第三十二話 従姉妹とクリスマスイブ
仕事を終えた奏に、紅愛からの呼び出しのメッセージが届く。そして奏が向かった先は……。
それから私は休んでいた仕事も復帰して、奈美さん達に心配されつつもいつも通りの生活に戻った。街はすっかりクリスマスムードになって、いろんなお店で赤と白のクリスマスカラーで溢れていた。cielでもお店にクリスマスツリーやサンタさんの人形が飾られている。この時期になると数件入ってるクリスマスケーキの予約を受け付けたりしていた。そして今日はクリスマスイブだ。笑顔でクリスマスケーキを買っていくお客さんを見送ると、隣でレジに立っている美由が話しかけてきた。
「今日クリスマスイブだね~」
「そうだね。美由は仕事終わったら彼氏とデート?」
「そうなの! だから早く終わらないかなぁ」
そう言って美由はうっとりとした表情を浮かべた。まぁ、彼氏が居ない私からしたら関係ない話だけど。
「奏は今日は従姉妹ちゃんと用事あるんでしょ? 早く上がれるといいね~」
「うん……」
「あれ? テンション低くない?」
「いや、ちょっと……緊張するというか……」
「大丈夫だよ! 別に彼氏と過ごすわけじゃないんだし!」
「そうだけど……」
確かに恋人と過ごすよりは緊張しないだろうけど、最近の私は紅愛の事が気になるというか……。なんというか……。紅愛との関係は従姉妹なのは分かっているけど、やっぱり少し意識してしまう。それに最近紅愛がよく笑うようになった気がする。今まで無表情だったのに最近はよく笑っているような気がした。それが嬉しい反面、紅愛が今まで見せなかった表情を見るたびに胸がドキドキした。
「あっ、あの制服怜悧高校じゃない?」
美由がそう言って私もお店の窓を見ると、怜悧高校の制服を着た学生がお店の前を通っていった。時計を見るとまだ時間は三時半を過ぎたところだった。もう学校が終わった時間なのかなと思った時、その高校生の中に一人だけ見知った顔の女の子が居た。女子グループの真ん中で可愛い笑顔をしている綺麗な白髪の女の子。紅愛の友達の白雪白羽だ。白羽は友達と話しながらお店の前を通った瞬間、私と目が合ってこちらに気づいたようだ。すると白羽は嬉しそうな顔をして手を振ってきた。私もそれに応えるように小さく手を振ると、白羽は友達のグループとささっと別れてお店に入ってきた。
「奏お姉さん! こんにちは!」
「こんにちは。白羽ちゃん」
「ねぇねぇ! 奏お姉さんこの間入院してたって本当?」
「えっ? どうして白羽ちゃんが知ってるの?」
「それはね~。この間紅愛ちゃんに、『奏お姉さんに会いたいから、またお家に遊びに行ってもいい?』って聞いたら、『奏は今入院してて、家に居ないから駄目』って言われちゃったの」
「そ、そうだったんだ……」
「それでさっき偶然見かけたから声かけた!」
「そっか」
「奏お姉さんはもう身体大丈夫なんだよね?」
「うん。もう大丈夫だよ」
「よかった~。多分だけど、奏お姉さんが入院してる間、紅愛ちゃん全然元気無かったんだよ!」
「えっ? 紅愛ちゃんが……?」
「そうだよ! 有紗ちゃんと私が話しかけても、ずっと上の空で何か考えてるような感じで……」
「……」
そうだったんだ。紅愛がいつもどんな風に学校で過ごしているか分からないからそういう情報はありがたい。でも白羽ちゃんにも心配かけちゃったかな。
「ありがとう。白羽ちゃん」
「ううん。私奏お姉さんの事大好きだから、奏お姉さんが居ないと寂しいもん」
「そっか」
「うん! 本当は何か買いたいけど、今日は家でクリスマスパーティーをやるからあまり間食したらダメって言われてるの」
「へぇー。クリスマスパーティかぁ」
「うん! 今日はお父さんの仕事が早く終わりそうだから、家族全員でパーティーするの!」
「楽しそうでいいね」
「奏お姉さんはパーティーしないの?」
「今日紅愛ちゃんとするよ。白羽ちゃんの家ほど盛大じゃないけどね」
「そうなの? あっ! もうこんな時間だ! そろそろ私帰るね~。ばいばーい!」
「うん。ばいばーい」
そう言って白羽ちゃんはお店を出て行った。私はそれを見送った後、美由と一緒に作業に戻った。
――
ふと時計を見ると時刻は十八時。外もすっかり暗くなって街はイルミネーションやツリーなどで彩られていた。今日はクリスマスイブもあって用事がある人は早めに帰っていいと店長と奈美さんから言われて、私はお店の手伝いをしながら帰る準備も進めていた。すると私のスマホからピコンと通知音がして確認してみると、紅愛からメッセージが着ていた。
『まだ仕事中?』
『ううん。今から帰ろうかなと思ってたところ』
『そう。それなら今から駅前広場まで来れる?』
『大丈夫だよ』
『じゃあ待ってるね』
そう返事が来たので、急いで準備をして店長と奈美さんに挨拶を済ませお店を後にする。車に乗り込んで紅愛に言われた駅前広場に向かう。 そして十五分ほど車で走って駅前の広場に着いたので、駐車場で車を降りて辺りを見渡すと、少し離れた所に黒いコートを着て白いマフラーを巻いた紅愛の姿があった。私はその姿を見て思わず可愛いと思った。すると紅愛は私に気づいてこちらに近づいてきた。
「意外と来るの早いね」
「だって、寒い所で紅愛ちゃんを待たせるのは悪いし……」
「別に気にしてないよ」
「そう? というか、紅愛ちゃん制服のままだけどもしかして家に帰ってないの?」
「まぁね。今日から冬休みなんだけど、休み中は学校に行きたくないからちょっと居残りしてた」
「そうなんだ」
「……そんな話はいいから。早く行くよ」
そう言って紅愛は私の手を取って歩きだした。
「えっ? 行くってどこに?」
「行ったら分かるから」
「う、うん」
そうして紅愛と歩いていると、駅前は綺麗なイルミネーションでいっぱいだった。
「わぁ……凄い……」
「でしょ?」
「うん。こんな所があるなんて知らなかった……」
「私もこの前初めて知った」
「そうなんだ」
「うん。奏が入院している間テレビで見た」
「そっか。もしかして、目的はこの景色を見せてくれるため?」
「……」
「えっ……違うの……」
まさかの無言……。どうしよう。なんかまずい事聞いちゃったかな。
「奏」
「な、なに?」
いきなり名前を呼ばれてびっくりしたけど、とりあえず返事をする。
「今日さ、クリスマスイブでしょ?」
「うん」
「それで奏に伝えたいことがある」
「伝えたいこと?」
「うん。あのね……」
紅愛は私の手を握ってイルミネーションの光を見ながら話し始めた。
「私ね。奏と会った時から気になってた」
「……」
「最初はお節介だし変なところで頑固でめんどくさいやつだと思ってた。でも、いつの間にか奏の事を考えるようになって、気づいたら好きになっていた。だから、これから先もずっとそばにいてほしい」
「紅愛ちゃん……」
「私は奏のことが好き。大好きだよ」
私は紅愛の言葉を聞いてしばらくの間何も言うことができなかった。だって紅愛が私に対して好意を持っていたなんて思いもしなくて驚いたけど嬉しかった。
「ごめん。急にこんなこと言われても困るよね。もし奏が嫌なら、今まで通りの関係でいようと思う」
「…………」
「……やっぱり迷惑だよね。ごめん。さっき言ったことは忘れて」
そう言って紅愛は手を離そうとした。私は咄嵯に離れかけた紅愛の手に自分の手を重ねてギュッと握って引き留めた。
そして私は勇気を出して口を開く。
「私もね。紅愛ちゃんのことが好きだよ」
「……えっ?」
「嘘じゃないよ。本当に紅愛ちゃんの事を想ってる。でも、紅愛ちゃんは私の事どう思ってるのか分からなかったから、気持ちを伝えるのが怖かったんだ」
「奏……」
「だからね、紅愛ちゃんの気持ちが知れて良かった」
私は紅愛の手を握ったまま、その綺麗な瞳をしっかり見つめて呟いた。
「ありがとう。嬉しい」
そう言いながら私は微笑んで紅愛を見ると、紅愛は顔を真っ赤にして下を向いた。私はそんな紅愛を見て可愛くて思わず笑ってしまった。
「ふふっ」
「な、何笑ってるの!」
「だって、紅愛ちゃんの顔赤くなってて可愛いんだもん」
「う、うるさい! そういう奏も顔赤いじゃん」
「それは、紅愛ちゃんのせいだよ」
「人の事言えないじゃん」
「そうだね」
そう言って二人で笑いあった。すると、紅愛は私の手を引いて歩きだした。
「ねぇ、奏」
「なに?」
「せっかくだからさ、このまま色々見てまわろうよ」
「えっ? いいけど、どこに行くつもり?」
「そうだね……とりあえずイルミネーションを見てまわるとか?」
「分かった。じゃあ、イルミネーションを見終わったら、晩ご飯の買い物をしてもいいかな?」
「うん。いいよ」
それから私たちは、駅前のイルミネーションを見てまわった。
「わぁ……凄い……」
「綺麗だね」
「うん」
「奏、写真撮らない?」
「うん。撮りたい」
「それならさ、一緒に写ろ?」
そう言って紅愛は自分のスマホを取り出してインカメラにした。そして私たちの方に画面を向けた。
「ほら、もっと寄って」
「えっ? こう?」
言われたとおりに少し紅愛に近づく。紅愛の可愛い横顔がすぐ近くに見えてドキドキする。
「もうちょっと近づいて」
「う、うん」
すると紅愛は私の肩をぐっと引き寄せた。
「えっ!?」
いきなりの出来事で頭がパニックになったけど、とりあえず紅愛の方を見る。
「はいチーズ」
カシャッとシャッター音が鳴った。そしてすぐに紅愛が写真の確認をし始めた。
「うん。よく撮れた」
「そっか。なら良かった……」
「もう一枚撮りたいから、もう一回撮ってもいい?」
「うん。いいよ」
今度は私が紅愛の方へ近づくと腕を引っ張られて抱きしめられた。
「ちょっ……!」
「はい。チーズ」
またもやカシャッと音が鳴ると紅愛はすぐに確認を始めた。私は恥ずかしさで心臓がバクバクしていたけど、紅愛が満足するまで待とうと思った。しばらくしてようやく解放された。
「うん。良い感じ」
「そ、そう」
「さっきの写真、奏にも送るね」
「う、うん」
紅愛は嬉しそうに写真を私に送ってくれた。私は送られてきた写真を見た瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
「……」
「どうしたの? なんか変なところでもあった?」
「い、いや。別に……」
「なら、なんでそんな反応してるの?」
「な、なんでもないから気にしないで」
「もしかして照れてるの?」
「ち、違うから! 本当に何でもないから」
「ふーん。まぁいいけど」
紅愛はニヤリと笑って私を見てきた。私は慌てて紅愛から目を逸らす。
「……」
「ねぇ、奏」
「な、なに?」
「手繋ご」
「えっ?」
「嫌なの?」
「い、嫌じゃないよ」
「じゃあ、はい」
そう言って紅愛は私の手をギュッと握ってきた。私はその行動にドキッとした。私も握り返すと、紅愛はニコッとして歩きだした。それから私たちは、駅の近くにあったイルミネーションを見てまわった。
「そろそろ晩ご飯の買い物に行こうか」
「そうだね」
そう言って車に乗って二人でスーパーに向かう。
「今日は何にするの?」
「う〜んどうしようかな……。クリスマスイブだからご馳走を作らないとね。紅愛ちゃんは何か食べたいものある?」
「そうだね……。ハンバーグとか食べたいな」
「分かった。じゃあ、今日の晩ご飯はハンバーグね」
それから私たちは買い物をして家に帰った。
――
そして帰宅した私たちは買ったものを整理して晩ご飯の準備に取りかかった。
「じゃあ、私がハンバーグを作るから。紅愛ちゃんはサラダ用の野菜を切ってくれる?」
「分かった」
そう言って私達は料理を始めた。最初にお米を洗って炊飯器にセットして炊飯ボタンを押した。次に玉ねぎを切って炒めている間にひき肉を用意する。その隣で紅愛はレタスをちぎっていた。そしてキャベツの上にトマトを乗せてドレッシングをかける。
「これでいい?」
「ありがとう。紅愛ちゃん」
そして紅愛が作ったサラダをお皿に移してダイニングテーブルに置く。後はハンバーグを作って盛り付けるだけだ。
「よし。じゃあ、次はハンバーグを作ろうかな」
「私も手伝う」
それから二人でハンバーグを作った。
「あっ、紅愛ちゃん。そろそろお米が炊けると思うから炊けたらご飯を混ぜてくれる?」
「分かった」
そして私たちは分担作業で調理を進めた。ドレッシングをかけたサラダ。粉を溶かすだけで出来るコーンスープ。メインのハンバーグが完成した。
「出来た!」
「美味しそう」
「紅愛ちゃんが手伝ってくれたからいつもより上手くできた気がするよ」
「なら良かった」
「じゃあ早く食べようか」
「うん」
そして私は二人分の食器を出してそこにハンバーグを盛り付けた。
「いただきます!」
「いただきます」
まずはハンバーグを一口食べる。すると紅愛の目がキラキラと輝いた。
「どう? 美味しい?」
「めっちゃおいしい。今までで一番かも」
「それは良かった」
「やっぱり奏はすごいね」
「そんなことないよ」
「でも、私だったらこんな風に出来なかったし」
「そう言ってくれて嬉しいな」
私は笑顔で言う。その言葉を聞いてか紅愛も嬉しそうな表情になった。
「ねぇ、奏」
「なに?」
「今凄く楽しい」
「私もだよ。紅愛ちゃんと一緒だと毎日が楽しく感じるよ」
「そっか……」
それから紅愛は黙々とハンバーグを食べ始めた。私はそんな様子を微笑ましく見ていた。そうして二人で黙々とハンバーグを食べた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
私はそう言って洗い物を始める。紅愛はソファーに座ってテレビを見はじめた。
「ねぇ、紅愛ちゃん。デザート食べない?」
「えっ? あるの?」
そう言うと私は冷蔵庫から一つの箱を取り出した。
「はい、これ。最近テレビで美味しいって言ってたケーキ屋さんで買ってきたんだ」
「なんだ。てっきり奏が作ったのかと思った」
「流石に今日は作らないよ」
そうして箱からケーキを取り出した。
「イチゴのショートケーキとイチゴチョコレートケーキを買って来たけどどっち食べる?」
「う〜ん……。チョコかな」
そう言って紅愛にチョコケーキを渡して。私はイチゴショートケーキを取った。
「じゃあ、食べようか」
「そうだね。じゃあ、いただきます」
そう言って私たちはフォークを手に取って食べた。
「わぁ……この苺甘酸っぱくてすごく美味しい」
「本当だ。美味しい」
そうして二人でケーキを食べていると、紅愛が私にフォークを向けてきた。
「せっかくだから、一口あげる。ほら、口開けて」
「えっ? いいの?」
「いいから。ほら」
そう言われて私は渋々口を開けた。すると紅愛は私の口にケーキを入れた。チョコが甘いかなと思ったけど意外とビターで、チョコクリームもそんなにしつこくなくて美味しかった。そしてふわふわのチョコスポンジの中にある甘酸っぱいイチゴがちょうどいい。
「チョコケーキも美味しいね」
私がそう言うと紅愛も満足げに笑った。
「でしょ? じゃあ今度は奏の番ね」
「えっ? 何が?」
「私にも一口ちょうだい」
そして紅愛は向かいに座っている私にぐっと近づいてきた。
「えっと……」
私は少し戸惑いながらも自分のイチゴショートケーキをフォークに一口分すくって、それを紅愛に差し出した。
「はい、どうぞ」
「そうじゃなくて。あ~んじゃないの?」
「えっ!?」
私は驚いて思わず声を上げる。すると紅愛はニヤリと笑って言った。
「ここはあ~んをする時でしょ」
「で、でも……」
「いいから早く」
「あ、あ~ん」
私は恥ずかしさに耐えながらフォークを紅愛の口に運んだ。紅愛はパクリとケーキを食べた。
「奏のも美味しいね」
そう言って紅愛はニヤッとしながら笑った。そうして食後のケーキを食べ終わった私達は、お風呂が沸くまでテレビを観ながらソファに座っていた。
「お風呂は紅愛ちゃんが先に入る?」
「奏は仕事で疲れてるでしょ? だから奏先に入りなよ」
「分かった」
「なんなら一緒に入る?」
「それは恥ずかしいから駄目!」
私が慌てて否定すると、紅愛は楽しそうにクスクスと笑った。
「冗談だよ。あっ、ちょうどお風呂が沸いたみたいだから早く入ってきなよ」
「う、うん」
私はそう言ってお風呂場に向かった。服を脱いで洗濯カゴに入れて浴室に入った。シャワーを浴びて体と頭を洗って湯船に浸かる。そして今日一日の事を振り返った。まさかクリスマスイブに紅愛から告白をされるとは……。正直驚いた。でも、私が今まで紅愛に抱いていた気持ちも紅愛と同じものなのだろう。これ以上紅愛の事を考えると、また顔に熱が帯びてきそうな気がしたので止めておいた。
そして私は脱衣所に出てタオルで髪を拭いてドライヤーで乾かした。それから部屋着に着替えてリビングに戻った。すると紅愛がソファーに座ってオセロを撫でていた。
「あれ、もう上がったんだ」
「うん。紅愛ちゃんが待ってるからね」
「あっそう。じゃあお風呂入ってくる」
そう言って紅愛はすでに準備していた部屋着を持ってお風呂場に向かった。私はその後ろ姿を眺めてから、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いだ。そして、そのままソファーに腰掛けてスマホをいじり始めた。それから三十分もしないうちに紅愛がお風呂場から出てきた。
「もう出たの!?」
「そうだけど。どうかした?」
「ちゃんと体洗った?」
「洗ってるよ」
「それに髪も乾かしてないし」
「だって面倒くさいし、すぐ乾くでしょ」
「駄目だよ! ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ」
「めんどくさい」
「もう……」
まったく髪を乾かす気がない紅愛にしびれを切らした私は、お風呂場からドライヤーを持ってきた。
「ほら、乾かしてあげるからこっち来て」
「……分かった」
「はい、ここ座って」
私がそう言うと紅愛は少し嬉しそうに私の前にちょこんと座り込んだ。そして私はドライヤーの電源を入れて紅愛の髪の毛を乾かしはじめた。紅愛は目を瞑ってじっとしている。そしてある程度乾いてきたので私は櫛を使って紅愛の長い綺麗な黒いストレートの髪をとかし始めた。
「紅愛ちゃんサラッサラだよね。羨ましい」
「そう? 普通だと思うけど」
「色も綺麗な黒髪だし、本当に羨ましいなぁ……」
「そうかな? 私は奏の方が好き」
「えっ……」
私はその言葉を聞いてドキッとした。
「あ、ありがとう」
私が照れながら答えると紅愛はクスリと笑って言った。
「本当可愛い」
「そ、そんなことないよ!」
「ふーん」
「はい、これで終わり」
「ありがと」
「どういたしまして」
紅愛は私の膝の上にちょこんと頭を乗せた状態でお礼を言った。私はそれを微笑ましく思いながら返事をした。すると紅愛が口を開いた。
「ねぇ……今日も一緒に寝てもいい?」
「えっ? いいけど……どうして?」
「別に。ただ奏の側に居たいだけ」
紅愛のその言葉に私はまたドキッとしながら優しく紅愛を退かして立ち上がった。
「もう……紅愛ちゃんさっきから私のことからかってるでしょ」
「奏の反応が可愛いのが悪い」
紅愛は悪びれもなくそう言い切った。それから私達は私の部屋に向かった。そして紅愛が先に私のベッドに入ると、私は電気を消した。するとすぐに紅愛が話しかけてきた。
「ねぇ……手握ってても良い?」
私は一瞬迷ったが、紅愛に可愛くお願いされると断ることは出来なかった。
「良いよ」
すると紅愛が布団の中で手を繋いできた。私はそれに応えるように握り返した。すると、しばらくしてから紅愛が話し出した。
「やっぱり奏の隣はあったかいね」
「そうかな……紅愛ちゃんの手もあったかいよ?」
「そう?」
それからしばらく沈黙が続いた後、紅愛が再び話し始めた。
「今度から一緒に寝てもいい?」
「え? ……まぁ紅愛ちゃんがそうしたいなら私は構わないけど」
「じゃあ決まりね。おやすみ」
「おやすみね」
私はそれだけ言って目を閉じた。すると、紅愛がギュッと手に力を込めてきたのを感じた。私はそれに少し驚いて目を開けると、暗闇に慣れた目が至近距離にある紅愛の顔を捉えて、心臓が大きく跳ね上がった。そして慌てて顔を背けた。
「ち、近い……!」
私が慌てていると紅愛は少し笑いながらこちらを見ていた。
「ごめん、びっくりした?」
「当たり前だよ……」
私がそう言うと、紅愛は私の頬に手を当ててぷにぷにと触った。
「奏のほっぺた柔らかいね」
「もう、からかわないでよ……」
「ふふ、お休み」
「うん……お休みなさい」
それから程なくして私達は何も話すことなく眠りについた。今日の事は絶対に忘れられない思い出となった。
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