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第二十三話 奏とオセロ

オセロの生活用品を揃えたり、新作のケーキのアイデアを考えたりやることは沢山……。

いつもより少し早めにセットしたスマホのアラームが静かな部屋に響く。

 布団の中から右手だけを出してスマホのアラームを止めた。 

 いつもは六時にアラームをセットするのだが、今日は五時五十分にセットしていた。

 早めに奈美さんに休みの連絡を入れる為だった。

 

 洗面台に行きうがいと顔を洗う。奈美さんもこの時間はまだ家だろうか……?  今日は休めるか分からないが少し緊張しながらスマホで奈美さんの番号にかける。二回目のコールが終わるところで奈美さんは電話に出た。


「もしもし?」

「もしもし、朝早くからすみません」

「大丈夫よ、今ちょうど朝食の準備をしてただけだから。それで要件は?」

「すみません……今日お休みしてもいいでしょうか?」

「今日……? 園原さん確か昨日は大丈夫って言ってなかった?」

「すみません……! いきなり急用が入ってしまって……」

「……そう。それでその急用って何?」

「え、えっと……」


 ぐいぐいと話を聞き出そうとする奈美さんに、私は頭をフル回転させて理由を考えて答えた。


「今日は、私も月に一度の病院に行く日で……」

「あら、もうそんな日だったかしら。でも園原さん? 貴女確か、身体はもう大丈夫だからもう病院には行かなくていいって言ってなかった……?」

「ぎくっ……!」


 鋭いところを突いてくる奈美さんにどうしようかと必死に頭の中で考える。

 素直に本当の事を言おうと思ったが、少し嘘を混ぜて奈美さんに話すことにした。


「実は……飼っていた猫を病院に連れて行きたくて……」

「そうなの? 園原さん猫飼ってたのね」

「そうなんです。実家で飼っていた猫を私が一時的に預かることになって、その猫がちょっと体調が悪そうなので動物病院に連れて行きたくて……」

「そうだったの。それじゃあ今日は休んでいいから、猫ちゃん病院に連れて行ってあげて」

「ありがとうございます! それじゃあ失礼します!」


 そう言ってスマホの通話終了ボタンを押した。何とか休むことが出来てほっと息をついた。

 もしもの為に早起きしたけど、無事に休むことが出来たしもう少しだけ寝ようかな……。

 スマホを持ったままもう一度ベットで横になると、段々と睡魔が戻ってきた。

 今日は休みになったし動物病院に行くには時間は全然あるので、私は二度寝することにした。

 瞼を閉じて五分くらいで私は眠りについた。




――




 どのくらい時間が経ったのか分からないが、気持ちよく温かい布団にくるまって寝ていると、誰かに身体がゆさゆさと横に揺らされている気がした。せっかく気持ちよく寝ていたのに、渋々目を覚ましてベットから起き上がると、ベットの横に制服姿の紅愛が立っていた。


「今日仕事休めた?」

「うん。今日は仕事お休みしたから、私が動物病院にオセロを連れて行くね。だから紅愛ちゃんはちゃんと学校に行ってね?」

「……分かった。じゃあオセロのこと任せた」

「あっ……今何時?」

「今? もうすぐ八時。だからそろそろ学校に行こうと思って」

「もうそんな時間か……。紅愛ちゃんは朝ご飯食べた?」

「食べたよ。あと病院行った後でいいんだけど、よかったら猫用のシャンプーとかベットとか買ってきてくれない?」

「いいけど……紅愛ちゃんはいいの? 猫用のグッズは紅愛ちゃんの方が詳しいんじゃない?」

「私も行けたら良かったけど、休みは明後日だしそれだと間に合わないから奏に任せる」

「そっか……じゃあ明後日一緒にオセロのおもちゃ買いに行こうよ!」

「……分かった。約束だからね」


 そう言って紅愛は足元に置いてあった学校カバンを持って、部屋のドアノブに手をかける。

 その後を追って一緒に玄関に向かう。


「じゃあ、私行ってくるからオセロの事任せた」

「うん。いってらっしゃい! 気を付けてね」

「行ってきます」


 そして紅愛はドアを開けて外に出て行った。

 玄関のドアが閉まると同時に、紅愛の部屋からオセロが出てきて私の足元に来ると、「ニャー」と小さく鳴いた。

 まず着替えて朝ご飯を作らないと、それにオセロにもご飯をあげないと。足元に寄ってきたオセロの頭を撫でて部屋に戻る。パジャマから私服に着替えて、パジャマを洗濯機に持っていく。洗濯機の中に洗濯物と洗剤と入れて洗濯機のスタートボタンを押した。

 

 そのまま洗面台で顔を洗ってキッチンに向かう。冷蔵庫の中を確認してみると、中は思ったよりがらんとしていた。そういえば最近はスーパーで買い物をしていなかったな……。あまり入っていない冷蔵庫を見てとりあえず食パンを取り出してトースターで焼く。

 その間に私の後を着いてくるオセロにご飯をあげようと思い、お皿にキャットフードとお水を注いだお皿をオセロの前に置く。オセロはすぐに水をちょびちょびと飲みだした。

 

 オセロが水を飲んでいるのを眺めているとトースターが「チンッ」と鳴ったのでトースターの中から食パンを取り出してお皿に移しダイニングテーブルに置いた。コップに牛乳を注いで席に着く。


「いただきます」


 一人でいただきますを言って冷蔵庫から取り出しておいたイチゴジャムを食パンに塗って、食パンを一口かじる。うん……いつも通りの味だ。そのまま食パンをもぐもぐと頬張って牛乳で流し込む。あっという間に食べ終わり牛乳も飲み干し、お皿とコップを流し台に置いてささっと洗い、水切りラックに置いてリビングのソファに座ってテレビを点ける。


 テレビは朝の情報番組をやっていた。特に気になるニュースもなく、スマホで近所の動物病院を調べる。 

 そういえば近所に新しく動物病院が出来ていたはずだ。スマホのマップで調べると徒歩で行けるところに動物病院があった。診察時間は十時からなのでまだ全然時間がある。それまでは家でゆっくりしておこう。


 ソファでスマホをいじっていると、食事を終えたオセロがソファに寄ってきた。ソファに上ろうとしていたので、抱っこしてソファの上に下ろした。オセロはソファの上をしばらくうろうろしてちょこんと座った。まだ八時半だし、メイクをするのもまだ早い気がするし診察時間まで何しよう……。テレビはニュースしかやっていないから面白くないし……そうだ……! 店長に任されていた新作のケーキを考えよう!

 

 早速私は部屋に戻ると、机の上にノートを広げてシャーペンを握った。そこまでは良かったものの……新作のアイデアは全然浮かばなかった。秋のキャンペーンにならやっぱり、栗とかかぼちゃとかを使いたいけど、うちにはもともと栗のモンブランがあるから栗とモンブランは選択肢の中から外す。かぼちゃとかお芋を使うという手もあるけど、あまり売れなさそうだしなぁ……どうしよう……。お客さんに売れるかどうかも考えながらアイデアを考える。




――





 あれからしばらく机の上でノートと睨みあっているが、一向にアイデアが浮かばない……。気が付いたら時間はもう九時になっていた。そろそろメイクの準備と洗濯物や掃除をやったらちょうどいい時間になるので、一旦ノートを閉じてシャーペンを机に置いた。だいぶ前に洗濯機が鳴っていたのを思い出し、脱衣所にある洗濯機に向かう。


 洗濯機の中から洗濯物を取り出して、洗濯かごに入れてベランダに向かう。上着類はハンガーで干して、ズボンやタオルは外のベランダに干す。洗濯物も二人分しかないのであっという間に干し終わった。次に掃除機を取り出して玄関廊下から全ての部屋に掃除機をかける。少し時間をかけて全ての部屋に掃除機をかけ終わってそろそろ出かける準備をする。


 メイクと歯磨きを終えてカバンを選ぼうと思ったところふと思った。あれ……猫って専用のカバンとかじゃないと連れていけないっけ……? 普通のカバンしか持ってないけど大丈夫かな? 何とか手持ちのカバンの中からオセロが入れそうなカバンを見つけ、それを持ってオセロに近づく。


 部屋からリビングに向かうとオセロはまだソファの上でくつろいでいた。そもそもオセロが私のカバンの中に入ってくれるか分からないけど……。オセロの近くに開いた状態のカバンを置いて様子を見る。

 カバンに興味を持ったオセロがゆっくりと近づいてきて匂いを嗅いでいる。あともう少しで入りそうな雰囲気はあるけど、警戒しているのか中々入ろうとしない。オセロを抱っこしてカバンの中に入れてもいいけど暴れたりしそうだしなぁ……。オセロから少し離れたところで様子を見ながら、どうしようかと考えていると匂いを嗅いでいたオセロがカバンの中に入った。

 今だっ! とカバンに一気に近づいてカバンのチャックを閉めた。そのままゆっくりとカバンを持ち上げて玄関に向かい家を出た。




――



 そして無事に動物病院でオセロを見てもらった。特に病気を持っているわけでもなく、少し瘦せ気味だが大丈夫とのこと。先生も皆さん全員良い人で、「どこか悪いと思ったらまた来てくださいね」と優しく言ってくれた。せっかくだったのでこれから必要なものを先生に色々聞いて、ショッピングモールの中に入っているペットショップで、紅愛に頼まれていた猫用のシャンプーとベット。そして猫用のブラシをいくつか買って、猫を飼うのに必要な道具を大体買った。そうして無事にオセロの初診断も終えて私は家に帰ってきた。


 少し多い荷物を持った状態で玄関の扉を開ける。靴を脱いですぐに荷物を下ろしてカバンの中からオセロを出してあげた。オセロはそのままリビングに向かってゆっくりと歩いて行った。カバンを部屋に置いて、買ってきた荷物をリビングに持っていく。適当にソファの下に荷物を置いて、ため息をつきながらソファに座った。この後トイレとベットを開封して設置しないといけないけど、袋の中に入っている荷物にちらりと視線をやるとそこそこある荷物を見てもう一度ため息をついた。


 トイレだけでも置いた方が良いよね……。そうしないとオセロがトイレ出来ないし。そう思った私は重い腰を上げて袋の中から猫用トイレの段ボールを取り出した。テープをカッターで切って段ボールを開けて中身を取り出す。ペット用の道具を買うのは初めてだからペットショップの店員さんのおすすめを買った。トイレ本体をリビングの端に置いて、一緒に買っておいたトイレ砂を中に入れる。これでオセロもトイレが出来る。


 ふと思ったが、オセロはトイレ出来るんだろうか? 捨て猫だし生まれてすぐに捨てられたのなら、トイレもまだ覚えていないかもしれない。すぐにスマホで調べてみると、猫はトイレをしたい時に床の匂いを嗅いで引っかいたり、もぞもぞしているとトイレのサインらしい。その時に猫をトイレに連れて行ってトイレをする場所を覚えさせるらしい。少し大変そうだけど紅愛は学校で居ないし、紅愛が居ない間は私がオセロの面倒をしっかり見ないと! するとトイレが気になったのか、オセロがトイレ横まで近づいて来た。匂いをクンクンと嗅ぎながらトイレを見ている。


「ここがトイレする所だよー」


 と呟きながら一回オセロを抱っこしてトイレの上に乗せてみる。オセロはキョロキョロしながら砂の匂いを嗅いでいた。これからはオセロの事をしっかり見とかないと……。そう思いながら私はオセロを眺めた。




――




「ただいま」


 学校から帰ってきた紅愛がリビングの扉を開けて入ってきた。リビングで新作のケーキのアイデアを考えていた私は、慌てて机の上に広げていたノートを片付けた。


「お、おかえり」

「病院どうだった?」

「特に問題ないって。少し痩せ気味らしいからご飯をちゃんと食べさせてくださいって」

「そう……ならよかった」


 安心した様子で紅愛はオセロを抱っこした。オセロも紅愛に抱っこされて嬉しいのか、撫でられるたびに喉をゴロゴロと鳴らしていた。


「あと紅愛ちゃんに頼まれた物も買ってきたよ」

「ありがとう。トイレも設置してくれたんだね」

「うん。トイレが無いとオセロも大変だと思ってね」


 紅愛は私が買ってきた袋の中身を確認していた。袋の音に反応したオセロは袋でじゃれていた。


「私あんまりペット用品詳しくないから、店員さんのおすすめを買ってきたんだけどどうかな?」

「結構いいやつなのはそういうことか。これで必要なものは揃ったかな、ありがとね買ってきてくれて」


 オセロを撫でながら紅愛は私の方を向いて、少し口角を上げて微笑んだ。それを見た私は心の中で『あっ……笑ったの可愛い……』と思いながら少しの間固まっていた。紅愛はそんな私を放置して、オセロを撫でていた。紅愛はまだ制服のままだし、カバンもソファに置きっぱなしだった。余程オセロの事が気になっていたのだろう。でもそろそろ着替えた方がいいと思う……。


「紅愛ちゃん。オセロが可愛いのは分かるけど、そろそろ着替えたら?」

「あっ……そうだった、着替えるのまだだった。じゃあ私着替えてくる」


 紅愛は置きっぱなしのカバンを持つと、付いて行こうとするオセロの頭を撫でて部屋に戻っていった。オセロは紅愛に付いて行こうと思ったが、リビングの扉を閉められてニャーニャーと鳴いていた。紅愛が居ない間に買ってきたおもちゃを取り出して、オセロの前にちらつかせる。棒の先に羽と鈴が付いているおもちゃで、動かすたびに鈴が鳴るおもちゃだ。反応したオセロはおもちゃを目で追いかけ始めた。素早く左右におもちゃを移動させてると、オセロが勢いよくおもちゃに飛びついて来た。更に激しくオセロがじゃれてくるので、私もおもちゃをさっきより早く動かす。しばらくオセロとじゃれていると、私服に着替えた紅愛がリビングに戻ってきた。紅愛は私の隣に座ると、おもちゃでじゃれているオセロを見ていた。


「そういえば紅愛ちゃんに聞きたい事があるんだけど」

「何?」

「オセロを病院に連れて行った時に思ったんだけど、猫を外に連れて行く時ってそれ専用のカバンとかあるよね? そういうのって買っといたほうがいいかな?」

「あー……そうだね。普通のカバンでもいいけど、今後の事を考えるとちゃんとしたのを買ったほうがいいかも」

「そうだね。明日一緒に買いに行こっか」

「うん。最近猫用のグッズで可愛いの見つけたからそこに見に行こう」

「分かった。あっ……そろそろ晩ご飯の準備しなくちゃ。オセロがキッチンに入ってこないように紅愛ちゃん見てて」

「はーい」


 私が立ち上がってキッチンに行こうとすると、オセロが後から着いて来たが紅愛が抱っこした。


「私が抱っこしてテレビ見とくから晩ご飯よろしく」


 そう言ってオセロを抱えたまま紅愛はソファに座ってテレビを見始めた。その間に私は晩ご飯を作ることにした。私と紅愛のご飯が出来たらオセロにもご飯をあげないとなぁ……と思いながら私は晩ご飯の調理を始めた。



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