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第八話 紅愛の学校での過ごし方

あいつは今なにしてんのかな……

 あいつ(奏)に見送られて数十分。私が通う、県立怜悧高校に着いた。校門前には制服のチェックをしている風紀委員とその顧問だかなんだか知らないけど、教師が居た。うちの高校は結構制服のチェックが厳しい。そのため何人かの男子が風紀と教師に捕まって説教をされていた。私はそんなの知ったことじゃないけど。校門をささっと通り抜けて下駄箱へ向かう。


「紅愛ちゃ~ん! おっはよう!」

 

 …………めんどくさいやつが絡んできたけどそれを無視して下駄箱に向かう足を止めずに歩き続ける。


「もう、無視しないでよ、ね~紅愛ちゃんってばぁ」


 更に無視を続ける。こいつに関わるとろくな事が無いのは十分分かっている。


「し、白雪さん……! おはようございます……!」

「うん! おはよ~」


 こいつは白雪白羽しらゆきしろは私のただのクラスメイト。友達とかではない。ただこいつからひたすら話かけられててうんざりしてる。こいつは男子からはとてもモテる。さっきのように誰にもかかわらず笑顔で話す彼女は男子曰く「めちゃくちゃ可愛い!!」だとか「まさにこの世に舞い降りた天使……」とかなんとか言われているのを聞いた気がする。しかもこいつは()()白雪家の次女だ。


 ――白雪家、この辺ではこの名前を聞かない人はいないレベルの金持ちだ。白羽の父親は政治家でありながら自営業もしている。うちの街の中央にあるホテルとかも白雪家営業のものだ。とは言っても私もたまに見るテレビで見ただけだし、あんまり白雪家のヤバさはなんとなくしか知らないし、そもそも知ろうとも思わない。だって面倒くさいし。横でぴょんぴょん跳ねながら私に話しかけてくる白羽を無視して下駄箱で靴を履き替える。


「紅愛ちゃん宿題やった~? あれ難しいよね~英語の翻訳のやつ」

 

 まだ隣にくっついて喋っている白羽を放置して廊下を歩く。白羽の隣に居ると他の生徒がじろじろ見てくる。白羽は友達が多く、誰でも仲良く出来るタイプ。だから早く友達でも何でもいいからこいつを私から離して欲しい。他の生徒はこそこそと「白雪さんと南野さんってどういう組み合わせ?」「白雪さんなんであんなに南野さんに話しかけてるんだろう?」「南野さん、白雪さんの事無視してない? 白雪さんが可哀想……」とか好き放題言っている。このままだと私が悪いみたいになるし適当に返事して距離を取ろう。


「お前英語の宿題終わったの?」

「う~ん……終わってるけど適当に書いたから分かんない!」

「じゃあ、私のノート見せてあげるからあっちに行ってくれない?」

「え!? ほんと!? わーいやったー! 紅愛ちゃんありがとう!」


 教室に入ってカバンから英語のノートを取り出し白羽に渡す。


「三時間目までには返してよ」

「分かった! 終わったら返すね!」


 白羽はノートを持って自分の席に戻っていった。なんとか白羽を追い払う事に成功した。代わりにノートが犠牲になったけど……まぁ、ノート一冊で追い払えるなら良い方か。ダメなときは私の隣にずっと居るしあいつ……はあ、なんとか平和な時間がやって来た。授業面倒だな、午後からサボろうかなぁ……ノートは有紗に見せてもらえばいいし午後からサボるか……私は机に突っ伏して目を閉じる。


「紅愛、宿題終わらせたのか?」


 机で寝ようとしてると私の数少ない友達の渡辺有紗わたなべありさが声をかけてきた。有紗は去年の夏に私が補習授業を受けていたときに、たまたま生徒会をやっていて学校に残っていた有紗に先生が「南野に教えてやれ」の紹介で私の勉強を見る事になってからの仲だ。有紗は学年首位を取った事もあるし、一位がダメでも五位内には入れる位頭が良い。それからは私に勉強を教えたり、ノートを見せたりしてくれる。そのおかげで私は堂々とサボれるってわけ。


「ん? なんで?」

「さっき、白雪さんに英語のノート渡してたろ? だから宿題やったのかなと思って」

「やってないよ」

「はぁ? じゃあなんで白雪さんにノート見せたんだよ」

「母さんの机の上に、英語の宿題の答えが置いてたから丸写ししただけ」

「……ああ、南野先生ならやりそうだなぁ……」

「そういうこと、じゃあ私寝るからおやすみ……」


 上げた顔をもう一度机に突っ伏して寝る。


「だから寝ようとすんな!」


 有紗が私の腕を揺すってくる。


「なんで? まだホームルームまで時間あるでしょ? だから寝てもいいでしょ」


 現在の時刻は八時二十分。ホームルームまであと十分もある。


「……いや別に、今日の一時間目数学だろ? だから前回の数学のノート見るかなって……まあ? 要らないんならいいんだけどさ……」


 有紗はいつもは少し厳しかったりするけど、たまにこういう風に優しいところもある。ようするに有紗は最近よく聞く「ツンデレ」なのだ。


「……写すからノート見せて」


 有紗がデレているのが少し可愛くて、今日は寝るのを止めて有紗のノートを写そう。この間の授業分のノートも書かないといけなかったし。今日は有紗に免じておとなしくノートを写そう。


「……! じゃあ、持って来る!」


 有紗は少し嬉しそうに自分の机に戻っていった。ああいうところをたまに見せるのが可愛い。


 

 そういえば、あいつ何の仕事してるって言ってたっけ? OL? それにしてはスーツじゃなかったけど……私服でも出来る仕事? 聞いとけば良かったな。後で母さんに聞いてみよう。三時間目の英語の時に聞けばいっか。そうこうしてたら有紗がノートを何冊か持って来た。


「これが前の数学のノート、こっちが次のテスト対策の問題集のノートで、それでこっちが」

「待って」


 有紗の話しを遮って、有紗が持っている何冊かのノートの事を聞いてみる。


「なんでそんなにいっぱいあるの?」

「? ああ、紅愛この間のテストの点数低かっただろ? だから、復習も兼ねて次のテストに出そうな問題をまとめといたんだ」

「……いや、それはありがたいんだけど……そんなに要らない」

「……え? そうか……」

「とりあえず、前の数学のノートだけ見せて。復習用のノートは……また今度ね」

「分かった……数学のノートはこれ」


 有紗は数冊あるノートの仲から一冊のノートを私に手渡す。


「ありがと、終わったら返すから」

「うん。あ、先生来たぞ」

 

 気付いたら八時半を過ぎていて、先生が教室に入ってくる。面倒くさい授業をとりあえず午前は頑張る事にして午後からはサボろう。先生の特に興味も無い話を適当に聞き流しながら、外の景色をホームルームが終わるまでぼーっと見ていた。







 三時間目の英語が終わり十分の休憩時間になり教室内がざわざわしだす。今から教室を出て行こうとする英語教師兼自分の母親に教室の外で声をかける。


「先生ちょっといい?」

「あら紅愛、どう? 奏ちゃんとの生活は? もう慣れた?」


 母は英語の教師をうちの学校でやっているけど最近は塾の教師も掛け持ちしてて忙しく、更に一ヶ月後には、隣町の小学校に一年間転勤する事になっている。私は一人でも大丈夫だと言ったが、母が私の生活リズムを心配して私は従姉妹の奏の家に、母が帰ってくる来年の五月まで住むことになった。


「……ぼちぼちかな、それより聞きたいことがあるんだけど」

「どうかしたの? あ、奏ちゃんとどうやって仲良くなればいいか分からないとか?」

「……そういうのじゃなくて、あいつって仕事何やってんの?」

「ああ、奏ちゃんはね? ケーキ屋さんで働いてるのよ。ほら、この間紅愛におやつに買ったケーキも奏ちゃんのところのケーキなのよ」


 確か一週間前に母が買ってきたあのケーキか……なるほどケーキ屋さんねぇ……


「その店ってどこにあるの?」

「すぐ近くよ? 駅前の歩道橋を右に曲がったところ。あ! 私、ポイントカード持ってるからそれに住所が書いてあるはずよ。ちょっと今から渡すから職員室まで着いてきて?」


 私は頷いて、母の後に着いて歩く。二年の教室がある二階の階段を降りて、一階にある職員室に向かう。一階の端の方にある職員室のドアを母が開けて、私は「失礼します」と小さく呟いて職員室に入る。母は自分の机に置いてあるカバンの中から財布を取り出して一枚のカードを手にした。


「あったあった、はい、これがポイントカードね。お店の名前は……cielって書いてあるわね」


 母からポイントカードを受け取ってカードを見てみる。スタンプはケーキを一つ買うごとに一つスタンプが貯まり、二十個貯めるとケーキが一つ無料になるらしい。スタンプは五個貯まっていた。


「もしスタンプが溜まったら使っていいわよ」


 そう言いながらカバンを仕舞っている母の言葉を聞きながら私はポイントカードをじーっと見ていた。


「今日帰りにでも寄って行ったら? 奏ちゃん喜ぶと思うわよ?」

「…………考えとく」


 ポイントカードをブレザーのポケットに仕舞う。


「……じゃあ、私戻るから」

「奏ちゃんによろしく言っといてね~」


 そうして私は職員室を後にして、教室に戻った。



 




 四時間目の授業が終わりお昼休みになった。いつもは有紗と一緒に中庭にあるベンチでお昼ご飯を食べる。カバンから弁当箱を取り出して、有紗の所へ行く。

「有紗、お昼食べよ」

「……あ、紅愛、えっーと……」

「紅愛ちゃん! お昼一緒に食べよ!」


 ……有紗の席に行くと何故か白羽がお弁当箱を持って待っていた。


「……お前、なんでいるの」

「え? 紅愛ちゃんとお昼一緒に食べたいからだよ?」

「そうじゃなくて……」

 

 いつもは他の生徒とお昼を食べてたのになんで今日は私なんだよ……


「早くしないと時間無くなっちゃうから早く食べよ!」


 白羽はもうこっちの意見を聞く気が無いし、有紗も「どうする?」と言った表情でこっちを見てくる。本当は関わりたくないから一緒に食べたくないけど、時間がもったいないから仕方なく今日は、白羽と一緒にお昼を食べよう……嫌だけど。


「……はぁ、いいよ、早く食べよ」

「わーい! やったー! やっと紅愛ちゃんとお昼食べられる!」


 私と食べるのがそんなに嬉しいか……? まあいいや、さっさと食べて終わらせよう。


「有紗もそれでいい?」

「……ああ、紅愛がいいならいいけど……」


 有紗の承諾を得て私たちは、中庭のベンチに三人で腰掛けて、お昼を食べ始めた。


「紅愛今日は弁当なの珍しいな」


 有紗がお弁当を食べながら話しかけてくる。


「なんで?」

「いや、いつもは菓子パンとかじゃん? なのに今日は弁当だから珍しいなと思って」

「まぁ、今日は作ってもらったからお弁当なだけ」


 奏が作ってくれた弁当をもぐもぐと食べる。母が作る弁当より美味しいかも……母が作る弁当は雑なんだよなぁ……もうちょっと丁寧に作れないかなぁ。


「そう言えば紅愛ちゃん! 近所に美味しいケーキ屋さんがあるの知ってる?」


 いきなり白羽が話しかけてきた。


「知らない」

「そこねー、この間おやつで食べたんだけど、すっごく美味しかったの!! 二人とも今度行ってみたら~?」

「白雪さんがそんなに絶賛するほど美味しいのかぁ」


 有紗が感心しながら頷く。


「うん! 美味しかった! 私基本的にアイスが好きなんだけど、そこのケーキ屋さんはね、アイスキャンディとかも売ってあったんだよ!」

「アイスキャンディがあるのすげえな」

「うん! だからおすすめ!!」


 私は二人が会話をしてるうちにぱくぱくと弁当を食べる。


「ごちそうさま」

「食べるのはやっ!!」

「喋ってるからでしょ、私もう教室戻るから」

「ああ、分かった」

「またあとでね~」


 私はベンチに有紗と白羽を残して、先に教室に戻った。……この辺で美味しいケーキ屋……まさかね。私は考えるのを止めて、お昼休みが終わるまで机に突っ伏した。





 


 








 終礼が終わり、生徒達がぞろぞろと教室から出て行く。私は部活とかやってないから学校に残る理由が無いので教科書とノートをカバンに入れて、カバンを肩にかける。そのまま有紗の席に行く。


「あ、紅愛もう帰る?」

「うん、有紗は? 今日も生徒会あるの?」

「うん、だから先に帰っていいぞ」

「分かった、後これ今日借りたノート返す」

「え? もう写し終わったのか?」

「うん……ただ写しただけだからすぐ終わる」

「問題の意味理解してないだろ」

「意味はまた今度有紗が教えてくれればいい」

「はいはい、じゃあまた勉強会の予定立てとく」

「うん、じゃあ私帰るね」

「うん、また明日」


 そう言って私は教室を出る。いつもは有紗と喋りながら帰るけど、今日は有紗も居ないし例のケーキ屋寄ってみようかな……住所は休み時間中に調べてスマホにメモしといたし、そんなに遠くもないので行ってみることにする。いつもと違う帰り道をスマホのメモアプリを見ながら歩き出した。

早めに更新しました!! 今回は新しい登場人物を出せて良かったです!!

続きが気になる方、おもしろかったという方は、ブックマーク登録、評価、感想コメントなどをよろしくお願いします!!それではまた次の話で!!

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