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第9話 ヒロインの思惑

「おかしい、おかしいわ……。」


辺りが寝静まった深夜。

とある男爵家の自室で、ネグリジェに身を包んだ乙女が、枕に八つ当たりをしながら憤慨していた。


「おかしい、絶対おかしい!なんでヒロインである、この私に靡かないのよ!?」


ぼすぼすぼす、枕の形を何度も変えながら拳を叩き込んでいる令嬢は、呪詛の様に不思議な単語を吐いていた。


ヒロイン、逆ハー、乙女ゲームなど、この世界では聞き慣れない単語だ。


男爵令嬢エミリア・ランヴァッハは、何を隠そう転生者であった。

エミリアはある時、自分が転生者だという事に気が付いた。

数年前、昔住んでいた家の階段から足を踏み外し頭を強く打ったことで、いきなり生前の記憶を思い出したのだ。

そして、ここが生前の自分が嵌っていた乙女ゲームの世界だと気づいた。

しかもラッキーなことに、ヒロインというポジションだった。

エミリアは、その事実に歓喜乱舞した。

そしてそれからは、とんとん拍子に話が進み、予定通り男爵家の養女として引き取られた。

せっかく好きなゲームの世界に生まれ変わったのだからと、ゲームにもあった逆ハーコンプリートを目指してみたのだが……。


「なんっで、一番簡単なはずの攻略対象が私のものにならないのよ!!」


エミリアは「キィ~!」と奇声を発しながら、また枕をぼすぼす叩きだした。

もちろん、エミリアが狙っている攻略対象者は、第一王子であるレイモンドだ。

彼は『第一王子という周りからの重圧に圧し潰されそうになりながら、懸命に努力する裏で誰かの救いを求めている』という定番中の定番設定で、難易度も一番低く、ゲーム内でも比較的簡単に攻略できるキャラの筈だった。

イベントもクリアしたし、あとは第一王子が自分の事を好きになればコンプリートなのに、あの王子は押しても引いても一向に、こちらに興味を示してこなかった。


「おかしい、絶対おかしい……一番最初の転入初日の出会いのシーンはクリアしたでしょ。あとは廊下で転んで助けられるシーンと、温室でのお茶会と、あとはあとは……。」


思いつく限りのイベントシーンは全て全部試してみた、それでもダメだったので、やっぱり現実世界だともっと積極的にいかないといけないのかしらと思い、イベントに似たようなシチュエーションを何度も試しているのだが、肝心のレイモンドは、うんともすんとも、こちらの誘いに乗ってこなかったのである。

挙句の果てには、定番の「あなたの悩みは知っています。お辛かったでしょう?無理しなくていいの、私ならその気持ちわかります!」などというような殺し文句を言った時でさえ、何故かぽかんとした顔をされ「大丈夫?」と逆に心配されてしまった程だ。


「あとは、悪役令嬢のエリアーナからの嫌がらせが始まって、そのまま卒業式で断罪すれば済むだけなのに……なんでよ?」


他の攻略対象はもっと簡単に落とせたのに、何で何で?と、エミリアはぶつぶつと呟く。

そして、暫く愚痴を零していたエミリアは急に顔を上げて窓に映る己を見た。


「やっぱり、あの婚約者が邪魔なのよね。」


そう言いながら、真っ暗な窓を見るエミリアの瞳には、不穏な光が浮かんでいたのだった。


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