第11話 学園の裏庭(続)
「これは……どうしたんだ、一体?」
人混みを掻き分けて現れたのは、ここで登場するのは最も避けて頂きたいと思っていた、レイモンドであった。
第一王子様のご登場である。
突然大物が現れたことに場は一瞬騒然とし、何故か王子とエリアーナ達の間に居た人垣が、ざっと音を立てて二手に分かれた。
まるで物語のワンシーンの様に、綺麗に人壁の道が出来上がる。
その光景に、エリアーナは若干嫌な予感がして顔を青褪めさせた。
「レイ様ぁ~~!!」
「エ、エミリア嬢?」
案の定、エミリアはレイモンドを見るなり、その人壁の道を駆け出し、わっと泣きながら抱きついていった。
「エリアーナ様ったら、酷いんですぅ!」
完全に甘えた声でレイモンドに縋りつくエミリアに、エリアーナはジト目になる。
「え、ええっと、ど、どうしたんだい?」
レイモンドは突然の展開に、上手く付いていけないらしい。
相手の思う壺だというのに、受け答えしてしまっていた。
王子の帝王学どこ行った?と内心で突っ込みながら、エリアーナはその光景を静かに見守っていた。
「私は、ただみんなと仲良くしたいと思っているだけなのに、貴族のマナーがどうとか、目上の者に対してどうとか、挙句の果てにはレイ様にも近づくなって!」
――いや、そんなこと言ってないし!!
エリアーナは内心で突っ込みながら、しかし敢えて静観を貫いた。
すると、遠巻きに話を聞いていた貴族の令嬢達は、どうやらエミリアが、貴族としてのマナーを欠いて注意されていたことを察してくれたらしい。
ああそういう事ですのね、と隣の令嬢たちに伝言ゲームの様に耳打ちが広がっていく。
その様子を横目で見ながら、とりあえず女生徒たちの誤解は解けそうだと、ほっと胸を撫で下ろした。
あとは男子生徒たちなのだが……。
「レイモンド様、そこにいるエリアーナ嬢がエミリアに対し、侮辱する発言をしたようなのです。」
ここでは、二番目に立場が上のサイモンが、レイモンドに状況を説明してきた。
レイモンドはサイモンの説明に、「え?」と小さく呟くと、視線だけでこちらを見てくる。
「ほんとなの?」と目だけで聞いてくるレイモンドに、エリアーナは小さく首を振った。
その返答に、レイモンドは暫く目を瞑って思案した後、こう言って来た。
「話は場所を変えて改めて聞こう。みんな、もう下校の時間はとっくに過ぎているよ。」
レイモンドは、よそ行きの顔でそう言いながら、周りにいる生徒達を見回した。
すると王子の牽制に、野次馬たちはすごすごと去って行く。
それを見届けたレイモンドは、一つ溜息を零すとエミリアとその取り巻き達を連れて、裏庭から去って行ったのだった。
「ふう……。」
エリアーナは誰も居なくなった裏庭で、ようやく息を吐いた。
緊張で倒れるかと思ったが、なんとかレイモンドが場を治めてくれたのでよかった。
今頃あっちでは、大変な事になってるんだろうなぁ、と思いながら、助けてくれたレイモンドに手を合わせる。
去り際に「詳しい話は後で聞くからね!」と、視線だけで訴えてきた彼に、どうやって説明しようかと、エリアーナは頭を悩ませるのであった。