第34話 王子と従者
「うふふふふふ~♪」
今朝、死相漂う雰囲気で学園へと向かわれた主人が、帰宅時には天使が舞う程の浮かれっぷりで帰ってこられた。
――この上なく、気持ち悪い。
主人であるレイモンドの鞄を受け取りながら、ケビンは相変わらず胸中で毒吐いていた。
そして、部屋の中をくるくると舞いながら、ソファへと綺麗に弧を描いて座った主は無視して淡々とお茶の用意をし始める。
「うっふふ~♪もう、エリィったら、かっわいいんだから~♪」
どうやら仲直りできたらしい。
そりゃようござんしたね、と胸中で呟きながら主人のお気に入りの紅茶をカップに注いでいると、何やら痛い視線が突き刺さってきた。
なんとなく振り向きたくなかったが、反応しないと後が面倒なのでとりあえず反応しておいた。
「今日は機嫌がよろしいようですが、何かありましたか?」
「うっふふ~、聞きたい?」
――いえ、別に。
はっきり言うと落ち込んで面倒なので、心の中だけで返事をしておく。
「はい、何か良い事でも?」
「そう!エリィと仲直りできたのよ~♪もう、エリィったら恥ずかしがってただけなんて、ほんと可愛いわぁ~♪」
そこまで聞いてもいないのに、ぺらぺらと止まらない主人に、ケビンはぴしりと固まる。
疑念が確信に変わり、ケビンは思わず聞き返していた。
「レイモンド様、エリアーナ様が何に恥ずかしがっていたのでしょうか?」
「え?それ聞いちゃう?」
と、嬉しそうに頬を染めながら言ってくる主人の反応に、ケビンの笑顔が固まった。
「まさかとは思いますが、エリアーナ様に如何わしい事はしていませんよね?」
若干声が震えてしまったが、そこは許してもらいたい。
婚姻前に間違いは起こすなよ!と祈るような気持ちで返答を待っていると、主人は何故か頬を染めながらもじもじしてきた。
「やだ、もうケビンたら。聞かないでよ、エッチ!」
頬を抑えてイヤイヤをするレイモンドに、ケビンの忠誠心やら何やらがぶちりと切れる。
「さっさと洗いざらい話せ、この馬鹿ちんが!!」
「え、ちょ、ケビン~~~~!!」
数分後――
とりあえず、レイモンドから真相を無理やり聞き出し、その余りにもなバカップル振りに、ケビンは「そういうのは、他所でやってください!」と呆れも露わに説教するのであった。