第45話 その頃人気のない教室で・・・・・
一方その頃、エリアーナの方も窮地に陥る出来事に直面していた。
これぞまさしく壁ドンというやつを、エリアーナは見ず知らずの男子生徒に披露されていたのである。
「エリアーナ様、ずっと、ずっと、お慕いしておりました。」
「え、あ、あの……。」
エリアーナを壁際に追い詰め、顔の横に両手を付いて逃げられないようにしながら、男子生徒はエリアーナを熱い眼差しで見つめている。
愛の睦言を吐く彼は興奮しているのか息が荒く、はぁ、はぁ、と息を吐く度に、その生暖かい風がエリアーナの顔にかかって少々不快に感じた。
それでもエリアーナは、侯爵令嬢としてのプライドからか、表情を崩すことなく気丈にもすました顔で相手を睨み返していた。
「ふ、ふふ。その顔、堪らない。一度でいいからあなたのそのお顔を崩してみたかったんです。」
男子生徒はそう言うと、エリアーナの右肩をがしりと掴んできた。
「殿下も今頃お楽しみの筈ですよ、貴女も私と楽しみましょう。」
黙っていればわかりませんから、と訳の分からないことを言い出したかと思ったら、突然抱きついてきた。
「ちょっ、何?い、嫌!!」
エリアーナは手を突っ張り渾身の力で男の体を押しのけようとするが、びくともしない。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、エリアーナは声を上げた。
「は、離しなさい!これ以上は罪に問われますわよ!」
エリアーナは第一王子の婚約者だ、その彼女にこんな事をしてただで済むわけがない。
エリアーナは焦りながら、何とか辞めさせようと言葉を続けた。
「一緒に落ちましょう、エリアーナ様。」
――ちょっと、冗談じゃないわ!
抱き付きながら耳元で気持ちの悪い事を囁いて来る相手に、エリアーナは胸中で叫ぶ。
――ええい、王妃様直伝!必殺!金〇潰しを喰らえ!!
エリアーナは耳元で囁かれる言葉に鳥肌を立てながら、足に渾身の力を込めて振り上げた。
か弱い淑女と侮っていたのか、エリアーナの攻撃は男子生徒の足の間に見事に決まる。
そして、男子生徒は悲鳴のような呻き声を上げた後、ずるずると床に崩れ落ちて行ったのだった。
「ふう、危なかった……。」
蹲り動かなくなってしまった男子生徒を確認した後、エリアーナは額に浮いた汗を拭いながら、ほっと胸を撫で下ろした。
「それにしても、妃教育の時に王様相手に披露された時はびっくりしたけど、さすがは王妃様直伝の技は凄いわね。」
と、とんでもない思い出話を呟きながら、技の威力の凄さにしみじみと頷く。
そして――
「ごめんあそばせ。」
気絶してしまった男子生徒を、スカートを摘まんでひらりと跨ぐと、エリアーナは肩を竦めながら颯爽と去って行ったのだった。
「さすがはエリアーナ様だ……。」
暫くして静かになった教室の天井裏から、ぽつりと影たちの称賛の声が聞こえてきたのであった。