第十三話 情も過ぎれば仇となる。
『ルディッ!!私はいつまでも待ってるからっ!!』
ルディの脳裏に涙を堪えたルリスの笑顔が浮かぶ——
——なんでだろう……
馬車の中、ルディは心に呟く……
「で、ルディ様は!!どこに属してらっしゃいますの!?」
「——あ、いえ、特に所属するという事はしてませんが……」
お頭さんを吹っ飛ばしてから数十分。
勢いを無くした盗賊の残党達を全員捕縛し、ルディ達は再びテニオスを目指す。
「なんとっ!?では、その武術は一体どこで身につけられたのですか!?」
先ほどの車内とは打って変わり終始興奮気味のアレイラ。
「そうですね。強いて言えば今は亡き父に教わりましたね」
特に抵抗もなく出てくる偽りの言葉。
十二年姿変わらず実践経験を積みましたなんて面倒くさい事は言わない。
「なるほど、それは是非お会いしたかったです……」
「気を遣わないでください。こうしてサフィレット家の方に存在を認識してもらっただけでも立派な栄誉ですから」
流石の破天荒も死に関しては神経質……ってこれは失礼だな。
そんなこと思うルディのフォローにアレイラは微笑む。
「ふふ。可笑しいですね」
「そうでしょうか?」
「ええ。やはり、ルディ様はおもしろいですわ。とても年下の平民の方には思えません。まるでお父様とお話をしている様ですわ」
「勿体なきお言葉をいただき、恐悦至極にございます」
「是非、オル村の方々にもご挨拶がしたいですわ」
アレイラの言った褒め言葉は平民のルディにとって畏れ多くも光栄な言葉である。
——つまり。
「どうですか?」
「『どうですか』とは?」
「そんな"いけず"嫌ですわ」
アレイラはルディに意地悪をするなと艶やかに訴える。
「…………」
が、その訴えにルディは反応しない。
「ふっ……い、良いですわ。そんなに、わたくしに言わせたいなら伝えて差し上げます。ここまでの事は初体験でしてよ」
——アレイラの真意。
それを受け入れれば——ルディは"伯爵令嬢の執事"として迎え入れられる。
——辺境に生まれ育った狩人の息子に与えられたその権利は。
同じ平民から見れば神々の祝福と大差ない程の幸運であろう。
「ルディ様……わたくしのモノに——」
「——あ、嫌です……」
頬を赤らめながら、ルディに手を差し伸べようとしていたアレイラ——
しかし、言葉も行動も。
ルディの悲痛な一言に止まってしまう。
「……え?」
「え?」
「ゔゔん。改めまして……わたくしのモノに——」
「——ならないですよ?」
「……つかのことをお聞きいたしますわ」
「——なぜ?」
アレイラの口から、この言葉が出てくるのは言うまでもなく。
そんな困惑の表情を浮かべる彼女に。
——ルディは挑発するように一言。
「—— 興味ないから」
「——ズッキュン!!ですわ!!——」
■■■
「ううっ……」
「どうしたルリス?寒いのか?」
「ん、いや。なんか悪寒が走っただけ……」
「風邪か……あ。いや、ルディに女か?」
そうニヤつく母の肩を小突くルリス。
「言えなかったもんな。『好き』も『愛してる』も『 ****』も——いだっ」
続いて頭を小突く。
だが、しかし。
母の言葉にも一理ある。
「伝えれば良かったかなぁ……」
十一年間ものあいだ胸に秘めた想い。
この村では歳一五程で婚姻を結ぶのも珍しくない。
——つまり想いを伝えるのには絶好期で。
ルリスは彼の長い旅路を祝った後で。
——そんな、少しの後悔を抱いているのであった。
「決めたでしょ私!!ルディの枷にはならないって!!さっ仕事、仕事!!」
そう言ってパシッと頬を赤らめては村の帳簿管理へと向かう娘をアリシアは。
「青いねぇ……」
優しく見守るのであった。
「あのバカおかんっ!!!!来客用のお酒、一瓶飲んだな!?」
「——やべっ……」
■■■
——それは………
——確かに私のせいだった——
『"白銀の悪魔"』は私に告げた。
『——友は貴様の 怠慢故に死した——」
のだと——私の…
—— 安堵が…
—— 心弛が……
—— 虚が………
——『" 彼女の死をまねいた"』——
………そうか——
■■■
「ふぅ……流石に疲れるなぁ」
「ですねぇ」
「も〜無理です〜 MP回復の瓶飲みたくないです〜」
「…今日……魔障壁の損傷…激しい……」
「え〜ムーちゃんそれって私たちに対する文句〜?」
太陽が西の空に沈む頃。
口々に疲労を吐露する勇者パーティーはテニオスのとある建物内で体を休める……
「しっかし、何で"奴ら"はこの 時間になると引いてくんだぁ?」
ディアーナの言う"奴ら"とは現在テニオスを毎日決まった時刻帯に攻め入る—— 異常行動を執る魔物達のことである。
「その原因が分かってたら、いまここまで苦労してないって話ね」
「そうですね〜一体何が原因で"中級の魔物"まで来てるんでしょうか〜」
「普通で考えたら"奴ら"よりも"上位者"が向こう側にいるってことだな……」
この街にいる者。
全ての人間が考える可能性。
「…つまり…"上級の魔物"……」
彼女らの会話に上がる『上級の魔物』とは——
人類種や魔族、龍族などの高度生命体を除く 自然界において。
——最上位に位置する生物群である。
現在フーリッシュ王国では、上級の魔物『一体』を討伐するのに一部隊200名で構成される隊が最低でも3部隊は必要である。
「…でも…その…可能性は………低い……」
「は?なんでだ?」
ムーは皆が思う当たり前の可能性を否定する。
そして、その声にディアーナは眉を顰める。
「多分だけど……毎日決まった時間に魔物がやって来るからじゃないかな?」
「…そう……」
キオナの意見をムーは肯定する。
「……上級とはいえ…所詮は魔物…彼らは……本能で生きてる…目的なんてもたない……」
現在の 異常行動は昼に始まり日暮前には終わる。
これが七日も続いている……
「規則正しく、出てきたり〜引っ込んだり〜はしないって事ですね〜」
「はぁ……じゃあ お前は何が原因だっと思ってんだよ」
ムーの回りくどい返答に少々苛立ちながらディアーナは問いただす。
「…説は二つ……一つは…目的の為に……一定の動きを取る…上位の魔物……」
「それはいま、自分で否定じゃねえか」
「…だから……二つ目……」
「——意図して 異常行動を起こす者……」
中級の魔物を操る者——つまりは上級の魔物と同等以上の力と策を思考できる頭脳を持つ者……
そんな稀有な存在は限りなく絞られる——
——人類種と似てはなる者たち……
「……ぷはっ!!ムー、お前まさか——"魔王軍の幹部"がこのこの街を狙ってるって言いたいわけじゃないよな?」
ムーの言葉に吹き出すディアーナだが。
態度に反してその目には若干の焦りを孕んでいる。
「……その方が…可能性は高い——」
"魔王軍の幹部"とは。
魔王より直接の配下として認められたごく少数の者たちを指す。
個々が単純にいっても——国家単位の軍隊に等しい力を有すると耳にする。
「おいおい……そりゃ冗談キツイぜ?」
「……至って…真剣…」
事態の可能性に気付いたディアーナは現実を受け入れ難いといった表情を浮かべる……だが、その気持ちは皆同じであった。
そんな張り詰めた空気の中。
キオナは一人顔色を違わせとある疑問を呈する。
「でもさ——なんで魔王が死んだ今になって、 この場所に……?」
■■■
——同時刻——
薄い月明かりが深緑の髪を照らす……
「……ケケッ。時は満ちた……」
男は満足げで邪悪な笑みを浮かべる。
「ついに…願いは達せられる!!」
勢いよく腕を振った男は 号ぶ。
「オレ様の偉業を待っていてくださいっ!!」
——敬愛する 主を想って。
「——"シナート様っ"!!」
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