第13話 ヒロインの計画
――うふふふふふ、やっとやっと私の流れになったわぁ~♪
男爵令嬢の居室で、エミリアは込み上げてくる嬉しさに打ち震えていた。
「さあこれで、目指せ逆ハーコンプリートまで一直線よ~♪」
今日の放課後、やっとエリアーナからの接触があり、事は上手くいったと一人祝賀会をしているところだった。
「ふふふ、しかも待ちに待っていた裏庭イベント!あれだけアピールしておけば、もうこっちのものよね。王子様だって私の事を哀れんだ目で見てくれてたし♪次のイベントでは王子様と……。」
何かを想像しながら、ぐふふふと気持ち悪い笑みを零し、これで安泰だわ~!と言いながら、エミリアは葡萄ジュースをぐいっと飲み干した。
ぷはぁっ、と令嬢らしからぬ飲みっぷりを披露したエミリアは、悪役令嬢も真っ青な極悪人顔をしていた。
「さて、あとは私を苛めてたっていう証拠作りと、証人をでっち上げれば完璧ね♪」
エミリアは、最後の仕上げの計画を練るのであった。
――やっぱり昨日の今日じゃ、噂になるわよね。
エリアーナがいつものように学園に登校すると、遠巻きに学生たちがひそひそと噂していた。
その光景にうんざりしながらも、いつも通りに過ごすように心掛けて過ごした。
その甲斐あってか休み時間も放課後も、噂好きの御令嬢たちに絡まれることなく平和に過ごせた。
――さすが王妃様直伝 ”窮地の時ほど平静を保て作戦” 効果抜群だわぁ~♪
と万能な王妃教育を絶賛していると、突然背後でビターンと派手な音が聞こえてきた。
思わず振り向いたエリアーナの目が点になる。
エリアーナのすぐ後ろで、誰かが盛大に廊下に突っ伏していたのだ。
今まで遭遇したことが無いあり得ない光景に、エリアーナの思考が一瞬停止してしまった。
――え、なに?こんな所で転んでいる人、初めて見たんですけど?
やっとそんな突っ込みを内心でしていると、倒れていた相手がむくりと起き上がってきた。
「痛ぁ~い!」
廊下に座り込んだまま、そう言ってきたのは、まさかのエミリアだった。
「エリアーナ様、酷いですぅ。」
――え?何が?
何故か彼女は、わざとらしく泣きべそをかきながら、転んだ事を人のせいにするような発言をしてきた。
その事に、即答で突込みを入れていると、エミリアは更に瞳をうるうるさせながら、こちらを見上げてくる。
――いやいやいやいや、勝手に転んでたよね?しかも他の人も見てたし、というかなんでそんな責めるような目で見てくるのよ!?
私関係ないわよ!と胸中で盛大に突込みを入れていると、見計らったようにエミリアの取り巻き達が現れた。
「エミリー、こんな所で倒れてどうしたんだ一体??」
――勝手にすっ転んでましたけど?
「貴様!エミリーに何をした?」
――何もしてません、歩いてただけです。
「エミリー立てるかい?貴様、ただで済むと思うなよ!!」
――ちょっと、何言ってるのかわからな
エリアーナが突込みをしていると、エミリアとその取り巻き達は言いたいことを言い終わると、さっさと退散してしまったのだった。
「何だったのかしら?」
エリアーナは、嵐の如く去って行ったエミリア達を見送りながら、そこでようやく声が出せた。
辺りを見ると、同じように状況が理解できず、ぽかんとしている生徒達が数人ほどいた。
こんなに目撃者がいる中で、あの人たちは何がしたかったのかと頭を抱えていると、遠巻きに一部始終を見ていた同じクラスの御令嬢達から「心中、お察し致しますわ。」と労いの言葉をかけられてしまったのであった。
そして――
この日を境に、何故かエミリア+取り巻き達との遭遇率が激増するのであった。