第22話 舞踏会5
黒地に裾や襟に金の刺繍が施された正装は、レイモンドによく似合っていた。
しかもよく見ると、金色だけだと思っていた刺繍は、体の上位に向かって赤のグラデーションが施されていた。
胸元にあるポケットには、三角に折られた真っ赤なハンカチーフが顔を覗かせており、その色の意味するところを理解して、エリアーナの頬が熱くなっていく。
「そ、その衣装の色って……。」
思わず聞きかけてしまい、恥ずかしさで唇を噛んでいると
「ああ、これ?もちろん、エリィの髪と瞳の色を入れたんだよ。僕の髪の色と合わせると、凄く合うと思わない?」
レイモンドが、さも当たり前の様に、さらりと答えてきた。
予想通りの答えに、エリアーナの頬がカッと赤くなる。
俯いてしまったエリアーナを、レイモンドは可笑しそうに見る。
「ふふ、エリィのドレスも凄く似合ってる。やっぱりエリィには青と金がとてもよく似合うね。」
意味深なその台詞に、エリアーナの顔から下までもが真っ赤になってしまった。
レイモンドの言う通り、エリアーナの着ているドレスはとてもよく似合っていた。
大胆に肩と袖の部分を無くし、ウエストを強調したデザインは、彼女の華奢な体のラインをより一層引き立て、大人びた雰囲気を醸し出していた。
しかも、ふるふると恥ずかしさで震えながら、こちらを睨み付けてくるエリアーナは、まるで小動物の様に可愛らしく、ドレスとのそのアンバランスさは非常に目の毒だ。
――肩と腕は出さない方が良かったかも……他の男共に見せたくないわぁ~!
レイモンドは胸中で毒吐きながら、エリアーナをぎゅっと抱き寄せた。
「え?なに?レ、レイ?」
突然抱きつかれたエリアーナは、パニックになる。
「あ~も~、誰にも見せたくない!」
そう言ってレイモンドは、エリアーナの首筋に噛み付いてきた。
「いたっ!ちょっと何するのよ!?」
「可愛いエリィが悪いの!」
レイモンドはそう言って、ちゅっちゅっと音を立ててエリアーナの首筋に口付ける。
「ちょ、ちょっと!」
「エリィの補充……。」
「や、やん!」
慌ててレイモンドの頭を引き剥がそうとしてきたエリアーナの首筋を、ぺろりと舐めながら言うと、彼女の口から可愛い声が漏れた。
その甘い声に、レイモンドの中心がぞくりとする。
「エリィ……。」
レイモンドは掠れた声で呟くと、エリアーナを見つめてきた。
肉食獣が獲物を見るようなその視線に、エリアーナはびくりと肩を震わせ、距離を取ろうとしたが、それは叶わなかった。
レイモンドがエリアーナの背に腕を回して、がっちりとガードしていたからだ。
そして、エリアーナの肩に頭を乗せると、はぁ、と何かを耐えるように重い溜息を吐き出す。
「エリィ、僕たち婚約者だよね?」
「そ、そうだけど……。」
肩に頭を乗せたままレイモンドが訊ねると、彼女はきょとんとした顔で答えてきた。
その答えに、レイモンドはゆっくりと頭を上げると、至近距離で見つめてきた。
いつにない真剣な顔に、エリアーナの心臓が跳ねる。
「レ、レイ?」
「婚約者なんだから……そろそろ、いいよね?」
「え?……!!」
レイモンドは呟くようにそう言うと、驚いて見上げるエリアーナの顎を掬い上げ、彼女の唇に自身の唇を重ねてきた。
突然の行為に、エリアーナの目が見開かれる。
そして、すぐに離れたかと思ったら、また塞がれてしまった。
「ふ……う、ううん……。」
何度も何度も存在を確認するように口付けられ、エリアーナの息が上がっていく。
少しだけずれた場所から、空気を取り込もうとして口を開けた瞬間、レイモンドの舌が侵入してきた。
歯列を割って侵入してきた厚い彼の舌は、エリアーナの咥内を探るように動いていく。
そして彼女の舌を見つけると、己のそれを絡ませてきた。
初めて味わう感覚に、エリアーナの舌が逃げようとするが、レイモンドの舌が逃がさないとばかりに奥へ奥へと侵入してくる。
深く口付けられ咥内を蹂躙され、エリアーナは息苦しさでレイモンドの胸を激しく叩いた。
ようやく解放されると、エリアーナの息は上がっていた。
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、レイモンドをキッと睨み付ける。
しかし、レイモンドは幸せそうに、蕩けるような眼差しでエリアーナを見ていた。
「嫌だった?」
そして、悲しそうな声でそう言ってくるものだから、エリアーナはそれ以上、彼を責める事が出来なくなってしまったのであった。