第三十話 奏と病院
――微かに誰かの声が聞こえて目を開ける。が、目の前には何もない暗闇が広がっているだけだった。
私なにしてたんだっけ……? 朝ごはんを作って、紅愛を起こしに行こうと……。そうだ。急に胸が苦しくなって過呼吸になって、紅愛に早苗先生に電話をさせたところで意識を失ったんだ。
「ここどこだろ?」
周りを見渡しても真っ暗だ。何も見えないし誰もいない。もしかして今は夜だからこんなに暗いのかな? すると暗闇の奥で誰かが立っていた。人影は段々近づいてきてよく見てみると、紅愛が立っていた。
「紅愛ちゃん?」
紅愛には私の声は聞こえていないみたいだ。顔を覗き込むとその顔は無表情だったけどどこか悲しげな雰囲気をまとっていた。紅愛の悲しい顔を見ていると私の方まで悲しくなった。紅愛にも心配かけちゃったな……。私がいきなり倒れててびっくりしただろうし、きっと不安になったよね。謝らないと……。
「紅愛ちゃ」
そう言おうとした時、また私は意識を失った。
――
次に目を覚ましたら白い天井が広がっていた。ああ、また私病院に戻ってきちゃったんだ……。上体をベットから起こして周りを見渡すと、この部屋は個室で窓の外を見ると雨が降っていた。壁に掛けられた時計を見ると午後一時過ぎだった。左腕に違和感を感じて見てみると点滴が繋がれていた。いつも通りの景色にはぁ……とため息を吐いて、もう一度ベットに身体を沈ませた。ナースコールで看護師さんを呼んでもいいけど、しばらくしたら誰か来るだろうししばらくぼーっとしながら待っていよう。
それからしばらくしてドアの向こう側から足音が近付いてきたと思ったら勢い良く扉が開かれた。そこにはいつも通りの白衣を着て仕事モードの早苗先生がいた。
「目が覚めたか」
「早苗先生……私……」
「安心しろ、お前の仕事先と美空には連絡はしといた」
「ありがとうございます」
「体調の方はどうだ?」
「大丈夫です。ちょっとまだ頭痛とか身体が重い気がしますけど平気ですよ」
「それなら良かった。それで原因なんだが心当たりは分かるな?」
「はい……」
私が過呼吸を起こした原因。それは薬をちゃんと飲まなかったからだ。
「だからあれほど薬は飲めと言っただろう」
「ごめんなさい」
「次からは絶対症状が無くても薬を飲むんだぞ」
「はい……」
「それとしばらくは安静にしとくように。今回のは薬の飲み忘れもあるが、一番は疲労だからな」
「分かってますよ……」
「それで一つ聞きたいんだが、私に連絡を入れた女子がこの前言ってた従姉妹か?」
「そうです」
「なるほどな。その従姉妹お前の事凄く心配してたぞ。一緒に病院まで行くと言っていたが、学校があるから学校が終わってから来いと言っといた」
「紅愛ちゃんが……」
「とにかくしばらくは絶対に安静にするんだぞ?」
「分かってますよ……」
「あとでちゃんとその従姉妹にも連絡しとけ。じゃあ私は一旦戻るが、何かあったらすぐにナースコールで呼ぶんだぞ」
「はい」
そう言うと早苗先生は病室から出て行った。
やっぱり紅愛も心配してるよね。今は授業中だからスマホ見れないだろうけど、忘れないうちにメッセージ送っておこうかな。ベット横の机に置いてあるスマホを手に取った。
『心配かけてごめんね』
とだけ打って送信した。するとすぐ既読がついた。そして返事が来た。
『身体はもう大丈夫なの?』
『大丈夫だよ。それより紅愛ちゃん、今は授業中じゃないの?』
『今は体育だから、サボってこっそりスマホ使ってるだけ』
『そうなんだ。でも授業をサボるのはよくないよ?』
『説教はいいよ。それでどこの病院に居るの?』
『中央病院だよ』
『分かった、放課後になったらそっちに行く』
『うん、待ってるね』
そう返信してメッセージアプリを閉じた。紅愛が来るまで少し時間がありそうだし何しようかな……テレビもあるけど特に観たい番組もないし。ベットで横になって考えてると眠気がやってきた。やっぱり身体が疲れているみたいだ。このまま起きてるのもしんどいし寝てようかな……。そう思って目を閉じると、また眠ってしまった。
――
目を覚ますと外はだいぶ暗くなっていた。外の様子を見ると雨はまだ降っているようだ。
「今、何時だろう……?」
時計を見てみると十八時半だった。結構長い間寝ちゃったな……。
「んっ、紅愛ちゃん?」
隣を見てみると紅愛が私の手を握って椅子に座っていた。紅愛は私の声に反応して顔を上げた。
「起きたんだ。体調はどう? 」
「大丈夫だよ。ただちょっと身体が重く感じるぐらい」
「そう、なら良かった」
紅愛に今の体調を答えると、私の手をギュッと握ってきた。私はその手に自分のもう片方の手を重ねて微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。ごめんね、急にこんなことになっちゃって……」
「別に謝らなくていいよ。さっきあんたの先生に話を聞いたんだけど、昔から喘息持ちだったんでしょ? それならしょうがないよ」
「うん……」
「それにしても、なんで今まで黙っていたわけ?」
「それは……」
「まぁ、言いたくないなら言わなくても良いけど……」
「…………」
確かに私は紅愛に病気の事を話してなかった。いつか話そうとは思っていたけど、中々話す気になれなくてこんなことになって……。
「ねぇ、紅愛ちゃん」
「なに?」
「怒ってる? 病気の事黙ってたの」
「別に怒ってないよ」
「じゃあ、なんでむすっとしてるの?」
「……だって」
そう言うと紅愛は少しづつ話し始めた。
「病気の事を知らなかったのは、私だけなんでしょ?」
「うん、まぁそうなるね……」
「なんか私だけ仲間外れされた気分なんだけど」
「そんな事ないよ。私は紅愛ちゃんには心配かけないようにと思って」
「でも、奏汰は知ってるでしょ?」
「それはそうだけど……」
「やっぱりそうじゃん」
そう言うと紅愛は顔を俯かせた。
「ごめんね、紅愛ちゃん」
「だから、謝らなくていいよ。私が勝手に拗ねてるだけだし」
「でもごめんね」
「……」
紅愛は私の手を離して俯いてしまった。紅愛ちゃん……やっぱり怒ってるよね……。
「あのね紅愛ちゃん」
「何?」
「実はね、紅愛ちゃんにも言おうと思ってたんだよ。でもね、紅愛ちゃんに余計な心配をかけさせたくなくって……」
「あっそう」
「うん……」
「ふーん……」
そう言うとまた沈黙が続いた。
うぅ、どうしよう。紅愛はまだ不機嫌そうだし、何か話題を探さないと……。
「ところで退院はいつ頃できそうなの?」
「えっと……まだ分からないかな。後で早苗先生に聞いてみるね」
「そっか……」
「うん……」
「……」
「……」
駄目だ。全然会話が続かない。このままだとずっと無言のまま時間が過ぎてしまう。とにかく何でもいいから会話をしないと。そう思って口を開いた。
「最近どう……?」
「何が」
「えっと……色々?」
「特にない」
「そ、そうだよね」
また会話が続かず再び病室が静かになった。どうしようかと思ったその時、病室の扉が開いて早苗先生が入ってきた。
「ああ、誰か面会に来てると思ったら例の従姉妹か」
「どうも」
「あの時は急だったから自己紹介もまだだったな。私は奏の主治医の加納早苗だ」
「南野紅愛です」
「よろしく。で、ここの面会時間は十九時まででな。もう外も暗いしそろそろ帰った方がいい」
「分かりました」
そう言って紅愛は椅子から立ち上がって上着を着始めた。
「あの、早苗先生。私が退院出来るのっていつぐらいですか? 」
「そうだな……まぁ、お前の事は私が一番知ってるし、明後日には退院していいぞ 」
「本当ですか!? 」
「ただ、退院した後も出された薬は飲むこと。分かったな?」
「はい! 」
良かった……。これでクリスマスを病院で過ごす心配はなさそうだ。私はほっと一安心した。
「そうだ紅愛。もう外は暗いしよかったら私の車で家まで送ってやる」
「早苗先生!?」
早苗先生の提案に私は大きな声を上げた。
「……いいんですか?」
「ああ。こんな夜に女子が一人で歩いたら危ないだろ? それにお前も知り合いの子だしな」
「ありがとうございます」
「じゃあ、ちょっと待っていてくれ」
そう言うと早苗先生は病室を出て行った。
「ねぇ奏」
「何?」
「クリスマスさぁ、仕事とか奏汰と出かける予定とかないよね?」
「大丈夫。クリスマスは紅愛ちゃんと過ごすって決めてるから」
「ならいい」
「何かクリスマスにあるの?」
「別に」
そう言うと紅愛は再び顔を俯かせてしまった。やっぱりまだ怒ってるのかな……。
それからしばらくして早苗先生が戻ってきた。
「よし、行くか」
「はい。また明日来るね」
「うん。おやすみ紅愛ちゃん」
「おやすみ」
そう言って紅愛は早苗先生と病室を出て行った。
――
翌日。私はいつもの部屋ではなく病室で朝を迎えた。時計を見てみると朝の七時だ。しばらくぼーっとしていると看護師さんが入ってきた。
「おはようございます園原さん。体調はどうですか?」
「いい感じです」
「ならよかったです。では体温を測りますね」
「お願いします」
そう言うと看護師さんが私の脇の下に体温計を入れて熱を測る。
「じゃあ一旦点滴を外しますね」
そう言って私の腕から点滴を抜いて消毒をした。ちょうど体温計が鳴って私は看護師さんに手渡した。
「平熱ですね。次に血圧も測りますね」
「はい」
そう言うと看護師さんが機械で測定を始めた。
「少し高めですが許容範囲なので問題ないでしょう」
「そうですか……」
「今日は少しリハビリをやりますからね」
「分かりました」
そう言うと看護師さんが部屋から出て行き、代わりに早苗先生が入ってきた。
「調子はどうだ? 」
「絶好調ですよ」
「それは何よりだ」
早苗先生がベッドの横にあった椅子に腰かけて話し始めた。
「朝ご飯を食べたら軽い診察をするからな」
「はい」
そう返事をすると早苗先生が朝食を持ってきてくれた。子供の頃によく見たいつもの病院食だ。
「いただきます」
「どうだ? 久しぶりの病院食は」
「普通です」
「そうか」
そう言いながら早苗先生は自分の分の食事を持ってきて食事を始めた。そんなに多くない病院食を完食すると、早苗先生が食器を下げてくれた。
「じゃあ診察を始める。まずきちんと呼吸は出来るな? 息苦しさも無いか?」
「はい。大丈夫です」
「よし。じゃあ聴診器を当てて心臓の音を聞くぞ」
「はい」
そう言って私は服をめくった。そして胸を早苗先生に見せる。早苗先生は慣れた手つきで胸に聴診器を当てる。
「特に異常はないな。これならいつもの薬を飲めば大丈夫だろう」
「良かった……」
「よし、じゃあ次は軽い運動をする」
「う、運動ですか?」
「そうだ。少し走っただけでまた過呼吸が起きたら大変だからな。軽く散歩するだけだ」
「わ、分かりました……」
そうして私は早苗先生と一緒に病院の中をぐるりと一周することになった。
――
「ふぅ……結構疲れるなぁ」
「昨日からずっと寝てたからな。身体が鈍ったんだろう」
一時間ほど院内を歩き回った私達は休憩のために中庭に来ていた。ベンチに座って一休みをしていると、早苗先生がペットボトルを渡してきた。
「水分もちゃんと摂れよ」
「ありがとうございます」
早苗先生が持ってる水を飲む。冷たい液体が喉を通っていく。一口飲んでからキャップをして早苗先生に差し出す。
「先生も飲みます?」
「自分の分があるから平気だ」
そう言うと早苗先生は鞄からもう一本別のボトルを取り出して蓋を開けて一口飲んだ。
「早苗先生はクリスマス予定あるんですか?」
「いつも通り仕事だが?」
「……早苗先生って美人なのに彼氏いないですよね」
「余計なお世話だ」
早苗先生は見た目は美人なのに何故か彼氏の話を一回も聞いたことが無い。一人くらいはいるんじゃないかと思ってるけど、そういう話は全然聞かない。もしかして怒ると怖い性格なのが理由なのかもしれない。
「そういうお前は、奏汰と付き合ってるんじゃないのか?」
「つ、付き合ってませんよ!」
「意外だな。てっきりクリスマスは奏汰と一緒に過ごすと思ったんだが」
「まあ今年は紅愛ちゃんと過ごすって決めてるので……」
「ふうん」
「って全然興味ないじゃないですか……」
そう言うと早苗先生は立ち上がって伸びをした。
「そろそろ病室に戻るぞ」
「はーい」
そうして私達は病室に戻って昼食を済ませた。
「午後は特に予定はないから部屋でゆっくり休んどけ」
「分かりました」
「まぁ、多分見舞いに来る人が何人か来ると思うが、対応は任せるぞ」
「了解です」
そう言うと早苗先生は食器をトレイを持って部屋から出て行った。私はベッドに横になって目を閉じた。すると少し眠気が襲ってきたのでそのまま軽い昼寝をした。
しばらくお昼寝をしていると扉がノックされる音で目を覚ました。時計を見るとちょうど十五時になっていた。
「はい」
そう返事するとドアが開いて、入ってきたのは音色と詩織だった。音色は入ってくるなりベットに座り、詩織は隣の椅子に座った。
「……音色は今日仕事どうしたの?」
今日は平日だし、いつも通り仕事があるはずだが……。
「ああ、仕事? 今日はたまたま休みなのよ。でも運が良かったわ~、今日休みじゃなかったら奏のお見舞いに行けなかったし」
「あっそう」
「相変わらず奏は冷たいわね~、昔は素直で可愛かったのに……」
「またその話?」
「だって、奏はいつも私に対して冷たいじゃない。私は奏の事が大好きなのに…………痛っ!」
「そうやって何回も昔の話蒸し返すの止めてくれる?」
音色の頭をスパッと叩いて詩織が言った。
「まぁこんな長女は無視して、奏は身体大丈夫? また喘息?」
心配そうな表情で詩織が私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。今回はちょっと仕事が忙しくて、倒れちゃっただけで」
「そっか。じゃあ早めに退院出来るの?」
「うん。明日退院出来るって早苗先生が言ってた」
「ならよかった。てっきりまた酷くなったのかと思って心配したよ」
「ね~。いきなり早苗先生から電話来た時は、ほんとびっくりしたんだから」
「ごめん」
「謝らなくていいわよ。そんなに酷くないみたいだし」
「あとこれ、私と音色で色々奏に買ってきたからよかったら食べて」
詩織はそう言って紙袋を私に渡して来た。
「これ何?」
「ほら、奏って紅茶好きでしょ? だから紅茶とそれに合うクッキーとかお菓子を買ってきたの」
「あんまり私達紅茶とか詳しくないから、好みじゃなかったらごめんね」
「全然嬉しいよ。ありがとう二人共」
「あとこっちはお母さんが奏にって」
詩織はもう一つ紙袋を取り出した。
「え? お母さんが?」
「ほんとはお母さんもお見舞いに来る予定だったけど、来れなくなったから代わりに私達がこれを奏に渡しといてって言われたの」
私は渡された紙袋を受け取って、中身を確認すると中には小さな箱が入っていた。
「これは?」
「開けてみれば?」
「分かった」
詩織の指示通りに箱を開けると、中には私が昔から大好きな紅茶とマカロンが入ってあった。
「これ……私が好きだったやつだ」
「お母さんとプレゼント被ったわね……」
「まぁ……いいんじゃない? 奏は喜んでくれたし」
「それもそうね」
私が喜んでいる横で二人は顔を見合わせて笑っていた。
「じゃあ、頼まれた物も渡したし、そろそろ帰るわね」
「え、もう帰っちゃうの?」
「実はさっき、早苗先生と会ってちょっと話したんだけど、私達の後にもお見舞いに来る人がいるらしいから、長居するのも悪いと思って」
「そっか。わざわざ来てくれてありがとね」
そう言うと詩織は笑顔で手を振った。
「どういたしまして。それじゃあ、お大事にね」
「お大事にね~」
「うん。ばいばーい」
病室から出る二人をベットの上から見送る。
「次会ったときに、紅愛の話聞かせてね~」
音色はそう言い残し、扉が閉まった。
「……」
私は一人になった部屋で貰った物を眺めていた。明日退院したら紅愛と一緒に頂こうかな。貰った紅茶とお菓子を紙袋に戻してベット横の机に置いておく。
そういえばこの後もお見舞いに来る人が居るらしいけど誰だろ……? そう思いながらしばらく待っていると、病室の扉が勢いよく開いた。すると奏汰が心配そうな表情で入ってきた。
「奏!! 大丈夫か?」
「うん。ちょっと疲れて倒れただけだよ」
「ならいいんだが……」
「心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと声が大きいよ……ここ病院だからね?」
「す、すまん」
「別にいいよ。心配してくれてありがとう」
「ああ。それで、退院は出来そうなのか?」
「うん。明日退院出来るって早苗先生に言われたから大丈夫だよ」
「ならよかった」
奏太は安心したように胸を撫で下ろした。
「そうだ。これ奏に買ってきたんだ。よかったら食べてくれ」
そう言って奏汰はビニール袋を渡してきた。中を見てみるとカップのプリンとゼリーが入っていた。昔はよく私が熱で寝込んでいる時に、奏汰が買って来てくれたっけ……。懐かしいなぁ。
「懐かしいね……これ」
「覚えてたか?」
「うん。奏汰がいつも買ってきてくれてたよね」
「そうだったな」
「昔から奏汰には迷惑かけてばかりだね」
「気にするなって。俺は奏の事を迷惑なんて思った事ないぞ?」
「本当?」
「ああ。俺は奏が元気な姿が見れればそれでいいんだ」
「ふふっ、なんか奏汰がお兄ちゃんみたいだね」
「お、俺が?! そ、そんなことないと思うが……」
奏汰は少しむすっとした顔をした。あれ? 一応褒め言葉で言ったんだけど……。
「まぁとにかく。奏が大切なのは本当だ」
「ありがとう」
「ああ」
「……」
奏汰は私の頭を優しく撫でた。
「奏は昔から変わらないよな」
「え?」
「昔から奏は優しいし」
「そ、そうかな?」
「ああ。今も変わらず優しいままだ」
「……」
奏汰はいきなり真剣な顔で私を見た。
「俺は奏の事を大事に思ってる。それに今までも一番近くで見守ってきたつもりだ」
「う、うん」
「だから、これからもずっと一緒にいて欲しい……と思ってる」
「……」
「それで……その……もし良かったらなんだが……お、俺と……!」
「お取込み中失礼するが、大きな声での会話は禁止だぞ」
突然、扉が開いて早苗先生が入ってきた。
「あ……すみません!!」
奏汰は慌てて頭を下げて謝った。
「奏汰は奏の事を心配し過ぎだ。電話でも言っただろ? 大したことはないと」
「はい……」
「私が言いたいのはそれだけだ。邪魔して悪かったな」
そう言うと早苗先生は病室から出て行った。
「じゃ、俺はそろそろ帰る。さっき言ってたことは忘れてくれ」
「う、うん」
「それじゃあ、お大事にな」
「ありがとね」
「ああ」
そう言うと奏汰は病室を出ていった。私は一人になった部屋でしばらく考え込んでいた。奏汰は何を言おうとしたんだろう? まぁ、気にしていてもしょうがないか。明日になったら退院出来るし、紅愛の好きなものでも作ってあげようかな。そうして私の短い病院生活は無事に終わった。
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