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第4話 婚約者は腐れ縁


とまあ、こんな感じでレイモンドとは、あれ以来ずっと腐れ縁が続いているのだが……。


――婚約者っていうより、子分みたいなものなんだけどねぇ……。しかも、今では慣れ切っちゃって素が出まくっちゃってるし。


エリアーナは、嬉しそうに紅茶を淹れるレイモンドを見ながら、胸中で呟いた。

レイモンドが成長するにつれ、彼がただ単に大人しい遊びが好きなだけの王子様ではないことが、わかっていった。


――薄々は気付いていたんだけど、まさかここまで素を出してくるとは思っていなかったわ……。


エリアーナは胸中で呟きながら、レイモンドを見遣る。

レイモンドは、エリアーナの為に淹れた紅茶を差し出しながら、にこにこしていた。


「追加の紅茶できたわよ♪あ、今日のデザートは、あたし特性のレモンパイよ~♪エリィ好きでしょ。」


そう言って、にこにこと笑顔で言ってくる姿は、年頃の王子様には、とてもじゃないが見えない。

レイモンドは成長するにつれ、段々と女言葉を使うようになっていった。

しかもそれに比例するように、仕草も女性のようになっていったのだ。

今では王宮でも学園の中でも、エリアーナの前でだけこの姿を曝け出してくる。

エリアーナもあまりにも見慣れてしまって、今じゃ素に戻っても気にならないほど、自分も彼もそれが当たり前になってしまった。


「うん。」


慣れって怖いわ~、とそんなことを思いながら、エリアーナは、ソファで寛いだ格好のまま短く返事をする。


「もう、相変わらず素っ気ないんだから。」


レイモンドはそう言って、器用にレモンパイを切り分けながら、エリアーナのお皿に盛りつけていった。

女言葉に続いて、彼はお菓子作りも趣味らしく、時々こうやって手作りのお菓子を披露してくれた。

しかも彼の作るデザートは、王宮専属のパティシエも唸る程の出来栄えだ。

趣味だというそれは、もはや趣味を通り越して芸術作品のようだった。


「はい、ど~ぞ♪」


可愛らしくデコレーションされたお皿が、エリアーナの前に差し出される。

可愛くホイップされた生クリームの上に、立体的な造形をしたチョコレートが乗っかっている。

その周りには、色とりどりの食用花が散りばめられ、まるで花畑のようだった。


「相変わらず器用ねぇ~。」


女子力高ぇ、と呟きながらお皿を受け取ると、一口ぱくりと頬張った。

途端、ぷるぷる震えながら何かを耐えるような仕草をする。

そして


「ほんっと相変わらず、美味しいわね!私が作っても、こんなに美味しくならないわよ!!」


頬を薔薇色に染めて、美味しそうに瞳をキラキラさせながら絶賛してくるエリアーナに、レイモンドは満足そうに頷く。


「当たり前でしょう、愛情がた~っぷり入ってるんだから♪」


そう言って嬉しそうに、目を細めながら紅茶を飲んだ。


「ええ~、あたしだって愛情込めて作ってるのに……。」


レイモンドの言葉に、エリアーナは頬を膨らませながらそう言うと、お皿を目の前に持ってきて「何が違うんだろう?」と、じろじろと調べ始めた。

小さな体で、昔と変わらず無邪気な行動をするエリアーナに、レイモンドはくすくすと笑いだす。

そんなレイモンドの頬が、普段よりも色付いている事に、デザートを調べるので忙しいエリアーナは気付かない。

二人きりで楽しい時間を過ごしていると、温室の外が騒がしくなった。


「何かしら?」


いち早く気付いたレイモンドが、専属の従者であるケビンを呼んで何かあったのかと訊ねる。

すると、幼少時からレイモンドの世話係をしているケビンが、言い辛そうな顔で答えてきた。


「それが……男爵令嬢のエミリア様が、こちらに押しかけてきているようでして……。」


「え、あの子が?」


「お通しできないと断っているのですが、殿下に会わせろとしつこくて……。」


ケビンの言葉に、レイモンドとエリアーナが顔を見合わせた。


「こんな所まで、何しに来たのかしら?」


「いや、絶対レイが目当てでしょう。」


「ええ~!」


エリアーナの指摘に、レイモンドが判り易いくらい嫌そうな反応をしてきた。


「ど、どうしよう……。」


「行きなさいよ。」


「ええっ、エリィはそれでいいの!?」


「別に。さっさと用事済ませた方が後が楽でしょう?」


エリアーナのずばっとした意見に、レイモンドは「それは、そうなんだけど。」と眉根を下げる。


「ほら、ちゃちゃっと行って、済ませてきなさい!」


まるで母親に叱責されているような物言いに、レイモンドは渋々温室から出て行くのだった。


「あの……よろしかったので?」


レイモンドを見送っていると、ケビンからそう訊ねられた。


「なんで?」


「え、いや、その……お二人は一応婚約者という立場ですから。」


「はあ、貴方もそんなこと言うの?」


「す、すみません。立場上、お二人の仲を取り持つのが俺の役目ですから……。」


「まあ、そうよね。でも、レイの事知ってる貴方なら、大丈夫だってわかってるでしょ?」


何を今更言ってるんだと、エリアーナは不思議そうな顔でケビンを見上げた。

そんなエリアーナに、ケビンは何か言いたそうな顔をしていたが、彼はそれ以上何も言わなかった。

エリアーナは益々わからないと首を傾げる。


「まあ、レイの負担は増えるけど、王命だし仕方が無いわよねぇ。それに私たちの間に、愛やら恋やらなんてないんだから。ケビンも、そんな神経質にならなくてもいいと思うんだけど?」


真顔でそう言うと、彼はがっくりと肩を落として「そうですね。」と言いながら、すごすごと退散していった。


本当に何だというのだ?


エリアーナは益々わからないと、眉間に皺を寄せるのであった。


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