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第28話 侯爵令嬢の悩み

さて、無事舞踏会が終わったものの、エリアーナは困った事態に直面していた。


「あ、エリィ!今日の放課後の事なんだけど」


いつものように、レイモンドがエリアーナに気さくに話しかけると、彼女は何も言わず、くるりと踵を返して歩き出した。


「ちょっと、エリィ!どうしたの!?」


彼女の行動に驚いたレイモンドが、慌てて追いかけてくる。

しかし、エリアーナはレイモンドの声に止まることはなく、更に歩くスピードを早めてきた。

彼女の突然の行動に、意味が分からずレイモンドは、己から逃げようとする彼女を追いかける。


「ねえ、エリィ本当にどうしたの?具合でも悪いの?」


「…………。」


「ちょっと、一旦止まって!話をしよう!!」


「………………。」


声をかけても無言でどんどん進んでいくエリアーナの後を、レイモンドが必死の形相で追うという奇妙な光景を、周りにいた生徒たちが好奇の目で見てきていたが、エリアーナは足を止める気配はなかった。

そればかりか、更に歩くスピードが早まってしまった。

そして、迎えに来ていた馬車に乗り込もうとする直前、彼女は何か躊躇うような素振りを見せながら、「そ、それじゃあね。」と一言だけ告げると、馬車の中に入って行ってしまったのだった。

バタンと無情にも扉は締まり、馬車はエリアーナを乗せてガラガラと行ってしまったのだった。

そしてそこには、ひゅうっと虚しく風が通り過ぎ、呆然と立ち竦むレイモンドが取り残されている姿があった。








――ああああああああ、やってしまったぁぁぁ~~!!


エリアーナは馬車に揺られながら、両手で顔を覆って嘆いていた。

あんな風にレイモンドを無視をするつもりはなかった。

彼を見た途端、何故か体が勝手に動いてしまったのだ。

その理由は、先日の舞踏会が原因だという事は、本人がよくわかっていた。


「だって、だって……あんな事された後に、どんな顔して会えばいいっていうのよ~!」


エリアーナは、レイモンドにキスをされた事が恥ずかしくて仕方なかったのだった。

しかも、あんな濃厚なディ……て、いやぁ~!と、その時のことを思い出し、エリアーナは真っ赤な顔をしながら蹲ってしまった。


幼い頃はレイモンドとふざけて、手や頬にキスをしたことはあった。

しかし唇の方は「結婚してからね!」と、幼い頃の二人が無邪気に約束をした時から、今の今までした事が無かったのである。

それなのによりにもよって、なんで今頃になって急にしてくるんだと、エリアーナは恥ずかしさで混乱していた。


もうこのまま、結婚式までしないと思って安心していたエリアーナは、もちろんキスなんて未経験でド素人の中の素人であったのだ。

舞踏会の時は、いきなりの事で気が動転したままだったので、逆に平静でいられたらしいが、一日経って落ち着いてしまうと、もうどうしようもなかった。


気を抜くと、昼夜問わずあの時の記憶が急に蘇ってしまい、真っ赤になったり青くなったりと、大変心臓に悪い状況に陥ってしまう。

そのうえ、レイモンドの顔なんて見た日には、心臓が止まるんじゃないかという位緊張してしまうのだ。

学園でも取り巻きの令嬢たちに「あら、エリアーナ様お顔が赤いですが、何処か具合でも悪いのですか?」などと、何度も指摘され心配されてしまった程であった。


「こ、このままじゃ私の心臓が持たないわ……落ち着くまでレイに会わないようにしないと……。」


エリアーナは揺れる馬車の中で、そう決意するのであった。


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