第二十五話 奏と新作のケーキ作り 後編
悩んだ結果出来上がったケーキ。無事に店長から合格は貰えるのか……?
翌日。いつも通りに車を走らせてお店の裏口を開けて中に入った。
「おはようございます」
挨拶すると中には橋元さんが居た。
「おはようございます。園原さん」
「まだ奈美さん達は来ていないんですか?」
「さっき奈美さんからは連絡があって、今日はお店に来るのが遅れるみたいです」
「もしかしていつもの低気圧ですかね?」
「多分そうだと思います。今日はあいにく天気が良くありませんから……」
そう言って橋元さんと私は窓の外に目をやった。外はどんよりとした曇り空で今にも雨が降り出しそうな感じだった。
「それじゃあ私は先に店内の掃除をしておきますね」
と言って彼女は箒を取りに行った。私も開店準備をするためにロッカールームに向かった。そして着替え終わった後、店内に行き橋元さんと一緒に掃除を始めた。
それから掃除をしばらくして、掃除道具を片付けていると橋元さんが声をかけてきた。
「そういえば店長から聞いたんですけど、園原さん次のフェアに出すケーキ作りを任されたらしいですね」
「えぇ……まぁ……」
「すごいじゃないですか。 あの店長に任されるなんて」
「いえそんな大したことではないですよ。それに今回の仕事を任されても正直不安なんですよね……」
「どうしてですか? 園原さん前からやってみたかったと言ってたじゃないですか」
「それはそうなんですけど……実際にやってみると思ったより考える事がいっぱいで……」
私がそういうと橋元さんは少し困った表情を浮かべていた。
「確かに色々考えちゃいますよね……。でも大丈夫だと思いますよ。もし困った事があったらいつでも聞いてくださいね」
「橋元さん……! ありがとうございます!」
橋元さんの優しさに感謝して、二人で一緒に開店の準備は進めた。そして黙々とケーキを並べているとと橋元さんのスマホが鳴った。橋元さんはスマホの画面を確認した。私も気になって隣からスマホを覗く。すると着信先は奈美さんからだった。橋元さんは電話に出るとすぐにスピーカーモードにした。
「もしもし」
「もしもし橋元さん? 福田だけどもう皆は居るかしら?」
「今は私と園原さんだけです」
「そう。今日ね、お店に行くのがだいぶ遅れそうなのよ」
「もしかして低気圧の頭痛ですか?」
「そうなの。それで十時になったら薬を買ってそっちに行くから、私が行くまでお店を任せてもいいかしら?」
「分かりました。福田さんの分まで頑張ります」
「ありがとう。それじゃあ他の皆によろしくね」
そう言うと通話は終了した。私は橋元さんに話しかけた。
「奈美さんも大変ですね……。早く良くなるといいですけど……」
「そうですね。とにかく奈美さんが来るまで頑張りましょうね」
「はい!」
それからしばらくしてやって美由が出勤してきて私達はお店の開店準備を始めた。
開店時間になりお客様が二、三に入ってきて、店内には段々人が増えていった。私は接客をしながら、カウンターに置いてあるショーケースの中に入っているケーキを取り出す。しばらく忙しい時間が続いて、ようやくお客さんの波が落ち着いたのはお昼を過ぎた時だった。私は一息ついて店内を見渡した。
ふぅ……やっと落ち着いてきたかな。私はほっとして胸を撫で下ろした。すると、お店の裏口を開ける音がした。美由が確認しに行くと奈美さんの声が聞こえた。どうやら奈美さんが来たようだ。
「ごめんなさい遅くなって……」
「いえ、全然平気ですよ~。それより体調の方は大丈夫なんですか?」
「えぇなんとか平気よ。心配してくれてありがとね。とりあえずもうお昼だからお店は私が見ておくから、皆はそのうちにご飯食べちゃって」
「分かりました。奏~、橋元さ~ん。お昼一緒に食べよ!」
そう言って美由は私と橋元さんに呼びかけた。
「じゃあささっとお昼食べましょうか」
そう言って私達三人はスタッフルームにある机に各自持ってきたお昼ご飯を広げた。私はいつも通り朝早くから作っておいた弁当を机の上に出した。橋元さんも弁当を持って来ていた。美由はコンビニ袋からサンドイッチを取り出して美味しそうに食べていた。
「それじゃあいただきます」
と言って私と橋元さんは自分の昼食を食べ始めた。しばらく特に会話をしないで黙々と弁当を頬張っていると、美由が思い出したかのように話し出した。
「そういえば。奏~聞いたよ~、次の新作ケーキ奏が考えるんでしょ!」
「うん……まぁ……」
私は苦笑いしながら返事をした。
「でも大丈夫なの? 色々考えないといけない事とかもあるんじゃないの?」
「そう……実はその事で悩んでいるんだよね……」
私は少し困った顔を浮かべながら答えた。
「じゃあ! 一緒に考えてあげる! 確か次出す予定のケーキって秋フェアに出すやつだよね?」
「そうだよ。だから秋が旬の物を使いたいんだけど、例えば何が良いかな?」
「うーん……栗……ぶどう……さつまいも……柿……りんご……梨……あとは何があるっけ? あ! そうだ! さつまいもがあったじゃん! あれ使おうよ!」
「なるほど……さつまいもを使ったケーキですか……いいかもしれませんね」
「橋元さんまで……」
私は二人の意見を聞いて少し不安になった。でも二人が考えてくれた案だし、せっかく協力してくれるのなら素直に頼ってみようと思った。
「分かった。ありがとう二人とも。ちょっと色々試してみる」
それからしばらくの間、私達はそれぞれ考えた案を話した。そしてあっという間お昼休憩が終わって、私達も午後の仕事に戻った。
――
その後も私と橋元さんは仕事の合間に相談したり、時には二人で考え込んだりしてた。そして閉店時間になると私と橋元さんは後片付けをして、皆で一緒にお店を後にした。帰り道、橋元さんは私に声をかけてきた。
「園原さん」
「はい」
「私も園原さんが作るケーキ楽しみにしてます。頑張ってくださいね」
「はい! 頑張ります!」
「それと、もし何か分からないことがあったらいつでも聞いてください。力になれることがあれば手伝いますので」
そう言うと橋元さんは笑顔を見せた。私は橋元さんの優しさに感謝した。家に帰って来てからも私は一人で考えていた。どうしたら良いのか分からなくて私は頭を抱えた。するとがちゃりと扉が開く音がした。思わず扉の方を見てみると、オセロを抱っこした紅愛が部屋に入ってきた。
「何? また新作のケーキ考えてるの?」
「うん……」
「それで、どうだった? 仕事場の人たちにも相談したんでしょ?」
「うん。とりあえずさつまいもを使う事にしたんだ」
「さつまいもねぇ……あんまり聞かないけどいいんじゃない? 珍しくて」
「そうなんだ。珍しいからこそインパクトがあって、きっと皆喜んでくれると思うんだよね」
「ふぅ〜ん……」
すると紅愛は私の方に近づいてきて、じっとこちらを見つめた。私はそんな彼女の目線に耐えきれず、目を逸らしてしまった。
「なんか元気ないね」
「そ、そうかな……」
「そうだよ。いつもよりテンション低いし」
「ごめん……心配かけて」
「別に謝ることなんて無いよ。ただ奏はさ、もっと自信持っても良いんじゃない?」
「そうかなぁ……でもやっぱり皆に美味しいって思ってもらいたいよ……」
「そうやって一生懸命に作ったケーキはなら大丈夫だよ」
そう言って彼女は少し優しく微笑んだ。私はその言葉に救われた気がした。
「ありがとう。少し気持ちが楽になったよ」
「なら良かった。じゃあ私はもう寝るから」
そう言い残して紅愛は部屋を出て行った。私は一人になって再び考え始めた。
「よし、とりあえず明日、試作を作ってみよう!」
私はそう呟いてアイデアノートに書きこんでいった。
まずさつまいもを使うとして、あとはどうしようかなぁ……そもそも生クリームとさつまいもって合うのかな……。まぁそれは明日の試作するときに確かめればいっか。大体の案をノートに書きこんで私は眠りについた。
――
翌日、いつも通り朝早く起きてから身支度を済ませ、朝食の準備をした。今日のメニューはご飯に味噌汁に卵焼きにほうれん草のおひたしだ。料理を作り終えるとちょうど紅愛が起きてきて、私達は一緒に食卓について食事をした。
食事を終えて私はカバンを持って家を出た。今日の仕事は午後からだけど、午前中に試作をするためcielに車を走らせた。店に着くとすでに橋元さんがいた。私が挨拶をするとその隣にいた美由が声をかけてきた。
「あれ? 今日は奏シフトに入ってないけどどうしたの? もしかしてケーキ出来た!?」
美由は嬉しそうな顔をしながら私に声をかけた。でもまだ出来ていない事を察したのか、残念な顔をした。私は苦笑いしながら答えた。
「今日はとりあえず試作をしようと思って来たんだ。もしお店が忙しかったら手伝うから」
「えぇ! 本当? やったー! 助かるわ〜」
美由は満面の笑みを浮かべながら喜んだ。橋元さんはその様子を見てクスッと笑って言った。
「園原さんが手伝ってくれるなら心強いです」
それからしばらくすると、奈美さんと店長がやって来た。
「あら? 今日は園原さんはお休みじゃなかった?」
「おはようございます! 今日は店長に頼まれた新作ケーキを試作しようと思って来ました」
「そうだったのね。園原さんが作るケーキ楽しみしてるわね」
「はい! 期待しててください!」
私は笑顔で返事をして厨房に向かった。そして早速ケーキ作りに取り掛かった。まずはスポンジ生地を作ろうと思ったけど、昨日思いついたさつまいもを使ったケーキを作ることにした。私はボウルの中にバターを入れて泡立て器でよく混ぜて、砂糖を入れた。
「このくらいでいいかな……」
私はそう言って冷蔵庫の中から牛乳を取り出した。そしてその中にさつまいもを入れるとレンジに入れて加熱した。加熱し終わったさつまいもを潰して生地の中に入れて混ぜる。
そして私はどんどん作業を進めた。ある程度混ざったところで今度は薄力粉を加えてさらによく混ぜる。その後、型に流し込んでオーブンに入れた。後は焼けるのを待つだけだ。
しばらくしてケーキが焼き上がった。私はそれを皿に移し替えた後、一口サイズにして自分の口に運んだ。
生地にはさつまいもと卵を多めに入れてあるから甘さが控えめになっていて食べやすい。スポンジもそんなにぱさぱさしていないし、さつまいもの味もちゃんと出ている。これなら皆にも喜んでもらえるはず……。私はそんな事を考えながら試食を続けた。
すると後ろから誰かに肩を叩かれた。振り返ってみるとそこには美由の姿があった。
「いい匂いがすると思って来てみたら……もしかして出来た!?」
「うん……。一応作ったんだけどどうかな……?」
「どれどれ~?」
そう言って私からフォークを受け取って、一口ぱくりと食べた。
「ん〜っ!! 美味しい!!」
そう言って彼女は目を輝かせていた。その反応を見て私はホッとした。
「良かったぁ……でもこれで店長からOK貰えるかな……」
「大丈夫だって! きっと店長も美味しいって言ってくれるよ!」
そう言われて私は少し自信がついた気がした。
「そうだね……ありがとう」
「いえいえ! じゃあ私はそろそろ戻るから。頑張ってね!」
そう言い残して彼女は戻って行った。私も後片付けを済ませてからお店のお手伝いをすることにした。
それからしばらくして、お客さんも落ち着いて来たところでお昼休憩の時間になった。
皆がスタッフルームに来て昼食を済ませたところで店長に声をかけた。
「あの、店長。頼まれてた新作のケーキを試作したので食べてみてくれませんか?」
私がそう言うと、店長は少し驚いたような顔をした。
「あら? もう出来たのね。流石園原さんは仕事が早いわね」
「はい、よかったら奈美さんと橋元さんも食べてください」私がそう言って二人に声をかけると、二人は喜んでくれた。
「いいの? じゃあ頂くわね」
「ありがとうございます。じゃあ頂きます」
そう言って二人がケーキを食べ始めた。私はドキドキしながら二人の様子を見守っていた。
「どうですか……?」「美味しい! これは絶対売れるわよ!」
奈美さんは興奮気味にそう言った。橋元さんの方を見ると彼女も同じ意見のようだった。私はその言葉を聞いて嬉しくなった。
そしてその様子を見ていた店長がついにケーキを一口食べた。
「……どうでしょうか……」
私は不安げに尋ねた。店長は黙々とケーキを口に運んでいた。そしてあっという間に完食した店長は私に話しかけてきた。
「凄く良いと思うわ。さつまいもの甘さもあるし、生クリームも多すぎないで生地もふっくらしている。とても良いと私は思うわ。これなら秋フェアに出せそうね」
「……ということは合格ですか……?」
「ええ、合格よ。ありがとう園原さん。良いケーキを作ってくれて」
「やったー!!!」
私は嬉しくなって思わずガッツポーズをした。
「奏凄いじゃん! お疲れ様!」
美由は私の背中をポンっと叩いて労ってくれた。
「おめでとうございます。園原さん」
橋元さんも笑顔でそう言ってくれた。私はなんだかくすぐったくて、照れくさかった。でも、こんなに嬉しいことはない。
こうして私は無事に新しいメニューを作ることが出来たのだ。
「おめでとう。園原さん。もしかしたら今度から新作のケーキを作るのは園原さんの方がいいのかもね~」
奈美さんが冗談交じりにそんな事を言ってきた。
「ちょっとそれは困りますよ……。私はまだまだ未熟ですし」
「大丈夫よ。園原さんはもう少し自分の自信を持ってもいいじゃないの? 店長もそう思いません?」
「そうね~。また新しいケーキを考えるときは園原さんに相談してもいいかしら?」
「私で良いのならやらせていただきます!」
私は笑顔でそう答えた。
そしてほどなくして秋フェアが始まり、無事に私が作ったさつまいものケーキはお店に並べられたのだった。
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