第20話 舞踏会3
「待ってエリィ!待ってってば!!」
「いや、その、うん……。」
長い廊下を走りながら追いかけてくるレイモンドに、エリアーナは曖昧な返事をしながら逃げていく。
「全然止まる気ないでしょ!!」
痺れを切らせたレイモンドが、足に力を込めて軽くダッシュをすると、あっという間にエリアーナは捕まってしまった。
「あ……。」
「捕まえた!」
腰を片腕で抱えられ、さらに逃げようと伸ばした片手は、レイモンドのもう片方の手に容易く絡め取られる。
そして身長差のあるエリアーナは、簡単にレイモンドに抱き上げられてしまった。
ひょいっと、軽々とエリアーナを横抱きにしてしまうレイモンドに、エリアーナは驚いた顔で彼の顔を見てきた。
「へ?え?レ、レイ!?」
「こうしないと、また逃げちゃうでしょ!」
何故か怒ったような顔で言ってくるレイモンドに、エリアーナは慌てた。
「に、逃げないから降ろして!」
「ヤダ!」
「レ、レイ!?」
誰かに見られたら恥ずかしと懇願しても、彼は首を横に振って拒絶してきた。
名を呼びながら睨んでみても、彼は降ろしてくれる気はないらしい。
エリアーナがどうしようかと困っていると、レイモンドはそのままずかずかと歩き出した。
「ど、何処へ行くの?」
ホールとは反対方向へ歩いていくレイモンドに、エリアーナは慌てて訊ねる。
しかし彼は何も言わず、どんどん進んでいった。
暫く歩いて辿り着いた先は、生徒会室だった。
レイモンドはエリアーナを抱えたまま、扉を開けて中へと入っていく。
そして更に奥の部屋に続く扉を開けると、構わず中へと入っていった。
そこは意外にも広い部屋で、ソファやベッドまで完備されている。
「あの……レイ、ここは?」
エリアーナは恐る恐る訊ねると、レイモンドは意外にも素直に答えてくれた。
「ここは、仮眠室だよ。一応貴族が使うから結構豪華な造りになってるんだ。」
いつもよりもぶっきら棒な物言いに、エリアーナは少しだけ不安な気持ちになりながら「そう。」と言って頷いた。
レイモンドはソファに辿り着くと、エリアーナを抱えたままソファに腰を下ろす。
そして、エリアーナをぎゅっと抱きしめてきた。
「あ、あの……レイ?」
エリアーナはレイモンドの行動に、首を傾げながら声をかけるが、彼は抱き着いたまま微動だにしなかった。
振り解こうにも腰に回された腕が、がっちりガードしていて解けそうにない。
エリアーナは諦めると、暫くそのまま待ってみた。
「はぁ……エリィだ……。」
随分経った頃、レイモンドがしみじみとした声で呟いてきた。
その声にエリアーナは、恐る恐るレイモンドを振り返ると声をかけてみた。
「レイ?」
「うん?」
いつものトーンに戻ったレイモンドの声に、エリアーナはほっとする。
どうやら、もう怒っていないようだ。
エリアーナは体を捻ると、レイモンドと視線を合わせてきた。
「その……突然逃げちゃって、ごめんなさい。」
「うん、びっくりした。」
エリアーナの謝罪の言葉に、レイモンドはそう言うと更にぎゅっと強く抱きしめてきた。
苦しくないぎりぎりの力で、己を拘束してくる彼の優しさに気づきながら、エリアーナは話しかけた。
「そ、その……レイが、あの人と一緒に来てたから。」
「あの人って、エミリア嬢の事?」
「うん……彼女は、一応聖女候補なんでしょう?だからレイが今回は、あの子のパートナーになったと思って……。」
エリアーナの言葉に、レイモンドは段々と目を見開いていった。
「まさか!僕のパートナーはエリィだけだよ!あの子は勝手について来ちゃっただけ!!」
レイモンドは、とんでもないと慌てて訂正してきた。
「そうだったの……。」
レイモンドの言葉に、エリアーナはほっとする。
ようやく落ち着いた顔になってきたエリアーナに、レイモンドはそんな誤解をされていたなんて、とショックを受けながらもほっとした。
「はぁ~、もう、エリィが急に走り出したから、何かあったのかと思って焦ったよ。」
よかったぁ~、と心底安堵するレイモンドに、エリアーナは「ごめんなさい。」と申し訳なさそうに謝罪してきた。