第21話 舞踏会4
そんなエリアーナに、大丈夫だと笑顔で返したレイモンドは、ふと、にやりと口角を上げて彼女を見下ろしてきた。
「てことは、エリィは僕に嫉妬してくれてたってこと?」
「なっ……。」
突然、気付いたとばかりにそう言ってきたレイモンドに、エリアーナは判り易いくらい真っ赤になって反応してしまった。
「ち、違うわよ!」
「へ~、ふ~ん。」
にやにやにやにや、レイモンドは嬉しそうにエリアーナを見下ろしてくる。
「もう!揶揄わないでよ!!」
そう言って、エリアーナはレイモンドの胸を叩いた。
その時、ふと自分の手に伝わる硬さに気づく。
エリアーナは、暫くまじまとレイモンドの体を見ていたが、急にふにゃりと眉根を下げてきた。
昔は、ちっちゃくてふにふにでふわふわで柔らかかったのに……。
――もう、あの頃のレイじゃないんだ……。
いつの間に、こんなにごつごつ固くなってしまったんだろうと、慣れないその感触にちょっぴり残念で寂しく思ってしまった。
「どうしたの?」
エリアーナがしょんぼりしていると、レイモンドが気付いて訊ねてきた。
「ん……レイがいつの間にか、大きくなっちゃったなぁって思って……昔は、あんなに小さくて可愛いかったのに。」
そう言って唇を尖らせてきた。
その可愛い仕草に、レイモンドの胸がきゅんと鳴る。
つい地で話してしまいそうになったが、なんとか堪えた。
「ふふ、あた……僕も、もう大人だからね。」
「まだ成人してないでしょ!体もこんなに硬くなっちゃって……。」
エリアーナはそう言って、目の前にあるレイモンドの胸板をぐいぐい押してきた。
レイモンドは擽ったそうに、くすくす笑っている。
エリアーナがどんなに強く押しても、レイモンドの体はびくともしなかった。
その事に、ちょっぴり負けたような気分になり、エリアーナは頬を膨らませて、ぷいっと顔を背けてしまった。
「柔らかい僕の方がよかった?」
「そう言う訳じゃないけど、なんか負けた気分。」
レイモンドが眉根を寄せて聞くと、そんな答えが返ってきた。
そして、昔は私の方が大きかったのに、と言って横を向いてしまった。
その可愛い反応をするエリアーナに、レイモンドはぷっと吹き出す。
「なによ?」
「ふふ、だってそんな当たり前の事……。」
くっくっくっ、と笑いを堪えるレイモンドに、ますますエリアーナの頬は膨らんでいく。
悔しそうに、こちらを見上げてくるエリアーナに、レイモンドは内心で「可愛い」と悶えていた。
エリアーナは知らないだろうが、そうやって己を見上げてくる彼女は実に魅力的だった。
形の良い眉をきりりと吊り上げ、目尻の下がった紅い瞳を少しだけ潤ませて睨んでくる姿は、レイモンドには酷く欲情的に映ってしまう。
か弱い子犬が懸命に虚勢を張っているように見えて、彼の嗜虐心が刺激され、ついつい構ってしまいたくなってしまうのだ。
優しくしたいのに、時々酷く苛めて鳴かせてやりたくなる。
そんな男心など気づかない彼女は、いつもそうやって彼を悩ませていた。
「エリィは可愛いね。」
レイモンドがそう言って、優しく抱きしめようとすると
「もう、揶揄わないでよ!」
と、エリアーナがレイモンドの胸を、どんと叩いてきた。
小リスが体当たりをしてきたようなか弱い衝撃に、レイモンドは更に相好を崩す。
こちらを睨んでくる愛しい婚約者を見下ろしていると、ふと贈ったドレスが目に入ってきた。
「そのドレス、すごく似合ってるよ。」
膨れっ面をしていたエリアーナは、レイモンドのその言葉にきょとんとした顔をしてきた。
そして、まじまじと己の着ているドレスを見下ろす。
――そういえば、ドレスのお礼をまだ言ってなかったわ。
ここへ来て、会って直接お礼を言いたかったことを思い出す。
「あ、ドレスありがとう。すっごく素敵ね。」
「でしょ!エリィに似合うと思って、一からデザインして貰ったんだ!」
エリアーナの言葉に、レイモンドは嬉しそうな顔をしながら言ってきた。
そして、エリアーナは改めてレイモンドの着ている服を見た。