第16話 生徒会
一方その頃、レイモンドの方はというと――
――ふふふ、今頃エリィの所にドレスが届いている頃ねぇ。
と、生徒会室で舞踏会の準備に追われながら、婚約者の喜ぶ顔を想像してニヨニヨしていた。
「会長、この書類にサインお願いします!」
「会長、会場の飾り付けと、料理を出す順番はこれでよろしいでしょうか?」
レイモンドが涼しい顔で、エリアーナの事を妄想していると、生徒会の役員から次々と声を掛けられた。
レイモンドはそれら全てを聞きながら、適切な指示を出していく。
実はレイモンドは、生徒会に所属していた。
しかもこの生徒会、それ相応の家柄で優秀な子息令嬢しか入る事が出来ないという、伝統的な決まりがある。
もちろんレイモンドは、王子という身分であるため強制的に入会させられ、しかも会長という役職にも就かされていた。
しかも生徒会というこの場所は、貴族社会の縮図のような所だった。
学園(国)を潤滑に円満に機能させていくために、生徒会(王や貴族)が校則を作ったり、行事の運営をしたりするのだ。
いわば国と民、国王と貴族の役割を経験するための場であった。
そして、2週間後に行われる学園最大の行事である舞踏会も、将来貴族として社交界に出た際、夜会を執り行ったり、社交界でのルールやマナーを覚えるための、大事な行事の一つであった。
その大事な舞踏会の準備を、生徒会役員が一丸となって準備をしている筈であったのだが……。
「そういえば、サイモンとエルリックは今日もいないのか?」
ふと、最近不在がちな二人を思い出し、レイモンドが部員の一人に訊ねると、案の定どこにいるかわからないという返事が返ってきた。
その事に溜息を吐いていると、突然生徒会室の扉が開いた。
ノックもせずに開かれたことに驚いていると、扉を開けて入ってきたのは、先程探していたサイモンとエルリックであった。
レイモンドは、二人に何処に行っていたのか問質そうとしたが、彼らの後に続いてエミリアが入って来たので、思わず口を噤んでしまった。
レイモンドは、ピンクゴールドの髪が能天気に揺れる様を見ながら「またか。」と頭を抱えたのであった。
ここ何日かサイモンとエルリックは、部外者であるエミリアを、生徒会室へと勝手に連れて来てしまうことがあった。
何度も注意はしているのだが、彼らはどういうわけか、エミリアを連れてくることを辞めなかった。
そして何かと理由をつけて、仕事の邪魔をしてくるのだ。
「こんにちは、レイモンド様。」
「やあ、エミリア嬢。ここは部外者は立ち入り禁止の筈だよ?」
エミリアの挨拶に笑顔で受け答えしながら、レイモンドはさらりと釘を刺す。
その途端、エミリアはみるみる内に、しょんぼりとした顔になっていった。
「す、すみません……。」
「レイモンド様、私がエミリーを誘ったのです。彼女も生徒会に興味があるようですし、手伝って貰ってはいかがでしょう?」
瞳を潤ませながら珍しく謝罪してきたエミリアに驚いていると、サイモンが彼女を隠すように背に庇いながら言ってきた。
「いや、人手は足りているから」
「いえ、全然足りていませんので手伝って貰いましょう。エミリーその書類を殿下に。」
「はい!」
サイモンの提案に、レイモンドが即答で断ろうとすると、エルリックが言葉を遮ってきた。
そして、勝手にエミリアに仕事を割り振ってしまう。
慌てて止めようと声をかけようとすると、エミリアがその前に笑顔で書類の束を差し出してきた。
出鼻をくじかれた状態のレイモンドは、ちらりと他の部員たちに視線を向けると、彼らは「諦めましょう。」と首を振ってきた。
こうなっては、彼らは梃子でもここから動かないことを、この数日間で十分熟知した彼らは抵抗するだけ無駄だと悟ったようだ。
レイモンドは誰も味方になってくれないことに、内心で唇を噛んで悔しがったが、そこは帝王学を叩きこまれた王子様。
爽やかな笑顔と共に奇麗さっぱり隠し、薄っすらと額に青筋を浮かび上がらせるという芸当をしたまま、書類を受け取ったのであった。
――覚えてなさいよ!あんた達ぃぃぃぃ~!!
レイモンドは、心の中で絶叫するのであった。