第53話 隠謀崩壊
「護、衛?」
震える声で呟いてきたのは、はたしてどちらの令嬢だったか。
驚愕で目を見張ったまま、こちらを凝視する二人の令嬢達に、レイモンドは冷えた視線のまま答えた。
「もちろん護衛と言っても、彼女の学園生活の支障にならない様に極秘に、だけどね。」
そう言ってにっこりと王子様スマイルを披露してきたレイモンドに、令嬢たちの顔が引き攣った。
彼の言葉通りなら、かの婚約者には常に護衛が張り付いていたことになる。
そして、レイモンドは紙の束を受け取った時に、気になる事を言っていたのではなかったか?
――我が婚約者と、エミリア嬢達・の行動の記録――
と……。
二人の令嬢は、その言葉の意味に気づき目を見開いたまま、お互い顔を見合わせた。
そして、ようやく悟る――
自分たちは、ずっと見張られていたのだと。
そして何もかも、あの柔和な笑みを浮かべた第一王子に筒抜けだったのだと。
クリスティーナは青から白へと顔色を変えると、ふらふらとその場に座り込んでしまった。
同じように落胆する彼女たちの姿にレイモンドは、ほくそ笑みながら更に言葉を続けた。
「エミリア・ランヴァッハ男爵令嬢、並びにクリスティーナ・ファウゼン侯爵令嬢。君達には私の婚約者であるエリアーナ・アーゼンベルク侯爵令嬢への 傷害容疑がかけられている。また、王族の婚約に関して虚偽の噂を広め学園を混乱に陥れた疑いもある。これは王族に対する不敬であり、反逆罪にもなりうる行為であり、事は重大であると我が父である国王陛下は申している。よって、二人の身柄は拘束し然るべき尋問を行うよう陛下からのお達しである。衛兵!二人をひっ捕らえよ!!」
レイモンドの断罪に、二人の令嬢は泡を食って捲し立ててきた
「ま、待ってください!傷害容疑だなんて何かの間違いです!」
「そ、そうですわ!それに王族に対して反逆など考えたこともございません!!」
エミリアとクリスティーナは、座り込んだまま無実を訴えてくる。
その必死な様子にレイモンドは、やれやれと肩を竦めると、判り易く説明してきた。
「君達の訴えは通らないと思うよ。今まで記録されてきた証拠は、こちらにあるのだからね。」
冷ややかな目で見下ろしながら言われた言葉の意味を理解し、聡いクリスティーナはいち早く絶望の色に顔を染める。
しかしエミリアは、そんなクリスティーナに気づくことなく、己の潔白を必死に訴えてきた。
「わ、私がそんな事するわけないじゃないですか!私は聖女ですよ!!教会に認められた聖女なのに!!」
「聖女候補だ。」
「え?」
自分の立場を盾に無実を訴えてくるエミリアに、レイモンドは冷え冷えとした声で事実を伝えてきた。
「君の現在の立場は聖女候補であり聖女ではない。それとも君は、聖女の力が覚醒したとでもいうのかな?」
「そ、それは……。」
レイモンドの指摘にエミリアは狼狽える。
聖女候補とは言われているが、実はエミリアはいまだに聖女の力に目覚めてはいなかった。
「協会に確認したら、まだだそうだね?それなのに君は聖女として振る舞い、聖女の特権を利用しようとしてきた。教会側から再三注意はあった筈だ。しかも、教会から聖女としての修行を受けるよう打診されていたそうじゃないか?何故君はその誘いを断っていたの?」
レイモンドから発せられる新事実に、エリアーナをはじめ周りの野次馬達も息を呑む。
聖女候補者が聖女の修行を断る――まずあり得ない事だった。
皆の視線にエミリアは、急におどおどしだす。
挙動不審になったエミリアに、レイモンドは浅く嘆息する。
「詳しい話は後で聞こう。衛兵!」
レイモンドが声を上げると、観念したのか令嬢二人は衛兵に連れられ会場を後にしたのだった。