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専属世話係と王子様

こちらは『第44話 生徒会の仮眠室で・・・・・』のその後のレイモンドの話です。

話の流れ上、その後のネタバレになってしまう為、本編では出せなかったものです。



―――――――――――――――――――――――――――――




最近、前夜祭の準備で忙しくしているという我が主が、真っ青な顔で帰ってきた。


生徒会の仕事が忙し過ぎて、体調でも崩したのかと世話係が心配していると、主であるレイモンドは開口一番叫んできたのであった。


「今日は厄日よ!!」


レイモンドはそう言いながら、持っていた鞄をソファへと叩きつけてきた。

珍しく憤慨している主を驚きながら見ていた専属世話係であるケビンは、何があったのかとレイモンドに訊ねた。

怒り冷めやらぬレイモンドは、ケビンをギッと睨み付けながらこう説明してきたのであった。


「どうもこうもないわよ!あの女、あたしの寝込みを襲ってきたのよ、信じられないわ!!」


完全に素の口調で叫ぶ主に、ケビンは「はい?」と首を傾げた。

あの女とは、たぶんあの女ーエミリアーの事を指しているのであろう。

あの、聖女候補だという男爵家の御令嬢……確か男と見ると色目を使ってきて鬱陶しいと、被害者でもあるレイモンド様が言っていたなと、ケビンは最近の出来事を思い出しながら推測した。

そして、先程聞いたレイモンドの発言にみるみる顔色を変えていった。


「ま、まさかあのご令嬢と一線を……!?」


「んなわけないでしょう!!」


ケビンの突込みに、レイモンドは米神に青筋を立てて否定してきた。


「全く、あたしが襲われてるのに、影達も助けに来ないし、生徒会の部員たちも、あの女が仮眠室に入って行った事も気づいてなかったし。どうなってんのよ!」


とうとう怒りの矛先が、影や部員達に行き始めたため、ケビンが慌てて止めに入った。


「部員の皆様は一般の生徒ですし、前夜祭の準備で忙しくて余裕が無かっただけでは?影については……まあ、貴方が女性に押し倒されたくらいで、どうこうされるとは思わなかったのでしょう。」


と、ずばりと言ってきた。

そのあけすけな物言いに、「あたしは、どうなってもいいのか!」とレイモンドは突込みを入れたが、ケビンはどこ吹く風。

相手にしてこない専属従者に、怒っているのが馬鹿らしくなり、レイモンドは盛大な溜息を吐くと、定例の影からの報告書に目を通すことにした。

ケビンから受け取った最新の報告書に、目を通していたレイモンドは、書かれた文字を目で追う毎に、わなわなと震えが大きくなっていった。


「何よこれ!エリィが、あの女の取り巻きに襲われたって書いてあるわよ!しかも壁ドン!からの抱擁!?何やってんのよ影達は?エリィに触れる野郎が居たら、即刻排除しろって言ってあるだろうが!!」


オネエ口調から段々と乱暴なそれに変わっていく主を見ながら、ケビンは「男みたいな口調も出来たんだな」と明後日の方向に感心していた。


「落ち着いてください!とりあえず証拠集めを優先したそうです。しかも、影達が助けに入る前に、エリアーナ様は自力で脱出したそうですよ。」


さすがは次期王妃様になるお方ですね、とフォローしているのかしてないのかわからない事を言ってきた。


「何感心してるのよ……エリィに何かあってからじゃ遅いのよ!」


呑気な事を言ってくるケビンに八つ当たりしながら、レイモンドは報告書をぐしゃりと握り潰す。


「もう、悠長なこと言ってられないわ……こうなったら使えるものは全部使って、あいつらの裏取ってやる!!」


レイモンドはそう言うと、ギロリと天井を睨み付けた。


「あんた達、今日から寝る間も惜しんで、あの令嬢たちの監視を強化しなさい!それと、ケビン!あんたにも協力してもらうわよ。」


そう言って睨み付けてくる主に、ケビンは狼狽える様子もなく「承知しました」と恭しく首を垂れた。

そして、着替えるのも惜しいとレイモンドは部屋を出て行こうとする。

その後ろ姿に、第一王子の専属世話係であるケビンは、これだけは言っておかねばと声をかけた。


「レイモンド様。この件が解決した暁には、エリアーナ様に俺と貴方の事は誤解でしたと、ちゃんと訂正しておいてくださいね。」


ケビンの言葉に、扉を閉めようとしていたレイモンドは、思わず動きを止めて従者を見た。

そこには、「誤解を解かないとわかってんだろうな!?」という従者からの恐ろしい程の圧力が、彼の瞳に籠っていた。


「そ、それも含めてちゃんと動くわよ!」


レイモンドはそう言うと、逃げるように王宮の執務室へと向かったのだった。

その後ろ姿を見送りながら、ケビンは「やれやれ」と首を振る。


「やっと、本腰を入れて対処する気になったか……。」


と、ケビンは誰もいない部屋の中で独り言ちた。

ケビンとしては、遅い位だと言ってやりたいのだが……。

まあ主は成人したばかりで、しかもまだ学生だ。

これから、どんどん色々な局面に立つ事になるだろう。

その度に、思い悩んで成長していってくれればいいさと、天井裏でばたばたと慌ただしく聞こえてくる音を聞きながら、ケビンは苦笑するのであった。




そして、ありとあらゆる方法で手を付くし、証拠を固めた前夜祭前日。

レイモンドは「エリィに当分会えないって、フォロー入れとくの忘れてたわ!どうしよう……」と、頭を抱えて蹲る姿があった。

その姿を見た専属世話係は「まだまだ、詰めが甘いですねぇ」と、溜息を吐くのであった。


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