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第三十三話 従姉妹と年末

年末を奏の実家で過ごすことになった二人。ゆっくりしていると二人きりになった紅愛は……?

今日は十二月三十一日。すっかり街も新しい年を迎える準備の中。私と紅愛ちゃんは荷物をまとめていた。毎年大晦日は実家で過ごすと決めているのだ。キャリーバッグに着替えとかをいろいろ詰め込む。紅愛は隣で同じように荷物をまとめていた。


「そういえば、紅愛ちゃんが実家に来るの何時ぶりだっけ?」

「覚えてない」

「だよね。多分私と紅愛ちゃんがまだ小さかった時かな?」

「どうでもいい」


 相変わらずそっけない態度をとる紅愛。でも最近ではこれでも機嫌がいい方だ。


「今日は音色と詩織も帰るって連絡あったし、紅愛ちゃんに会うの楽しみにしてるって言ってたよ」

「……私はああいうタイプ苦手なんだけど」


 性格が大人しい詩織はともかく。問題は音色の方だろう。この間の病院でも紅愛の事気になってたみたいだし……。まあ紅愛なら大丈夫だと思うけど。


「さて、こんなもんかな」


 ばたんとキャリーバッグを閉じて玄関に置いておく。紅愛もほとんど準備は出来たようだ。


「もう出る?」

「う~ん……まだ出るには早いから、もう少しゆっくりしてから行こっか」


 時計を見ると時刻はまだ十時半だった。まだまだ時間はある。私たちはリビングに戻りソファーに座ってテレビを見る事にした。


「そういえば、オセロはどうする?」

「あっ……そうだった。連れて帰っていいかちょっとお母さんに聞いてみるね」


 スマホを取り出してお母さんに連絡を入れる。するとすぐに返信が来た。『別に連れて来てもいい』とのことだったので、オセロを連れてく

ことにした。

 それからオセロを外出用のカバンに入れて、私たち二人は家を出た。外はとても寒い。息を吐くと白い煙となって消えた。マフラーを巻きなおして車に乗り込む。紅愛は助手席に乗ってオセロは後部座席に乗せた。シートベルトをしてエンジンをかけて、車をゆっくりと走り出した。


「何時くらいに着くの?」

「そうだね……隣町だから一時間くらいかな」

「じゃあ、お昼も途中で食べる?」

「うん。そうしよっか」


 そんな会話をしながら車をどんどん進ませていく。しばらく走らせたところでお腹が段々空いてきたので、コンビニに寄ってサンドイッチやおにぎりを買った。

 私はささっと食べて再び車を走らせた。車を走らせている途中、隣で紅愛がもぐもぐとおにぎりを食べていた。


「美味しい?」

「美味しい」


 まだおにぎりを口に含んだまま紅愛は答えた。時々横でおにぎりを頬張っている紅愛を眺めながら運転を続けた。信号で停まっていると。紅愛がずいっとおにぎりをこちらに差し出した。


「一口あげる」

「え? いいの?」

「うん。あげる」

 

 差し出されたおにぎりをぱくりとかじると具材は鮭が入っていた。


「ありがとう紅愛ちゃん」

「どういたしまして。まだ欲しいならもう一口食べてもいいけど?」

「私は運転があるから紅愛ちゃんが食べなよ」


 私がそう言うと、紅愛はまたおにぎりをもぐもぐと食べ始めた。そして食べ終わった後、少しにやにやしながら私の方を見た。


「それにしても、奏もすっかりこういうことされても何も言わなくなったね」

「そ、そうかな……?」

 

 確かに昔に比べて慣れてきた気がするが、それでも心の中ではドキドキしてるんだけど……。


「私としては、嬉しいけど昔のリアクションも可愛かったからなんか複雑……」

「……なんかごめんね?」

「まあ、奏のリアクションはいつも面白いからいいけど」


 紅愛は興味なさげに言った。でもその言葉とは裏腹に、紅愛は嬉しそうな表情をしていた。紅愛は本当に最近分かりやすい反応をするようになって来たと思う。

 それとも私が紅愛の事に詳しくなったのか。そうこうしているうちに見慣れた町並みが見えてきた。そしてちょうど紅愛が食べ終わったタイミングで実家に着いた。駐車場に車を停めて荷物を下ろす。紅愛も車から降りてオセロが入ったカバンを下ろしていた。荷物を持って玄関の扉を開けた。


「ただいまー」

 

 玄関に入って靴を脱いで廊下を歩いていく。リビングの扉を開けると、お母さんとすでに帰ってきていた音色と詩織がこたつでお茶をしながら喋っていた。


「あら、お帰り奏。それと紅愛ちゃんも久しぶりね~」

「お邪魔します」

「ああ~! この子が噂の紅愛ちゃん? 覚えてる? ほら、小さい頃一緒に遊んだりしたじゃない!」


 そう言って音色が紅愛に抱き着いて頭を撫でまわした。紅愛は嫌そうに音色の手を振り払って、私の後ろに隠れた。


「……覚えてない」


 紅愛はぼそりと言った。


「そっか~……残念。まあ、これからよろしくね?」

「……」


 紅愛は無言のままコクリとうなずいた。すると詩織が音色をたしなめながら紅愛に話しかけた。


「ごめんね。いきなり音色がちょっかい出して」

「別に大丈夫」


 紅愛は私の背後に隠れたまま答えた。


「それにしても、大きくなったね。最後に会ったのも子供の頃だっけ?」

「そうよね~。今じゃこんなに立派になって。でも可愛いのは変わってないけど」

「……」


 音色と詩織の会話に紅愛は黙って私の後ろで小さくなっていた。


「もう、二人共。紅愛ちゃんが困ってるじゃない」


 お母さんに言われて二人はハッとした様子で紅愛から離れた。


「ご、ごめんね紅愛ちゃん」

「ごめんね~。久しぶりに会った紅愛ちゃんが可愛くてつい」


 二人が謝ると、紅愛は首を横に振った。


「別に気にしてないけど」

「そう? なら良かった」

「音色はもう少し遠慮しなよ……」


 詩織は呆れたように言った。そんなやり取りをしているとお母さんが話しかけてきた。


「それより紅愛ちゃん。お菓子とかあるからこっちに来て食べない?」


 紅愛は私の手を握ってお母さんの隣に座った。そしてクッキーやチョコレートなど甘いものを食べ始めた。それを眺めながら私はお母さん達と会話をした。


「そういえば奏。この間はお見舞いに行けなくてごめんね」

「ううん、いいよ。そんなことで謝らなくても」

「そう? ならいいんだけど」

「ねぇ、紅愛ちゃん? 紅愛ちゃんは最近どう?」


 お母さんの話を遮って音色が紅愛に話しかけた。紅愛は話を振られると思っていなかったのか、少し肩をびくっとさせた。そしてチラッと私の方を見てから音色の方を向いて口を開いた。


「普通だけど」

「えー。じゃあ、奏との生活はどう?」

「……楽しい」

「そっか! それはよかった」


 音色は嬉しそうに笑みを浮かべて言った。すると今度は詩織が紅愛に話しかけた。


「嫌だったら音色の事は無視してもいいから」

「別に大丈夫」

「そっか。紅愛ちゃんって結構大人しいね」


 詩織の言葉に紅愛はコクンとうなずいた。それからしばらく談笑していると、お母さんが何か思い出したかのように言った。


「そうだ。今日は皆泊まるのよね? それなら紅愛ちゃんはどこで寝る?」


 いつもならお父さんとお母さんは自分の寝室で寝るし、私達も各々自分の部屋で寝ていた。しかし今回は紅愛がいるため、どうしようかとお母さんは聞いてきたのだ。


「紅愛ちゃんは奏の部屋で一緒に眠ればいいんじゃない?」

「そうだね。紅愛ちゃんも私達より、居る時間が長い奏の方がいいんじゃないかな」


 音色の提案に賛成する詩織。紅愛は私を見つめてコクリとうなずいた。


「分かった。紅愛ちゃんもそれで良いかな? もし嫌なら別の部屋に布団を敷くけど……」


 私が尋ねると紅愛は首を横にふった。


「いや。奏と一緒でいい」

「そう? なら良かった」


 こうして、私達は夕食の時間になるまで話を続けた。




――



 

 そして私と詩織はお母さんと一緒に夕飯の手伝いをしていた。リビングに紅愛と音色の二人きりにするのは少し心配だけど多分大丈夫だろう。


「ねぇ、奏」

「何?」

「紅愛ちゃんとの生活どう?」


 唐突に詩織が言った。私は食器棚から皿を取り出しながら答えた。


「どうって言われても……まぁ、楽しいよ」

「そっか。なら良いんだけどさ……」

「……何?」

「いや……もし勘違いだったら悪いけど、奏って紅愛ちゃんの事好きだったりする? なんていうか、紅愛ちゃんを見る目が他の人とは違う気がして」


 詩織の言葉を聞いてドキッとした。もしかして詩織は私と紅愛の関係に気づいているのだろうか……? 恐る恐る詩織に聞いてみる。


「……どうしてそう思ったの?」

「うーん……。なんというか、紅愛ちゃんとの絡みがちょっといちゃついてるように見えたからかな?」

「そ、そうなんだ……」


 詩織はオタクで周りを見る目が鋭いところがある。だから、きっと私と紅愛の関係に気づいたのかもしれない。


「あっ! もし勘違いだったらごめん!」

「ううん、別にいいよ」


 それから少し沈黙が続いた後、詩織が口を開いた。


「最近友達の趣味に付き合ったときに、その……同性愛とかそういうのを見たんだけど……その時見たカップルの雰囲気に似てたからもしかしてと思って……」

「あ、ああ。なるほどね」


 そういうことだったのか……。それにしてもそんなに私と紅愛はそんな雰囲気を出していたのだろうか? まぁとにかく。詩織にはこの事を言ってもいい気がする。詩織は信用できるし。


「実はね、詩織が思ってることは合ってると言えば合ってるよ」

「えっ? ということは……二人は付き合ってるの!?」

「付き合うとかまだそんなのじゃないけど」

「まじか……まさか本当に当たってたとは思わなくて……」


 何故か詩織は独り言をぶつぶつと呟いていた。


「まぁでも、付き合うかどうかは分からないんだけどね」

「そうなんだ。でも、私は応援するよ?」

「ありがとう詩織」


 それからしばらくして、足りない食材を買いに行ったお母さんが戻ってきた。


「ただいまー」

「おかえりなさい」


 お母さんは買い物袋の中から、野菜やお肉を取り出して冷蔵庫に入れ始めた。


「今日ねお寿司が安かったから沢山買って来ちゃった」


 お母さんは楽しそうにお寿司のパックをテーブルに並べた。あとは、私達で作っておいたサラダとお味噌汁だ。深夜になったら年越しそばも食べるしこのくらいで十分だろう。それから私達は食卓についてご飯を食べ始める。それぞれお寿司を食べながら談笑していた。


「ところで、お父さんは?」

「ああ~。お父さんならそばを買いに行ってるの」

「それにしても遅くない?」

「ついでにお友達と遊んでくるって言ってたから、それで遅くなってるのかもしれないわね」


 お母さんはそう言いながら、醤油を手に取ってマグロのお寿司にかけた。


「それにしても、年末のテレビってあんまり面白くないわよね~」


 音色がお寿司をもぐもぐと食べながら呟いた。


「まぁ、年末ってこんなもんでしょ」


 音色の隣に座っている詩織が言った。すると音色が思い出したかのように話し出した。


「ねぇ、紅愛ちゃん。さっきの話の続きが聞きたいんだけど」

「……さっき?」

「ほら、紅愛ちゃんの進路の話!」


 音色の言葉を聞いて紅愛はハッとした表情を浮かべた。


「ああ……その話……」

「紅愛ちゃんって、将来何になりたいの?」

「……特に決めてないけど」

「あら? 紗英と話した時は獣医かファッションデザイナーになりたいって聞いたわよ?」

 

 横からいきなりお母さんが会話に入って来た。紅愛は驚いた様子だったけれどすぐにいつもの表情に戻った。


「……そんなこと言ったかもね」

「そういえば紗英が、『紅愛はやればできる子だから、絶対に夢を叶えられる』って言ってたわよ?」

「……別にそんなんじゃないけど」


 紅愛はそう言うと、黙々と食事を続けた。

 紅愛の将来の事か……。紅愛は今高校二年だし、そろそろ将来の事を考え始める時期だ。


「紅愛ちゃんなら、なれると思うよ」


 私は紅愛に向かって笑顔で言う。紅愛は少し照れくさそうに視線を逸らして「……ありがと」と答えた。それからしばらくお寿司を食べていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。どうやらお父さんが帰って来たようだ。


「ただいまー」

「おかえりなさい。ずいぶんと遅かったわね?」

「あ~。少し友人と飲んでたんだ」

「もう! 飲み過ぎないようにね」


 お母さんは呆れたようにため息をつく。お父さんは苦笑いしながら自分の席に着いた。すると、紅愛に気づいて紅愛に話しかけた。


「おお? もしかして紅愛ちゃん? 久しぶりだなぁ」

「……うん。久しぶり」

「大きくなったね~!」


 お父さんは嬉しそうに話す。そして、私達と同じようにお寿司を食べた。




――




 それからしばらくして、お風呂が沸いたので順番に入ることにした。


「お風呂沸いたから、ささっと入っちゃいなさい」


 お母さんは食器を洗っている最中だし、詩織は音色のゲームに付き合わされていた。お父さんはまだお風呂に入る気はないらしくソファーでテレビを見ていた。

 なので、私がお先にお風呂に入ることになった。キャリーバッグの中から着替えを持ってお風呂場に向かおうとすると、紅愛が声をかけてきた。


「奏、今からお風呂?」

「え? う、うん」

「じゃあさ、一緒に入らない?」

「……へ!?」


 突然の誘いに驚いてしまった。紅愛は冗談で言っているのかと思ったけれど、彼女の表情を見る限り本気に見えた。


「べ、別にいいけど……」

「じゃあ、早く行こ」


 そう言って私の手を握る紅愛はもうすでに着替えを持っていた。私は戸惑いながらもお風呂場に到着した。脱衣所に着くと、紅愛はすぐに服を脱ぎ始めた。


「ちょっ……紅愛ちゃん早いって!」

「別に大丈夫でしょ? 一回一緒に温泉入ってるし」

「で、でも……やっぱり恥ずかしいし……」

「ふうん。じゃあ脱がすの手伝ってあげようか?」

「それは自分でやるから!」

「あっそ」

 

 紅愛は素直に引き下がると、ささっと服を脱いで先に浴室に入っていった。私は急いで服を脱いでタオル一枚の姿になった。そして私も浴室に入った。

 浴槽には既に紅愛が入っていたので、シャワーで体を軽く洗い流してから紅愛に向かい合うように湯船に浸かった。紅愛は体育座りをして膝の上に顎を乗せながらこちらを見つめていた。


「奏って結構スタイルいいよね」

「あ、ありがとう……」

「まぁ、胸は私の方が大きいけどね」


 紅愛はそう言うとニヤリとした笑みを浮かべた。確かに紅愛は私より胸もあるし、身長もほとんど同じだけどギリギリ私の方が高いくらいで、ほとんど変わらない。紅愛の体ちらりと見ると、肌は相変わらず白くて綺麗だった。


「……何見てんの?」

「いや、別に何もないよ!」


 私は慌てて視線を逸らす。すると、紅愛の手が私の肩に触れた。その瞬間ドキッとして体が硬直しそうになる。


「ねぇ、奏」

「な、何?」


 私は平静を装って答える。すると紅愛が急に近づいてきた。


「……キスしてもいい?」

「……へ!?」


 唐突すぎる言葉に驚きの声を上げる。すると、紅愛は妖艶な雰囲気をまとった瞳を向けてくる。


「嫌ならしないけど?」

「い、嫌じゃない……けど」


 私がそう言うと、紅愛は満足げに微笑んで顔を近づけてきた。


「じゃあ、目閉じて?」


 そう言われて目を閉じる。すると頬に柔らかい感触を感じた。


「もう開けていいよ」


 私はゆっくりと目を開けた。すると目の前に紅愛の顔があった。彼女は少し照れくさそうに視線を逸らした。


「ほら、早く洗って出よ」

「う、うん」


 それから私達は身体と頭を洗ってお風呂から出た。そして、髪を乾かし終わってリビングに戻ろうと廊下に出ると、紅愛が私の袖を掴んできた。


「どうしたの?」

「私……あんまりリビングに戻りたくないから、奏の部屋に居てもいい?」

「え? ……うん、いいけど」


 私がそう言うと紅愛は嬉しそうな表情をした。二階にある私の部屋に入ると中は私が家を出た時のままだった。部屋が綺麗なままなのは多分お母さんが掃除をしてくれたのだろう。紅愛は部屋に入ると中をぐるりと一周眺めてからベッドに座った。


「奏の部屋って感じがする」

「そ、そうなの?」

「うん。なんか家具の雰囲気とか色がマンションの部屋と同じだし……だからこういうのが好きなんだなって」

「……確かにそうだね」

「でも、なんでかな……落ち着く」


 そう言って紅愛はベットで横になった。すると大きなため息をついた。


 「……疲れた?」


 私が尋ねると、紅愛は何も言わずに首を横に振った。


「……じゃあ、何?」

「いや、あんたの姉って昔からあんなのだったなと思って」

「あ~……もしかして音色の事?」

「そう。昔から奏とか詩織にべたべたしてくるのとか変わってないし」


 やはり紅愛からしても音色の事は鬱陶しかったらしい。


「ごめんね。後でしっかり言っておくから」

「別にいいけどさ。もう慣れたし」

「でも、音色はともかく詩織の事は悪く思ってないでしょ?」

「まぁね。詩織はまだまともだし」


 紅愛はそう言うと寝返りを打ってこちらを見た。


「でも、私は二人よりも奏の方がいい」

「えっ?」


 突然の言葉に驚いて声を上げる。すると紅愛はニヤリとした笑みを浮かべた。


「だって奏は優しいし、一緒にいて楽しいし、それに……」

「……それに?」

「反応が可愛いしね」

「な、何それ!?」

「ほら、そういうとこ」


 私は恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。すると、紅愛が体を起こして私に近づいてきて、横をぽんぽんと叩いた。


「もっと隣に来てよ」


 私は言われるままに紅愛の隣に行くと、紅愛は私の肩に頭を乗せた。


「……こうしてると落ち着く」


 紅愛は小さく呟きながら目を閉じた。


「ねぇ、奏」

「なに?」

「……ありがと」

「え?」

「私、奏に預けられなかったら家の中で一人ぼっちのままだったかもしれない。奏と色んなところに行ったりしてこの一年は本当に楽しかった」


 紅愛の声音はとても穏やかだった。


「私も紅愛ちゃんと過ごす日々が楽しくて幸せだよ」

「……本当?」

「うん!」

「そっか」


 そう言うと紅愛は私の手を握った。


「だから……ありがとね」


 紅愛は私の方を向いてにこりと笑った。その笑顔がとても可愛らしくて思わず見惚れそうになるのを抑えて私も微笑んだ。


「どうしたしまして。来年も色んなところに一緒に行こうね」

「………うん。そうだね……」


 そう答えた紅愛はさっきまでの笑顔に少し影を落としたように見えたが、すぐにいつも通りの表情に戻った。それが少し気になって声をかけた。


「紅愛ちゃんどうかした?」

「何でもないよ。ほら、そろそろ年が明けるからリビングに戻ろ」


 そう言って立ち上がった紅愛を見て、私は何か違和感を覚えたが特に気にせずに一緒にリビングに向かった。するとリビングではお父さんと音色が爆睡していた。テーブルの上を見てみると、缶ビールが何本か置いあった。どうやら二人で飲んでそのまま寝てしまったらしい。その隣でお母さんと詩織がテレビを観ながら雑談をしていた。


「あっ、二人も年越しそば食べるよね」

「うん。それにしても、音色とお父さんはどのくらい飲んだの?」

「うーん……多分、二本ぐらい?」

「二本で爆睡してるの?」

「まぁ、お父さんはお酒そんなに強くないし、音色が飲んでたお酒は度数が高いやつだったから」


 そう言って詩織は苦笑い気味で話してくれた。


「起こさなくて大丈夫かな?」

「いいわよ奏。二人共気持ち良さそうな顔で眠ってるし」


 お母さんはそう言うとキッチンに立った。


「とりあえず。四人分準備するわね」

「ありがとう、お母さん」

「いいのよ。毎年の事だしね」


 紅愛と一緒にこたつに入るとテレビはいつの間にか除夜の鐘を映していた。


「もうすぐで今年も終わっちゃうね」

「そうだね」

「紅愛ちゃんは来年の目標とかある?」

「それ今言うの?」

「あははっ、ごめんね」


 私は謝るとこたつの上の蜜柑を手に取った。すると紅愛が私を見つめてきた。


「ねぇ、奏」

「なに?」

「来年も私達一緒に居られる?」

「もちろん!ずっと一緒だよ」


 私がそう答えると紅愛は嬉しそうにはにかんだが、すぐに不安げな表情になった。


「……そうだよね」

「紅愛ちゃん?」

「……なんでもない」


 紅愛はそれっきり黙ってしまったが、私はそれ以上何も言わずにテレビに視線を向けた。気が付くと年越しまであと一分だった。テレビではカウントダウンが始まった。そして、カウントがゼロになりテレビから除夜の鐘の音が鳴り響いた。


「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう」


 お互いに新年の挨拶をすませて、詩織とお母さんにも挨拶をした。


「年越しそば出来たから食べない?」

「食べる!」


 私達はこたつから出るとテーブルのそばに座った。目の前に置かれた年越し蕎麦はとても美味しそうだった。


「いただきます」

 

 私が元気よく言った後で紅愛も「いただきます」と言って箸を持った。


「うん。やっぱり、お母さんの作る年越しそばは美味しいね!」

「ふふっ、ありがとう。いっぱいおかわりして良いからね」


 私達が年越しのそばを食べている間にお父さんと音色が目を覚ましたようでリビングにやってきた。


「あ~。そば食べてるの」

「うん。音色とお父さんも食べる?」

「じゃあ、貰おうかしら」

「俺も食べる」


 そう言ってお父さんと音色がテーブルの前に座った。


「音色。お父さん。明けましておめでとう」

「明けましておめでとう」

「明けましておめでとう。今年もよろしくな」


 その後、年越しそばを食べた後にみんなで雑談をして過ごした。すると隣でつまらなそうにしていた紅愛が私の袖を掴んできた。


「どうしたの? 紅愛ちゃん」

「そろそろ寝たい」

「あら? もうこんな時間。そろそろ寝ましょうか」


 時計を見ると既に二時を過ぎていた。


「じゃあ、おやすみなさい」


 それぞれ挨拶を交わして紅愛と一緒にリビングを出て私の部屋に戻った。部屋に戻ってくるなり、紅愛はベッドの上に寝転がった。


「奏。電気消してくれる?」

「うん。分かった」


 私は部屋の明かりを消してベットに入った。すると紅愛が抱きついてきた。


「寒い」

「紅愛ちゃん……ちょっと近いよ」


 私は苦笑いしながら紅愛を引き離そうとしたが、逆に強く抱きしめられた。


「紅愛ちゃん?」

「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」

「いや、そういう問題じゃないんだけど……」


 私は引き剥がすのを諦めてそのままの状態で話を続けた。


「ねぇ、紅愛ちゃん。朝になったら一緒に初詣行かない?」

「えー……。人が多いからあんまり行きたくないんだけど」

「でも、せっかくだし行こうよ」

「まぁ、奏がどうしてもって言うなら行くけど」


 紅愛は少し照れくさそうに頬を赤く染めた。私はそんな紅愛を見て微笑んだ。


「じゃあ、決まりだね」


 私は紅愛に笑顔を向けると紅愛は顔を背けた。そして、小さな声で呟いた。


「……ずるい」

「ん? 何か言った?」

「何でもない。早く寝よ」

「そうだね。お休み」

「……おやすみ」


 私はゆっくりと瞼を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。そして、私は眠りについた。翌日私と紅愛は夜更かしをしたのもあってか、中々朝起きられずお昼前まで寝てしまったのだった。

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