第二十二話 従姉妹と捨て猫
ずっと前からやりたかった仕事を任されて上機嫌で帰ると、紅愛はいきなり真剣な顔つきで……?
長いと思っていた夏もあっという間に過ぎて、気が付いたら八月が終わり九月になった。
紅愛が夏休みの間も私は相変わらず仕事をしていた。その間紅愛は仕事で疲れていた私を気遣ってか、晩ご飯を作ってくれたり部屋の掃除などをやってくれた。
八月も忙しかったけど紅愛が家の事をやってくれたのでとても助かった。
そんな夏休みも明けて、だらけていた紅愛がやっと生活リズムを取り戻したそんな暑さもまだ残っている九月の中旬の話。
今日もいつも通りに私は仕事紅愛は学校があるため、冷蔵庫に残っていた食パンと目玉焼きをテレビをぼんやり見ながら頬張っていた。紅愛も私も寝起きはあんまり喋らないでぼっーとするタイプなので会話をすることもなくただ食パンをかじった。
私の方が先に家を出ないといけないので、お皿に残っていた一口サイズの食パンと目玉焼きを口の中に入れて、もぐもぐと食べながらお皿を下げた。
まだちびちびと食べている紅愛をリビングに放置して、そのまま洗面台に向かって歯磨きを済ませる。そのまま自分の部屋に戻って化粧道具を取り出し折り畳みテーブルに広げて軽く化粧をする。化粧を終わらせて仕事用のカバンを掴み立ち上がってそのまま玄関に向かう。靴を履きながらリビングに居る紅愛にむけて大きな声で話す。
「紅愛ちゃーん。私もう行くから学校に行くならちゃんと鍵かけといてねー」
返事は返ってこなかったがそれを気にしないで私は家を出た。
――
閉店時間まであと三十分になり私は閉店の準備を始めた。掃除道具を手に取って店内の掃除を始めた時に奥から店長が来た。
「園原さんお疲れさま。もう掃除をしてくれてるの?」
「お疲れ様です! もうすぐで閉店時間ですし、今はお客さんもいないので先に掃除をやっておこうと思いまして」
「流石園原さんね。いつもありがとう」
「いえいえ! こちらこそですよ!」
「ところで園原さん。園原さんが良ければでいいんだけど、新しいケーキを考えるのを任せてもいいかしら?」
「えっ!? ……私ですか?」
店長が言った言葉に思わず大きな声で驚いてしまった。新しいケーキを考えるのはずっと店長と奈美さんの仕事だったのだが、まさか私に任されるとは思っていなかった。
「……でも、新作のケーキを考えるのは店長と奈美さんの仕事でしたよね?」
「そうなんだけど。やっぱり私と奈美さんだけだと似たようなケーキになっちゃうのよね……。その話を奈美さんと話したら、『それなら園原さんに任せたら?』って言ったのよ。だから、園原さんにお願いしようと思って」
「本当に私がやってもいいんですか?」
「園原さんが良ければだけど……頼んでもいいかしら?」
「私で良ければやらせていただきます!」
「よかった。それじゃあ新作のケーキ任せたわ」
「はいっ! でも新作のケーキといってもテーマとかあったりしますか?」
「そうねぇ……園原さんには秋キャンペーンで出すケーキを考えてほしいの」
「秋ですか……」
「材料は園原さんが決めていいわよ。用意できそうなものはこちらで用意するからそこは気にしなくていいわ」
「分かりました。店長に採用されるケーキを頑張って考えます!」
「ありがとう園原さん。それじゃあ任せたわよ」
「はいっ!」
そう言って店長はまたお店の奥に戻っていった。奈美さんが作っているのを隣でずっと見ていて、そのたびに私もやってみたいなぁ……と思っていたことを遂に私が出来るなんて……!! そのことが嬉しくて私は上機嫌で鼻歌を歌いながらがらんとした店内を掃除した。
気が付いたら閉店時間になり、掃除を終えて入り口のドアにかけている札を『close』にひっくり返した。
少しだけ売れ残ったケーキをトレイに移して店内の奥に持っていく。奥の厨房に行くと何かを話している店長と奈美さん。そしてそろそろ帰る準備をしようとしている美由と紅茶を飲んで一息いれている橋元さんがいた。私に気づいた奈美さんが声をかけてきた。
「園原さんお疲れ様。掃除ありがとね先にやってくれて」
「いえいえ。私が勝手にやっただけですよ」
「今日残ったケーキは園原さんが持っているケーキだけ?」
「はい。今日はどうしましょうか? 誰か欲しい人います?」
「いつも持って帰るのが多いのは前島さんでしょ? 今日はいらないの?」
「流石に今日は遠慮しときます~……流石にちょっと食べすぎちゃって……」
「そう? じゃあ園原さんは? よかったら従姉妹ちゃんと食べたら?」
確か紅愛はまだcielのケーキを食べていないし、せっかくだから持って帰ってあげよう。
「そうですね。それじゃあいただきますね」
「じゃあ明日の事を話すから皆聞いてくれる?」
「「「「はい」」」」
店長の言葉に全員が立って店長の言葉を待った。
「明日は私が午前中居ないから何かあったら奈美さんに言ってね」
「「「はい」」」
「それと材料も補充しておいたから明日の仕込みも皆に任せることになっちゃうけどお願いね」
「「「「はい」」」」
「橋元さんは明日お休みだったわね?」
「はい。もし人手が足りなかったら午後から行けます」
「無理しなくていいわ。明日はゆっくり休んでね?」
「はい」
「それじゃあ明日も頑張りましょう。お疲れ様」
「「「「お疲れさまでした!」」」」
明日のミーティングが終わって全員が帰りの準備を始めた。私は売れ残ったケーキを箱に詰めてロッカーから自分の荷物を取り出して帰りの支度をする。準備が出来た私はスタッフ用の出入り口に向かう。
「それじゃあお先に失礼します、お疲れさまでした」
「「お疲れ様でした」」
「お疲れ~」
「お疲れ様」
皆の声を聞きながら扉を閉める。気づいたら外は真っ暗になっていた。スマホで時計を確認すると時間は九時半だ。
LIMEにも一件のメッセージが届いていたので開いてみると、紅愛からのメッセージだった。
『仕事お疲れ。疲れてるだろうから晩ご飯は作っといたからよかったらそれ食べて』
とメッセージが来ていた。
私の代わりに晩ご飯を作ってくれたようだ。これで晩ご飯の心配をしなくて済んだ。
『ありがとう。帰ったら食べるね。紅愛ちゃんもお腹が空いたら先に食べていいからね』
とメッセージを送ってスマホを仕舞って車に乗り込んだ。
――
家に到着しポストの中を確認して何も入っていないのを確認してエレベーターに乗った。
五階に着いてエレベーターを出て玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
と呟いて靴を脱ぐ。
紅愛がリビングか部屋に居るかは分からないけど、多分リビングでくつろいでいるだろうと思いリビングの扉を開けた。
開けるとやっぱり紅愛はいつも通りテレビを見ながらソファに座っていた。ドアが開いたと同時に紅愛がこちらをふり返った。
「おかえり」
「ただいま紅愛ちゃん。晩ご飯はもう食べた?」
「食べたよ。奏も食べたら?」
「じゃあいただこうかな」
持って帰ってきたケーキを冷蔵庫に入れて、一旦リビングから自分の部屋に戻って荷物を置く。洗面台に行き手を洗ってキッチンに行くと、コンロの上にハヤシライスが入った鍋があった。紅愛は本当にハヤシライスが好きみたいだ。というかハヤシライス作れたんだ……。
ハヤシライスを温めている間にお皿の準備をする。炊飯器を見てみるとご飯も炊かれていた。お皿にご飯をよそってハヤシライスを混ぜる。温まったらお皿に注いでスプーンを用意して椅子に座る。
「いただきます」
いただきますをしてスプーンですくって食べる。黙々とハヤシライスを食べていると紅愛がこちらを見ているのに気付いた。
「……紅愛ちゃんどうかした?」
「奏の口に合うかなと思って……」
「美味しいよ。作ってくれてありがとう」
「ならよかった」
そういうと紅愛はまたテレビの方に視線を戻した。私もそれ以上紅愛と会話をするわけでもなくハヤシライスを食べた。
――
紅愛が作ったハヤシライスを完食し水を飲んでテレビを呆然としながら見ていると、紅愛が私の向かい側の席に座った。
「奏、話があるんだけど今いい?」
「いいけど……どうかした?」
私もテレビから視線を戻して紅愛に向き合う。その表情は珍しく真剣な表情だった。
何か大事な話かと思ってドキドキしながら紅愛の言葉を待つ。
「えっと……ここのマンションってペット大丈夫だったよね?」
「……えっ? 大丈夫だけど……それがどうしたの?」
いきなり変なことを聞いてくる紅愛に聞き返す。紅愛は少しづつ答えた。
「えっとね……怒らないで聞いてほしいんだけど、ここで猫を飼ってもいい?」
「…………猫?」
「うん」
「どうして?」
「ちょっと部屋に来てくれる?」
そう言われて紅愛の後を追って紅愛の部屋に行くと、段ボール箱が部屋の中央に置かれていた。紅愛は段ボールに近づいて中に両手を入れると、その両手には一匹の子猫が抱かれていた。黒と白の毛並みが半分くらいの子猫だった。
「その猫どうしたの?」
「学校の帰り道で拾ったの。公園の端っこに捨てられてて、可哀想だったから拾ってきた」
「この猫をうちで飼うってこと?」
「うん……ちゃんと面倒みるから飼ってもいい?」
「それはいいんだけど……私も仕事があるし、紅愛ちゃんも学校があるでしょ? 私達が居ない間はどうするの?」
「それは……」
「でも捨て猫なら可哀想だし私も猫好きだから、ちゃんと紅愛ちゃんが責任もって面倒みるなら飼ってもいいよ」
「ありがとう……! ちゃんと面倒みるから!」
この家に来てから一番嬉しそうな顔をした。それを見て本当に猫が好きなんだなと改めて思った。
「それなら名前を決めないとね。もう考えてたりするの?」
「実は奏が帰って来る間に考えたんだ」
「どんなの?」
「性別はさっき確認したらオスだった。毛並みが白と黒両方入ってるから『オセロ』って名前」
「いいんじゃないかな。じゃあこの子は今日からオセロ君ね。よろしくねーオセロー」
そう言いながら紅愛に大人しく抱かれているオセロの頭を撫でる。可愛いなぁとしばらく撫でていると紅愛が「あっ」と呟いた。
「どうしたの?」
「オセロのご飯どうしよう? まずキャットフード買ってこないと」
「あっ! そうかぁ……確かコンビニに売ってあったよね? よかったら買ってこようか?」
「いいの?」
「うん。紅愛ちゃんはオセロの傍に居てあげて」
「分かった。じゃあ任せた」
そうして私は財布が入ったカバンを持ってコンビニへ出かけた。コンビニは徒歩五分のところにあるので夜の道を歩いて行く。
街灯で照らされている道を歩いて近場のコンビニに到着した。入り口に近い生活用品が売ってある棚でキャットフードを持ってレジに行き会計を済ませた。
レジ袋を片手に持ってまた行きと同じ道を歩く。
……そういえばケーキ持って帰ってきたの忘れてた。帰ったら紅愛と一緒に食べよう。
段々とマンションが見えてきて少し速足で家まで走った。
――
「ただいまー」
ただいまを言ってすぐにリビングに向かうと、紅愛はオセロを抱っこしてソファに座っていた。帰ってきた私に気づいた紅愛が、ソファから立ち上がって私に近づいて来た。
「おかえり。キャットフード売ってた?」
「ちゃんと買ってきたよ。もう食べさせる?」
「うん。でもその前に、水を飲ませるのが先かな」
「じゃあお皿に水注いどくね」
「ありがとう」
底が浅いお皿を食器棚から取り出して水を注いだ。
紅愛はオセロを抱えながらキャットフードを開けていた。
「お水注いできたよ」
「ありがとう。……飲めるかな?」
オセロの目の前にお皿を置いた。
紅愛は抱いていたオセロを下ろした。
下ろされたオセロはてくてくと歩いてちびちびとお水を飲みだした。
「よかった……これなら食欲もありそう」
「よかったね紅愛ちゃん」
「うん」
水の隣に置いたキャットフードも食べ始めたオセロを見て、紅愛は一安心したようだ。
「なんでこんなに可愛いのに捨てられちゃったんだろう……」
「……さあね。飼おうと思ってたけど何か理由があって飼えなくなったか、産まれすぎて里親が見つからなかったとか」
「そっか……」
「でも、捨てられてからそんなに経ってないみたいだから、それだけが幸いだったかな」
「だいぶ小さいし、生まれてからそんなに経ってないんじゃない?」
「そうだね。生後一か月も経ってないと思う」
キャットフードをちびちび食べているオセロの頭を撫でながら紅愛は答えた。
「弱ってもいないみたいだし、ひとまず安心かな……。一応ダニとか心配だからこの後はお風呂かな」
「猫って結構お風呂嫌いなイメージがあるけど大丈夫かな?」
「それはやってみないと何とも言えない……。嫌いな猫は滅茶苦茶暴れるけど」
「そうだよねぇ……」
適当に雑談をしていると、紅愛がオセロから私に視線を移した。
「奏は明日仕事休み?」
「明日? 明日は普通に仕事なんだ……どうかした?」
「そっか……病気とか心配だから動物病院にオセロを連れて行こうと思ってたんだけど……」
「紅愛ちゃんは明日も学校あるよね……どうしよっか……」
「それか午前中か午後のどっちかに、私が動物病院に行ってくるとか?」
「でも、それだと学校は?」
「午前か午後サボる」
「サボるのは駄目だよ!」
「大丈夫でしょ。最近はちゃんと学校に行ってるし、授業のノートは有紗にLIMEで送ってもらえばいいし」
「でも学校サボるのは……」
「……奏は明日仕事休めないんでしょ?」
「うーん……じゃあ明日休めるか聞いてみるね。それで、休めたら私が明日オセロを動物病院に連れて行くから、そうなったら紅愛ちゃんは学校に行ってね?」
「……分かった」
何とかオセロを動物病院に連れて行く話を終えると、ご飯を食べ終わったオセロが紅愛に近づいて「ニャーッ」と小さく鳴いた。お皿を覗いてみるとキャットフードが入ったお皿は綺麗に空っぽになっていた。
「完食して偉いね」
そう言いながら紅愛はオセロを抱っこして頭を撫でた。オセロは気持ちよさそうに目を瞑っていた。
「食べ終わったならお風呂かな」
オセロを抱えたまま紅愛はお風呂場に向かった。その後をそのまま着いて行く。
お風呂場にオセロを下ろして風呂桶にお湯を溜めて、風呂桶にオセロを入れた。
風呂桶のお湯をオセロに少しずつかける。そこで私はあることを思い出した。
「そういえば猫って、猫用のシャンプーで洗わないと駄目なんじゃ……」
「あっ……。そうだった……でもないならしょうがない。ねぇ、ここに石鹸ある?」
「石鹸? あるにはあるけど……」
「それで無香料で天然素材の石鹸とかあったりする?」
「確かあった気がするけど……」
「じゃあそれ持って来て」
「うん。分かった」
洗面台の下の棚から紅愛に言われた石鹸を探して取り出す。箱に仕舞っていたまま新品の石鹸を開けて紅愛に渡した。
「はいこれ。……でも、これでいいの?」
「うん。無香料で天然素材の石鹸なら代用は出来る。でもあくまで代用ってだけで使い続けるのは良くないけどね」
「そうなんだ」
「とりあえず今日はこれで代用するとして、明日になったらちゃんと猫用のシャンプー買ってこないと」
そうして紅愛は私が渡した石鹸を使ってオセロを洗いだした。お湯をかけられて泡まみれになっても特に暴れる様子もなく、大人しくじっとしていた。
「オセロはシャンプー嫌いじゃないみたい。大人しいから助かる」
そう呟きながら紅愛はオセロを洗い続ける。すっかり泡まみれになったオセロは「ニャーニャー」と鳴いていた。オセロを風呂桶から出してシャワーでオセロの泡を流す。泡を流し終わった紅愛は全身びしょ濡れになったオセロを抱きかかえた。
「奏、タオルを取ってくれる?」
「分かった」
近くに置いてあったタオルを紅愛に渡すと、紅愛はタオルでオセロを拭いて包んだ。
「大体拭いたらドライヤーで乾かして終わりかな。ちょっとドライヤーの準備するから、奏オセロを持ってて」
「えっ、ちょっと……」
そう言って紅愛は私の両手にタオルで包まれたオセロを乗せてきた。両手にオセロを抱えるとオセロがこちらを見てきた。
どうしよう……猫を抱っこするの苦手なんだよね……そもそも抱っこのやり方はこれであってるかな?
オセロを抱えたままおろおろしているとドライヤーの準備が出来た紅愛が、ドライヤー片手に私に向き合った。
「じゃあ今からドライヤーで乾かすから、奏そのままオセロ抱っこしてて」
「う、うん……分かった」
紅愛はドライヤーのスイッチをオンにすると温かい風が吹き出した。ドライヤーをオセロに当てて乾かす。オセロは乾かしている間も大人しく抱っこされていた。
「本当に大人しいね」
「そうだね」
そしてそのまま十分くらい乾かして、ブラシで毛並みを整えてオセロの毛並みはとても綺麗になった。
「これでよし。これでオセロにすることは終わりかな。奏もありがとね、それともうオセロ下ろしていいよ」
私はずっと抱えていたオセロを下ろすと、オセロは自由に歩き始めた。やっと自由になったところで紅愛に言い忘れていたケーキの事を教える。
「そういえば、今日ケーキを持って帰って来たんだ。よかったら食べない?」
「うん。食べる」
「紅茶かなにか要らない?」
「じゃあ貰う」
「分かった。冷蔵庫の中にあるから好きなの選んでいいよ。私は紅茶の準備しとくね」
「うん」
私達はオセロと一緒にお風呂からリビングに移動した。
紅愛はキッチン行って冷蔵庫からケーキの箱を取り出していた。
私は食器棚からティーカップを二つ取り出して、棚の引き出しからベリーの紅茶のティーバッグを取り出してカップの中に入れる。電気ケトルでカップの中にお湯を入れて、スプーンで軽く混ぜてティーバッグを取り出した。
冷蔵庫からケーキを持ってきた紅愛はダイニングテーブルに広げてケーキを選んでいた。
「奏はどれにする?」
「私はどれでもいいよ。紅愛ちゃんが好きなの選んでいいよ」
「じゃあ私チョコケーキにする」
「分かった。あと紅茶淹れたからよかったら飲んで」
そう言って私は残ったショートケーキをお皿に取って、ダイニングテーブルの席に着いた。
紅愛もそれを待っていたのか、私が席に着くまでケーキと紅茶に手を付けていなかった。
「「いただきます」」
二人でいただきますをしてからケーキを食べる。
甘い生クリームとイチゴに黄色いスポンジが美味しい。
向かいに座っている紅愛も美味しそうにチョコケーキを食べていた。
「美味しい?」
「うん。美味しいよ」
「ならよかった」
私達がケーキを食べていると、リビングの中を歩き回っていたオセロがダイニングテーブルに上ってきた。
「オセロは食べられないから駄目だよ」
そう言って紅愛はケーキを食べていた手を止めて、オセロを抱えてダイニングテーブルから下ろした。
下ろされたオセロはまた自由に歩き出した。
「本当に紅愛ちゃんは猫を抱っこするの上手だよね」
「そう? まぁいつも野良猫を撫でたりしてるし」
確かに公園の近くとかで野良猫が公園でくつろいでいるのを見かけたことがある。
紅愛はそのたびに野良猫に近づいて可愛がっているんだろう。
「あとさっき、オセロを洗ったときお風呂洗ってお湯沸かしといたからいつでもお風呂入れるよ」
「ありがとう紅愛ちゃん。明日も紅愛ちゃんは学校があるんだから、紅愛ちゃん先に入っていいよ」
「分かった。奏もちゃんと明日仕事休めたらオセロを病院に連れて行ってよ?」
「ま、まぁ……明日休めたらね……」
明日休めるか分からないけど……。
気づいたら紅愛はケーキを完食して、少しだけ残っていた紅茶をぐいっと飲み干した。
「ごちそうさま。じゃあ先にお風呂入るね」
紅愛は立ち上がってお皿とカップを流し台に持っていき、オセロの頭を撫でてからリビングを出て行った。私も最後の一口を食べて紅茶で流し込んだ。
明日朝一で奈美さんに電話してみるか……私とオセロしかいないリビングで、奈美さんにどういう理由で休もうか考えながらお皿を下げた。
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