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側近候補と婚約者たち

卒業式前夜祭――

二人の青年が、パーティー会場の様子を見ながら安堵の溜息を出していた。


「これで、エミリーも幸せになれるだろう。」


「……ああ。」


片方の相手の言葉に、隣にいた青年も感慨深げに頷く。

しかし、その表情はどこか暗く、まるで一つの恋が終わったかのような切なそうな顔をしていた。




彼等が見つめる先には、彼等にとって最愛の女性が幸せそうに微笑んでいる姿があった。

想いを寄せる相手と腕を組み、今まさに幸せの階段を昇るべく会場に入って行った所だ。

それを彼等は、先程見送った所であった。


これでいいのだ、これで良かったのだ、と二人の男たちは涙を飲んでレイモンドとエミリア、二人の門出を祝福していた。

己の恋心を犠牲にし、二人の仲を取り持った自分達に酔いしれていると、背後から突然声がかけられた。

失恋に苦しむ悩ましい男、という表情で振り返ったサイモンとエルリックは、そこに居た人物たちを見てピシリと固まったのだった。


「「ごきげんよう、エルリック様とサイモン様。」」


そこに居たのは、サイモンとエルリックの婚約者たちであった。

見事に重なった美しいハーモニーに、固まった男たちは、すぐに返事ができず青褪めた顔で彼女たちを見ていた。


「イ、イリア子爵令嬢……。」


「サ、サニア伯爵令嬢……ど、どうして此処に?」


彼等は口をパクパク開け閉めさせながら、やっと搾り出せた言葉はそれだけだった。


「あら嫌ですわ、今日は卒業式前夜祭ではありませんか。わたくし達も明日、卒業する生徒なのですから参加しているのは当たり前ですのよ。」


「おほほほ、おかしな事を言いますわぁ。まるで、わたくし達が居ないものだと思っていらしたみたいですのね?」


うふふ、おほほ、と朗らかに微笑む婚約者たちに、サイモンとエルリックは口の中で悲鳴を上げる。


「い、いや……そういうわけでは……。」


青褪めた顔のままサイモンが、ごにょごにょと言い訳を呟くが、それには応じずサニア伯爵令嬢が言葉を続けてきた。


「そういえば、サイモン様とエルリック様は、ご参加なさっていたのですね。いつまで経っても前夜祭の同伴のお誘いが無かったものですから、わたくし、てっきり御婚約者殿は、ご参加なさらないものだとばかり思っておりました。」


「ええ、婚約者がいる身で相手を置きざりにして参加なさるなんて、あり得ませんものねぇ?」


そう言いながら、お互い笑顔で頷き合う令嬢たち。

その遣り取りに、サイモンとエルリックは冷や汗をだらだらと流しながら何も反論できずにいた。

そんな二人の耳に、会場からどよめく声が聞こえてきた。

何事かと会場に目をやると、何故かエミリアと侯爵令嬢のクリスティーナが声を荒げている姿があった。


「なんだ?」


「あら、始まりましたのね。」


会場の様子に驚く二人に、令嬢たちは涼しい顔で会場を見遣る。

そんな令嬢たちに、サイモンは訝しそうな顔で聞き返してきた。


「な、なにが始まったというのですか?」


「もちろん、あのお二人の断罪ですわ。」


イリア子爵令嬢の言葉に、サイモンとエルリックは目を見張る。


「そ、それはどういう……」


エルリックが思わず聞き返すと、イリアはにっこりと微笑みながら話し出した。


「第一王子レイモンドさま直々に、あの方達が今まで犯した罪を暴いてくださるそうですわ。」


「サイモン様もエルリック様も、よくご存じの筈でしょう?」


イリアの言葉に、サニアが付け足すように言葉を乗せてきた。


「な、何の事だか……。」


二人の令嬢の笑顔と言葉に、さすがのサイモンも声が震えて言葉に詰まってしまった。

取り繕おうと、すればするほど挙動不審になる。

会場の様子と婚約者たちに挟まれて、身動きの取れなくなった二人に令嬢たちは言葉を続けてきた。


「あちらの事は、レイモンド様にお任せしましょう。」


「ええ、第一王子様ならきっと厳正な審判をお下しになられますわ。」


「未来の主が賢明な方で良かったですわねぇ、サイモン様、エルリック様。」


「あ、ああ……。」


話がようやく終わりそうな雰囲気に、サイモンとエルリックは内心胸を撫で下ろす。

しかしそんな二人に、令嬢たちは更なる追い打ちをかけてきたのであった。


「それよりも、わたくし達の今後についてお話を致しましょう。」


「え?」


令嬢たちの言葉に、引き攣る婚約者たち。


「わたくし、今宵はサイモン様にお誘い頂けなかったので、お父様と一緒にきましたの。」


「あら奇遇ですわね、わたくしもですわ。」


うふふふふ、と微笑み合う令嬢たちの後ろから、同じように笑顔を顔に貼り付けた伯爵と子爵が現れたのであった。

思わぬ登場に、サイモンとエルリックは互いに抱き合いながら10センチほど飛び上がる。

そんな彼等に、令嬢たちの父親たちは笑顔のまま口を開いてきたのだった。


「やあ、婚約者殿。ずいぶんと好き勝手な事をしていてくれていたようだねぇ。」


「久しぶりだねぇ。今宵は、我々のように子供の晴れ舞台を見に来た方々も沢山いるそうだよ。そういえば、騎士団長と宰相閣下も来られているようだ。積もる話もあるので、あちらでゆっくり話をしようじゃないか。」


そう言って令嬢たちの父親たちは、にっこりと微笑みながら提案してきたのであった。

その笑顔の下に、有無を言わせぬ圧力を感じたサイモンとエルリックは逃げられないと悟り、がっくりと力なく項垂れたのであった。


卒業式前夜祭でエミリア達が断罪されている間、パーティー会場から少し離れた別室では、小さな修羅場が繰り広げられていたのであった。




その後、サイモンとエルリックはお互いの婚約者から婚約破棄を言い渡されたのであった。

そして、宰相と騎士団長は息子の不祥事にかなりご立腹だったようで、一から鍛え直すと豪語し、サイモンは次期宰相の座を降ろされ卒業後は文官見習いとして遠い僻地に送られることとなった。

そしてエルリックも、父親である騎士団長の逆鱗に触れ、彼もまた辺境の国境警備の任務に強制的に行かされることになってしまったのであった。

そして、婚約破棄した御令嬢達はというと、その後良縁に恵まれ清廉潔白な婚約者と仲睦まじく過ごしているそうだ。


とりあえず、めでたしめでたしである。


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