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第十五話 網無くして淵にのぞむな。

 

『……る…ぃ——』


 ——遠くに声が聞こえる……

 ——思考が……五感がはっきりとしてくれない…

 ——薄らと視界に揺れる一つの影。


『……る…でぃ——』


 ………女の子——?


『ルディ……ま——』


「——ル……リス…?」


 ——徐々に戻りつつある思考と五感に訴えかけるのは目の前の少女の言葉と形容……


「大丈夫で…か……ルっ——」

「——ルリスっ!!」


 目を見開いたルディは慌てた様子で——少女の肩に掴み掛かり名前を呼ぶ。


「——るっルディ様…?」

「あ……アレイラ…様……」


 ……ルリスじゃない。


「ここは……」

「ここは馬車の中ですが……どうかされましたか?突然、遠くを見るように黙ってしまいましたが…やはり()()の戦闘で何処かが……」


 目の前の少女は心配する表情でルディの身体を気遣う。

 そんな彼女に心配はいらないとルディが告げるが——少年には疑問が残る。


「——()()……?」

「ええ。先程の——()()()()()()()


()()()()()()』——『()()』……そう…か。


 今は賊を捕らえて数十分、やっと馬車が再出発したところ…か……


「で、ルディ様は!!どこに属してらっしゃいますの!?」


 ——でもなんだ?


 少年の中に残る違和感——


「いえ、特に所属するという事はしてませんが……」


 ——この既視感。


 思考などろくに回らずとも——


「——まるでお父様とお話をしている様ですわ」


 ——なにか……


 口から出る言葉——


「お褒めの言葉を与り……」


 ——なにか……大切なことを……


 まるで、決められていた——


「恐悦……至極にございます…………」


 ——……忘れてしまっている………


 台詞の様に——


『——是非、"()()()"の方々にもご挨拶がしたいですわ——』


 ——"ルディの違和感に音を立て落ちた、その言葉"——


「——…思い……出した——」

「——ど、どうかされましたか?」


 なぜ——忘れていた?

 なぜ——忘れられる?

 俺が先程まで居た場所は——"()()()"。


 ルディの足先に触れる、床を転がらヒビ割れた一つの球体——


 ——ルディは拾い上げる。


「——これは……」


 ■■■


 なぜ——


 ——ルリスが……

 ——アリシアさんが……

 ——ジジ村長が……

 ——みんなが……


 ——死ぬんだ——


「——なんで……?」


 沈み込む少年の心には一切の光は消えて。

 少女(ルリス)を優しく眠らせた彼は無気力に……立ち上がる。


「——なぁ……」


 家屋の外に見える"魔物"は村の生き残りだと……少年を舐めるように視線を伸ばす。


「——なんで…みんなは死なないといけなかったんだ……」


 敷居を跨ぐその足先にぶつかる球体に目もくれず。


「——答えてくれよ……なんで…なんでっ!?」


 少年の声は次第に荒れるように。

 魔物の呼吸も荒れてゆく。


「——なんでっ!!ルリスは!!死なないといけなかったんだっ!?答えろっ!!答えてくれよっ!!」


 ——ルディの必死な問いに返ってくるは。


『ギョァァア゙ア゙ア゙ッッ——!!!!』


 魔物の醜くけたたましい(わめ)き……のみ——


「——……死ね…………——」


 ■■■


 ——そこで俺の意識は無くなった——

 ——微かに聞こえた"あの声"と共に——


「ルディ様、本当に大丈夫で——」

「——アレイラ様、心配をおかけして申し訳ありません……重ねて唐突で申し訳ありませんが。僕は忘れ物を取りに戻ります」


 そう言ったルディは動く馬車の扉を開き。


「っえ?わ、忘れ物って一体どこに!?」


「それでは、また何処かでお会いできれば光栄です」


「ルディ様っ!?少しお待ちにっ!!」


 少年は少女の引き止める言葉を笑顔で返し、走行中の馬車より降車する。

 外ではルディの名を呼ぶ護衛の声が聞こえる。


 アレイラは開いた扉より頭を出して、少年の後ろ姿を確認しようとするが……


「……な、なんて速度で——」


 もう既に彼の姿は遠く——

 引き止めることは不可能だと悟るのであった。


 ■■■


 時間にして15分程度。

 俺はオル村に戻ってきた……


 ——村には一切荒れた様子は見受けられない……


 そう心を焦らせているとルディの視界の奥に。


 遠くの村長宅よりぞろぞろと出てくる五人の影が——


「……はぁ…」


 そこで、ルディは(ようや)く安堵の息を漏らすことができる。


「ぉおっ!?ルディじゃねぇか!?」


 そして彼らの視界に認知される頃には、聞き慣れた豪胆な女性の声や目を丸くする男性、目を細め……少年の顔をしっかりと確認するという面々。


「なんだ、ルディ!!まさかっ一日ぽっちで故郷(いえ)が恋しくなっちまったか!?だははは!!」


 ルディの姿を確認して目を丸くした狩人はそう言う。


「あはは。実は——」

「——ままっ皆まで言うなよ!!破魔の一族の名が泣いちまうぜっ!!だははは!!」


 ルディが理由を話す前にと、ゼパは言葉を遮る。

 ——これはこの人なりの気遣いなのだろうかと、ルディは言葉を続けることはなかった。


「——んじゃ見回り行ってくらぁ」


 そう言い残したゼパは、日課である村周囲の巡視に足を向ける……


 そして、その背中の先に——ルディは思う。


「——アレイラ様に聞いておけば良かった……」


 ■■■


『言えなかったもんな。『好き』も『愛してる』も』


 どうもこの部屋を居ると。

 母の言葉が私の頭を巡ってしまう……


 そんな事を頭の(かたわ)らに、彼女はルディの帰りを待つ様……再びこの村を出た彼の家を掃除し続けている。


「はぁ……」


 窓に反射する気鬱な少女の表情にルリスは『酷いな』と心にぼやく。


「こんな顔……ルディが見たら——」


 そんな、自虐の言葉の続きに——


『「——辛気臭い顔だな」』


 ——もう一つの声が重なり聞こえてくる。


「うわぁ…我ながら重症だなぁ……」


 幻聴まで聞こえてくるなんて……


「どんだけ……す——」

「——なんで俺の家に居るんだよ」


「……ん?——んっ!?」


 ——ルリスは大きな骨音が聞こえる程の勢いで首を後ろに回す。


「——え、今の音なに?そして大丈夫なの……それ…」


 目の前で少女が背中を向けて頭だけをこちらに向けている……

 ルディは単純な恐怖を感じる……


「だっだだだ大丈夫っだからっ!!何も言ってないわよっ!?驚いたたただけけけだからねっ!!」

「人間は驚くだけで……首の骨が増えるのか……」


 それは……全人類にとって大きな進化ではないだろうか。

 焦りすぎな少女の身体を元に戻しながら少年はそう思うのだった。


 ■■■


「で、なんでルディが居るのよ」


 落ち着きと取り戻した、ルリスからは当然の疑問が出てくる。

 その疑問にルディは先程言えなかった嘘の理由を答える。


「いやぁ……途中に魔物と出くわして。尻尾巻いて逃げちゃったよ。ははは」


 情けなくも、最も現実的な嘘を吐くルディに。

 ルリスは迷わず答えてくれる。


「だから言ったでしょ危険だって——」


 ルディは思う。

 ——共に笑ってくれなかった少女の表情がまた元に戻ってしまうと。


「で、なんでルリスが居るの?」


 彼女の言葉を模倣する。

 すると、少女の表情が動揺へと変わる——


「——な、ななんなんなんでって!?」

「うん。なんで?」

「そ、それは……あ、そうっ!!お母さんに言われてて!!『ルディが居ない間は掃除してあげな』って!!」


 ——あ。


 そういえば、初めてテニオスからこの家に帰ってきた時。

 案外、汚れてなかったことが気がかりだったけど……なるほど。


「もしかして、僕がテニオスにいた時も?」


 ルリスはルディの問いを肯定する為に。

 首を怒涛の勢いで振る……次は首が落ちるのか?


「……ありがとう——」


 ルディただそう伝えて——

 ルリスに抱擁を交わす——


「え、ちょちょ、あ…きゅ〜」


 どこかで聞いた様な音がする……


 ——どういう因果か事象か知らないが——


 ——……再び与えられたこの平穏(にちじょう)は——


「——俺が必ず守るから——」


 ■■■


 自宅に帰って四十五分が過ぎた——サフィレット家の馬車を下車してから一時間。


「もう……そろそろか」


 ルディは自室のベッドで静かに寝息を立てる少女を尻目に時刻を確認して小さく言葉を溢した。


 俺は現在。

 村を中心にして半径10キロメートルに常時索敵(サーチ)スキルを発動させている。


 範囲内にある——ヒトの生命反応は118人。


「…ゼパさん、結構遠くまで巡回してんだな」


 一つの反応が村から北西に2キロ程外れている。

 ……この反応は村の巡視に出ているゼパだとルディは認識する。


 ——この村を襲った魔物は、"魔物としての反応"が索敵(サーチ)に示される。


 時計の針はオル村を襲った時間に限りなく近い……


 ——しかし。


 現状、索敵(サーチ)に示された魔物の生体反応はオル村に近寄る行動を一切見せない——


「…………」


 ——そこで、とある考えが……ルディの頭をよぎる。


「——"夢"だった……」


 ルディ言ったその言葉が——


 まさに、(まこと)に成るように——


 時は——静かに過ぎてゆく……


 ■■■


「ルディ〜」


 あれから一刻(いっこく)が過ぎた頃——ルディの自宅には戸を叩く音と共に父の友人の声が響く。


「ゼパさん?」


 そう言って腰を上げたルディは戸を開く。

 その先には声の主である友人(ゼパ)と——


 甲冑を身に纏う者が居た……


「えっと……どなたですか?」


 ルディはゼパに目配せをする。


「以前、この村に来られた事もある王国騎士団の"使者"の方だ」

「申し遅れました。私はこの度、テニオスからサフィレット家に伝達する任を与えられた"ナウイ"と言う者です」


 そう言ったナウイは少年に辞儀をする。

 そんな様子を見たルディは、自分に言うのも何だが『こんな子どもによくもご丁寧に』とナウイに対して感心を抱く。


「初めまして、ここに住んでる者で…ルディといいます」


 ルディもナウイに倣い自己紹介と深い——辞儀を返す……


「——……——」

『君の…は『【——----——】』』


 ノイズの混じる声——視界は無い……


「——まさか——」


【再び告げる】


「……なんで?」

『……で…まない…』


【——勇者——の死亡を確認——】


「——はっ?」

『私と……に』


【——----の失敗を確認——】


「…………」

『てに……に来てくれな……』


【——最終----を----します——】


「……やっぱり"夢"じゃなかった——」


 ■■■


『で、ルディ様は!!どこに属してらっしゃいますの!?』


 身を乗り出しこちらに迫る——


 ——サフィレット・フォン・アレイラ——


 ——ふと思うが……


『"ルディ様……わたくしのモノに……"』


 ——目醒める場所が"ココ"なのは。


 ——(いささ)か都合が良すぎでは——


「——アレイラ様…ご相談が……あります——」

いつもご拝読いただきありがとうございます。


今回少し投稿までに時間がかかりました。

申し訳ないです。

話は変わりますが、なんと!!

気付けばこの小説、五万文字超えておりました!!

それも、これも読んでくださっている皆様のおかげでございます!!

ありがとうございます!!


皆様の反応がすごく励みになっております!!

作品への感想などございましたら是非書いて頂きたいです!!


今後とも宜しくお願いいたします。

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