第19話 舞踏会2
学園に着くと、色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちが、ホールへと向かっていた。
今回の舞踏会では、パートナーを連れての入場は自由だった。
ホールへ向かう生徒たちを見ると、殆どの令嬢たちがパートナーを連れて会場へと向かっていた。
今回、生徒会長であるレイモンドは、会場を取り仕切っているため、既に会場内にいるはずだ。
レイモンドからは、当日会場へは一緒に行けないと、事前に謝罪があった。
その為エリアーナは、一人で会場へと向う事になっている。
エリアーナは、同じように一人で会場へ向かう令嬢たちに混ざりながらホールへと向かった。
途中パートナーを連れて、エリアーナ達を追い越していくカップルは、極力見ないように努めた。
そして会場に辿り着くと、その豪華さに思わず圧巻されてしまった。
キラキラと光り輝く大きなシャンデリア。
壁を一面に飾る色とりどりの花達。
テーブルを埋め尽くすほどの豪華な御馳走。
煌びやかなホールには、流行を取り入れた美しいドレスを身に纏った令嬢達が、更にその場を華やかにしていた。
――凄い!これ全部、生徒会の人達が用意したというの?
素晴らしい出来栄えに、エリアーナは感嘆の溜息を零す。
よく見ると、エリアーナと同じように溜息を吐いている令嬢が何人もいた。
エリアーナはその様子を見ながら、レイモンドに無性に会いたくなってしまった。
会って直接「凄いね!」と言ってやりたい。
きっと彼は、照れ臭そうにはにかみながら「ありがとう。」と言ってくれる筈だ。
エリアーナはそう思いながら、レイモンドを探した。
すると、向こうの人混みの方から、レイモンドがこちらへやって来る姿が見えた。
エリアーナは笑顔になり、レイモンドの所へ行こうとして歩き始めたが、しかしその足はぴたりと止まってしまった。
近づいて来るレイモンドの横に、何故かエミリアがいたのだ。
大股で近づいて来るレイモンドの腕に、しがみ付く様について来るエミリアに、エリアーナは胸の奥がざわつくのを感じた。
彼女は相変わらず奇麗で、しかもエリアーナと同じような色のドレスを着ていた。
――何であの子が、レイモンドと一緒にいるの?それにあのドレスは?
ふと、胸に浮かんだ疑問に答えが出ないまま、ぼんやりと二人を見ていると、エリアーナの元に辿り着いたレイモンドが嬉しそうに声をかけてきた。
「エリィ、待ってたよ。」
「え、ああ、うん。」
エリアーナは、エミリアを腕に絡ませたまま、笑顔でそう言ってくるレイモンドを、ぼんやりと見ながら返事をした。
――何でその状態で、笑顔で声をかけられるの?
エリアーナが思わずエミリアを見ると、彼女は勝ち誇ったような顔でこちらを見てきた。
そして見せつけるように、レイモンドの腕に体を密着させてくる。
その行為に、エリアーナの体が強張ってしまった。
「エミリア嬢、そろそろ離してくれないかな?僕は、エリィをエスコートしなきゃいけないから。」
レイモンドは、エリアーナの異変に気付くと、エミリアを強引に引き剥がした。
「レ、レイ様?」
突然離れていったレイモンドに、エミリアは意味が分からないと、ぽかんとした顔をする。
そんなエミリアに、レイモンドは心底嫌そうな顔をすると
「いや、そもそも僕は婚約者を迎えに、ここへ来たんだけど。君は何故か勝手について来ただけだよね?」
そう言ってきた。
その言葉にエミリアは、益々わからないといった顔をする。
「え、ちょっと待って?舞踏会イベントで王子と踊るのは私で……。」
「何を言ってるのかわからないけど、君にはサイモンとエルリックや他の男子生徒とも約束しているだろう?早く行ってあげた方がいいんじゃないかな?」
エミリアが困惑した顔で、ぶつぶつ言っていると、レイモンドは用はないとばかりに言ってきた。
「わ、私はレイ様と踊らなきゃいけないんです!!」
レイモンドの言葉に、エミリアは更に意味不明な言葉を叫んできた。
その声に周りにいた人達が、一斉にこちらを見てくる。
その事に、先程まで呆然としていたエリアーナが気づき、びくりと体を震わせてきた。
「エリィ?」
いつもと違う様子のエリアーナに、レイモンドが怪訝な顔を向けてくる。
エリアーナは、こちらを覗き込んでくるレイモンドと、こちらを睨んでくるエミリアを交互に見ていたかと思ったら、いきなりくるりと向きを変えて、走り出してしまった。
「え、ちょっと、エリィ!?」
「お、お邪魔しました~!」
何故か、そんな事を言いながら逃げ出したエリアーナを、レイモンドが追いかける。
それを、エミリアが物凄い力で止めてきた。
「行かないで!」
レイモンドの腕にしがみ付いたまま、こちらを悲しそうな目で見ながら訴えてくるエミリアに、レイモンドは一瞬かっとなる。
「ちょっと、邪魔しないでよ!」
つい地が出てしまったが、そんな事は構っていられないとエミリアの手を振り解き、エリアーナを追いかけて行ったのだった。
後に残されたエミリアは、というと……。
「……え?」
と呟きながら、呆然と立ち竦んでいたのであった。