第三話 従姉妹と過ごす初めての夜
二人暮し初日
紗英さんの家から数十分。時刻はもう四時を過ぎていた。紅愛の様子を車のミラー越しでちらりと見た。紅愛は相変わらず窓の外を眺めている。車内には私が流しているCDの曲が流れているだけだった。紅愛に色々聞きたい事や話したい事はあるのだが、未だにあまり話しかけられないでいた。家に帰ってからどうしようかなと色々と考えていたら私の住んでいるマンションが見えてきた。私の住んでいるマンションは十五階建てで、街の都心の少し端の方にある。端とは言っても、都心の駅には二、三十分で行けるし、少し行けばショッピングモールもあって、お店も充実しており。学校や幼稚園も近くにある。家賃はそこそこ高かったけど、ここに住めて良かったと思っている。
駐車場に自分の車を停めて、エンジンを切って車を降りた。紅愛も今降りたところだった。車の後ろを開けて、紅愛の荷物を取り出す。紅愛は、私の横に来て自分の荷物を私から奪い取るかのように持った。
「荷物どっちか、持つよ?」
「……いい、自分で持つ」
紅愛はやっぱり、まだ私の事を信用してる訳じゃ無いからか、自分の荷物を私に持たれるのも嫌らしい。自分で持つと言っても、紅愛は重そうに自分の荷物を持っている。手伝いたかったけど、本人が嫌そうなので手伝うのは辞める事にした。せめて、紅愛が荷物を持つ時間を減らす為、私は早めに部屋に向かう事にした。
マンションに入り、エントランスに入り、エレベーターとエントランスを繋ぐ扉のオートロックを外し、中に入る。自分の部屋番号のポストに何か入っていないのを確認して、エレベーターに乗り込む。私の部屋は五階なので五階のボタンを押す。エレベーターが動き出し上に向かって上がっていく。そんなに長くは無い筈なのに、五階に着くのが長く感じた。エレベーターの中でも紅愛は無言で、ただ下を向いて荷物を重たそうに持ち直しただけだった。エレベーターが五階に着く。エレベーターから出ると、一フロアごとに部屋は三つずつあり、右側が私の住んでいる部屋だ。カバンから部屋の鍵を取り出し、鍵を鍵穴に差し込む。ガチャッと鍵が開く音がして、玄関の扉を開けた。
私の家も紗英さんのアパートとほぼ間取りが一緒で、玄関を開けると玄関廊下があり廊下の左右には部屋が二つずつあって。左の手前の部屋が私の部屋で、私の部屋の隣がトイレになっている。右の手前の部屋は物置で、物置の隣がお風呂だ。
「ここが私の家だよ、紅愛ちゃん荷物が多いから先に上がって良いよ」
玄関の玄関の扉を開けたままにして、紅愛を先に上がらせる。紅愛は私に言われた通りに、私より先に玄関に入り、靴を脱いで持っていたキャリーバッグを玄関の廊下に下ろした。紅愛が上がったのを確認して、私も玄関の扉を閉めて靴を脱いだ。紅愛は私が玄関廊下に来るまでリビングと玄関廊下を繋ぐ扉の前で待っていた。どうやら私が来るまで待っていたようだ。勝手にずかずかと部屋の中を進むと思っていた。ちゃんと待つ時は待ってくれるみたいだ。
廊下の奥の扉を開けると、奥はワンルームでリビングとキッチンがある。窓を開けるとベランダもある。入って右手側がダイニングテーブルがあり、そのさらに右側にキッチンがある。入って正面にはテレビとローテーブルがあり、ローテーブルの手前にはテレビを見ながらくつろげる二人用のソファがある。リビングの正面奥にはベランダがあり、晴れた日にはここで洗濯物を干している。
「ここがリビングだよ」
玄関廊下とリビングを繋ぐ扉を開けて、紅愛に部屋の説明をする。
「ご飯は、このダイニングテーブルで食べるんだよ。後、テレビは遠慮せずに使っていいからね」
「……分かった」
そういえば、紅愛の住む所を掃除しなければ。確か物置として使っている余った部屋があるので、そこの掃除をしなければ。
「それじゃあ、私、紅愛ちゃんが住む部屋の掃除して来るから、紅愛ちゃんはリビングで待っててね。 くつろいでいて良いからね」
紅愛はこくりと頷いた。早速私は、リビングに紅愛を残して、物置の掃除を始める事にした。
物置の掃除は三十分で終わった。元々物置にはあまり物を置いて居なかったし、あったとしても片付けられる物ばかりだったので助かった。生活がしやすくなる様に、私の部屋から折り畳み式の少し小さめの机を持ってきて、物置の中に置く。このままだと寝れないので、客人用の布団も置いた。元々絨毯も敷かれているし、机と布団があればとりあえず生活は出来るだろう。掃除と模様替えも終わった事だし、紅愛を呼んでこよう。
「紅愛ちゃん、部屋の掃除終わったから荷物運んで良いよ」
「……ん」
紅愛が荷物を持って私の後ろをついて歩いてくる。
「ここが、今日から紅愛ちゃんが暮らす部屋だよ。好きに使ってね。もし何かあったら言ってね?」
「……分かった」
とりあえずこれで、紅愛の部屋の事は大丈夫そうだ。今の時刻はもうすぐで六時になるところだった。ベランダに干してある洗濯物を取り込んで、タンスに服を直した後に晩ご飯を作ろう。私はベランダに出て干していた洗濯物を取り込み、タオルは脱衣場に持っていき、服はタンスの中に仕舞った。
洗濯物の整理が終わったところでキッチンに向かい、冷蔵庫の中の材料を見てみる。冷蔵庫の中にはこの間肉じゃがを作った時にあまった牛肉と、玉ねぎ、人参、じゃがいも等の野菜もいくつか残っていた。カレーのルーとハヤシライスのルーが残っていたが、カレーのルーは一人前しか残っていなかったが、ハヤシライスのルーはちょうど二人分残っていた。晩ご飯はハヤシライスにしよう。少し具材が多いハヤシライスになりそうだけど、残った野菜が勿体無いので残り物の野菜も使う事にした。
鍋やフライパンを仕舞っている戸棚からカレーライスやハヤシライス等を作るための底が深い鍋を取り出す。鍋をガスコンロの上に置き、油を引いて火をつける。鍋を加熱している間に余り野菜の玉ねぎ、人参、じゃがいもを一口大に切って鍋の中に入れていく。鍋に入れた野菜を軽く炒める。軽く炒めたら、余った牛肉を野菜と同じように一口大に切って、鍋の中に入れる。鍋の中に少しだけ塩胡椒も入れて、野菜と牛肉の色が変わるまで炒める。色が変わったら、お水を入れて沸騰するまでしばらく煮込む。その間にまな板や包丁を素早く洗って水切りトレイに置いておく。
そうだ、お米を仕込んでおくのを忘れていた。炊飯器からお釜を取り出し、お米二合分をお釜の中に入れて素早く洗う。二、三回洗ったら炊飯器にお釜をセットして早炊モードで炊飯する。早炊モードなら、三十分もすれば炊けるだろう。そろそろ鍋が沸騰してきたのでアクを取る。アクを取りきったら火を一旦止めて、ハヤシライスのルーを二人分入れてルーが溶けきるまで混ぜる。ルーが溶けきったら火をつけて沸騰するまで混ぜる。沸騰したら完成だ。鍋が沸騰してきたので火を止めたら二人分のハヤシライスが完成した。普通のハヤシライスよりも具沢山だ。ハヤシライスのいい匂いがキッチンに広がる。あとはご飯が炊けるのを待つだけだ。ご飯が炊けるまでまだ時間があるのでお風呂の掃除もしておこうかなと思い、お風呂場に移動する。
脱衣場の棚から浴槽用の洗剤を取り出して浴槽に何回か吹きかけ、お風呂場に置いてある浴槽用のブラシでゴシゴシと洗う。一通り浴槽を洗ってシャワーの水で流していく。流し終わったら浴槽の栓と蓋をして、給湯器の電源を入れて自動ボタンを押してお湯を沸かせる。二、三十分あれば沸くので、ちょうど晩ご飯を食べてる間には沸き終わるだろう。お風呂の準備も終わった事だしそろそろご飯が炊ける頃だと思い、キッチンに炊飯器の様子を見に行く。
ちょうどキッチンに来た所ところで炊飯器から
ピーッ、ピーッ
と炊き終わりの音が鳴る。炊飯器を開けて炊きたてのご飯を混ぜる。後は冷めてしまったハヤシライスを温めなおせば晩ご飯の完成だ。部屋に居る紅愛を呼んでこよう。
「紅愛ちゃん、晩ご飯出来たよ」
紅愛の居る部屋をノックして扉の前から声をかける。すると紅愛が部屋から出てきた。
「……晩ご飯 何?」
「ハヤシライスだよ、紅愛ちゃんハヤシライス好き?」
「…………普通」
「そっか……」
紅愛の好物とかだったら、無愛想な紅愛でも喜んだりしたのかな。明日からは紅愛の食べたいものを作ってあげようと思いながら、紅愛と二人でリビングに向かう。
リビングに行くと、ハヤシライスのいい匂いが漂っていた。紅愛にハヤシライスをつぐ為のお皿を食器棚から取り出して、紅愛に渡す。
「好きなだけついで食べてね、おかわりもしていいからね」
「......うん」
そう言うと紅愛は、キッチンに行きご飯をよそい出した。紅愛がご飯をよそっている間に私は、自分のお皿と、紅愛と私の分のコップを用意して、テーブルに置く。紅愛がハヤシライスをついだお皿を持ってキッチンから出てきてから、私もハヤシライスをつぐ為にキッチンに行く。
炊きたてのホカホカのご飯に、温め直して熱々になったハヤシライスをご飯にかける。まるで出来たてのようなハヤシライスをついだお皿を持ってダイニングテーブルに戻る。
キッチンから出てダイニングテーブルに戻ると、紅愛がハヤシライスをついだお皿を持ったまま、ダイニングテーブルの前で立っていた。
「あれ......? どうしたの? 座らないの?」
「......いや、どこの席に座ればいいのかなって」
どうやらどこに座っていいのか分からなかったから立っていたみたいだ。別に紅愛が座りたいところでいいのに。そういうところを気にするとは思っていなかった。
「紅愛ちゃんが、好きなところで良いよ。私も席はいつも適当に決めてるから」
「......そう」
そう言って紅愛は私がよく座っている席の向かい側に座った。私もとりあえず紅愛の向かい側に座ることにした。
「じゃあ、さっそく食べようか」
そう言うと紅愛はこくりと頷いた。
「いただきます」
私が手を合わせて挨拶すると。
「......いただきます」
紅愛も私に続いて手を合わせ挨拶した。
お皿についだハヤシライスをスプーンですくうと、熱々のご飯と一緒に口に運ぶ。野菜が沢山入っていて、ハヤシライスのルーのトマト感も強くてとても美味しい。私が一口食べたのと同時に紅愛もハヤシライスを一口食べていた。モグモグと食べている紅愛を私はじっと見つめる。ちゃんと紅愛の口に合ったご飯を作れただろうか。一口目を食べ終わって、二口目をすくって食べようとした紅愛がふっと私の方を見た。
「......何、そんなにこっちをみて」
「どう......? 紅愛ちゃんのお口に合ってる......?」
恐る恐る紅愛に聞いてみた。
「......まぁ、美味しいよ」
「本当? 良かった......」
紅愛のお口に合ったご飯を作れて一安心した。紅愛もパクパクとハヤシライスを口に運んでいるみたいだし、良かったと思いながら私もハヤシライスを再び口に運んで、食事を再開した。
「ごちそうさまでした」
「............ごちそうさま」
三十分くらいで私と紅愛は二人前のハヤシライスを完食した。ちょうど腹八分目でお腹がいっぱいで気持ちいい気分だ。紅愛もおかわりをしていたし、沢山食べてくれたのが嬉しかった。
「お粗末様でした。......紅愛ちゃんお風呂どうする? 先に入る?」
私達が晩ご飯を食べている間に、ピーッ、ピーッとお風呂が沸いた音が鳴っていた。私はこの後は食器と鍋を洗わないといけないので、紅愛にお風呂に入るか聞いてみた。
「......じゃあ、先に入る」
そう言って紅愛は自分のお皿をキッチンに下げると、着替えを取りに昨日までは倉庫だった、自分の部屋に戻っていった。紅愛を見送った私は、流し台に置いていた水に浸けていたお皿と鍋を洗い始めた。
程なくして壁をまたいで隣にあるお風呂場からシャワーの音が聞こえだした。そうだ、後で紅愛にバスタオルを渡しとかなければ。バスタ掛け掛けの所に後で掛けておこう。そう思いながら私は黙々と洗い物をしていく。そんなに多くもないのでささっと洗い終える。軽く流し台を水で洗い流してこれで洗い物はおしまいだ。後は、そうだ。紅愛にタオルを持って行こう。リビングと廊下を繋ぐ扉を開けて左手にお風呂場がある。脱衣所にあるタオルの棚から使っていないタオルを取り出し、タオル掛けに掛ける。
「紅愛ちゃーん? タオルここに掛けてるから、掛けてるの使ってね」
お風呂場の扉越しに、紅愛に声を掛ける。
「......分かった」
シャワーを止めて、紅愛が返事をした。これでバスタオルは渡したし、紅愛が出るまでもう少しかかりそうだから。ゆっくりリビングで待っていようかな。私は再びリビングに引き返し、テレビかスマホでも見て時間を潰すことにした。
紅愛がお風呂に入って四十分。シャワーの音が止み、お風呂場の扉が開いた音がした。紅愛のお風呂が終わったなら自分の着替えを取りに行かなければ。適当に流していたテレビを消して、部屋に着替えを取りに行く。部屋のタンスの中から、着替えと下着を持って部屋から出ると、ちょうどいまお風呂から出た紅愛が脱衣所から出たところに遭遇した。
「......お風呂気持ち良かった?」
「......まぁね......」
「......そっか、良かった」
別に紅愛と話すつもりも無かったので、特に意味もない会話が続いた。話す事もこれ以上ないので、紅愛との会話をやめて、お風呂に入ろうとして紅愛の横を通って脱衣所に入る。
「じゃあ、紅愛ちゃんもゆっくりくつろいでね。今日は疲れたでしょ? 早めに寝てね。明日が日曜日だからって夜更かししちゃ駄目だよ......?」
「......ん」
そう言うと紅愛は自分の部屋に戻っていった。なんか、お母さんみたいな事言っちゃったな。紅愛とは五歳違いだが、子供扱いすると機嫌悪くなりそうだし歳が離れた妹と言ったところかな。私は真ん中っ子だったから姉も妹もいたけど、五歳も離れてはいなかったから話とかかみ合ったけど、相手は女子高生だし話とかついて行けるかな? 最近の流行に詳しい訳でもないし、今時の女子高生って何が好きなのか分からないし、明日紅愛の事を色々本人に聞いてみよう。そうしたほうが話もしやすいし仲良くなれるチャンスだ......!! そうとなったらさっそく明日紅愛に聞くことを考えておこう。私は服を脱いで洗濯物カゴに入れるとお風呂場の扉を開けて一日の疲れを癒やすお風呂に入った。
お風呂場のドアを開けて掛けていたタオルを取り、濡れている体を拭いていく。ささっと着替えて洗面台の棚を開けドライヤーを取り出し髪を乾かす。少し熱いドライヤーの風を浴びながら、明日のご飯とか何をしようとか考えるけど頭がぼーっとしていて、なかなか良い案は浮かばなかった。今日は色々あって疲れているようだ。お風呂上がりですっきりしたが睡魔には勝てないようだ。髪を乾かし終わり、ドライヤーを棚に仕舞い、化粧水を軽く顔の全体に塗って、歯磨きをした。その後、キッチンでコップ一杯分の水分を摂取すると私は自分の部屋に戻った。
部屋に戻った矢先に私は真っ先にベットにダイブした。少し横になるつもりがだんだん瞼が重くなってきた。スマホをいじってから寝ようと思っていたが今日は早めに寝ることにした。時計を見ると時刻は九時半だった。いつもならまだ起きている時間だが睡魔には勝てないので、私は部屋の電気を消してベッドの中に入った。明日は紅愛の事を色々知れたら良いなと思いながら、スマホのアラームをセットして私は眠りについた。
読んでくれてありがとうございます! 葉月朋です!!
早めに三話を更新できて良かったです!!(*^_^*)
いつもこの位早いと良いんですが(~_~;) そう簡単にはいかないみたいです......
それでもなんとか頑張りますのでこれからも応援をよろしくお願いします!!
それではまた次のお話で会いましょう!




