第40話 侯爵令嬢悩む
「エリアーナ様、聞いておりまして?」
「へ?」
休み時間、咎めるように名を呼ばれて、エリアーナは我に返った。
目の前には、相変わらず唐突に現れては一方的に話しかけてくるクリスティーナが居た。
「ご、ごめんなさい、少しぼーっとしてしまって……。」
クリスティーナの謎の行動に困っているとはいえ、相手の話を聞いていなかった事は悪いと思い、素直に謝罪の言葉を述べる。
すると、クリスティーナは違う意味にとったのか、哀れむような表情でエリアーナを慰めてきた。
「まあ、エリアーナ様。悪い噂話にお心を痛めていますのね……。でも、大丈夫ですわ、わたくしが付いておりますから。」
何故かクリスティーナは満足そうな顔をしながらそう言うと、「では、また。」と言って教室を出て行ってしまった。
何がなんだかわからないエリアーナは、クリスティーナの行動に唖然とする。
毎度毎度、クリスティーナは突然やって来ては、同じようなセリフを言うと退室するのが恒例になっていた。
今回もまた決め台詞を言って、すぐさま居なくなってくれたのは良かったのだが、しかしエリアーナはクリスティーナの台詞を内心で否定していた。
――別に、噂話で落ち込んでいたわけじゃないんだけどなぁ……。
その時、先程上の空だった原因が教室の前の廊下を通り過ぎる姿を見つけた。
案の定、原因の彼はこちらに気づくと手を振って颯爽と歩いていく。
エリアーナが悩んでいたのは、もちろんレイモンドの事であった。
何故か彼は、最近自分を人気のない教室に連れ込んでは、キスをしてくるのだ。
思い出すだけで頬が熱くなってきてしまい、エリアーナは持っていた愛読書で顔を隠す。
そして、ぽつりと――
「そろそろ”練習”には、もう付き合わなくていいわよ、ね……。」
と、周りには聞こえない位の声で呟くのだった。