第三十一話 従姉妹と退院後
無事に退院出来た奏。久しぶりの家で過ごす紅愛は少し上機嫌で……。
翌日。私は荷物をまとめて病室を出た。廊下を出るとちょうど早苗先生が居た。
「お、ちょうどいい。お前今帰るところか?」
「そうですけど……」
「一階で紅愛が待ってたぞ。早く行ってやれ」
「えっ? あ……はい!」
急いで階段を降りると紅愛が椅子に座って待っていた。紅愛は私に気づくと椅子から立ち上がって駆け寄ってきた。
「もう大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「謝らなくていいって……じゃあ早く帰ろ」
そう言って紅愛は私が持ってる荷物を持って歩き始めた。いきなり先に歩く紅愛の後を慌てて追う。
「く、紅愛ちゃん。自分の荷物だから自分で持つよ」
「いいって。これぐらいさせてよ」
「でも……」
「そんなことより。奏は家に帰ったら何するの?」
「う~ん……家でゆっくりするとか」
「それだけ?」
「うん。今は紅愛ちゃんと一緒にのんびりしたいんだ」
「………そう」
紅愛は少し照れたようにそっぽ向いた。その仕草が何だか可愛くて思わず笑みを浮かべてしまう。それを見た紅愛は少しムッとした顔になった。
「何?」
「ふふっ。紅愛ちゃん可愛いなって」
「急にどうしたの」
「だってさっきの顔とか凄く可愛かったし」
「……馬鹿じゃないの」
そう言いながら顔を赤くして頬を膨らませる姿もやっぱり可愛らしいと思った。
それから私達はバスに乗って家に近いバス停で降りて、色々話しながら歩いて帰った。その間紅愛が手を握ってきたので、私も紅愛の手を握って歩いた。
――
家に着いて鍵を開けるとオセロが出迎えてくれた。ただいまと言うと嬉しそうな鳴き声を上げてすり寄ってくる。その後すぐに紅愛の存在に気づいて、紅愛の足元で喉をゴロゴロと鳴らしていた。
私は荷物をダイニングテーブルに置いて、ソファに勢いよく座った。三日ぶりの家に帰ってきた安心感からか、一気に疲れが出てきた気がする。隣を見ると紅愛もソファに腰かけた。そして私の肩にもたれかかってきた。私はそのままの勢いで紅愛の頭を撫でた。紅愛も嫌じゃないのか何も言わないで大人しくしていた。しばらくして紅愛が口を開いた。
「ねぇ。奏はあいつの事どう思ってるの?」
「あいつって?」
「奏汰の事。昔からの付き合いみたいだし、気になってたりするの?」
「う~ん……気になるとかじゃなくて、どっちかというとお兄ちゃん? みたいな感じかな」
「じゃあ、異性として見てないってこと?」
「まぁ、そうなるかな」
「……そう」
紅愛はホッと息をつくと、ソファから立ち上がった。
「まだ奏は退院したばっかりだから、今日のお昼と夜は私が作るよ」
「紅愛ちゃんが?」
「うん。だから食べたいものある?」
「えっと……オムライスがいいかな」
「分かった」
その後私達はテレビを一緒に観たり、オセロと遊んだりした。お昼ご飯の時間になった頃、紅愛はエプロンをつけてキッチンに立った。
「何か手伝うことある?」
「大丈夫。奏はゆっくり休んでて」
「でも……」
「いいから」
「……うん」
「ほら、奏は座って待ってて」
「分かった。じゃあ、楽しみにしてるね」
私は言われた通りダイニングチェアに座り、紅愛の姿を眺めた。料理をしている紅愛を初めて見た。
いつもは私が作っているから新鮮だった。紅愛は冷蔵庫の中から卵を取り出して、フライパンの上で割って溶き始めた。その様子をじっと見つめていると視線を感じたのか紅愛がこちらを振り向いてきた。
「……何?」
「ううん、何でもないよ」
「……そう」
紅愛はチキンライスもささっと作って出来上がったオムレツをチキンライスの上に乗っけて、ケチャップをかけた。最後にスプーンで形を整えてから皿に移した。
「はい、できた」
「わぁ! 美味しそう!」
「味は保証しないけど」
「そんなことないよ」
「じゃあ、冷めない内に食べる?」
「うん」
二人で手を合わせていただきますと言ってから食べた。
「……どうかな」
「うん、すごく美味しいよ」
「そう? なら良かった」
「本当に美味しいよ! もしかしたら私が作ったのより美味しいかも」
「それはどうも」
「紅愛ちゃんは将来良い奥さんになるかもね」
「……何それ」
「ふふっ。だってこんなに上手なんだもん」
「……そう」
それから黙々とオムライスを食べ進めていった。あっという間に完食してごちそうさまと言った。紅愛も同じようにご馳走様と呟いた。食器を流し台に持っていくと紅愛が洗い物をしてくれた。その横顔はどこかいつもより機嫌が良いように見えた。
「……紅愛ちゃん」
「何?」
「今日はいつもよりご機嫌だね」
「別に普通だけど」
「最近良いことでもあった?」
「……何でそう思うの?」
「だって、なんか嬉しそうだから」
「それは……」
紅愛は少し考える素振りを見せた後、小さく笑った。
「奏が元気になって帰ってきたから」
「え?」
「奏が入院してからずっと心配してた」
紅愛は蛇口を捻り、水を止める。そしてタオルで手を拭いて私の方に向き直る。
「奏の事、大事だから」
「そっか……。ありがとう」
「うん」
紅愛は優しい笑顔を浮かべて私を見つめていた。私は思わずドキッとした。今まであまり意識していなかったけれど、改めて見る紅愛はとても綺麗だった。
「ねぇ、奏」
「ん?」
「ちゃんとクリスマスは予定開けといてね」
「分かってるよ。ところでクリスマスに何かあるの?」
「それは当日まで秘密」
紅愛は人差し指を口元に当てて微笑んだ。
「そうなの?」
「うん」
「分かった。楽しみにしてるね」
「うん」
それから私達は一緒にテレビを観たり、オセロと遊んだりして過ごした。そして紅愛が作った晩ご飯も食べてお風呂に入った。
――
髪を乾かして部屋に戻ると、先にお風呂を出た紅愛が私のベットに座っていた。
「珍しいね。紅愛ちゃんが私の部屋に来るの」
「まあね。今日は奏と一緒に居たい気分だから」
「そうなの?」
「うん」
私は紅愛の隣に腰掛けた。すると紅愛は私にもたれかかってきた。
「どうしたの?」
「……何でもない」
そう言って紅愛は目を閉じた。私はそんな彼女の頭を優しく撫でた。
「気持ちいい」
「ほんと?」
「うん」
しばらくそうしていると、紅愛が小さな声で呟いた。
「……奏」
「なあに?」
「……好き」
「……えっ!?」
突然の言葉に驚いて固まっていると、紅愛はゆっくりと目を開いてこちらを見た。
「……冗談だよ」
そう言う紅愛の顔は真っ赤になっていた。きっと今の言葉で自分の顔も赤くなってしまっているだろう。
「もう、びっくりさせないでよ」
「ごめん」
「……紅愛ちゃんってさ」
「何?」
「結構大胆な事するよね」
「……そうかな」
「うん」
私がそう答えると、紅愛は何も言わずに私を抱き締めた。
「……ねえ、奏」
「なあに?」
「また入院とかしないでね」
「紅愛ちゃん……」
私は紅愛の身体を強く抱き返した。
「オセロも居たけど、やっぱり奏が居ないと寂しい」
「……ごめんね」
「謝らないで」
「……うん」
「約束してくれる?」
「……うん。約束する」
「……良かった」
そう言った紅愛の声はとても優しかった。
「ねぇ、今日一緒に寝てもいい?」
「……うん」
私がそう言うと、紅愛は私の手を取った。
「じゃあ、そろそろ寝よ」
「そうだね」
私が部屋の電気を消そうと立ち上がると、紅愛がそれを止めた。
「待って」
「え?」
「私が消すから、奏は先にベットに入ってて」
「う、うん」
紅愛に言われた通り、私は布団の中に先に潜り込んだ。そして少し待つと、パチンという音と共に部屋が暗くなった。しばらくして紅愛も布団の中に入ってきた。私のベットはそんなに大きくないので二人で寝るとちょっと狭い。だけど何故かそんなに狭く感じなかった。
「紅愛ちゃん狭くない?」
「大丈夫」
「そっか……良かった」
「うん……」
暫く沈黙が続いた。私は紅愛に背を向けて横になっているけど、何だか落ち着かない。紅愛の方を向きたいけど、それが恥ずかしくて出来ない。すると後ろの方でもぞもぞと動く音が聞こえてきた。
「ねぇ、こっち向いてくれないの?」
「えっ……?」
「駄目?」
「……分かった」
私は覚悟を決めて振り向いた。暗くて見ずらいけどすぐ近くに紅愛の姿があった。
「やっと顔見れた」
「うん」
「寒いからもっと近づいていい?」
「……うん」
私は小さく返事をした。紅愛はさっきより私に近づき、すぐ横を向いたら紅愛の顔が目の前にあった。その距離に私の心臓はドキドキしていた。
「紅愛ちゃん、流石に近すぎじゃない……?」
「寒いんだからしょうがないでしょ」
「でも……」
「それにしても、奏はあったかいね」
「えっ? そうかな」
「うん」
紅愛ちゃんの可愛い顔がすぐ近くに有るせいか緊張して体温が上がっている気がした。
「ねぇ、奏」
「なあに?」
「ただ呼んだだけ」
「そっか」
「うん」
それからまた紅愛は何も言わなくなった。私も何も喋らずに黙っていた。すると紅愛が私の手を握りしめて来た。
「おやすみ奏」
「おやすみ紅愛ちゃん」
そう言って紅愛はすぐに眠ってしまった。私はまだ眠れなくて天井を見つめていた。
ふと横の紅愛の顔を見ると、可愛らしい寝顔ですやすやと寝ていた。私は紅愛の手を握ったまま頭を撫でた。紅愛は気持ち良さそうに微笑んだ。しばらくそうしていると、私もいつの間にか眠りについた。
続きが気になる方、おもしろかったという方は、ブックマーク登録、評価、感想コメントなどで応援よろしくお願いします!! それではまた次の話で!!
 




