第15話 うっかり侯爵令嬢
何だかんだと、エミリアと愉快な仲間達に絡まれる日が続くこと数ヶ月。
なんとか彼女たちの意味不明な奇襲が納まった頃、学園で行われる舞踏会の日が近づいていることに、エリアーナは今頃になって気づいた。
「まずい、なんにも用意してなかった!!」
舞踏会に着ていくドレスや、アクセサリーの手配を忘れていた事に今更ながらに気づき、エリアーナが頭を抱えていると、それを見計らったかのように、レイモンドからの使者が侯爵家へ来たのだった。
「第一王子レイモンド様から、お届け物だそうですわ、お嬢様。」
そう言って、ほくほく笑顔でエリアーナの部屋に大きな箱を運んできたのは、侍女のメルであった。
彼女は、エリアーナが幼い頃から仕えている専属侍女である。
もちろん、エリアーナの婚約者であるレイモンドの事も良く熟知していた。
彼女は部屋のテーブルの上に、届けられたばかりの荷物を置くと、可愛くラッピングされていたリボンを解いて中身を見せてきた。
箱の中にはドレスが入っていた。
そして、一緒に入っていたメッセージカードには――
――エリィへ、たぶんエミリア嬢の対応で忙しくて忘れていると思ったから、あたしの好みでドレスを選んでおいたわ!舞踏会には絶対着てきてね(ハート)――
と、書いてあった。
「レイったらナイスフォロー!!」
と、エリアーナは喜びのあまり、思わず声に出して言ってしまっていた。
レイモンドから贈られてきたドレスは、彼が選んだだけあって素敵なものだった。
目の覚めるような濃い青のドレスで、腰から続く幾重にも重ねられたフリルの部分には、青と金色のフリルが交互に重ねられており、胸元と裾の部分は金の刺繍糸で花をモチーフにした豪華な刺繍が施されていた。
更にドレスのデザインに合わせた、大粒のサファイアが散りばめられたネックレスとイヤリングまで用意されていた。
彼の髪と瞳の色を連想させるデザインに、「独占欲丸出しですね♪」とメルに言われてしまい、エリアーナは思わず真っ赤になってしまった。
「もう!揶揄わないでよ!」
そう言って、贈られてきたドレスを急いで箱にしまうと、ぷいっと横を向いてしまった。
その初々しい姿に、侍女のメルは「お嬢様ったら可愛い。」と言葉にしながら微笑んできた。
主人を溺愛する侍女に微笑まれたまま、エリアーナはこっそりと、レイモンドから贈られてきたドレスの箱をちらりと盗み見る。
――でも、すごく素敵なドレスだったなぁ……やっぱりレイって、ほんとセンス良いわよね。何やらせてもスマートに完璧にやっちゃうし……。
今は舞踏会の準備で忙しいであろう、婚約者の事を思い出しながら、エリアーナは胸中で呟くのであった。