第23話 舞踏会6
「そう言えば、舞踏会の方は大丈夫なの?」
あれから落ちてしまった化粧を馬車で待機していたメルに直してもらい、生徒会室から会場へと戻ってきたエリアーナは、長い時間、舞踏会の責任者であるレイモンドを不在にさせてしまっていたことを思い出し青褪めた。
「ああ、殆どの準備は終わっているし、あとは指示してあるから僕の出番は殆どないんだよね。」
とりあえず最後までは居ないといけないんだけどね、とレイモンドは心配するエリアーナを他所に、さらりと言ってきた。
「そう、なら良かった。」
レイモンドの答えに、エリアーナは、ほっと胸を撫で下ろす。
「うん。だから、もうちょっと二人きりでいても、大丈夫だったんだけどね。」
と、腰に手を回しながら言ってきた。
その余裕たっぷりな物言いに、エリアーナは「ちゃんと仕事しなさい!」とぴしゃりと釘を刺す。
そんな遣り取りに、レイモンドは笑顔のままエリアーナに耳打ちしてきた。
「ふふ、エリィが僕の奥さんになったら尻に引かれそうだね。」
エリィのお尻なら大歓迎だよ、と揶揄ってくるレイモンドに、エリアーナは「もう。」と周りに気づかれない位に頬を膨らませて抗議の視線を向けてきた。
そんな遣り取りをしていると、先程まで空間に溶け込む様に流れていた曲から打って変わって、テンポの良い聞きなれた音楽が聞こえてきた。
「ダンスの時間だね。……エリィ、私と踊ってくれますか?」
貴族がダンスの練習をするときに、よく使われている音楽を背後に、レイモンドはエリアーナにダンスの誘いをしてきた。
何をさせても絵になるその姿に、周りの令嬢たちから羨望の眼差しが突き刺さってくる。
「ええ、もちろんですわ。」
それを背中で受け止めながら、エリアーナは優雅にレイモンドの誘いを受けた。
二人揃って、ホールの中央へ進んでいくと、何人かのカップルも後に続いてきた。
そしてエリアーナとレイモンドは、ダンスを披露する。
「この曲、レイが選曲したの?」
「ああ、練習用には持ってこいでしょ。」
「そうね、夜会とかにまだ慣れない学生には凄くいいと思うわ。」
「でしょ!」
エリアーナに褒められて、レイモンドは嬉しそうにウインクする。
「こらこら、地が出てるわよ。」
「そうだった、ごめん。」
エリアーナが呆れたように言うと、レイモンドは肩を竦めて舌を出してきた。
「もう……。」
エリアーナは仕方がないと肩を竦めるのであった。
ダンスが終わり輪の中から離れると、エリアーナは向かい側で、そわそわとこちらを窺う集団を見つけた。
「レイ、あっちでご令嬢たちが待っているわよ?」
「ううう……行かなきゃダメ?」
エリアーナは、隣にいるレイモンドを肘で小突きながら、こちらに熱視線を向けてくる令嬢たちを指摘すると、レイモンドは嫌そうな顔をしながら言ってきた。
「婚約者とファーストダンスは踊ったんだから、次は王子としてサービスしてこなきゃ。」
「それってどういう理屈なのさ?」
「これも王族の務めでしょ、行ってらっしゃい。」
エリアーナにそう言われてしまったレイモンドは、渋々と令嬢たちが待つ人だかりの方へと向かって行ったのだった。
レイモンドが大人しく令嬢たちの方へ行ったのを見届けた後、エリアーナは乾いた喉を潤すためにテーブルへと向かった。