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第12話 王子と晩餐

「で?どうして、あんな騒ぎになっちゃってたのよ?」


日も沈み始めた夕刻、レイモンドに晩餐に招待されたエリアーナは、裏庭での説明を要求されていた。

エリアーナは、裏庭での会話を細かく説明していたのだが、話が進むにつれて、レイモンドの眉間の皺がどんどん深くなっていった。


「なにそれ?意味わかんないわ……。」


レイモンドは、持っていたナイフを取り落としそうになりながら、呆れた声でそう言って来た。


「だよねぇ~、私も意味わからなくなっちゃって……。」


しかも、平民とか言ったのが、気に障ったのかしら?と明後日な事を言うエリアーナに、レイモンドは頭を抱えた。


「全然話し合いにすらなってないじゃない。ただ単に、言いがかりをつけられただけよそれは。」


「あ、やっぱりそうなる?」


「そうよ。あの後あたしも、あの子の話を聞いてみたけど、支離滅裂でめちゃくちゃだったわ。」


「う……それについては、申し訳ないと思ってる。迷惑かけて、ごめんなさい。」


「あらいいのよ、あんな子相手にするの、一人じゃ無理だもの。」


エリアーナが恐縮しながら頭を下げると、レイモンドはしれっとそんな事を言って来た。

驚いてレイモンドを見ると、彼はしたり顔でエリアーナを見てきた。


「あの子、ちょっと付き合ってみてわかったんだけど、強引で人の話を聞かないところがあるのよ。それに思い込みも激しいみたいなのよねぇ。」


「そ、そうなんだ……。」


今までエミリアに付き纏われていたレイモンドは、エリアーナよりも彼女の事を熟知しているようだ。

そう思った瞬間、エリアーナの胸が微かに、ちくりとする。

その事に首を傾げていると、レイモンドが話を続けてきた。


「でも今回の事で、エリィへの風当たりが強くなりそうなのが心配なのよね。」


そう言って、レイモンドは心配そうな視線を寄こしてきた。

その視線に、エリアーナは急いで首を振る。


「あ、そこは大丈夫みたいよ。エミリア嬢がレイに訴えていた時、何人かの令嬢たちは察してくれてたみたいだったから。」


「そう、ならいいんだけど……でも男の子たちの方がねぇ。」


そう言って、顎に手を添えて困ったように首を傾げるレイモンドに、エリアーナも「うっ。」と言葉を詰まらせる。

目下、そちらの方が最大の頭痛の種だった。


「ほとんどの男子生徒が、エミリア嬢の取り巻きみたいなものだからね。そっちは私じゃ、どうにもならないわ。」


エリアーナはそう言って、縋るような目でレイモンドを見てきた。

困ったときに出る彼女の無意識の癖に、レイモンドは内心で「可愛いわぁ♪」と絶賛しながら、涼しい顔で彼女を見遣る。


「うふふ、お困りの様ねぇ。」


レイモンドは両手を組むと形の良い顎を乗せて、二コリと笑顔を作りエリアーナを見つめてきた。


「う……。」


自分で何とかすると言った手前、彼に甘えるのはどうなんだと、エリアーナの矜持が邪魔をする。

一言お願い、と甘えた声でおねだりすれば良いだけなのだが、甘え下手の彼女にはハードルが高いらしい。

というか、誰かに頼るなんて、思いつきさえしていないのだろう。

レイモンドは小さく溜息を吐くと、徐に立ち上がり、エリアーナの方へと移動してきた。

突然、こちらにやってきたレイモンドに、エリアーナが目を丸くしていると、彼は小柄な彼女と目が合うように跪き、彼女の手を取って言って来た。


「可愛いエリアーナ、僕がどんなに君の事を思って心を痛めているか気づいてる?」


「え?へ?レ、レイ?急になに!?」


一体急にどうしたの?と突然、絵本に出てくる王子様のような事をしてくる婚約者に、エリアーナは目を白黒させて驚いていた。


「僕はいつでもエリィの味方だよ?少しは頼ってくれてもいいんじゃない?」


そう言って、可愛らしく唇を尖らせる彼に、エリアーナは真っ赤になってしまった。


「え……と、きょ、今日のレイ、なんか変よ?」


エリアーナは真っ赤になりながらも、いつもと違うこの雰囲気を何とかしようと、言葉を紡ぐ。


「ん?僕はいつも通りだよ?エリィの方こそ真っ赤になってどうしたの?」


「そ、それはレイが急に……」


そう言って、真っ赤な顔のまま顔を上げたエリアーナの額に、レイモンドが額をくっつけてきた。

それだけでエリアーナの体温は更に上昇し、真っ赤な茹蛸のようになってしまい、口をパクパクさせて固まってしまった。


「ねえ、エリィ、君はいつもそうだ。いつも自分で解決しようとしてしまう。僕だっているのに……少しは婚約者である僕にも頼って欲しいな。」


エリアーナはどう返していいのかわからず、ただこくこくと頷くことしかできなかった。

その反応にレイモンドは、にやりと口元を吊り上げる。


「うん、いい子だねエリィ♪男子生徒の事は僕に任せて、あとは大船に乗ったつもりで、いてくれていいからね♪」


レイモンドはそう言うと、エリアーナのおでこに、ちゅっと口付けたのだった。

その瞬間、ぷしゅ~と音を立ててエリアーナが崩れ落ちる。

レイモンドは、気絶してしまったエリアーナを大事に抱きかかえながら苦笑した。


「ほんっと、エリィは今も昔も一人で解決しようとするんだから……。」



――待っててレイ、私が取ってきてあげる!――



そう言って、愛しい彼女を見下ろすレイモンドの瞳には、幼い頃の彼女の面影が重なって見えていたのであった。


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