第二十四話 奏と新作のケーキ作り 前編
中々いいアイデアが思いつかない奏に紅愛は……?
カチコチと時計の音が部屋の中に響く。そんな静かな部屋で私は机に広げられたノートと睨みあっていた。ノートには秋が旬の果物や、ケーキにしたら美味しそうなもの等を書き込んでいた。それでもノートには空白が多いけど……。今日は仕事が休みなので思い切り新作のケーキのアイデアをまとめようと思っていたんだけど、さっきから全然いい案が思いつかない。時々スマホで情報を集めたりするけど、有力な情報は得られず……と何回かこんな事を数時間繰り返していた。
やっぱり参考にするために他のお店に見に行った方がいいかなぁ……? と考えていたら扉が開く音がした。
「ただいま」
どうやら紅愛が帰ってきたようだ。一旦ノートを閉じてリビングに行くことにした。
リビングに行くと制服姿の紅愛がオセロを撫でていた。
「おかえり紅愛ちゃん」
「ただいま。ねぇ聞いてよ、今日白羽のやつがさぁ……」
といつも通りの学校であったことの報告を兼ねた愚痴が始まった。どうやら今日も白羽ちゃんと何かあったようだ。だいぶお疲れな紅愛にお茶でも入れてあげようと思い、食器棚からカップを取り出して最近私が好きなハーブティーを淹れる。ダイニングテーブルの上にカップを置くと紅愛がそれに気づいてダイニングチェアに腰かけた。
「紅愛ちゃんもハーブティー飲むよね?」
「……飲む」
そう言って紅愛は目の前に出されたカップを口元に運んだ。一口飲んで少し気分が落ち着いたのか、紅愛は小さいため息をついた。
「このハーブティー美味しい……」
「でしょ? 最近お気に入りなんだ」
「あんまり紅茶とか飲まなかったんだけど美味しい」
「よかった。私が紅茶好きだから紅愛ちゃんも紅茶好きになってくれて嬉しいな」
「……他にもおすすめの紅茶とかあったりする?」
「そうだねぇ……今家にあるのも全部好きだけど、色々入ってるフルーツティーが好きかな」
「じゃあ今度フルーツティーも飲んでみようかな」
どうやら紅愛は紅茶を気に入ってくれたようだ。それで話が逸れて白羽ちゃんの話ではなくなったけど、紅愛の機嫌が良くなったっぽいから良しとしよう。
「奏は今日は仕事休みだったんでしょ? 家でゆっくりしてたの?」
「そうだね……家事を一通りやったくらいかなぁ……」
「あっそう。じゃあ……晩ご飯何にするの?」
「紅愛ちゃんは何か食べたいものとかある?」
「私は特にはないけど。そういう奏こそ食べたいものないの?」
「うーーん……私も特にないなぁ……そろそろ買い物にも行きたかったらスーパーに行ってから決めようかな」
夕飯を考えながらスーパーに出かける準備をする。紅愛は寄ってきたオセロを抱っこしていた。
「スーパーに行くけど紅愛ちゃんは留守番しとく?」
「うん。オセロと一緒に家に居とくよ」
「分かった。じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
エコバックが入った買い物カバンを持って私は家を出た。車に乗って運転している間に夕飯の献立をどうしようかと考えていると、頭の隅っこに新作のケーキがずっと引っかかっていた。とりあえず今は夕飯を考えようアイデア集めはまた後ででもいいだろう。そう思っているとスーパーに到着したので車を降りて買い物に向かった。
――
「本当にどうしよっかな……」
小さく自分しかいない部屋でぽつりと呟いた。夕飯の炊き込みご飯と餃子を作った私は、食べ終わってからずっと部屋にこもってアイデアノートにひたすら書いていた。一応少しだけ進んで具体的にレシピと見た目も考えてみたけど、なんかピンと来なくてどうしようかと頭を抱えていた。そろそろ材料を揃えて試作を始めないと秋フェアに間に合わなくなっちゃうし……どうしたものか……。時々唸りながら悩んでいると部屋の扉がノックされてガチャリと開いた。音がした扉の方を見るとそこに紅愛が立っていた。
「お風呂沸いたけど、奏先に入る?」
「私は……ちょっと今忙しいから紅愛ちゃん先に入っていいよ」
「……っていうかさっきから何してるの?」
「えっ!? い、いや~……ちょっと仕事関係でやらないといけない事があって……」
私の手元を見てくる紅愛から見えないように両手で隠した。その様子を少し疑問に思ったのか紅愛は少し訝し気な表情をすると、少し考え事をするように顎に手を当ててから話し出した。
「そういえば奏は明日仕事じゃなかったっけ」
「えっ? そうだけど……」
「それなら奏が先に入りなよ。明日も朝早いんじゃないの?」
「それはそうだけど……ちょっと片付けないといけないことがあって……」
「まずお風呂に入って一旦頭をすっきりさせてからやったほうがいいって」
そう言って紅愛は私を椅子から立たせて私の背中を押しながら脱衣所に連れて行こうとした。このまま悩んでいてもしょうがないので、紅愛に言われたとおりにお風呂に入ることにした。
「じゃあ先にお風呂入るね」
「うん。ごゆっくりね~」
紅愛は棒読みで言うと部屋から出て行った。私も一旦ノートを閉じてクローゼットからパジャマと下着を取り出して脱衣所に向かった。
服を脱いで籠に入れ、お風呂場のドアを開けて給湯器の電源を点けシャワーを頭から浴びる。温かいお湯全身に浴びながらシャワーで頭をわしゃわしゃと洗ってシャワーで流す。そして体を洗うタオルにボディソープを付けて体を洗う。体の泡をシャワーで流し終えて湯船に浸かる。
ふぅ……と息をついてぼーっとしながらケーキの事を考えていた。そろそろ材料くらいは決めないとなぁ……それに出来上がったとしても店長に上手くケーキの説明もしないといけないし……。やらないといけないことはまだまだ沢山あるけど、明日は普通に仕事もあるし頑張らなきゃ……! 湯船のお湯を両手ですくって顔にかけて湯船を出て、コンディショナーをしてお風呂場を出た。
パジャマに着替えてドライヤーで髪を乾かし終わって脱衣所を出てリビングに向かう。
「紅愛ちゃーん。お風呂出たから入っていいよ~?」
と言いながらリビングの扉を開けるが、紅愛はリビングに居なかった。もしかして部屋に居るのかなと思い踵を返して紅愛の部屋をノックして扉を開ける。しかしそこにも紅愛は居なかった。……ここにも居ないとなると残っている部屋は一つしかない。そう思って今度は自分の部屋の扉を開けてみる。するとそこには私の机の前でノートを広げて見ている紅愛が居た。私に気づいた紅愛はノートから私に視線を向けた。
「あれ? もう出たの? もう少しゆっくり入ってても良かったのに」
「なんで紅愛ちゃんが私の部屋に居るの!?」
「あー……なんか最近奏の様子が変だったから、何かあるかな~と思って」
「……もしかしてそのノート全部見た……?」
「うん、見たよ。なんか私に隠してるものがあるとは薄々思ってたけど、それってこのノートの事?」
「うん……実は秋のフェアで出す新しいケーキを作るの任されちゃって、ずっと前から色々考えてたんだけど中々アイデアがまとまらなくて……」
できれば紅愛に知られたくなかったけど、ばれてしまったのはしょうがないので渋々紅愛に事情を説明する。
「なるほどね……でも新作のケーキ作りを任されるの凄いじゃん」
「最初は私も嬉しかったけど、実際にやってみると難しんだよね……」
「それで奏はずっとノートにアイデアを書いていたと」
「うん……」
今の現状を紅愛に話し終わると紅愛は口を開いた。
「じゃあ、私も一緒に考えてあげようか?」
「……えっ? 紅愛ちゃんも一緒に……?」
「まぁ、私は全然スイーツに詳しくないけど、助言的な事ならしてあげられるかなって」
「でも具体的には?」
「う~んとね……例えば奏が全部抱え込むんじゃなくて、一緒に働いている人に相談してみるとか?」
「相談かぁ……確かに他の人にはあんまり聞いたりしてないかも」
「なら明日聞いてみたらいいんじゃない?」
「そうだね、まずはそこからやってみる。ありがとう紅愛ちゃんわざわざ一緒に考えてくれて」
「いやいや私はただ奏の相談に乗っただけだから」
「今度から紅愛ちゃんに話を聞いてもらおうかな~」
「私でいいなら良いよ。いつも私の愚痴に付き合ってもらってたしね。じゃあ私お風呂入って来る」
そう言って紅愛は私の部屋から出て行った。明日奈美さんとかに相談してみようそうしたら何かいいアイデアが思いつくかもしれない。でも一応寝るまで考えておこうかな。私は机の椅子に腰かけてノートに再び向き合った。まだ寝る時間まで結構あるし、材料と見た目だけでも考えよう……! そして私はノートにシャーペンを走らせた。
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