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第10話 学園の裏庭

「はぁ~、気が重いなぁ~。」


エリアーナは溜息を吐きながら、学園の裏庭で人を待っていた。

先日、令嬢たちからお願いされた事を実行に移すべく、エミリアには放課後ここへ来るように言付けておいた。

そろそろ来る頃だろうと噴水の天辺にある時計を見ていると、裏庭の入り口にある薔薇のアーチをエミリアがくぐってこちらへやって来た。


「お、遅くなり申し訳ありません。な、何の御用でしょうか?」


彼女はエリアーナの元へ来ると、怯えた様子で訊ねてきた。

その姿に、怖がらせるつもりはないんだけどなぁ、と思いながらエリアーナは用件を伝えるべく口を開いた。


「急にお呼びしてしまって、ごめんなさいね。貴女とゆっくり、お話がしたかったの。」


「ひっ!あ、あの……わ、私、エリアーナ様の、ご機嫌を損ねるようなことをしてしまったのでしょうか?」


エリアーナは、出来るだけ怖がらせないように優しく言ったつもりなのだが、何故かエミリアは判り易いくらい大げさに怯えてきた。

びくびくと、こちらの顔色を窺いながら、か細い声で言ってくるエミリアに、エリアーナは焦る。


――う~ん、なんか勘違いされてるみたいだなぁ……。


果たして、このまま実行に移しても大丈夫なのかと不安になる。


――いや、でも言わないと、婚約破棄問題が起きちゃうし、なにより貴族として学園にいる以上、貴族の常識は知っておいて貰わないとだし……何より言わない事には、いつまでたっても帰れないのよね……。


エリアーナは、エミリアに気づかれないように小さく溜息を吐くと、意を決して口を開いた。


「エミリア様には、貴族のマナーについて、少しお話しておきたいことがあるのです。」


「貴族のマナーですか?」


「ええ、エミリア様は男爵家に養子に来て日も浅いですし、それ以前は平民としてお暮しになっていたと聞き及んでおりますわ。ですから、ここでの生活は、まだ不慣れで知らないことが沢山あると思いまして、他の方達と相談した結果、僭越ながら私がアドバイスをすることになりましたの。」


出来るだけ相手を立てて話したつもりが、何故かエミリアの顔が、みるみる赤くなっていく。


「わ、私が平民出身の田舎臭い者と、そうおっしゃりたいのですか?」


と、突然大声を出して言ってきた。


「へ?い、いえ、そう言うわけでは無くてですね。」


エリアーナは、なんでそうなるの?と内心突込みを入れながら、慌てて誤解を解こうとしたのだが。


「エリアーナ様、酷いです!私だって、みんなと打ち解けようと、必死になって頑張ってるのに……。」


そう言って、エミリアの瞳はみるみる内に涙で潤んでいった。


「いや、違うから!ええっと、ほら、エミリア様が仲良くしている男子生徒の中に婚約している方もいるでしょう?貴族としては婚約者のいる殿方と他の令嬢が親しくするのは外聞も悪いし、マナー違反というか……」


「そんな!彼らは困ってる私に、親切にしてくれてるだけです!なんでそんな意地悪言うんですか?」


「いや、意地悪言ってるわけじゃないんだけど……。」


こちらを、キッと睨み付けてくるエミリアに、エリアーナは困ったように眉根を下げる。

そしてエミリアは、止まらないとばかりに、捲し立ててきた。


「貴族のマナーなんて、他の女子生徒の方達からも言われて知ってます!男子生徒に気安く近づいちゃダメ、目上の方にはこっちから話しかけるな、あと王子様に気安く話しかけるな、愛称呼びするなって、毎日のように言われているんです。それなのに、エリアーナ様まで私を責めるなんて……酷い、酷いです!!」


大声でそう叫んでいたかと思ったら、いきなり蹲り、わっと泣き出してしまった。


――ええ~私、そんな事があったなんて知らないんですけどぉ~!というか、私が言う必要ないんじゃないの?


既に他の令嬢たちによって、忠告済みだったことを 知り、エリアーナは頭を抱える。

そして騒ぎを聞きつけて、何人かの生徒達が集まってきてしまった。


「私、知ってるんです!私がレイ様と仲が良いからって、レイ様と私の仲をやっかんで邪魔しようとしてたって!やり方が汚いです、エリアーナ様!!」


――いやいやいやいや!どうしてそういう、話の流れになってるのよ?そんなこと、言ってないでしょうが!!


エリアーナは頬を引き攣らせながら、胸中でそう絶叫した。

さすがに他の人が見ている所で、醜態は晒せない。

エリアーナは悲しいかな、幼少の頃より叩き込まれた貴族令嬢としての躾と、お妃教育で培った鉄面皮作戦で、何とか顔が引き攣らない様に表情を作る事に成功していた。

その甲斐あってか、泣き嘆く令嬢を冷ややかな目で見下す、悪役令嬢の出来上がりの構図が出来てしまっていたのだが、醜態を晒さない様に必死なエリアーナは、その事に気づけないでいた。

どんどん集まってくる生徒たちが、その現状を目の当たりにして、場の雰囲気はエリアーナに不利になっていく。

ざわざわと、囁き合う令嬢たちの口から「エリアーナ様がエミリア様を……。」「まあ!」など、聞き捨てならない単語が、ちらほら聞こえてきたりするようになってきた。

その時――


「何の騒ぎですか、これは?」


最悪の時に、最悪の相手が現れたのだった。

それはもちろん、エミリアの取り巻き達である。

彼らは蹲るエミリアと、無表情で立ち竦むエリアーナを交互に見て、状況を都合よく理解してくれたのだった。


「エリアーナ嬢、これはどういうことですか?」


「え?」


案の定、取り巻き達はエリアーナが、エミリアに対して何か酷い仕打ちをしたと判断したようだ。

その証拠に彼らは、エリアーナを軽蔑するような目で睨んでいた。


「私は何もしていませんわ。」


エリアーナは、このまま自分が狼狽えた姿を見せれば、状況が悪くなると判断し、毅然とした態度を取った。

そのお陰で、エミリアの取り巻き達は一瞬怯む。


伊達にエリアーナは、幼少時からお妃教育を受けていたわけではない。

一瞬で、周りを呑み込む威圧感に周囲の者は何も言えず固まっていた。

さすが王妃様直伝の教育は一味違うわぁ、と内心で感心する。

そこへ、またもや騒ぎを聞きつけて、珍客が現れたのだった。


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