わらず大声で報告してくる平助くんが可愛くて、私はつい頬が緩んでしまう。
『ふふっ。あ、ちょっと一くん。一緒に来てもらって良いですか?』
そう言って私は一番近くに居た一くんの手を引き、走り出した。こんな至近距離じゃただのトランシーバーと変わらない。…いや、トランシーバーってどれだけ距離離れても大丈夫なのかは知らないけど。少なくても普通に話しても聞こえる近距離じゃなくて、普通の声が届かないくらい少し離れた場所の方が判りやすいかなと思った。
斎藤「お、おい、美月?」
土方「――ちょ、美月!どこに行くんだ!?」
突然走り出す私に一くんも土方さんも驚きの声を上げるけど、それは無視する。だって私だけ離れても意味ないもの。ここは誰かに協力してもらわないとね。
『カラクリは~!そのまま~!!』
私はそう平助くんに留まるよう手でジェスチャーしながら伝えつつ、30mくらい走った所で私達も止まった。そして電話越しの平助くんに話し掛ける。
『もしもし平助くん?聞こえる??』
藤堂「――あ、美月!?聞こえる!うわ、すっげぇなコレ!!美月とこんなに離れてんのに、まるで隣に居るみたいだぞ!!」
電話の向こうで興奮しながら話す平助くんにくすりと笑うと後ろの方から「ちょっと僕にも貸してよ。」という声が聞こえてくる。
沖田「――美月ちゃん?僕だよ判る?僕。」
『……………。』
…オレオレ詐欺じゃなくて、僕僕詐欺ですか。新手ですね、さすが総司。
『もしもし?うん、総司くんですよね?判りますよ。』
総司らしい言葉に苦笑しつつそう答えると「俺にも美月ちゃんと話しさせろよ。」とまたしても後ろから声が聞こえてきた。
永倉「――あ。あー…俺だ。俺。美月ちゃん、聞こえてるか?」
新八さんもオレオレ詐欺みたいな事になってますよー?まさか新八さんまで総司と同様の詐欺まがいな口調になるなんて思わなかった私は、思わず笑いが漏れてしまったけど。ちゃんと聞こえてる旨を私は新八さんに伝える。
『…ふふっ。もしもし?はい、新八さんですよね?聞こえてますよ!』
永倉「おぉ!?美月ちゃんの声が聞こえる!?コレすげぇカラクリだなぁ!!って仏頂面してねぇで、ほら土方さんも何か話せよ。」
『え?ちょ、待っ――…ッ!』
まさか土方さんに換わられてしまうなんて微塵にも思っていなかった私は慌てて制止の声をかけた。「俺もかよ…。」という声が聞こえる。嫌なのか、そうなのか。嫌がってる人と一体電話で何を話せと言うのだ。
土方「――あ~、美月?土方だ。聞こえてたら返事しろ。」
『………ぷっ!』
命令ですか、そうですか。咄嗟の事にとてつもなく緊張していた数秒は一体何だったのか、と思うくらい土方さんの第一声があまりにも彼らしくて、つい吹き出してしまう。
土方「――おい、何笑ってやがる。」
『あ、ごめんなさい。何か土方さんらしいなと思って。ちゃんと土方さんの声聞こえていますよ?』
土方さんの声色は電話越しでも自然に仏頂面が思い浮かぶような低い声だった。それでも冷静な土方さんは流石だと思う。
土方「…そうか。だったら良いんだ。――じゃあ原田に換わるぞ。」
一瞬声色が穏やかになったと思った直後、土方さんはそう言って左之さんに換わる。
原田「――美月?原田だが、聞こえるか?」
はい、一番まともな人が最後に出てくれましたよー。今まで苦笑しか出来なかった私だけれど最後の最後に左之さんの声を聞いて何だかホッとしてしまう。
『…あ、もしもし?はい。左之さんの声、聞こえていますよ。私の声もちゃんと聞こえていますか?』
原田「――ああ、聞こえてる。」
左之さんの優しい声を聞きながら、私はまだ電話を使ってない人が隣に居る事を思い出す。
『…あ、そうだ。左之さん、ちょっとそのまま待って下さい?――はい、どうぞ?折角なので、一くんも何か喋って下さい。』
そう言って私は一くんにスマートフォンを差し出した。それをすぐには受け取らず一くんはスマートフォンをじっと見つめて顔を上げる。
斎藤「――俺も…やるのか?」
『はい、是非ッ。何事も経験ですよ?』
少し困惑したような表情の一くんに私がそう言うと「了解した。」と呟き、一くんは私の手からスマートフォン受け取って耳にあてた。
斎藤「――ああ。もしもし、左之か?斎藤だ。…ああ、そうだ。――ッ。それは――…。」
怪訝そうな表情を浮かべながらも違和感なく左之さんと話す一くん。う、美しひ…!絵になりすぎる…!一くんは何をやっても絵になってしまうのが素晴らしいし、目の保養にな…ゲフンゲフン!というかこんな表情しちゃって一体左之さんと何の話してるんだろう…?そんな事を考えていると左之さん達に言い忘れていたことを思い出す。
『ねね、一くん、一くん?申し訳ないのですが《皆さんも、こちらに来て下さい》って伝えてくださいませんか?』
斎藤「…わかった。…左之、美月が――…。」
私がそうお願いすると一くん経由で伝言が伝わり皆がこちらに向かって来る。近付いてくるとこちらに大きく手を振って呼び掛けてくる平助くんや新八さんに私も手を振り返す。…これって本当に夢じゃないんだよな――…。そう思うと私は不謹慎ながらつい頬が緩んでしまうのだった―――…。
おまけ
(…左之さん。これで、さっきの私の会話が【独り言】じゃないって判りました?)
(――ああ。…わざわざ、ありがとな。)
(いえいえ!心配してくれたお礼?ですよ!…じゃあ、カズさんも待ってるでしょうから、お店に行きましょう?)
((((((カズさん?))))))
(はい。私の行きつけのお店の方で、今から皆さんの髪を切ってくれる方ですよ。)
(ま、まさか坊主にされたりしないよ…な?)
(う~ん…?カズさん次第、ですかね?)
((((((……………。))))))
(…ぷっ!あははっ!大丈夫ですよ、カズさんそんなことしませんって!)
((((((……………。))))))
(もし、坊主頭にされそうになったら全力で止めますよ、新八さん以外は。)
(――ッ!?)
(あははっ!冗談です!)
(((((……総司2号…。)))))
カランカラン
カズ「いらっしゃいませ~!」
『こんにちわ~!』
あれから10分後。私達は美容院に到着した。この美容院は数年前から私が通っていて、とても居心地の良いお店。カズさんはアニメやゲームに詳しくはないけれど話やすく、今まで出会った美容師さんの中で一番腕も良い。だからこそ皆を連れて来たのだ。
カズ「――あ、美月ちゃん。待――ヤダ!?何この超イケメン集団!!」
「「「「「「…いけ…め?」」」」」」
――はい、私死亡ー―。
平仮名読み+首傾げは危険!ダメ!絶対…!!そんな私の心境なんて露知らずなカズさんは、皆を見て頬を染めながら私の肩をバシバシ叩き興奮する。い、痛い…。そして悶える私は軽くスルーですね、わかります。
沖田「ねぇ、美月ちゃん。いけめ…って何?」
『…総司が可愛すぎて死にそ「何?」…いえ、独り言です。…えー、ゴホン。あと【いけめ】じゃなくて、【イケメン】です。まず【イケメン】は素敵な男性という意味です。…ちなみに頭に【超】を付ける事で、《とても素敵な男性》という意味になります。』
イケメンって、そんな意味のハズ。ちなみに皆はイケメンではなく、美形集団だと思っていたりするのは私だけでないと思う。だって皆が素敵なのは当然ですから…ッ!
イケメン≠美形の方程式
沖田「…へぇ。君、見る目あるね。」
そう笑顔で言う総司に「まぁ。ありがとう。」とカズさんは答えた。そして私に視線を移して呆れた表情を浮かべる。
カズ「――というか美月ちゃん…。あなた何してるの?」
『えっと只今、現代用語をレクチャー中です。』
カズ「はぁ?…なんで?」
『――それは聞かないで下さい。』
カズ「………?」
実は、連れて来た皆さんは…
二次元から三次元にトリップしてきた人達なんですよ☆
…なんて言える訳ない。
カズ「それにしても、美月ちゃん!ホントGoodJobよぉ!!皆とっても素敵!!」
『喜んで頂けて良かったです。』
新選組の美麗っぷりにカズさんもご満悦の様子に私も一安心。新選組がとんでもない美形集団だということが証明されたみたいで私も嬉しい。
カズ「――で、今日はどうするの?」
『とりあえず、今皆さんが着ている服に合わせてカットをお願いします。ヘアスタイルはカズさんにお任せするので。』
カズ「わかったわ。さぁ、皆始めるわよ!」
カズさんがそう言うと待ち構えていたアシスタントさん達が準備に取り掛かる。≪それにしても6人全員同時にカットをお願いするだなんて私も凄いお願いをしたものだわ。≫と忙しなく動き回るアシスタントさん達を見ていて少し罪悪感が生まれた。
「「「「「「…………。」」」」」」
『私は終わるまで此処で待ってますので、安心して行って来て下さい。』
初めて感じるであろうお店の雰囲気に何とも言えない表情で見守る皆に私はそう声をかける。『大丈夫ですよ。』と私は付け加えて笑った。そして皆がそれぞれアシスタントさんに連れて行かれるのを手を振って見送る。
『………ッ…。』
皆の姿が見えなくなった途端、一瞬眩暈がして足の力が抜けそうになった。私は眩暈が治まるまで目を瞑り、落ち着いてから一人用ソファー腰掛ける。≪大丈夫…。≫と、自分に言い聞かせて私は本棚の雑誌を手に取るのだった。
===2時間後===
カズ「美月ちゃん、お待たせ!」
ファッション雑誌を読んでいると突然カズさんの声が聞こえ、私は顔を上げる。すると、
『!!!!!』
そこには洋装新選組が集結していました。
『○▲×$☆¥%!?!?』
カズ「うんうん、その気持ちよく判るわ…。」
あまりの光景に私は声にならない声を上げる。そんな私の肩にポンと手を置きながら共感してくれるカズさん。これは鼻血ものです。うん。ファンの子じゃなくとも絶対私みたいになる人続出するレベル。
原田「おかしい、のか?」
私の様子に不安になったのか、左之さんは力のない声色で尋ねてきた。そんな訳ない。そんな訳ない!!大事なことなので2回言いました!
『イエ、オカシクナイデス…。』
うぅ。あまりの神々しさに、美しさに直視どころか上手く喋ることさえままならないヘタレな私。恥ずかしいというか何というか。あぁぁ…どうしたんだ私!
藤堂「相当久し振りに髪短くしたから、何か変な感じだなー。」
『イエ。トテモ、カワイイデス…。』
自分らしくない態度だと自覚していても、自分の顔がどんな状態になっているのか把握出来ない以上、皆の事は見れない。だから皆から顔を背けておかしな日本語で返事をする。
土方「おい、お前何か様子がおかしくないか?」
『イエ、ソンナコトナイデスヨ…?』
≪アハハハ。≫と、私はやはり目を合わせずにそう答えた。もうヤダ、この場から逃走して小一時間自由に悶えたい。顔を抑えたい。たーすーけーてー。
斎藤「…美月。」
グイッ
斎藤「こちらを向け。」
一くんはそう言って私の頬に手を添え、強引に顔を方向転換させた。もちろん視線の先には新選組の面々。
『!!!!!』
ひぃッ!なんてことを…!今、絶対とんでもない顔になってるのに…!こんな気持ち悪い私の顔見られなくないのに。
斎藤「何故、目を背ける。」
『ちょ、離して下さい…ッ。』
私は全神経を顔に集中させ、全力で抵抗を試みる。…が、当然一くんの手から逃れられる訳もなく。
藤堂「そんなに俺ら、見るに耐えないのか…?」
『ち、違ッ…!!』
ショボンとする平助くんに私は慌てて声を上げる。ち、違うんだこれは乙女の事情で…!!万事休す。私は覚悟を決めると深呼吸をして、皆に向き直った。
『皆さんがあんまり素敵…過ぎてその、直視…出来なかっただけです…。』
「「「「「「!!!!!」」」」」」
最後の方は小声になってしまったけれど、≪ごめんなさい。≫と付け加える。確かに失礼な態度だったと思う。それにしても皆は自分の魅力を知らなさすぎるよ…。
斎藤「い、いや…。こちらこそ無礼な事をしてすまなかった。」
ポン、と一くんが頭に手を置くから顔を上げてみると…。そこには耳を真っ赤にした一くんが顔を背けていた。
『(だめ…。可愛すぎて死ぬ…。)』
カズ「そうよねぇ~。こんなに素敵な男性に囲まれたら誰でも美月ちゃんみたいになるわよ~。」
『……………。』
「……………。」
『「…うん!」』
「「「「「「?????」」」」」」
永倉「何だ…?」
一人で納得するカズさん。私は数少ない同志の言葉に感動して、思わず互いに見合わせて固い握手を交わす。その行為の意味が判らず首を傾げる人は華麗にスルーだ。
沖田「そういう素直な反応、僕嫌いじゃないよ?それにさっきの美月ちゃんの顔…ッ!ぷっ!」
やっと落ち着きを取り戻した私へ水を差すように≪あははっ!≫と爆笑する総司。ひ、ひどい。少しは黙っていられないのかしら、この人は…。
永倉「まぁ、美月ちゃんが素敵な俺を見て?言葉を失うのもよ~く判r『それは無いです。』…そう、ですよね…。」
私が間髪入れずに否定すると新八さんは頭を垂らした。…どうしてだろう?新八さんて、ついからかいたくなるんだよなぁ。
カズ「あ、そうそう!言い忘れていたわ。悪いんだけど皆の写真撮らせてもらえないかしら。」
これだけ素敵な皆を写真に収めたくなるのは判る。それにお店としても良い宣伝になるだろうし。そう一人納得をしていると平助くんが素っ頓狂な声を上げた。
藤堂「“しゃしん”って…まままままさか、あの魂抜かれるやつかッ!?」
カズ「…ちょっと。何、大昔の人みたいな事言ってるの。魂が抜かれる訳ないじゃない。」
「「「「「「?????」」」」」」
カズさん、ナイス突っ込みです!カズさんの呆れた顔を見てもなお、平助くんと新八さんの2人はあからさまに青ざめている。というか、江戸時代の人で本当に魂抜かれた人がいるのかも疑問。正直、そんな人は居ないと思う。居るとすれば、それはたまたまタイミングが悪かったに相違ないだけだろう。
カズ「本当に皆素敵だから、うちの店の宣伝に使わせてもらいたいのよ。それに。もし、それを承諾してくれたら今日の代金は要らないわ。どう?」
『えぇ!?…でも――…。』
≪何と気前の良い!≫とは思うものの、実際写真撮られるのは私じゃないし、平助くん達はあんな様子だし、私は素直に喜べないのだ。確かに美容院代が浮くのは助かるけど、ね。
沖田「別に良いんじゃない?」
藤堂「ん~…。まぁ魂抜かれないってんなら俺は構わないぜ。」
斎藤「同じく問題ない。」
永倉「ははは!俺の美しさを認められる日がやっと来たって事だな!」
新八さんの先程の怯え具合は一体何処へ行ったのか、と私は目を瞬かせてしまう。
原田「…いや、絶対にそれはないから安心しろ。」
呆然としていたら左之さんが突っ込みを入れるから気が緩んで笑ってしまった。
土方「ま、美月の負担が少しでも軽くなるに越したことはねぇからな。よろしく頼む。」
カズ「こちらこそ♪」
そして私達は写真を撮った後、カズさん達にお礼を言いお店を出たのだった―――…。写真出来たら絶対に焼き回ししてもらわないと、ね。
(ところで新八さんはどこ切ったんですか?)
(あぁ、俺は切る必要ないって言われたぞ?)
(…え。)
((((……長時間、何してたんだ…。))))
永倉「あ~!腹減った~!!」
美容院を出たところで突然新八さんが叫んだ。自然と腕時計で時間を確認して≪あっ。≫と、言葉を言葉を漏らす。時刻は既に13時を差している。
『そうですね。もうお昼大分過ぎてますし、何か食べましょうか?』
私がそう言うと≪やり~ッ!≫と平助くんと新八さんが声をあげた。予想通りの反応に私は笑ってしまう。
『土方さんは何か気になる食べ物ありますか?』
土方「いや、特にない。お前に任せる。」
まぁ、そうだよね。この世界にどんな料理があるのかさえ知らないだろうし…。土方さんの言葉に皆も頷く。≪皆が喜ぶようなものか…。う~ん、そうだなぁ。≫と、考えを巡らせていると一つのお店が脳裏に浮ぶ。
『あ。そういえばこの近くに美味しい定食屋さんがあるので、そこにしましょうか。そのお店ならご飯とお味噌汁もおかわり自由ですし。』
藤堂「おかわりが…。」
永倉「自由、だと…?」
斎藤「……ッ…。」
“おかわり自由”に平助くん達が反応するのは判っていたけど、無反応に思えて一くんも反応を示したのを私は見逃さなかった。派手に大食らいの新八さんや平助くんと違うけれど、やっぱり一くんもガッツリ食べるのよね。となればやっぱりあの定食屋さんで間違いなさそうだ。それにこの時間からならお店の混雑具合も落ち着いてきた頃だろうし丁度良いよね。振り返れば髪も服装も現代風に様変わりした皆が、慣れない様子で私に付いて来る。そんな様子に満足しながらお店に向かうのだった。
*************************************
『じゃあ、この中からお好きなものを選んで下さい。』
私はそう言って皆にメニューを渡す。もちろん、ひとつひとつメニューの解説をするのは私の仕事。説明する度、皆の反応が新鮮で楽しいと思った。
===5分後===
藤堂「俺は唐揚げ定食!」
沖田「僕は刺身定食かな。」
斎藤「…鯖の味噌煮定食を頼む。」
原田「俺は生姜焼定食。」
土方「俺は焼き魚定食にする。」
永倉「俺はカツ定食だな!」
『おぉ…。』
店員「――畏まりました。お客様は何にしますか?」
また見事に全員の注文がバラついた事に私は感心する。感心してつい自分分を注文し忘れていたことにハッとした。
『あっ、えーと…。じゃあいつもの唐揚げ定食でお願いします。』
店員「はい。レモンは2つですね?」
『あ、お願いします…!あとマヨネーズも…。』
店員さんは≪かしこまりました。≫と笑って厨房へ戻って行く。この定食屋さんで私が頼むのはこの唐揚げ定食のみ。それを店員さんも判っていてくれるのがすごく嬉しい。
永倉「いつもの?」
『あっ、ふふ。そうなんです。此処は職場から近いので…唐揚げが食べたくなるといつも来るんですよ。私は此処の唐揚げが1番大好きなんです。』
不思そうに尋ねてきた新八さんにそう答えた。そしてこの定食屋さんにはあまり女性一人のお客さんが居ない事や、毎回唐揚げ定食しか頼まない事、私は店員さんに覚えられていたのだと話す。
土方「この世界でも女が一人でこういう店に入るのは珍しいことなのか。」
『そう、ですね。あまり一般的ではないかも知れません。大体の女性は複数で来ると思います。』
原田「だったら美月も友達とか誘えば良いんじゃねえか?」
左之さんに思わぬ指摘を受けて私は苦笑して、こめかみを軽く掻いた。正論だからこそ言葉に詰まる。
『あ~…。いや…、一人のが気楽なんですよ。』
沖田「とか言って、実は友達が居なi『居ますから。』…あっそ。」
どうにか誤魔化そうと口を開くと総司の失礼な言動攻撃に遭う。それを即座に阻止すると総司が若干不満そうな表情を浮かべた。それにちゃんと一人でお昼を食べる理由だってある。年齢層の高い職場で最年少の私はこれでも周りに気を遣って仕事をしている為、お昼くらいは気を遣わずに休みたいと思うのだ。まぁ、理由はそれ以外にもあるのだけれど。
「お待たせしました~!」
運ばれてきた食事を見て目をキラキラ輝かせる大きなお友達が約2名。食べるのは初めてだとしても空腹の状態でこの匂いを嗅げば期待が更に膨らむものだろう。
「「「「「「いただきます。」」」」」」
食べ始めた直後に新八さんのカツにはソースを、平助くんの唐揚げにはレモンを絞って食べる事を教える。まぁ唐揚げはレモンだけじゃなくてマヨネーズもお醤油も、そのままでも美味しいのだけども。そうこうしているうちに新八さんと平助くんが熱々のお肉にかぶり付こうとしていて私は慌てた。
『あッ。新八さんのと平助くんのは熱いですから気をつけ――…』
藤・永「「あっちー!!」」
『あぁぁ…。二人ともそのまま口を開けてくれますか。』
私はそう言ってまだ使っていないお箸で自分のコップから氷を取り、涙目になっている二人の開いた口に氷を入れる。まるで世話の焼ける子供を持った母親の気分。
藤・永「「!?!?」」
突然口内に広がる氷の冷たさに声も出せないまま悶える二人。火傷には迅速に患部を冷やすのが鉄板なのだ。
『それは氷です。二人ともその氷が溶けてから食事してくださいね?…そして人の話はちゃんと聞きましょう。』
藤・永「「ふぁい…。」」
涙目ながらも勢いよく頷く二人に満足した私は、改めて食事を始める。とはいえ、私も火傷には気をつけなければ。
土方「お前、氷って――そんな高級なものを何簡単に…。」
私が嬉々と唐揚げを頬張ったところで土方さんが顔を引き攣らせて言葉を詰まらせた。それを見て私は急いで口の中のものを飲み込む。
『今は高級じゃないんですよ。誰でも家で簡単に作る事が出来るんです。…だから、ほら。皆さんのお水の中にも入っていますよ?』
「「「「「「……………。」」」」」」
って、今頃気付いたんですか。むしろ私はその事に驚きましたよ。新選組って鋭いんだか鈍いんだか、と苦笑した。 とはいえ、
永倉「旨い!旨い!旨~い!」
藤堂「何だコレ!?さっぱりしてて、すげぇ旨い!!」
感嘆の声に視線を向けると口内の氷が溶らしく二人は勢いよく食べ始めていた。私は2人が気に入ってくれた様子を見て安堵する。
『でしょ?このレモン汁をたっぷりかけるのが良いんだよ。それで私いつもレモン2個貰うの。この白いマヨネーズっていうのをつけても美味しいよ。』
私は平助くんに大好物を褒められてテンションが急上昇。まだ教えてなかった食べ方を伝えて私も食べ進める。ホント此処の唐揚げは美味しい。
「「「「……………。」」」」
パクパクとお箸を進めていると私と平助くんの会話を聞いていた皆のお箸が止まった。心なしか皆の視線が痛いような…。
『えと…。直箸で良ければ皆さんも食べます?』
私がそう言うと皆の目が一瞬輝いた気がした。…特に一くん。
『じゃあ、まず左之さん、あーん。』
原田「!?んんっ。旨いな、これ。」
沖田「――美月ちゃん、僕も。」
『…はいはい。あーん。』
沖田「美味しい…。」
『土方さんも、はい、あーん。』
土方「んなこと出来るかッ!」
『…じゃあ、要らないんですか?』
土方「……………。」
『はい、あーん。』
土方「ん…。うまい。」
次々と皆の口へ唐揚げを入れる親鳥の私。渋々口を開いた土方さんもご満悦のようだ。とはいえ、平助くんだけじゃなく土方さんまで虜にした唐揚げはやっぱりすごい。
クィックィ
『ん…?』
斎藤「…美月。」
私は服を引っ張る方に振り返れば一くんが物欲しそうにこちらを見ている。ちょ、そんな捨てられた子犬のような目で見ないで…!
※斎藤の様子は美月ビジョン
『は、一くんも食べます…?』
そう尋ねれば嬉しそうに、コクコクと頷く。死ねる…!私萌え死ねる…ッ!!私は堪らず自分のお皿を一くんに差し出した。
『――ッ!!も、もう残り全部あげます…ッ!』
斎藤「…いいのか?」
『はい。これ全部無くなって良いんです。そろそろ次のが――』
店員「お待たせしました!」
『ほら、来た。』
タイミング良く唐揚げが届いて一くんも≪なるほど…。≫と納得してくれる。私はきっと食べたがる人がいるだろうと踏んで唐揚げを単品で頼んでおいたのだ。
永倉「ちょっと美月ちゃん、斎藤ばっかずるくねぇか!?俺まだ一個も貰ってねーのにッ!!」
『……………。』
完全に子供の我儘にしか思えなくて私は言葉を失う。それでも≪確かに唐揚げをあげていないのは新八さんだけだな。≫と納得して揚げたての唐揚げをひとつ取った。
『じゃあ、新八さんは出来立てのを…。ふ~ふ~…っと。はい、あーん。…熱いので気をつけて下さいね?』
永倉「!!! う、旨ぁぁい!!」
斎藤「……………。」
藤堂「……………。」
新八さんは唐揚げの美味しさに感動してから、大量のお米を口に放り込む。改めてこの定食屋さんにして正解だったなと安心した。 で、私はそろそろ――…
『すいません!おかわり下さい…!』
「「「「「「おかわり!?!?」」」」」」
(唐揚げ旨かったな。)
(美月ちゃんが食べさせてくれたから余計に美味しく感じたのかもね。)
((………。))
(確かにそうかも知れねえッ!)
(な、何言ってるんですか…!)
((………。))
(平助、斎藤どうかしたか?)
((…なんでもない。))
(あのすいません!おかわり下さい。)
((((((また!?))))))
永倉「食った食った~!!」
空腹が満たされた新八さんはご満悦の様子。勿論、他の皆も喜んでくれたようで私も嬉しい。
藤堂「それにしても美月が大食いだとは意外だったな!」
土方「…しかも新八並ときてる。」
そう言うなり≪くくっ…。≫と笑う土方さん。それに対して私は少しだけムッとする。
『ちょっと、土方さん笑わなくても良いじゃないですか…っ!』
沖田「でも程々にしないと更に太るんじゃない?」
『さ、更に!?うぅ、総司くんひどいです…。』
“更に”って言い過ぎじゃない?いや、それって私が現時点で肥えているということj(ry あれ、何か視界がぼやけて前が見えないや…。うぅッ。
…ポンポンッ
原田「よく食べるのは良いことだ。気にすんな。」
『左之さん…。』
左之さんはそう言って凹む私の頭を撫でてくれる。その優しさに涙が出そうになった。
クラッ…
『―――ッ。』
と、またしても先程のよう眩暈に襲われる。危ない。しっかりしなきゃ…皆に迷惑かける。何より総司の立場が悪くなってしまう。それは避けなければ。
原田「美月…?」
『あ、はい。どうしました?』
原田「???いや…?何でもねぇ。」
『そうですか?』
原田「あぁ…。」
左之さんに気付かれたかも知れないと少しだけ気になりつつも、私は何事もなかったように笑って誤魔化す。私の様子を見て左之さんも気のせいだと思ってくれたようだ。
斎藤「で、次は何買うのだ?」
『あ、次は―――…。』
****************************************
それから私達は再度最初に訪れたショッピングモールへ戻り、お箸やお茶碗等を含めた食器類、タオルやパジャマ代わりになるスウェットや、甚平、着流し等を購入し、気ままに歩いていた。
≪ちょっとあの人達見てよ。≫
≪やだ、すごいカッコ良くない!?≫
≪何かの撮影かなぁ…?≫
皆でお店を回っていればそんな声が自然と耳に入ってくる。うんうん、よく判ります。美形は1人でも目立つのに、6人も居たら…ねぇ。などと一人納得して一人で頷く。
藤堂「なぁ、美月!この店見ても良いか?」
『え?うん、いいよ。私ここで待ってるから、皆さんも行って来て下さい。』
≪じゃあ行ってくる!≫と平助くん、新八さん、左之さん、そして平助くんに引っ張られた一くんの4人はお店の中に入って行った。私はそれを見送ってお店の前に設置されているベンチに腰掛けた。私が座るとその両隣に土方さんと総司も腰を下ろす。
『お二人は行かなくて良いんですか?』
土方「…興味ない。」
沖田「僕は美月ちゃんと居たかったからね。」
『なっ…。』
私の質問に2人らしい答えが返ってくる。総司の場合は“玩具の私が楽しいから”でしかないのは判っているけれど…素直に嬉しい。頭でそう判っていても体は正直で一気に顔が熱くなる。
沖田「…ぷっ。変な顔。」
『うるさi「あの、すいません!
撮影か何かされてるんですか?
良ければ握手して下さい…!」…( Д ) ゜゜』
『「「……………。」」』
あわわわ、とうとう話かけられたよ…!私は断る立場じゃないし、どうしよう。と慌てていると土方さんは溜息を一つ吐き出した。
土方「何だ、お前。」
沖田「…悪いんだけど。僕、人に触られるの嫌いなんだ。ごめんね。」
敵意丸出しの土方さんと恐怖しか感じない笑顔を浮かべる総司。そんな二人を目の当たりにして、そそくさと退却する女性。少しばかり同情してしまう。
『……………。』
土方「???何だあれ。」
沖田「…さぁ?」
自分たちの魅力に鈍感な人たちだわ。というか土方さんくらいは自分の魅力に気付いてそうなのに、やっぱり麻痺してるのかな。とりあえず無事もなかったことにホッとする。
「ねぇ、お兄さん達何してるの?」
うわ、一難去ってまた一難。また現れたよ…。私は反応に困って言葉が出ない。もしかして此処はあれですか?戦闘フィールドか何かですか。避けて通れない必須戦闘なんでしょうか。
土・沖「「……………。」」
あぁ…! 土方さん達まで…!流石にガングロメイクは驚愕するよね、うん。私はある意味第三者だから無言でも問題ないけど、流石に当事者の2人が黙ったままなのは問題よね。ならここは私が…!と私は口を開いた。
『えっと私達は今皆さんで買い物してるんですよ。』
「はぁ?お前になんか聞いてねーし。」
『あはは。…ですよね…。』
が、しかし返り討ちにされてしまって後が続かない。うーん、困ったな…。どう言ったら判ってもらえるんだろう。
「ねぇねぇ!こんな地味な女放っておいてさ、アタシと遊ぼうよ。」
『あ…。』
女の子はそう言って、土方さんの腕を掴む。しかし当の土方さんは全く動じない。それどころか≪はぁ…。≫と先程よりも大きな溜息を吐き出した。
土方「俺達はこいつと買い物に来てるんだ。大体、見ず知らずのお前に付いていくつもりは微塵もない。…手を離せ。」
そうぴしゃりと言い放ち、土方さんは女の子の手を振り払う。女の子にとっても予想外の反応だったらしく、呆然としている。
沖田「…僕、馴れ馴れしい子って嫌いなんだ。消えてくれる?」
総司がそう言って絶対零度の微笑みを浮かべた。あぁぁ怖い…。ご愁傷様すぎる。
「な、何よ。ちょっと顔が良いからって調子に乗って。わかったわよ…!」
女の子はそう捨て台詞を吐いて、怒りを露わにしながら去って行った。その姿が見えなくなってから私は思い切り息を吐き出して苦笑する。そんな様子を見たのか、左之さんが小走りでこちらに戻って来た。
原田「…おいおい、何かあったのか?」
土方「いや…別に。たいしたことじゃねぇ。」
そうは言うものの、実際さっき左之さんが居たらもっと穏便に事が片づけられたに違いない。言わないけど。…いや、絶対に言えないけど。
沖田「まぁ、この世界でもやっぱり土方さんは女性に人気あるんですね。流石だなぁ。」
土方「総司。」
原田「あぁ、そういうことか。」
『あ、あはは…。』
勘が良いからなのか、それともこういうのは日常茶飯事なのか、私には知る由もないけれど総司の一言で左之さんに通じたことに驚いた。江戸時代から逆ナンが存在していたなんて…すごい。いや、すごいのはそんな昔から逆ナンが存在していることよりも、江戸時代なのに土方さんが日常的に逆ナンされていたことがすごい。…というか総司は何があっても土方さんをからかいたい訳ね。
藤堂「美月~!ちょっとこれ見てみろよ!」
『あっ、はいはい!今行く!!』
と、雑貨屋さんから私を呼ぶ平助くんの声に私は反応して≪ちょっと行ってきます。≫と土方さん達の傍から離れ、平助くん達の所へ走ったのだった―――…。
あれから私は平助くん達と雑貨を見ていたら店員さんに声をかけられ、何故か色々商品を戴いたのだった。
斎藤「…こんなに…。本当に良かったのか?」
永倉「貰えるもんは貰っとかないとな!」
藤堂「そうだよ、一くん!気にすんな!」
そう言ってバシッと一くんの肩を叩く平助くん。好意で戴いたものだから過度に気にする必要はないだろうけど、二人は少しくらい気にした方が良いような…。
「あの!すいません!」
背後から掛けられた声に私は≪また、ですか…?≫とさっきの光景が自然と蘇る。かといって無視する訳にもいかず、私はうんざりしながら振り返った。
「矢城様、午前中はご来店頂きましてありがとうございました。」
『あっ。』
その顔を見て思わず声を漏らす。私達に声をかけてきたのは、なんと皆の洋服を買ったお店の店員さん達だったのだ。
『いえ、こちらこそ。…って、どうかされました?』
私がそう尋ねると店員さん達は抱えていた大きなショップバッグを差し出してきた。
『…えっと?これは…。』
「実は皆さんを見た店長が皆さんに是非着てほしいと、私達に洋服を渡して来るよう指示されまして。」
≪これでも結構探し回ったんですよ。≫と三人は苦笑する。そりゃあこれだけ広いショッピングモールだし、それどころか私達は此処から離れた美容院や定食屋さんに行っていたのだ。見付けるのは相当大変だったに違いない。…とはいえ、その好意を受け入れるのは申し訳なさすぎる。
『で、でもこんなに沢山の洋服を戴くわけには――…。』
「気になさらないでください。店長だけでなく僕達も是非皆さんにうちの洋服を着てほしいと思ったんです。それに着て頂ければ良い宣伝になりますしね!」
そう言って満面の笑みを浮かべる3人。そんな嬉しそうに言われたら辞退する方が野暮ってものだ。
『…本当に良いんですか?』
「はい、是非ッ!」
『じゃあ、お言葉に甘えて…。ありがとうございます。』
3人が両肩に担いでいた大きなショップバッグを一人一人に手渡し終わると≪では、またお店に遊びに来て下さいね!≫と三人は颯爽と帰って行った。
『……………。』
「「「「「「……………。」」」」」」
有難い事だし、快く受け取ったものの…あまりの事に驚いて言葉にならない。だって普通にこれだけ買ったら一人3万どころじゃ済まないだろう。金銭感覚は違えどこの状況がすごい事なのだということくらいは皆も判るらしく、皆も揃って言葉を失っていた。
『……ぷっ。』
藤堂「……ぷっ。また貰っちゃったな!」
『「あはははっ!」』
でも、この状況がおかしく思えて私と平助くんは笑い出してしまう。ナニコレ、本当にこんな事が起きるんだね。おっかしい。
永倉「つか、この世界の人間て皆親切なんだなー。」
斎藤「…こんな大量の品物を渡したら商売にならないのではないか…?」
藤堂「ははっ!また一くん余計な心配してるよ。」
新八さんはもう消えてしまった店員さん達の方を見ながら心もとない声で呟くし、一くんは余計な心配をしているし。そんな一くんに平助くんはさっきの笑いを引きずったまま突っ込んでいた。
原田「…本当にいいのか、これ…。」
左之さんは困ったように呟く。まぁ皆が驚くのは無理ないよね。私だって驚いてるもの。
それにしても…美形って得だよね…!
沖田「美月ちゃん。それ僕が持つから貸して。」
土方「ほら、貸せ。こっちは俺が持つ。」
そう言うなり私が持っていた荷物を総司と土方さんに奪われる。とはいえ2人だって沢山の荷物を持っているのだ。私ばかり身軽でいて良い訳ない。
『あっ、これくらい大丈夫ですよ。』
永倉「良いから良いから。荷物は俺らに持たせとけば良いんだって。」
私の頭に手を置きながら新八さんが言う。まるで子供をあやすように言うのはいかがなものか。これでも私は良い大人なのだ。
原田「それにお前は、怪我してるだろうが。」
藤堂「そーだよ、怪我人は大人しくしとけって。」
そんな気にしないで欲しいけど…。確かに怪我したのは利き手じゃないから良かったものの、不自由なのは違いない。今は素直に皆の親切に甘えるか。
『ありがとうございます。』
そして大荷物を抱えた私達は帰路に向かったのだった。
(この世界だと今日は皆休みなんだろ?)
(皆じゃないですけど、休みの人が多いですね)
(慎吾も大変だな~)
(何時まで仕事なんだ?)
(…あぁ。そっか、うっかり忘れてました。)
((((((………酷い。))))))
*************************************
電車を乗り継ぎ、やっと地元まで帰ってきた私達。あと少しで自宅に着くと思うとひどく安心した。…と、
クラ…
≪あれ…。ヤバいかも…。≫そう思った時には、
ドサッ
「「「「「「美月!?」」」」」」
意識が朦朧として皆の声が妙に遠くに聞こえる。必死に起き上がろうと思っても身体がいうことを利かず、私はそのまま意識を手放したのだった―――…。
~慎吾side~
仕事を終えて帰宅した俺は夕方のニュースをボーッと見ながら美月達の帰りを待っていた。
ドンドンドンッ!
慎吾「!?!?!?」
すると何の前触れもなく、突然玄関を思い切り叩く音が家中に響き、俺はその尋常ではない音に身体がびくりと跳ねてしまう。
藤堂「慎吾!開けてくれッ!美月が…ッ!」
けたたましい音と共に平助くんの切羽詰まった声が聞こえてきた。何かあったのだと察した俺は慌てて玄関まで行き、玄関を開けるとぐったりした美月を総司くんが抱き抱えている。
慎吾「!!!!!」
斎藤「――帰宅途中、突然倒れた。」
慎吾「……ッ!と、取り敢えず皆家に入って。総司くん、悪いんだけどそのまま美月を部屋に運んでくれる?」
沖田「うん、判った。」
大丈夫、大丈夫だ…。俺はそう心中で何度も繰り返し、焦る自分を落ち着けるようにゆっくり深呼吸するのだった。
****************************************
俺が急いでタオルを用意し洗面器に水と氷を入れて寝室に入ると、既に総司くんが美月を寝室のベッドに寝かせてくれていた。だから俺は苦しそうにしている美月の汗を拭うため、直ぐに氷水で冷やしたタオルを額に乗せる。
永倉「大丈夫…なのか?」
慎吾「…うん、命に別状ないと思うけど…。流石に倒れるくらい発熱してるし、破傷風の心配もあるから念のために友人の医者を呼ぶつもりだよ。」
「「「「「「……………。」」」」」」
後ろから心配そうに尋ねてくる新八くんに背を向けたままそう答えると、ベッドの向かい側に居る総司くんと平助くんが顔を歪ませて押し黙った。恐らく他の皆も同じだと思う。
それから俺はその友人に連絡を入れると直ぐに友人は駆け付けて美月を診てくれた。
《お前な、こんな怪我をして放置しとくなんて馬鹿か…ッ!?》
そう帰る前に手酷くお叱りを受けた。でもそれを美月に伝えたら絶対凹むんだろうな…。叱られた子供の様にしょげる美月が目に浮かぶ。そう思えば≪はぁ…。仕方ない、今回は黙っておいてやるか…。≫と苦笑した。それに悪いのは美月だけじゃない。忠告しなかった俺の責任もあるのだから。そんな事を考えながら俺はそのまま皆の待つリビングへ向かった。
カチャ…パタン
土方「美月は?」
慎吾「…うん。2、3日安静にしとけば治るってさ。今は薬が効いたおかげで大分落ち着いたから、ぐっすり寝てるよ。」
リビングに入るとトシくんが待ってましたと言わんばかりに美月の容態を尋ねてきた。緊迫した様子の彼を安心させるように俺は笑って状況を伝える。
藤堂「…よ、良かった~。俺、心臓止まるかと思ったぜ…。」
俺の話を聞いて平助くんを始め、皆も安堵の表情を浮かべた。逆にそこまで心配かけていたことに罪悪感が込み上げる。
慎吾「うん。心配かけてごめん。」
原田「いや、俺達はいいんだ。…それより慎吾、悪い。俺、美月の様子がおかしい事に薄々気付いてたんだ。だけど美月があまりに普通だから…気のせいだと思っちまった。」
左之くんはそう言って悔しそうに顔を歪ませる。美月と知り合ってまだ一日も経ってないのに、ここまで気にかけてくれるなんて本当に優しいんだな…。そう思うと少しだけ頬が緩んだ。
慎吾「…いや、左之くんのせいじゃないよ。美月に忠告しなかった俺の責任なんだ。それに何より、美月は皆に気付かれたくなかっただろうしね。」
「「「「「「………………。」」」」」」
斎藤「何故…。」
慎吾「ん?」
皆が押し黙る中、一くんがポツリとそう独り言のように呟いた。俺が聞き返すと顔を上げて口を開く。
斎藤「何故、美月はそこまで無理をする必要があるのだ…?」
慎吾「……………。」
真っ直ぐで真剣な一くんに俺は一瞬言葉を失う。彼の考えは当然の思いだ。誰だって知りあって間もない人間が己のために身を犠牲にするような事をされたら同じように思うだろうし。
慎吾「それは…もう本人の口から聞いてるんじゃない?“私が皆を護る”…ってさ。」
「「「「「「!!!!!」」」」」」
【慎吾さん!私ね、もし新選組が逆トリップしてくることになったら、絶対に力になろうと思うんです!…だって私は―――…。】
【――だから、そんな夢みたいな事が万が一起きたら慎吾さんも協力してくださいね…!】
いつだったか…。そう子供のように目を輝かせて話す美月を俺は自然と思い出して笑った。
「“君達を護ること”。そして一日でも早く仲良くなりたい、力になりたいって美月は純粋に思ってるんだよ。…ただそれだけなんだ――…。」
「「「「「………………。」」」」」
馬鹿なんだよ、美月は本当に―――…。
沖田「………。」
【…ちゃ……めん…。】
誰――…?
【…無…せて…ごめ……。】
この悲しい声の主は――…?
【…僕…君を………。】
切ない声で呼び掛けるのは一体―――…?
***************************************
『……………。』
う…ん…?あれ此処は…私の寝室…?目が覚めて意識が微睡む中、私は働かない頭で記憶を手繰り寄せていた。ふと手の違和感に気付き視線を移すと、総司が私の手を握り締めながら、その手を額にあてて目を瞑っている。
『…総司、くん…?』
沖田「美月ちゃん…ッ。」
私はこの状況を不思議に思い総司に声を掛けると、総司はパッと顔を上げ握り締めていた私の手に力を更に強める。そして「…ごめん。」と言って総司は私の手を離した。
『???…どうか…したんですか…?』
沖田「――君、もしかして自分が倒れたの覚えてないの?」
総司はそう言って眉間に皺を寄せる。あ…!そうだった。私皆と帰宅途中で倒れて――…。
『…あは。…思い出しました…。』
沖田「笑い事じゃない。…どうして無理なんてしたの。」
私の苦笑いをぴしゃりと叱責する総司の声色は低い。…本気で怒ってるんだ。それが解ってもまさか私を心配しているとは思えなくて、誤魔化そうと口を開いた。
『えっと…。その、皆さんが…使うものを早く揃えてあげたくt「馬鹿じゃないの?」…ごめん…なさい…。』
確かに無理をした事は認める。でもそんなに怒らなくても…。いや、でもそれだけ迷惑をかけてしまったのだから自業自得か。私はそう思いながら総司を本気で怒こらせてしまった事を反省し目を伏せた。
沖田「……ッ……。」
『………?』
すると総司は押し黙りながら一瞬声を震わせる。不思議に思って顔を見上げると私から目を背けた総司の表情がとても辛そうで――…。
『総司く「僕はね…死病を患っているんだ。」……ッ!』
突然のカミングアウトに驚き私は思わず息を飲む。…まさかこのタイミングで告白されるなんて思いもしなかったから。でも総司の病は知っている。そして総司はそれが原因でこの先どうなるのかさえも。
『………。…はい。知って、います。』
沖田「―――ッ!!」
私が意を決してそう口にすると、総司は勢いよくこちらに顔を向ける。その顔は驚きで目を見開いていた。当然だ。総司がひた隠しにしてきたことなのだから。
沖田「…そっか。」
そう呟いて総司は苦笑いを浮かべ目を伏せる。無理して笑う必要なんてないのに…。
『…はい。』
「『……………。』」
静寂が私達を包む中、ベッドの端に乗せている手を総司がぐっと握り締める音がシーツ越しに聞こえた。
沖田「――僕は近藤さんの為に刀を振るっていたい。…斬ることだけが僕に出来ることだから。」
『…はい。』
沖田「でも今の僕は…日々体力が落ちてそのうち刀を握ることさえ出来なくなる、と思う。…悔しいけどね…。」
『―――ッ。』
悔しそうに辛そうに顔を歪めながら話す総司。ずっとこの苦しみを誰にも打ち明けられず、ひとりで抱えていたと思うと胸が締め付けられた。
沖田「近藤さんの力にさえなれない状態なのに――…。…僕は君に護ってもらっても…何も出来ない。何も…返せない…。」
『!!!!』
それが総司の本音。そんな総司の純粋な想いに胸が更に痛む。自分の病気の事を解った上で、総司は近藤さんだけでなく私にまで恩義を感じていてくれているのだと気付いた。
『私は…何かして欲しいから護るんじゃないです。…私は皆さんにただ“生きて”欲しいだけなんです。…そして総司くんが生き続けられるように手助けをしたいんですよ?』
沖田「……ッ。…そんな事をしてもらう価値なんて僕には無『あります!』…美月、ちゃん…。」
私はそう言ってベッドの端にある総司の手を握り締める。自分をあまりにも過小評価する総司が悔しくて、切なくて泣きそうになるのを必死で堪えた。
『…総司くんは、総司くんが思っている以上に新選組にとって大切な存在なんです…ッ!…大切だからこそ土方さんは総司くんを新選組に残して療養させているんです…!…心配だから山崎さんに総司くんを見張らせて居るんですよッ…!?』
沖田「―――ッ。」
そこまで口にすると、それまで抑えていた感情が暴走して涙が溢れてしまう。…泣きたいのは総司の方だというのに、ね。
『…もし私のために何かしたいと少しでも思ってくれるなら――…労咳を治療しませんか…?』
沖田「――え…?」
私の言葉に総司がハッと顔を上げる。その表情は私の言葉を聞き間違えたような、でもその聞き間違えた言葉を心から望んでいるような期待を含んだ表情だった。
『この世界…。いえ、この時代では労咳は死病じゃありません。…労咳は完治出来る病なんですよ。』
沖田「―――ッ!?」
総司は驚きのあまり目を見開いて言葉を失う。総司の時代では今でいう不治の病であったのだから当然だ。
『皆さんには黙っています。だから…一緒に治しましょう…?』
沖田「……………。」
総司の沈黙が怖くて、拒絶されるのが怖くて――…。眉間に皺を寄せながら考えている総司から思わず目を背けるように私は目を瞑った。そして≪どうか総司に想いが届くように――…。≫と祈りながら。
沖田「…判った。…治療するよ。」
『本当ですか…!?――ッ!?』
私は嬉しさのあまりに勢いよく起き上がった瞬間、気持ち悪さと眩暈に襲われる。そうだ、私はさっきまで倒れていたんだった…。
沖田「…ぷっ。大人しく寝てなよね。」
やっと笑みを浮かべた総司にそう言われ、私は強制的に寝かされてしまう。総司は5歳は確実に年下なのに何でこんな大人びてるのよ…!
『…うぅ…。総司くんに子供扱いされたくないんですけど…。』
沖田「はいはい。…本当に君は馬鹿だよね。」
『なッ!?』
思わず身を起こそうとする私を「いいから寝るの。」と押さえ付け、総司はクスクスと笑って私に布団をかけ直して立ち上がった。
『――あ。ま、待って…!』
もう部屋を出ていくのだと気付いた私は咄嗟に総司の腕を掴む。…そう。私にはまだ総司に伝えたいことがあるのだ。
『…労咳は治ります。…治れば、ずっと刀を振い続けられます。近藤さんの傍にいられます…ッ。…だから…ッ!』
沖田「????」
『だから…何があっても変若水は飲まないと約束してください…!!!』
沖田「!!!!!」
これが私の願い。総司が生き続けるための願いだから――…。
沖田「……ッ…。…君はそこまで判って…?……うん、わかった。――約束するよ。」
『…ほ、本当ですか…!?』
まさかこんなに簡単に約束してくれるなんて思いもよらなかった私は再度総司に確認する。これで“冗談だよ。”なんて言われたらシャレにもならない。
沖田「僕の言葉が信じられない訳…?」
『そんなこと…。…ッ…。ありがとう、ございますッ…!』
やっと総司の言葉を受け入れられたと同時に総司が約束してくれたことが嬉しくて――…何より総司が羅刹にならずに済む事が嬉しくて『良かったぁ…。』と顔を歪ませれば「…大袈裟だよ。」と総司が笑う。大袈裟じゃない。だってこれで総司が労咳と羅刹に苦しむ事はなくなるのだから。≪良かった…!本当に…!≫そう私が喜びを噛み締めている中、総司は私のベッドから離れた。
沖田「じゃあ今度こそ部屋に戻るね。…おやすみ。」
『…おやすみなさい。』
パタン…
「ありがとう…」と去り際に言い残して総司は部屋を出て行く。そんな総司に笑いが込み上げた。≪ふふっ。“ありがとう”は私の台詞だよ…。≫そんな事を考えながら私は再度目を閉じるのだった―――…。
沖田side
部屋を出た後すぐに部屋に戻れずにいた僕は、何だか風に当たりたくて気付けば足が庭へ向かっていた。
カラカラカラ…
庭に出て夜空を見上げると僕達の世界と比べ、この世界の星の数は雲がかかっているように少ない。昨日今日、町を歩いて感じた空気の汚れと自然の少なさ。ひとつひとつが“此処はお前達の世界ではない”と思い知らされている気がしていた。
【…私は皆さんにただ“生きて”欲しいだけなんです。】
沖田「………………。」
どうして彼女はあんなに必死なんだろう?僕達は遠い昔の人間で、ましてや異世界から来ているのに何で疑わないでいられるの…?何で自分が傷付いてもなお、必死に護ろうとするんだろう…?そして何で彼女は…あんなに真っ直ぐで綺麗な瞳をしているんだろう――…?
疑問ばかりが次々と浮かんでも明確な答えは見付からず、僕は溜息をついて庭を後にした。…ふと、さっき彼女の部屋に行った時彼女が熱にひどく魘れていた姿を思い出す。
沖田「………………。」
≪ちょっとだけ様子を見てから部屋に戻ろう。≫と僕は踵を返し、再度美月ちゃんの部屋に向かった。
カチャ…
『……ッ…うッ……。』
“やっぱり。”
そう思った。僕が思った通り美月ちゃんは熱に魘れていたのだから。だから僕は彼女の額に乗せている“なんちゃらしーと”を取り替えようと音を立てないように彼女の枕元へ移動する。
『……はぁっ…うっ…。』
沖田「……ッ…。」
冷や汗をかきながら魘れている美月ちゃんを見ると僕はどうしようもなく罪悪感でいっぱいになった。当然だ。美月ちゃんがこうなったのは僕が原因なんだから。
【…総司くんは、総司くんが思っている以上に新選組にとって大切な存在なんです…!】
そう先程の彼女の言葉が蘇える。ねぇ、君は何で僕より傷付いたような顔して泣くの…?
【もし私のために何かしたいと少しでも思ってくれるなら…労咳を治療しませんか…?】
【何があっても変若水は飲まないと約束してください…!】
【あ、ありがとうございます…!】
君の望みはひとつも君に得はないじゃないか。…なのに、あんなに顔をくしゃくしゃにして喜ぶなんて本当に――…本当に馬鹿だよ。
『……うッ……ぁッ…。』
美月ちゃんの魘される声で我に返った僕は、手ぬぐいで彼女の汗を拭い額を冷やす粘着物を新しい物に取り替える。そして汗で額に張り付いた前髪を手櫛で梳いてやった。
『………すぅ……。』
すると少し気持ち良さそうな表情で眠り始めた彼女を見て、僕は思わず美月ちゃんの頬に手を添え、己の親指で撫でる。…とても年上とは思えない幼い寝顔の彼女につい顔が緩む。
『…慎吾…さ…。』
沖田「――ッ!!」
美月ちゃんの寝言を聞いた瞬間、僕は何かに弾かれたように手を離し部屋を後にした。今僕は一体何をして――…?
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ジャー…
逃げるように“りびんぐ”に来た僕は、痛いくらいに暴れる心臓と身体の底から込み上げてくる見知らぬ感情を押し込むように大量の水を飲む。
沖田「…意味が…わからない――…。」
そう呟き顔を上げる。濡れる口元を腕で拭い、視線を移すとそこには美月ちゃんと慎吾くんの幸せそうな写真が飾ってあった。
沖田「―――ッ!!」
何なんだよ。意味が判らない…。何でこんなに苛々するんだ…?気持ちが悪い…。僕は此処に来てまだ2日しか経ってないのに何でこんなにも――…。
沖田「……違う…こんな感情…嘘だ…。…僕は認めない――…。」
ジャー…
斎藤「………………。」