第35話 王子と侯爵令嬢のお茶会+
「ふんふんふんふ~ん♪」
休日、エリアーナとの誤解が解けたレイモンドは、朝からご機嫌だった。
そして久しぶりに、エリアーナとの茶会の約束を取り付け、今その準備に忙しくしていた。
「さぁ~て、あとはこのトッピングを乗せれば出来上がりよ~♪」
その為、いつもよりも浮かれていたレイモンドは気付かなかった。
明け方近く、こっそりと厨房でケーキを焼く姿を小さな瞳が見つめていたことに――
エリアーナは、久しぶりのレイモンドとの茶会に、そわそわしていた。
今回は、誰にも邪魔されたくないというレイモンドの希望で王宮へと招待されていた。
離れにある、レイモンド専用のプライベートルームで彼を待っていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。
一緒に連れて来た侍女のメルが対応すると、レイモンドとケビンが入って来た。
「エリィ、お待たせ。」
レイモンドがにこにこしながら部屋へと入ってくると、ワゴンを押したケビンも一緒に入って来た。
その姿に、メルがすかさず手伝いに移動していく。
いつもの光景に、エリアーナがほっとしていると、その後から続いてきた人影に目を丸くした。
「ああ、今日はレオも一緒なんだけどいいかな?」
レイモンドがエリアーナの視線に気づくと、困ったように眉根を寄せながら聞いてきた。
そんなレイモンドに、エリアーナは「もちろん。」と快く承諾する。
すると、あとから入って来たレオという少年が、嬉しそうに顔を綻ばせながら近づいてきた。
「ありがとうございます、エリアーナお姉様。」
そう言ってぺこりと頭を下げる小さな体に、エリアーナは相好を崩した。
レオこと――レオンハルト・グレイスハイゼン――は、レイモンドの年の離れた弟だった。
第二王子である彼は、御年7歳とは思えないほど聡明で礼儀正しい少年だった。
しかも、見た目はレイモンドのちっちゃい頃にそっくりで、エリアーナは初めて見た時その懐かしい姿に、すぐにレオンハルトの事が気に入ってしまった。
彼もすぐにエリアーナに懐いてくれて、王宮で時々会うと嬉しそうに駆け寄ってくれるのだ。
そんな可愛い弟殿下に、エリアーナは嬉しそうに笑顔を向ける。
すると、レイモンドがすすす、とエリアーナの側に来て耳打ちしてきた。
「エリィ、レオにあたしの事バレちゃった。」
「え!?」
思わず驚いて振り向くと、レイモンドは困った顔をしながら、こちらを見ていた。
「それって、本当?」
「うん、今日ケーキ焼いてたらレオに見つかっちゃって……その時あたしの独り言も聞こえてたみたいで……。」
「何やってるのよ……。」
「うう、ごめん……。」
「で、弟殿下は何て?」
「うん、内緒にする代わりに、お茶会に参加したいって言ってきたから連れて来たの……。」
レイモンドの話を聞きながら、レオンハルトの方を見ると、彼はにこにこと笑顔でこちらを見ていた。
そしてレオンハルトの背後で、にこにこと笑顔ではいるが、相当ご立腹なレイモンドの従者が居た。
「ケビン、怒ってるみたいね。」
「うん、だいぶ……面倒事増やすなって言われた。」
「あははは……まあ、今までバレなかったのが、不思議なくらいだったけどねぇ。」
エリアーナが苦笑していると、テーブルにお茶のセットが用意されてきた。
「お茶にしましょうか。」
エリアーナが言うと、レイモンドは渋々向かい側のソファに腰掛ける。
すると、レオンハルトもそれに倣って、レイモンドの横に腰掛けた。
――まるで今と昔のレイを見てるみたい。
二人並ぶ大小の金色の頭に、エリアーナはこっそりと苦笑する。
そして、懐かしい面影を眺めながら、お茶会はゆっくりと始まったのだった。