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第38話 人の噂も七十五日

とりあえず、レイモンドとエリアーナは無事に仲直りすることが出来たのだが、二人の破局説はなかなか収束する様子が無かった。

人の噂も七十五日まで、とエリアーナ達は無駄に騒ぎ立てるのは返って危険だと判断し、静観を決め込んでいたのだが……。

事態は思わぬ方向へと転がっていっていたのだった。




エリアーナは、目の前に並ぶ笑顔に困惑していた。


「エリアーナ様、僕と一緒にランチに行きましょう。」


「是非私と!」


「いや私と!先に誘ったのは私だぞ!」


「何を言う、私の方が先だった……。」


「いやいや、私の方が……。」


――これは、一体全体どういう風の吹きまわしかしら?


エリアーナは、目の前で起こる言い争いを信じられないという顔で見つめながら、胸中で呟いていた。

何故だか理由はわからないが、ここ最近男子生徒からランチのお誘いが頻繁にくるようになった。

それも日を空けず毎日のように誘われる為、これは何の罠かしら?とエリアーナは警戒していた。

しかし、何度断り続けても彼らは諦めてくれず、しかも最初こそ2~3人程度だったものが、今では団体で押し寄せてくるという事態になり、エリアーナは本気で恐怖を感じて恐れ戦いていた。


「何度来られても、こ、困ります……。」


エリアーナは詰め寄る殿方たちの気迫に気圧されながら、なんとか帰ってもらおうと言葉を紡ぐ。

それでもぐいぐいと諦めた様子を見せない男子生徒達に、エリアーナは内心で盛大な溜息を吐いていた。


――なんなのよ、これ~……。


これではまるで、エミリアのような扱いだ。


聖女候補であるピンクブロンドの少女を思い出しながら、こんな事を毎日よくもまあ平然とやっていられたわねぇと、ある意味感心してしまった。

なかなか諦めてくれない男子生徒達を何とか振り切り、エリアーナは人気のない所まで逃げてきた。

裏庭にある特に日当たりの悪いここは、丁度校舎の裏に当たり人通りも少なく、隠れるには持って来いの場所だった。

しかも角には小さな屋根付きのベンチがあり、日除け用に植えられたツタが伸び放題伸びていて、良い感じで目隠しになっていた。

エリアーナは一旦そこへと腰を落ち着けると息を吐いた。


「とりあえず、昼休みが終わるまで、ここで避難していましょう。」


エリアーナは独り言のようにそう言うと、逃げる際に持ってきたランチボックスを開けて、中からサンドイッチを取り出すと徐に齧り付いた。

一人はちょっと寂しいが、人目も気にせず食べるランチは殊更に美味しく感じた。

もぐもぐと暫くサンドイッチを堪能していると、誰かがこちらに近づいてくる気配を感じた。

エリアーナは慌てて食べかけのサンドイッチを口に頬張ると、通路からは見えない様に体を縮めて様子を窺った。

さくさくと芝生を踏む足音が近づいてくる。

エリアーナは息を殺して、相手が通り過ぎてくれるのを祈った。


「やっと見つけた……。」


そう言って、エリアーナを覗き込むように見下ろしながら言ってきたのは、レイモンドだった。


「レイ!」


予想していなかった訪問者に、エリアーナは驚きの声を上げる。


「食堂に行ったらエリィが居ないから、探しに来たんだ。」


レイモンドはそう言うと、辺りに人のいないことを確認しながらエリアーナの横に腰掛けてきた。


「なんだか大変な事になってるみたいねぇ。」


レイモンドは人がいないことを良い事に、いつもの口調でエリアーナに話しかけてきた。


「ちょっとレイ!」


エリアーナは慌てて咎めると、「大丈夫よ。」とレイモンドはウインクしてきた。


「人がいないのは確認済みだから平気よ、それよりも何があったの?」


「私にもさっぱり……。」


最近のエリアーナの噂を耳にしていたレイモンドは、心配そうな顔をしながら聞いてきた。

その顔には疑いの色は微塵も見受けられない。

その事にエリアーナは安堵しながら、肩を竦めて答えてきた。


最近の噂で持ち切りなのは、エリアーナが男子生徒を侍らせているという噂だった。

根も葉もない噂なのだが、何故か突然エリアーナは男子生徒達から熱烈なアプローチを受けるようになったのである。

しかも不思議な事に、今までエミリアに取り入っていた生徒達も何人か混ざっていたのだ。


「う~ん、罠かもしれないのよねぇ。」


エリアーナの返答に、レイモンドは腕を組み困ったように首を傾げる。

エリアーナもその意見には首を縦に振っていた。


「私もそう思って警戒して逃げてるんだけどね。一向に諦めてくれないのよ。」


「エリィの対応は正しいわ。大変だろうけど、そのまま逃げてて頂戴。」


「わかったわ。」


レイモンドはエリアーナの頭を撫でながら、にっこりと笑顔でそう言うと昼休みが終わるまでエリアーナとの逢瀬を楽しんだのだった。


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