第18話 舞踏会1
舞踏会当日――
「変じゃないかしら?」
「よくお似合いですよ、お嬢様。」
エリアーナは朝から鏡を何度も見ては、専属侍女のメルや他の侍女達に不安そうに訊ねていた。
その都度、侍女達は嫌がりもせず優しく褒めてくれる。
エリアーナは、レイモンドから贈られたドレスを侍女達に着付けて貰った後、どこか可笑しな所はないか入念にチェックしていた。
侍女達の言葉は、もちろんお世辞ではなく、本当にエリアーナに似合っているのだが、当の本人は鏡を見ながら不安そうに溜息を吐いていた。
「はぁ、私って背は小さいくせに、何でこんなに目つきが鋭いのかしら?」
お陰で何着てもきつい印象になっちゃうのよね、と溜息を吐く主人に、侍女達はとんでもないと頭を振った。
「何を仰いますお嬢様、こんなにもドレスが似合っているじゃないですか!」
余りにも自信のない主人に、メルが思わず声を荒げて言ってきてしまった。
その言葉に他の侍女達も、そうだそうだと頷く。
「あ、ごめんなさい。あなた達の腕が悪いって言ってるんじゃないのよ。素材の方が悪いんだから。」
主人の言葉に侍女達の目がくわっと見開いた!
「エリアーナお嬢様、よく見てください!これのどこが素材が悪いんですか!?」
メルはそう言ってエリアーナの肩を掴むと、鏡の前に近づけた。
「黒檀のようなつやつや真っすぐな黒髪!円らで大きな宝石のような瞳!お肌だって、こんなにつやつやで、もっちりとしてて、すべすべで……。」
「ちょっ、メル、くすぐったいわよ!」
涎を垂らしながらエリアーナの髪や肌を撫で回す侍女に、エリアーナが擽ったそうに身を捩る。
「しかも、このドレス!エリアーナ様の為だけに誂えたかのように、サイズもデザインもぴったり♪はぁぁ、お嬢様の美しさが何倍にも増幅しておりますわ♪」
「あ、ありがとう……。」
相変わらずの主人愛に、エリアーナが若干引きながら笑顔を向けると、メルは満足したように頷いてきた。
「お嬢様は、ご自分の美しさに自信がないのが玉に瑕ですわね。」
そう言って困った顔をするメルに、エリアーナは仕方ないじゃない、と胸中で呟いた。
幼少の頃から、一番近くで絶世の美貌を見てきているのだ、自分の顔が平均以下だなんて当の昔に知っている。
エリアーナは悲しいかな、レイモンドの美しさを基準にしてしまっているため、どうも世間一般の美意識からは少しずれていた。
――でも、あの男爵令嬢はレイと並んでも凄くお似合いだった。
彼女の言動はアレだが、絶世の美女と謳われるエミリアを思い出し溜息が漏れた。
あれぞまさしく美男美女の組み合わせだ、と誰かが言っていたのを思い出す。
――レイも何だかんだ言ってああいう顔が好みなんじゃないかしら?
最近、耳にする噂を思い出しながら溜息を吐く。
結局エミリアは、あれからずっと生徒会室を出入りしているという事実に、エリアーナは無意識のうちに嫉妬していたのだった。
「さ、そろそろお時間ですから、学園へ向かいましょう。」
俯き始めたエリアーナに、メルは明るい笑顔でそう言うと、部屋のドアを開けてきた。
エリアーナは促されるまま、沈みかけた心を抱えながら、馬車へと乗り込むのであった。