第36話 王子と侯爵令嬢のお茶会+2
穏やかに茶会が進む中、エリアーナは唐突にレオンハルトに質問してみた。
「そのケーキ、レイが作ったんだけど美味しいでしょ?」
王子に対して少々不躾な物言いだが、レオンハルトは気にもしないのか、きょとんとした顔をしながらケーキとレイモンドを見ながら、こくんと頷いてきた。
「はい、兄上がこんなに美味しいケーキを作れるだなんて知りませんでした。」
レオンハルトは、そう言って美味しそうにケーキを頬張る。
そのあどけない姿に、エリアーナは頬を緩ませながら、さらに質問してきた。
「それで、レオンハルト様はレイの秘密を知っちゃったみたいだけど、どう思ったのかしら?」
エリアーナは極力優しい声音で聞いてきた。
その言葉に、レイモンドは慌てる。
「え、ちょ、エリィ!?」
エリアーナは目だけで大丈夫、と言いながら視線をレオンハルトに戻した。
レオンハルトは、持っていたケーキをテーブルに置くと、しばし考え込む。
その様子をレイモンドとケビンが、はらはらしながら見守っていた。
ややあってから、レオンハルトが話し始めた。
「えっと……最初見たときは驚きましたが、でも兄上がとても楽しそうだったので……。」
レオンハルトの言葉に、レイモンドは目を見張る。
「そう……。」
その姿を見ながら、エリアーナは頷くと更に質問してきた。
「じゃあ、あんな言葉遣いをするレイは嫌だった?」
「う……。」
エリアーナのずばりとした質問に、レイモンドが表情を強張らせる。
そんなレイモンドをレオンハルトは見ながら、首を振ってきた。
「いえ、僕にとってはどんな兄上も尊敬する兄上ですから。それにあんなに楽しそうにしている兄上を見たのは初めてで、見ている僕もなんだか嬉しくなっちゃって……。」
「レオ~~!!」
レオンハルトが言い終わる前に、感極まったレイモンドが弟に抱き付いていた。
「あ、兄上!?」
「お前ってやつは~♪こんな兄上でごめんね~!」
「あ、兄上くすぐったいです~~!」
すりすりすりすり、可愛い弟王子を抱きしめながら頬擦りしてくる兄に、レオンハルトは擽ったそうに笑う。
それを見ていたエリアーナは、満足そうに微笑んでいたのだった。
「エリィは知ってたの?」
お茶会は小さな弟殿下の素直な告白で始終和やかに進み、途中でレオンハルトが勉強があるからと席を外した後、レイモンドがエリアーナに聞いてきた。
「ええ、だって弟殿下と会う度に、レイの話ばっかりしてくるのよ。そんな彼があの位であなたの事、軽蔑したりしないわよ。」
エリアーナはそう言って、自信たっぷりに胸を張ってきた。
「エリィ……。」
「何、泣きそうになってるのよ、自慢のお兄ちゃんが台無しでしょ……。」
エリアーナはそう言いながら、涙で潤み始めたレイモンドにハンカチを差し出してきた。
「洗って返すわねこれ。」
「いらないわ、だってそれレイにあげる為に持ってきた物だから。
「ええ!」
「なによ……。」
「だって、ここの刺繍の所って手縫いでしょ?て……あら、ほつれが」
「返して!!」
レイモンドの言葉に、エリアーナが渡したハンカチをひったくろうとすると、彼はそれよりも早く手を上にあげて逃げた。
その代わりに、レイモンドが持っていたハンカチをエリアーナに渡してくる。
「だ~め、これはもうあたしのもの!こっちあげるから!」
そう言って、無理矢理エリアーナの手の中にハンカチをねじ込んでくる。
エリアーナは渋々と言った感じで、手渡されたハンカチを開いてみると絶句した。
そこには、素晴らしい意匠の刺繍が施されていた。
「ねえ……まさかとは思うけど、これってレイが縫ったんじゃないわよね?」
「そうだけど?」
肩をぷるぷると震わせながら聞いてくるエリアーナに、レイモンドはそれが何か?といった感じで肯定してきた。
「やっぱり返して!!」
エリアーナは、くわっと顔を上げると、レイモンドに渡した歪な刺繍の施されたハンカチを取り返すべく、彼に向かって行ったのであった。
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【解説という名の蛇足】
お互いが相手の事を想って手作りした物が、実は同じものだったというお話が書きたかっただけです(笑)
レイ君が普段自分用に使っているハンカチは、イニシャルだけのシンプルなもの。
刺繍入りはエリィのみ(ここ重要 笑)
弟殿下登場させましたが、本編では今回のみのご登場です(たぶん)。
大小の金髪頭を並べてみたくなったのと、エリィがそれを見てこっそりニマニマしている姿を書きたかっただけです(笑)
ちみっこ最強♪また機会があったら書いてみたいです。