第十四話 遅れた——虫の知らせ。
オル村——
村長宅にて、村の要を担う者達が集められる。
オル村・村長。ジジ・ド・オル。
その娘で村長補佐、アリシア。
狩人のまとめ役、ゼパ。
村の財務役を担う女性、ハリア。
村の大工頭を務めるご意見番、グロン。
計——五名。
「国王より此度の 陽報が参った」
ジジがフーリッシュ王国より届いた恩賞に関する文書を読み上げる。
一つ。
——オル村の税の徴収を向こう五十年間、免ずること。
二つ。
——賞慰、金貨一〇〇枚を与えること。
三つ。
「『——我が国の宝に未来を与えること——』」
ジジは残り二枚の文書を手に取る。
一枚は戦で命を賭した村人達への謝罪と感謝。
そしてもう一方は——
「「「「…………」」」」
ジジの手にする一枚の紙に四人は息を呑み、表情を強張らせる。
「……王様ってのは案外太っ腹だねぇ」
——そんな大人達の様子を。
少女は影より覗き込んでいた……
■■■
ルディが出て行って——まだ一日も経っていない……
「また待つのね……私…」
『ルディッ!!私はいつまでも待ってるからっ!!』
私なに言っちゃってんだろ。
まだ……ルディに
「す…す……すっだあ゙あーーーッッ!!」
ルリスはルディがいつも眠る枕に言葉にならない声をぶつける。
「はぁ……別に私はルディのなんでもないのになぁ……」
なぜ、ルリスがルディ不在の家に居るのか——
「……ふぅ…とりあえず——掃除しないとね…」
アリシアの助言(?)により。
ルディの帰りがいつでも良い様にと、部屋を綺麗に保っているのだった。
「——ん?何か光って……」
少女の視線の先には棚の上に並ぶルディの両親の形見……
ルリスはその中に一つ見慣れない物を見つける。
「これって…ルディがずっと持ってた首飾り……でも、なんで急にひかっ——」
『——きゃあぁああ!!』
「——なに……今の悲鳴…」
■■■
「おい、ペトラ。おかしくねぇか?」
「そうですね……今日に限って魔物の数が少ないというのは。やはり"あの方"にはご加護があるとしか——」
「——バカ言うんじゃねえよ。今日は何処からも中級の魔物どもの報告がねぇんだぞ……」
そんな加護があれば、人類種における最大の 人体兵器になるじゃねぇか。
「……気持ち悪くてしょうがねぇ」
「魔物の数や質が落ちて『気持ちが悪い』とは人間の慣れの恐ろしさですね」
部下の軽い嫌味に少々の引っかかりを感じるも、ディアーナは思い過ごしだと黙って彼女の話を聞く。
「どう致しますか?サフィレット家の援軍の件は……」
ペトラは魔物達の 異常行動での 憂慮が無くなった事で、上官であるディアーナに指示を仰ぐ。
「使者は今日戻る予定だったな……蜻蛉返りさせる事になるが——」
「——では、サフィレット家には援軍の中止を……」
自身と上官の 間に違いがない 様で。
ペトラは早急に伝達役の元に足を向ける——が。
その動きをディアーナは留める。
「——いいや」
「……はっ?」
振り向いた先に映る、ディアーナは巨大な 剣を血振るいしながらそう言った。
「逆だ——数を増やす様に指示しとけ」
——今日も 宵の口が迫りつつある……
■■■
ルディがアレイラに迫られてから"一時間弱"——少年は懐より覗く懐中時計を確認する。
サフィレット家の紋章を飾る馬車は遂にテニオスに到着した。
「ご無沙汰ですわね。勇者パーティーの皆様方」
出迎えられた騎士団と勇者パーティーの前で、アレイラはスカートの裾を摘み上げ、軽く膝を曲げる。
そして、言葉を続ける。
「此度の魔王討伐。我が父に代わりましても……心より最大の敬意と感謝を申し上げます」
毅然とした面持ちで語る少女にルディは。
貴族とは——
生まれながらにして貴族なのだと感じる。
「なんだぁ?アレイラ!!」
貴族令嬢であるアレイラを呼び捨てにする声の主……
「ちょっと見ねぇうちに、大人ぶりやがって!?あ゙ぁ?」
ヤカラ——ではなく、フーリッシュ王国騎士団長・ディアーナ・ローズである。
「お元気そうで何よりですわ。ディアーナ"嬢"……」
先ほどの 毅然としたアレイラの表情は曇り。
見るからに 彼女に対する苦手意識を表に出している。
「ぬぁっ!?」
ディアーナはアレイラの肩に腕を回し、楽しそうに少女を弄っていたが何かを思い出したかの様に表情を広げる。
「そういや、途中で『面白い奴』を見つけただなんだって……それもオレたちも知ってる奴だって?」
「…えぇ、確かに" 伝令石"で、そう伝えさせていただきましたわ」
『——やっと光ったわね』
『アレイラ様、それは?』
馬車の中——アレイラは 徐に光る小袋を取り出した。
『これは"伝令石"——わたくしの所持する魔法道具の一つですわ』
伝令石とは——
魔石を加工したものの一種であり。
同一の魔力量を注ぐと、石同士が 繋がりを持つ。
すると、"一定の範囲内"で音を伝える事が可能になるという非常に優れた魔法道具である。
なお、製造に対する 原価が高すぎて一部にしか流通はしていない。
『では、ルディ様は少し口を閉じていてください』
『あ…はい』
『——あ。あ。聞こえいますか?わたくしです。いま、最後の村を過ぎた辺りでおもしろそうな方を……ええ。勇者様のお知り合いだと……ええ——』
そういえばそんな話してたな……
「と言う事なので、勿体ぶっても仕方ありませんわ!!」
外で合図の言葉が聞こえる……
その声にルディはため息を吐く。
「はぁ……」
「では、お披露目ですわ!!」
少女の言葉と同時に開かれた扉——
箱より 出づは——
——その身を 玉座より地に 堕した 黎黒の王を 彷彿とさせる……
—— 黒髪の少年——
主の 黒と 調和する様にあしらわれた装飾とあどけなさを残すボディラインをしっかりと射止めた 衣装に身を包み——
長く妖艶な 睫を 佩く 華瞼に隠れた 銀灰の瞳——
——その 愁う瞳に、見る者は 心悲しいという気持ちを抑えられない……
「「「「……………」」」」
——その場に存在する皆が呼吸をすることを忘れてしまう程に……
ある者は——その気持ちから逃げる様に目を背ける。
ある者は——どうしようもない、無力さを感じ、諦めてしまう。
ある者は——彼に触れることを 躊躇い拳を強く握り締める。
そして、ある者は——自分が準備したにも関わらず…皆んなの反応と完成形を見た時の想定外の魅力にどう収集をつけるかと思考を悩ませる。
「……なにこれ…」
「どう…しましょう……」
少年 少女は、小さく呟くのであった。
そんな異質な空間で——……
それは——唐突にやって来る——……
「ディアーナ団長ッ!!」
息を絶え絶えにした団員が険しい表情でディアーナの名を叫ぶ。
その叫びに空間は決壊し……
——ルディは不意に嫌気がさす……
「何事だッ!!」
ペトラ副団長が問いを返す——
「たった今!!使者より連絡があり!!」
——胸のざわめきが大きくなる……
「——"オル村"に中級の魔物が発生……」
——その"言葉"を耳にした瞬間。
目に映るものの時間が遅くなる——
——ダメだ…
「——既に死者が出ており!!壊滅的状況ですッ!!」
「オル村……確か、ルディの……」
——ダメだ……
——ダメに決まってる………
『ルディッ!!私はいつまでも待ってるからっ!!』
ルディの脳裏に涙を堪えた 少女の笑顔が浮かぶ——
「る、ルディ様ッ!!?——」
「——すみません…………」
静かに告げた少年は……… 刹那……
—— 忽然と姿を消した——
■■■
——ダメだ…………
轟轟と燃え上がる 炎は記憶にある風景を飲み込み——
——ダメだ……………
半日前に言葉を交わした 村人の姿はどこにも見当たらない。
『——この場所は——』
母の豪快な笑顔も………
その父の優しさも………
『……ルディの』
そして………ルディ部屋に眠る彼女に……
『……俺の——』
少年は大円の血溜まりに膝をつき……
抑え込むことのできない感情は溢れ出す。
『——大切な 故郷なんだ——』
——胸に牙痕を貫く彼女の亡骸を——
【——----の失敗を確認——】
……ルディは強く抱きしめる。
「……ぁああ゙あ゙あ゙あ゙あああっっっ!!!!」
【——最終----を----します——】
いつもご拝読いただきありがとうございます。
皆様の反応がすごく励みになっております!!
作品への感想などございましたら是非書いて頂きたいです。
全て読ましていただき返信させていただきます!!
今後とも宜しくお願いいたします。