第46話 王子不在
「どうした、そんな怖い顔をして?」
王宮の執務室で、部屋の主人である国王が珍しい訪問客に不思議そうに訊ねてきた。
「父上にお話があります。」
その訪問客は、国王によく似た顔でにっこりと笑うと、米神に青筋を浮かべながらそう言ってきたのであった。
「な、何かな?レ、レイモンド君……。」
いつにない息子の不機嫌な様子に、父親でもある国王は若干頬を引き攣らせ、冷や汗を浮かべながら用件を訊ねたのであった。
さて、生徒会の仮眠室でエミリアに押し倒された事件があってから、エミリア達は何故か大人しくなった。
相変わらず生徒会には入り浸っているようだが、今までの態度が嘘のように真面目に仕事をしているらしい。
今まで被害に遭っていた部員たちは、最初こそ何か企んでいるのではないかと警戒していたのだが、日が経つにつれてそれも薄れていった。
そして今ではレイモンドにちょっかいをかけることも無く、黙々とデスクワークを熟しているそうだ。
――ど、どうしたのかしら一体?
エリアーナは教室で、一人読書に耽る振りをしながら、最近のエミリア達の豹変に驚いていた。
そしてエミリアだけではなく、クリスティーナも最近姿を見せなくなった気がする。
――そういえば、私を襲った男子生徒も学校に来てないっていうし……どうなってるのかしら?
突然の変化にエリアーナは首を傾げた。
――急にみんな大人しくなっちゃうなんて、嫌な予感しかしないわ……。
嵐の前の静けさかしら?とエリアーナは、不吉な予感に身震いする。
心配と言えば、己の婚約者の姿も最近見ていない。
レイモンドの従者からは、「急な公務で学園は暫く休みます。」と伝え聞いている。
王族としての務めがあるなら仕方が無いとは思うが、しかし手紙すら無い事にエリアーナは多少なりとも不満を感じていた。
――詳しい事は言えないにしても、何か一言あってもいいのに。
今までなら一言二言添えられた手紙が届いていたのに、こんな事は初めてでエリアーナは少しだけ淋しく感じていた。
――はぁ、こんなこと位でダメね。エミリア嬢達の事もあるから少し気弱になってるのかしら?
エリアーナは気分を切り替えるべく、首を振ると目の前の愛読書に意識を戻すのだった。