第二十一話 従姉妹と夏のお泊り会 後編
綺麗な海で夏を満喫!
しばらく雑談で車内は盛り上がっていた。
ふと窓の外の景色を見てみると綺麗な海が広がっていた。
「海綺麗だね!」
私の呟いた言葉に反応した三人は、続いて窓の外の景色を見た。
「うわ~……。滅茶苦茶晴れてるな……」
「……日差しやばそう」
有紗ちゃんと紅愛の二人は強すぎる紫外線に顔を渋ませていた。
日焼けを心配する二人をお構いなしに、白羽ちゃんは更にテンションを上げていた。
「まず海に着いたら何しよっかなぁ~」
「はぁ……。あんたテンション高すぎ……」
「え~? だって、せっかく皆と海に遊びに来たんだもん! テンションも上がるよ!」
「まぁまぁ。白雪さんのテンションが高いのは今始まったことじゃないし……」
テンションが高い白羽ちゃんをめんどくさそうな目で見ている紅愛を有紗ちゃんがなだめた。
「せつかく海に来たんだし、今回は楽しも?」
「………まぁ。いいけどさ」
私も有紗ちゃんと同じように紅愛をなだめる。紅愛は渋々と返事をした。
綺麗な海にテンションが上がりはしゃいでいると、気づいたらある建物の前で車が停車した。
「あっ、別荘に着いたみたい! 早く降りよ!」
白羽ちゃんは真っ先に車を降りた。それに続いて私達も車を降りる。
そこには白で統一されて綺麗な建物が建っていた。運転手さんも車から降りて、後ろのトランクから私達の荷物を下ろしていた。
白羽ちゃんは荷物を受け取ると、建物の扉に手をかけていた。
「ほら! 早く早く!」
「白雪さんは元気だなぁ……」
有紗ちゃんが一言呟いて、荷物を受け取って白羽ちゃんの後を歩く。
「お嬢様は、いつも元気なんですよ」
すると横から運転していた使用人さんが話しかけてきた。
いきなり話しかけられて少しびっくりしたが、使用人さんの方に向くと、その使用人さんは白羽ちゃんが私の家に来た時に紹介されたじいやさんだった。あまり運転席は見えなかったのでじいやさんだと気づかなかった。
「あっ、じいやさん! 運転していたのじいやさんだったんですね」
「はい。今回の二日間は皆さまの面倒も、私じいやが担当します。どうぞよろしくおねがいします」
そう言ってじいやさんは私達の前で一礼した。
「こちらこそよろしくお願いします!」
私も軽くじいやさんに一礼する。
「みんなー! 早くー!」
いつまでも来ない私達に白羽ちゃんが大きな声で呼んでいた。
「それでは行きましょうか」
「そうですね」
白羽ちゃんの声を聞いて私達も建物の入り口に足を踏み入れた。
――
中に入ると広いリビングがあった。その少し奥にキッチンもあり、入って右手に階段もあって二階に続いていた。
真っ先に入った白羽ちゃんは荷物を持って二階の階段に上る。
「二階に空いてる部屋があるから好きな部屋使って!」
そう言って白羽ちゃんは奥の部屋に入っていった。どうしようかと三人で固まっていると、じいやさんが案内してくれた。
「皆さんが泊まるお部屋は二階になります。一番奥の部屋がお嬢様のお部屋となっています。その隣に空いているお部屋が三つありますので、お好きなお部屋をお使いください」
「ありがとうございます。それじゃあ二人はどの部屋にする?」
「私は別にどこでもいいけど……。有紗はどうする?」
「そうだなぁ……」
三人でどの部屋にしようか悩んでいると、奥の部屋から勢いよく『バンッ』と白羽ちゃんが出てきた。
「やっぱりお泊り会だからみんな一緒に寝ようよ!!」
ということで私達四人は、二階の部屋ではなく一階に布団を敷いて寝る事になった。
白羽ちゃんは荷物を持って一階に降りると、適当に荷物を置いて荷物を漁るとその中から一つのカバンを取り出した。
「それじゃあ、早速水着に着替えて海に行こう!」
「さ、早速泳ぐの!?」
「あんた元気良過ぎでしょ……」
「それじゃあ私、水着に着替えてくるね~」
ひらひらと手を振って近くの扉を開けて部屋の中に入っていった。
「………それじゃあ、私達も着替えよっか……」
「そうですね」
「……はぁ」
私達も荷物の中から水着を取り出して、着替える事にした。
――
「海だぁーーーー!!」
目の前に広がる海を前にして大きな声で白羽ちゃんが叫ぶ。
私達は水着に着替えて徒歩五分の海に着いた。更にテンションが上がっている白羽ちゃんを、有紗ちゃんは苦笑いで見ているし、紅愛は隣で『はぁ……』とため息をついていた。
「それじゃあまず、何して遊ぶ?」
「そういえば白雪さん。家から色々持って来たって言ってなかった?」
「そうだった! 今日の為に色々持って来たんだ~。じいや! 持って来て!」
するとじいやさんが何かが入っている袋を持ってきた。
「何持ってきたの?」
「それはねぇ~。じゃじゃーん! 浮き輪!」
じいやさんが持ってきた袋の中には、大きな浮き輪やアヒルの浮き輪等色々な種類の浮き輪が入っていた。
「めちゃくちゃ持ってきたな……。何個あるんだこれ……」
「この間浮き輪買いに行ったけど、今色んな浮き輪があるんだね! 気になったやつ全部買っちゃった!」
「流石白羽ちゃんだね……」
「それにしても買いすぎでしょ……」
袋いっぱいの浮き輪をわくわくしたがら選んでいる白羽ちゃんとは反対に、紅愛と有紗ちゃんは大量の浮き輪を苦笑いで見ていた。
「どの浮き輪で遊ぼうかな~」
「あっ、ボートみたいな浮き輪もあるんだね」
「そうだよ! 好きなやつ使っていいよ!」
私と白羽ちゃんで袋の中の浮き輪を漁る。その中から私は普通の浮き輪を選び、白羽ちゃんはアヒル型の浮き輪を選んだ。
紅愛と有紗ちゃんは浮き輪を選ばずに日焼け止めを塗っていた。
「あれ? 二人は浮き輪選ばないの?」
「私は少し休みたいから後でいいや。有紗は?」
「私も少し休みたいから。白雪さんと奏さんで先に遊んでてください」
「え~? そうなの? じゃあまた後でね! それじゃあ奏お姉さん行こ!」
「えっ? ち、ちょっと待って白羽ちゃん!」
白羽ちゃんは私の左手を掴むと、私を引っ張るように海へ走り出した。
私はいきなり手を掴んできた白羽ちゃんにびっくりしながら、もう片方の手で浮き輪を持って引っ張られながら海へ近づく。
砂浜を歩いて浜辺に着くと、白羽ちゃんが手を繋いだまま一緒に海に入る。
少し沖まで来たところで二人で浮き輪でぷかぷか海の上を漂う。
「浮き輪でぷかぷかするの楽しいね!」
「そうだね。こんな風にするのも子供の時以来かも」
「そうなの? そらならよかった!」
白羽ちゃんが人なっこい笑顔を浮かべながらにこりと笑った。
「あっ、あそこに二人がいる! お~~い!」
遠くに見える砂浜で紅愛と有紗ちゃんがパラソルの下で座っていた。その二人を見つけた白羽ちゃんが大きな声で呼びながら右手をぶんぶんと勢いよく振った。それに気づいた二人は片手を小さく振り返した。その様子を見て私はある疑問が浮かんだ。
「さっきまであそこにパラソルあったっけ?」
「ああ、あれはね、じいやが準備したんだと思うよ」
「そうなんだ……」
白羽ちゃんの使用人さんは皆準備が良いというか、白羽ちゃんがやってほしいことを分かっているというか……用意周到だなぁ。
「そういえば、奏お姉さんは兄弟とかいるの?」
「私? 私は姉と妹がいるよ」
「へぇ~。ということは真ん中だね。仲は良いの?」
「仲は良い方だと思うよ。喧嘩もするけどそんなに悪い訳でもないし」
「良いなぁ……。私も妹欲しかったなぁ……」
「白羽ちゃんは兄弟はいるの?」
「いるよ~。お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるよ~」
「そうなんだ。仲は良くないの?」
「う~~ん。普通かな。二人は私の事大好きだけど、私はちょっと苦手なんだよねぇ」
「どうして苦手なの? お兄さんとお姉さんは白羽ちゃんの事大好きなんでしょ?」
白羽ちゃんのお兄さんとお姉さんの話を出した途端、さっきまで笑顔だった白羽ちゃんの表情が曇る。
「……なんていうか、溺愛し過ぎて怖いというか……。ちょっとうざいというか……」
「そうなの?」
「うん。だから良いなぁ姉妹で仲いいの」
「そう? 私の姉も妹もちょっとキャラ濃いし……」
「へぇ~、そうなの? それじゃあ今度、私にも紹介してよ!」
「ええっ!? う~~ん……。気が向いたらね」
あの二人に白羽ちゃんを会わせるのはちょっとなぁ……。絶対音色とかは白羽ちゃんにがっつり絡んでくるだろうし……。
詩織は大丈夫だろうけど少しコミュ障なところがあるから、白羽ちゃんと仲良くなれるか分からないし。
白羽ちゃんには悪いけど、紹介するのは止めておこう。
「そろそろ紅愛ちゃんと有紗ちゃん来ないかなぁ……」
「それなら私が呼んでこようか?」
「あっ、なら私も行く!」
砂浜のパラソルの下で寛いでいる二人を呼びに行くことにした。浮き輪で浮かびながらゆっくりと移動して砂浜に戻る。
海から上がって二人が待っているパラソルに向かうと、二人はパラソルの下で座っていた。
「紅愛ちゃーん! 有紗ちゃーん! そろそろ一緒に海行こうよー!」
「私は、もう少しゆっくりしたいんだけど……」
「十分休憩しただろ? ほら、そろそろ行くぞ」
立ち上がる有紗ちゃんとは反対に、まだパラソルの下から動こうとしない紅愛の腕を白羽ちゃんがぐいぐいと掴み、紅愛を立ち上がらせた。
「まだ浮き輪はいっぱいあるからね!」
「いや止めとく」
「えっ~? 何で?」
「浮き輪で喜ぶほど子供じゃない」
「えっ~。それなら有紗ちゃんは?」
「私? どうしようかなぁ……」
「せっかくだから使いなよ! せっかくだから私と同じ浮き輪貸してあげる!」
「あ、ありがとう……」
白羽ちゃんからほぼ無理やり? 浮き輪を受け取った有紗ちゃんは少し苦笑いをしていた。
それを横目に紅愛は、浮き輪を持たずにすたすたと海に向かって歩き出した。
「紅愛ちゃん待ってよー!!」
その後を白羽ちゃんが浮き輪を持って追いかけた。私と有紗ちゃんはその様子を後ろから見ながら、二人の後を歩いた。
――
「ぷはっー-! 海で遊んだ後のジュース美味しい!」
海で思い切り遊んだ私達四人は、パラソルの下でじいやさんが用意してくれた、サイダーで水分補給をしてゆっくり過ごしていた。
「それにしても、白雪さんが泳げるの意外だなぁ」
「え? そうかな?」
「結構泳いでたし、早かったよ」
「えへへ~。ありがとう!」
喜んでいる白羽ちゃんとは真逆に、紅愛はパラソルの下で横になっていた。そんな様子の紅愛に有紗ちゃんが声をかけた。
「紅愛大丈夫か? そんなに疲れたか?」
「しばらく海とかプールはもういいや」
「えっ~? 楽しかったでしょ~?」
「別に」
「はっきり言うな……」
いつも通りの紅愛に、有紗ちゃんがツッコミを入れた。三人の会話を見ながら休んでいると、じいやさんが白羽ちゃんに話しかけた。
「お嬢様。スイカの準備が出来ていますが、いかがいたしましょうか?」
「あっ、そうだった! 最後にスイカ割りしよう! じいや! スイカ割りの準備して!」
「かしこまりました」
じいやさんは、砂浜にシートを敷くとその上にスイカを置いた。
「それじゃあ、誰がスイカ割る?」
「白雪さんがスイカ持ってきたから、白雪さんでいいんじゃね?」
「私も白羽ちゃんでいいよ」
「私はパス」
「えっ~? せっかくだから三人の誰かやろうよ~。奏お姉さんとかやらない?」
「えっ? 私?」
「いいじゃん。せっかくだからやれば?」
いきなり白羽ちゃんに名指しで指名されてしまった。その後の紅愛の言葉もあって、私がやる流れになってしまった。
私がやると決まると白羽ちゃんがニコニコしながら私に近寄ってきて、両手にアイマスクとスイカを割る棒を私に手渡した。
「奏お姉さん頑張ってね!!」
笑顔の白羽ちゃんにそう言われると断れるものも断れず。私は大人しくスイカ割りをすることにした。
「スイカ割りって最初に目隠しをしたら、十回くらいその場で回るんだっけ?」
「ああ~、確かそういうのあったわ」
「じゃあ! 目隠しをしたら私が回してあげる!」
「えっ、白羽ちゃんが……?」
「うん! まかせて!」
一瞬白羽ちゃんが回すと聞いて、少し……本当に少しだけだけど嫌な予感がした。偏見だけど……白羽ちゃん思いっきり回しそうだし……。
「本当に大丈夫……?」
「大丈夫大丈夫! 奏お姉さんは目隠しして!」
「……本当に大丈夫かなぁ……」
「もし、危なそうだったら私達が止めるんで……」
「ありがとう……有紗ちゃん」
有紗ちゃんの言葉に少し安心して、私はアイマスクを付けた。
視界が真っ暗になって何も見えなくなった。聞こえるのは、波の音と、スイカ割りのルールを話している三人の声だけだ。
「奏お姉さん準備出来た~?」
「う、うん……行けるよ」
「じゃあ、回すね!」
「え……ちょ、ちょっと待って! うわっ!」
いきなり白羽ちゃんの声が近くなったと思ったら、両肩に手を置かれてぐわっと身体を回された。
「い~~ち、に~~い、さ~~ん……」
白羽ちゃんが十数えだした。私は真っ黒な視界の中早く白羽ちゃんが数え終わるのを待った。
「きゅ~~う、じゅう! もう動いていいよ!」
白羽ちゃんが数を数え終わったのを確認して、私はふらふらとした足取りでゆっくりと動き出した。
「奏お姉さん反対向いて!」
「は、反対……? こっち……?」
白羽ちゃんから指示が出たけど、どこに反対に向けばいいか分からずとりあえずその場で右に回る。
「もうちょっと左!」
「ひ、左? このくらい?」
「そのまま真っ直ぐです!」
「でもちょっと向き変えた方がいいかも」
「変えるって……どっちに?」
「とりあえずそのまま歩いてください!」
有紗ちゃんの指示通りに向きを変えずにゆっくりと歩く。私が歩いている間も三人の声が少し遠くから聞こえた。
「あともう少し!」
「奏お姉さん頑張ってー!」
段々と三人の声が近づいて来た。
「どこまで歩けばいいの……」
「あともう少し!」
「少しだけ左向いて」
「……このくらい?」
「うん。そのまま五歩くらい」
「ここから五歩ね? 一……二……三……四……五! 次はどうすればいい?」
「そのまま真っ直ぐ振り下ろす!」
「スイカはもう真下です!」
「行けーーっ! 奏お姉さん!」
「わ、分かった! 行くよ! えいっ!」
私は両手に持っている棒を思い切り真下に振り下ろした。すると棒に何かが当たった感触がした。その直後白羽ちゃんが大きな声を出した。
「やったーーーー!!」
白羽ちゃんの声が聞こえたと思ったらたったったと私の方に向かって来る足音が聞こえた。
段々足音が大きくなり、私の前でぴたっと止まった。
そしていきなり私の目隠しが外された。眩しさに目を細めていると私の正面に白羽ちゃんが立っていた。
その後ろには綺麗に真ん中で二つに割れているスイカがあった。
「やったね! 奏お姉さん!」
「よかった~……上手くいって……」
割れたスイカを見て思わず安堵のため息をはいた。すると、白羽ちゃんの後ろから有紗ちゃんと紅愛がこちらに走って来ていた。
「白雪さん足速すぎ……」
「いきなり走らないでよ」
「ごめんごめん! つい嬉しくなっちゃって」
「それより、割れたスイカどうやって食べるの? まさかこのまま食べるつもり?」
「それなら私がスイカを切ってきます」
「うわっ!?」
いきなりじいやさんが後ろから声をかけてきて思わずびっくりして大きな声を出してしまった。
「じいやに任せた!」
「それではすぐに切ってまいります」
じいやさんは一礼して割れたスイカを下に敷いてあるシートごと持って行った。
「それじゃあ、じいやがスイカを切ってくるまでパラソルの下で待っとこ!」
「そうだな~。それにしても暑すぎだろ……」
「早く水飲みたい……」
元気な白羽ちゃんとは対照的に、完全に暑さにやられている二人を後ろから見守りながらパラソルの下に戻る。
パラソルの下に戻ると二人はすぐに水をぐびぐびと凄い勢いで飲んだ。
私も紅愛の隣に座って水を一口飲んだ。
「スイカ食べたら次は何しよっかなぁ~」
「白羽ちゃん楽しそうだね」
「うん! そうだ! 奏お姉さんは次何したい?」
「そうだね~……何しよっか」
「二人共元気良すぎでしょ……」
「奏さんって意外と体力ありますよね?」
「え? そうでもないよ。 高校時代とか体育は苦手だったし……」
「でもそのわりに結構遊んでるじゃないですか」
「そ、そうかなぁ……」
「あのね有紗。奏は体力ないって言ってるけど意外と体力あるからね」
「紅愛ちゃん!!」
思わず大きな声を出してしまった。それと同時にじいやさんがスイカを持ってパラソルの下に来た。
「スイカをお持ちいたしました」
「やったー! 皆も食べようよ!」
白羽ちゃんはじいやさんからスイカが乗ったお皿を受け取ると、私達にお皿を向けた。
綺麗に切られたスイカを一人一個持った。
私達全員がスイカを持つと白羽ちゃんはお皿をじいやさんに渡して真っ先にスイカにかぶりついた。しゃきしゃきと音を立てながら美味しそうにスイカを食べている。
「美味しい~!」
「じゃあ、私達も食べようか」
「そうですね。いただきます」
「「いただきます」」
私が有紗ちゃんと紅愛に声をかけると、二人はいただきますを言うと二人同時にスイカを食べだした。
私もスイカを一口かじった。ちょうど良い甘さで美味しい。無言でスイカを食べていると、有紗ちゃんが白羽ちゃんに話しかけた。
「……このスイカ……もしかして高いやつだったりするんじゃ……」
「このスイカ? もちろんうちの農家で作ってるやつだけど?」
「やっぱり……」
白羽ちゃんは当たり前のように言った。それを聞いた有紗ちゃんは少し苦い顔をした。
「やっぱりお金持ちってすげえなぁ……」
「白雪家ってなんでもありすぎでしょ……」
「……白雪家って凄いんだね」
私達が白雪家の凄さを語っている間も白羽ちゃんは美味しそうにスイカを頬張っていた。
――
それからスイカを食べ終わった私達はその後、帰りの準備をするじいやさんを手伝って白羽ちゃんの別荘に戻ってきた。
「それじゃあ、晩ごはんは何時にする?」
「そうだねぇ……。何か食べたいものとかあるなら私が作るよ?」
「えっ!? 本当っ!? それなら私、奏お姉さんの料理がいい!」
「私の料理でいいなら作るよ。何か食べたいものある?」
「やったー! そうだなぁ……何がいいかなぁ……。二人は食べたいものある?」
「私は特にないので、白雪さんとか紅愛が食べたいもので大丈夫です」
「そうなの? じゃあ、紅愛ちゃんは何か食べたいのある?」
「私も特にないけど、強いて言うなら…………ハヤシライス」
「ハヤシライス? こういう時はカレーとかじゃなくて?」
「カレーがいいならそれでもいいけど」
「それじゃあ、ハヤシライスにしようよ! 多分紅愛ちゃんハヤシライス好きなんでしょ?」
「別に好きとかそんなんじゃないけど……」
「分かった、ハヤシライスね。何時くらいに食べたいとかある?」
「う~~ん……。七時とかでいいんじゃない?」
「分かった。それじゃ七時には出来るようにするね。材料はあるの?」
「うん! 冷蔵庫の中に入っている食材は好きに使っていいからね! あっ! キッチンにある道具も好きに使って!」
「分かった。ありがたく使わせてもらうね」
「それじゃあ、晩ごはんが出来るまで私はゆっくりしとくね」
そう言って紅愛はソファに座って目の前にあるテレビを点けた。
有紗ちゃんも同じように紅愛の隣に座った。私も少し疲れたので一人用の椅子に腰かけた。
「紅愛ちゃんは体力なさすぎだよ~。何かスポーツとかやらないの?」
「やだよ。疲れるし」
「そうやってすぐに疲れた疲れたって言う~」
「そういえば、白雪さんは部活やってるの?」
「私は天体観測部をやってるよ!」
「へぇ~、天体観測部か~。やっぱり星座とか見たりしてるの?」
「う~~ん……多分そういう感じ!」
「多分って……ちゃんと活動してるんだよね?」
「たまに星見たりするくらい?」
「なんであんたが疑問形なの……」
「あんまり帰るのが遅いとじいや達が心配するから。あんまり遅くまで学校に居られないし!」
「じゃあなんで天体観測部にしたの……?」
「なんとなく楽しそうだったから!」
「それなら帰宅部で良かったんじゃ……」
「帰宅部はただ家に帰るだけでしょ? それだけだとつまらないから面白そうな天体観測部にしたの!」
「……やっぱり白雪さんの考えがよく分からない……」
私は三人の会話を聞きながらテレビをぼんやりと見ていた。
「そう言えば、有紗ちゃんは生徒会やってるんだよね! どんなことしてるの?」
「えっ、そうだなぁ……。先生の手伝いをしたり、生徒会選挙があったら票を数えたりとか」
「生徒会をやってるってことは……もしかして偉いの?」
「いやいや! 私はただの書記だから……。会議の内容を記録したりするだけ」
「へぇ~、そうなんだ。有紗ちゃんはなんで生徒会に入ったの?」
「それは、その…………」
「?」
有紗ちゃんはもごもごと口を濁らせた。それを見た白羽ちゃんは不思議そうに有紗ちゃんを見ていた。
すると有紗ちゃんの代わりに紅愛が喋りだした。
「有紗がわざわざめんどくさい生徒会やってるのは、内申点が欲しいからだよ」
「おい! それを言うなって!!」
「内申点? なんで内申点が欲しいの?」
「一年生の頃の有紗は色々あってあまり学校に行ってなかったから、その分を生徒会で稼ごうとしてるってわけ」
「なるほど~」
「おい紅愛……なんで全部言うんだよ……」
「だって、本当の事だし」
「それはそうだけど、今言わなくてもいいだろ……」
「大丈夫。白羽はきっと内申点の意味分かってないから」
「ところで内申点って何?」
「………ほらね」
白羽ちゃんはやっぱり意味をよく分かっていなかったようだ。
白羽ちゃんが意味を分かっていなくても、有紗ちゃんは不満だったようだが……。
「奏お姉さんは?」
「えっ? 何が?」
「部活! 奏お姉さんは何かやってた?」
白羽ちゃん達の話題は部活の話になったようだ。この流れで私も会話に参加することにした。
「私はスイーツ部をやってたんだ」
「へぇ~! やっぱり昔からお菓子作りしてたんだ!」
「やっぱりその時から、お菓子に関わる仕事をしたいって思ってたんですか?」
「うちのお母さんが昔ケーキ屋さんをやってたんだ。その時に一緒に働いてたのがお父さんでそれから仲良くなって結婚したんだ」
「そういうのなんかいいですね」
「それで、休日とかに三人でお菓子作りとかやってて、それからお菓子を作る仕事をしたいって思ったんだ」
「その話、私も知らなかったんだけど……」
「奏お姉さんが働いているケーキ屋ってどこ?」
「白羽ちゃんは一回うちのお店に来たことあるよ。ほら、前にアイスキャンディーを買ったお店だよ」
「ああっ! あのお店? アイスキャンディー美味しかった!」
「ありがとう。またお店に来てね」
「うん! 絶対行く! そうだ! 二人も今度一緒に行こうよ!」
「私もまだ行ったことないし、行ってみようかなぁ……」
「私はお店には一回行ったことあるけど、そういえばケーキはまだ食べてなかったな……」
「行こうよ! 三人で! それで奏お姉さんの作ったケーキ食べよ!」
「うん。私も皆が遊びに来てくれると嬉しいよ」
「それじゃあ今度の放課後に食べに行こうね!」
「決めるのはやっ」
「やっぱり三人とも仲良いね」
三人で漫才が出来るのではないかと思うくらい相性がいい気がする。三人と会話をしながらふと時計に目を向ける。
「あっ、そろそろご飯の準備をしなくちゃ」
「私も何か手伝いましょうか?」
「いいよいいよ、有紗ちゃんも海で遊んで疲れてるだろうから、ゆっくり休んでていいよ。作るの簡単だし」
「そうですか。それじゃあゆっくりさせてもらいますね。奏さんのご飯楽しみにしてますね」
「うん! 楽しみにしてて」
私は一旦リビングを離れてキッチンに移動した。
備え付けの大きな冷蔵庫を開けてみると、中には沢山の食材が入っていた。
ハヤシライスのルーと、お肉と野菜を取り出して冷蔵庫を閉めた。食材の準備が出来たので次は鍋を探す。
手当たり次第にキッチンの引き出しを開けると、鍋やフライパンが仕舞われた引き出しを見つけた。
その中から底が深い鍋を一つ取って鍋をコンロに置いた。鍋に油を引いてコンロの火を点ける。
鍋を温めている間に、玉ねぎとトマトを切る。切り終わったら鍋に入れて炒める。お肉も切って鍋の中に入れて炒める。
食材に火が通ったら水を入れてしばらく煮込む。スマホのタイマーをセットして煮込んでいる間に、盛り付けるお皿がどこにあるか探す。
食器棚の中から底が深いお皿を四枚取り出してダイニングテーブルに準備しておく。後はタイマーが鳴るまで鍋の様子を見ながら待つ。
タイマーが鳴るまであと少しのところで鍋が沸騰してきたので、お玉であくを取り出す。
あくを取り切ったらちょうどタイマーが鳴った。ガスコンロの火を一旦切って、ハヤシライスのルーを入れて溶けるまで混ぜる。
溶けきったら再び火を点けて沸騰するまで混ぜる。沸騰したらハヤシライスの完成だ。
後はご飯が炊けるまで待つだけだ。炊飯器を見てみるとあと二十分と表示されていた。
一旦キッチンを出てリビングに行ってみると、テレビの前のソファに三人で座ってテレビを見ていた。私もソファの隣にある一人用の椅子に座った。
「あっ! 奏お姉さん! もうご飯の準備は終わったの?」
「ハヤシライスは出来たからあとは、ご飯が炊けるのを待つだけだよ」
「そっか~。それじゃあ待っている間にお喋りでもする?」
「お前喋るの好きだな……」
「えっ~? 紅愛ちゃんはお喋りするの嫌いなの?」
「嫌いっていうか……奏とは大抵の事は話し終わったでしょ……」
「他にも話したいことがあるもん! 例えば…………恋バナとか?」
「こ、恋バナ!?」
白羽ちゃんが恋バナの話を出した途端に、有紗ちゃんが大きな声で反応した。その隣にいた紅愛はその声にびっくりしていた。
「何? いきなり大きな声出して」
「いやいや! その~……あれだ! 私達にそういう話は早いんじゃないか?」
「そうかなぁ~? もしかして有紗ちゃん、好きな人がいるとか~?」
「べ、別にそういうわけじゃなくて!」
「本当に~?」
「本当にいないって!!」
有紗ちゃんの反応に白羽ちゃんが怪しげな表情で有紗ちゃんを見る。それを有紗ちゃんは全力で否定した。
紅愛は別に気にならないのか興味なさそうに話を聞いていた。からかわれている有紗ちゃんが可哀そうなので、私は白羽ちゃんに話題を振った。
「そういう白羽ちゃんは好きな人いるの?」
「私? 私は~…………紅愛ちゃんとか!」
「……はあっ!?」
いきなり自分の名前が出て紅愛は思わず白羽ちゃんを二度見して大きな声をだして驚いた。
「なんでそこで私が出てくるの!?」
「だって、私紅愛ちゃんの事好きだよ? あっ、でも、有紗ちゃんの事も好きだし、奏お姉さんも好きだよ?」
「えっ。そ、そうなの……?」
「私もしれっと巻き込むなよ……」
白羽ちゃんの好きの範囲には紅愛だけではなく、私と有紗ちゃんも含まれていたようだ。
「好きな女子じゃなくて……男子で好きな人はいないの?」
「男子で好きな人かぁ……そうだなぁ……。多分いないかなぁ」
「そうなの? 白羽ちゃん可愛いからモテそうだけど……」
「仲が良い男子はいるけど、好きとかじゃないかな」
「そういえば、白雪さんの周り女子もいるけど、男子もそこそこいるからなぁ……」
「多分だけど、その中にいる男子はほとんど白羽を狙ってるやつだけでしょ」
「それじゃあやっぱり、白羽ちゃんモテモテなんだ……」
「そうかなぁ~?」
白羽ちゃんはそうでもなさそうな表情を浮かべていた。
「それなら有紗ちゃんと紅愛ちゃんもモテてるよ!」
「えっ」
「は?」
白羽ちゃんの言葉に有紗ちゃんと紅愛が驚きの声を発した。それが気になって私は白羽ちゃんに問いかけた。
「……有紗ちゃんと紅愛ちゃんも、学校でモテてるの?」
「うん! 私の友達の男子が、『白雪さんも可愛いけど、それ以外の女子だったら、渡辺さんと南野さんも可愛い』って言ってたよ!」
「…………まじか」
「あっそう」
小さく呟く有紗ちゃんと対照的に、意外とリアクションが薄い紅愛。
確かに三人とも可愛いから、男子から人気でもおかしくはない。
「二人も男子から人気あるから大丈夫だよ!!」
「そう言われてもなぁ……」
「あれ? 嬉しくないの?」
「まぁ……別に……? 嬉しくないって言ったら嘘になるけど……」
口元をもごもごさせながら有紗ちゃんが少し照れながら答えた。
「紅愛ちゃんは? 嬉しい?」
「私は別に興味ない」
「相変わらずだな紅愛は……」
紅愛は恋愛の話になってもいつもの様子だ。恋愛の事になるとやはり女子トークが進む。
色々と四人でテレビを観ながら雑談をしていると、炊飯器のご飯が炊けた音が鳴った。
「あっ、ご飯が炊けたみたい」
「じゃあ、晩ご飯食べよう!」
「それなら誰か、ご飯を混ぜてくれない?」
「私がやります」
有紗ちゃんがご飯を混ぜる事になり、有紗ちゃんと一緒にキッチンに移動する。
コンロの火を点けて、鍋を温める。その間に有紗ちゃんは、炊飯器を開けて出来立てのご飯を混ぜていた。
「熱いから気を付けてね」
「はい」
「私も何か手伝うことない~?」
すると、リビングに居たはずの白羽ちゃんがキッチンの入り口からこちらを覗いていた。
「それなら、ダイニングテーブルに置いてあるお皿をこっちに持って来てくれる?」
「分かった!」
そう言って白羽ちゃんは私が言ったとおりに、ダイニングテーブルに置いていたお皿を四つ持ってきた。
「持ってきたよ!」
「ありがとう。じゃあ、そこに置いておいてくれる?」
「はーい!」
白羽ちゃんはお皿を鍋の隣に置いた。
「それで次は?」
「もうすぐで出来るから、白羽ちゃんはスプーンとかコップを出してくれる?」
「分かった! 人数分出しておくね!」
食器棚の引き出しをごそごそと漁り、スプーンを取り出した白羽ちゃんはキッチンを出ていった。
鍋が沸騰してきたので火を止めて、一旦リビングに戻る。
「ハヤシライス出来たから、お皿に盛っていいよ」
「はーい! じゃあ、私が最初に注ぐね!」
お皿を持って白羽ちゃんはキッチンに機嫌良さそうに歩いて行った。
有紗ちゃんはご飯を混ぜたあと、布巾でテーブルを拭いていた。
「ありがとう有紗ちゃん。テーブル拭いてくれたんだね」
「いえいえ。このくらいなら全然手伝います」
有紗ちゃんは細かいことによく気づく子なので、こういう時にとても助かる。
一方紅愛は、スプーンとコップをテーブルに並べていた。
「紅愛ちゃんもありがとね」
「いいよ。ただ並べてるだけだし」
「次の人お皿についでいいよ~」
キッチンから白羽ちゃんがお皿に注いだハヤシライスを持ってきた。
「先に有紗注いでいいよ。私飲み物注いどくから」
「ああ、分かった」
「飲み物って、冷蔵庫の中にあるっけ?」
「冷蔵庫にある飲み物は好きに飲んでいいよ~」
「じゃあ、中に何が入ってるか見てくる」
紅愛が冷蔵庫の中を覗いた。そして、何本かをテーブルに持ってきた。
「水とかお茶もあるし、ジュースもある」
「やっぱりこういう時は炭酸でしょ!」
そう言って白羽ちゃんは、コーラのペットボトルを自分の方に引き寄せた。
「まだ冷蔵庫の中にあるの?」
「まだあるよ」
「結構沢山あるんだね」
「この時の為にいっぱい用意したからね!」
「それにしても多くない?」
「大丈夫だよ! 余ったら家で飲むから!」
「それじゃあ、各々好きな飲み物コップに注ごう」
「私コーラにする!」
「私はお茶でいいかな」
「それなら私もお茶で」
「紅愛ちゃんは何する?」
「私は水にする」
各々好きな飲み物をコップに注いだ。私と紅愛もハヤシライスをお皿に盛りつけると、全員でダイニングテーブルの椅子に座る。
「じゃあ、いただきます!」
「「「いただきます」」」
白羽ちゃんが大きな声で言うと、私達もいただきますをした。
「美味しい~!」
「やっぱり奏さんお料理上手ですね」
「そうかなぁ。普通だと思うけど……」
「うちのシェフが作った料理より美味しいよ!」
「ありがとう白羽ちゃん」
有紗ちゃんと白羽ちゃんがハヤシライスの感想を話していると、その隣で紅愛は無言でハヤシライスを頬張っていた。
「………さっきから紅愛が無言で食べてるんだけど……」
「どうしたの? 紅愛ちゃん」
「……もしかして口に合わないとか……?」
美味しく作れたと思ったんだが、もしかしたら紅愛の口に合わなかったのかもしれない。
少し不安になりながら紅愛を見る。
「おーい、紅愛?」
「……………ん? 何?」
「何って……お前さっきからずっと黙ってるけどどうかしたのか?」
「え? ただ食べてるだけだけど」
「奏お姉さんが作ったハヤシライス美味しい?」
「えっ?」
白羽ちゃんの問いかけに紅愛は無言だった。
もしかして本当に口に合わなかったのかもしれない……と私が思いだした時に、紅愛が小さな声で呟いた。
「………………………………美味しいけど」
「……えっ?」
「美味しいよ。奏のご飯」
「……本当に?」
「本当。そうじゃなきゃあんなに味わったりしない」
「よかった……もしかして紅愛ちゃんのお口に合わないのかと思った……」
「紅愛ちゃんは奏お姉さんの料理が大好きだもんね~」
「白羽うるさい」
そうして楽しいご飯の時間は過ぎて行った。
――
晩ご飯を食べ終わって私がお皿を洗っていると、リビングでくつろいでいる有紗ちゃんが口を開いた。
「そういえば、お風呂はどうする?」
「お風呂? 誰が最初に入るかってこと?」
「そうじゃなくて、誰かがお湯を沸かさないといけないんじゃね?」
「ああ! それなら大丈夫! この別荘の隣に温泉があるから、そこに行こう!」
「別荘だけじゃなくて温泉もあるのかよ……」
「じゃあ奏の皿洗いが終わったら行く?」
「そうしよう! じゃあ私この間に着替えの準備しとくね~」
「有紗も準備してきていいよ」
「そうか? じゃあ私も準備してくる」
三人の声を聞きながらキッチンで洗い物をしていると、紅愛がキッチンの入り口にもたれ掛かっていた。
「さっきまでの会話聞いてた?」
「聞こえてたよ。この後温泉に行くんでしょ?」
「うん。念のために奏にも教えておこうと思ったけど、聞こえてたのならいいや」
「私はあとちょっとしたら終わるから、紅愛ちゃんも準備してきていいよ」
「私は大丈夫。荷物リビングに置いてたから、もう準備出来てる」
「そっか。じゃあリビングで待ってて」
そう言って私は洗い物を再開して視線を下に向けた。スプーンとコップを洗い終わってあとはお皿と鍋を洗うだけだ。
重ねておいてあるお皿を一枚取って洗う。ふと視線を感じて横目でキッチンの入り口を見ると、紅愛がまだ入り口にもたれ掛かっていた。
「…………紅愛ちゃんまだいたの?」
「……ん? だって、準備終わってるからリビングで待ってても暇だし。だから奏が終わるまで待っとこうと思って」
「でも……このまま見ていても面白くないよ?」
「いいよ。終わるまで待ってるから」
「そう……? 紅愛ちゃんがいいならいいけど……」
そうして私は皿洗いを再開した。お皿をぱぱっと洗い、ハヤシライスがこびりついている鍋も綺麗に洗い終わった。
濡れた両手をハンカチで拭きながらキッチンを出る。私も着替えの準備をするために荷物を置いた二階の部屋に向かう。
「それじゃあ、私は着替えの準備してくるからここで待ってて」
「分かった」
階段を上って荷物を置いた部屋に入ると、中に白羽ちゃんと有紗ちゃんが居た。
「あっ! 奏お姉さん!」
「奏さん、お皿洗いやってくれてありがとうございます」
「いいよいいよ。有紗ちゃん疲れたでしょ? だから、ゆっくりしてていいよ」
「すみません……ありがとうございます」
「それより、奏お姉さん! 早く準備して温泉行こうよ!」
「そうだね、早く準備して行こうか」
私は部屋の隅に置いておいた荷物の中から、パジャマと下着を取り出して手提げバッグに入れた。
二人はもう準備が出来ているのか、私の後ろで着替え片手に二人でお喋りしていた。
「私は準備出来たけど、二人は準備出来た?」
「私達は準備出来てるよ!」
「そういえば、紅愛は二階に来てないけど準備出来てるのかな?」
「紅愛ちゃんは、もう準備出来たって言ってたよ」
「そっか。じゃあ温泉に行くか」
「ではしゅっぱーつ!」
着替えを持って部屋を出て階段を下りる。紅愛はソファに座って待っていた。
「紅愛ちゃんおまたせ! 準備出来たから温泉に行こう!」
「分かったから、そんなにくっつかないで」
「えへへ~」
紅愛ちゃんの右手を握って白羽ちゃんがぴったりとくっついた。くっついてくる白羽ちゃんに紅愛は少し迷惑そうな顔をした。
「それじゃあ、行こうか。白羽ちゃん案内してくれる?」
「はーい! じゃあみんな私のあとに着いてきて!」
白羽ちゃんを先頭にして四人で歩き出す。白羽ちゃんの後を着いていくと、別荘の隣に和風の建物が建っていた。
「あれが温泉……?」
「うん! 昔お爺ちゃんがこの別荘を建てたときに、温泉が好きだったから作ろうってことになったんだ!」
「あの大きさだと、もう温泉じゃなくて銭湯だな……」
「建物からしてそこそこ大きいけど、管理するのも大変じゃない?」
「大丈夫! 普段はリゾート地の温泉としてお客さんが使ってるから!」
「……やっぱりこの辺リゾート地なのか……」
「……もしかしてだけどこの温泉も入るだけでどのくらいするの……?」
「う~~んとねぇ……私達が居る別荘とは少し違うところに、いくつかうちが経営している宿泊用のコテージとホテルがあるんだけど、そこに泊まると温泉も入れるから……二万円くらい?」
「「二万!?!?」」
私と有紗ちゃんが驚きの声を一斉に上げた。
「それって……一人二万ってこと?」
「う~~ん……大体そんな感じかな」
「やべぇ……一人二万する温泉に無料で入れるのかよ……」
今思うと普段なら絶対に泊まらないであろうところに泊まって、しかもそれを無料で出来るとは思いもしなかった。
そうこうしていると白羽ちゃんが言う温泉というより、銭湯に近い和風の建物の入り口に到着した。
入り口の自動ドアを開けると入って靴箱と正面に受付があった。
受付の右に『男』と書かれた青い暖簾があって、反対の左には『女』と書かれた赤い暖簾があった。靴箱の中に靴を仕舞って上がった。
建物の左側にはマッサージチェアがいくつか置いてあってマッサージコーナーになっており。右側は自販機と椅子が置かれてあり壁側にはテレビが掛けられていた。
「受付だけでも結構広いんだね……」
「本当はアイスも置いてあったら最高だったんだけど……」
「お前本当にアイス好きだな」
四人で話しながら女湯の暖簾を潜る。中の脱衣所も中々の広さだった。
適当に温泉の入り口の近くのロッカー四つに持ってきた荷物を中に入れる。
紅愛とお風呂に入るのはゴールデンウィークの旅行以来だけど、まだ少しだけドキドキしていた。
それをまったく気にしないで私以外の三人が服を脱ぎ始めた。
「奏お姉さんも早く脱いで入ろうよ!」
すでに服を脱ぎ終わって、身体を洗うミニタオルを持った状態で白羽ちゃんが待っていた。
紅愛と有紗ちゃんもすでに服は脱いでいて、タオルを片手に髪を結んでいるところだった。
白羽ちゃんに急かされながら私も服を脱いで、髪をゴムでまとめた。
「じゃあ、入ろ入ろ!」
全員が服を脱いだのを確認した白羽ちゃんが真っ先に温泉の入り口に向けて歩き出した。
白羽ちゃんの後を三人で着いていく。先頭を歩く白羽ちゃんが温泉の扉を開けた。
――
入って正面に大きな浴槽が一つあり、左の壁側に鏡とシャワーと蛇口が横に六つ設置されていて、蛇口の下にはシャンプー、リンス、ボディソープが綺麗に並んでいた。右側にはサウナと水風呂があった。あとはサウナと正面の浴槽の間に外へ繋がる扉が一つあるくらいだった。
浴槽に浸かる前にまずは海水で汚れている身体を洗うことにした。壁際に並べられているバスチェアを一つずつ取って、シャワーの前にバスチェアを置いて四人で並んで座る。
持ってきた身体を洗う用のタオルを濡らして備え付けのボディソープをつけてタオルを泡立てる。
泡でもこもこしてきたタオルでごしごしと身体を洗う。
「せっかくだから背中の洗いっこでもする?」
「断る」
「えっ~! 何で?」
「子供じゃないんだから」
「でもせっかく皆で温泉入ってるんだし、やろうよ~」
「流石にそれは恥ずかしいっていうか……」
背中の洗いっこがしたい白羽ちゃんに紅愛は全力で拒否し、有紗ちゃんはするのが恥ずかしいようだ。白羽ちゃんが今度は私に助けを求めるような視線を向けた。
「奏お姉さ~ん! 背中の洗いっこしようよ~」
「私? 私は……やってもいいよ?」
「ほんと!? やったー!!」
白羽ちゃんはそんなに嬉しかったのか、大きな声で喜んだ。私の隣に白羽ちゃんが笑顔で寄ってきた。
「じゃあまずは、私が奏お姉さんの背中洗ってあげるね!」
「うん。いいよ」
「えへへ~。それじゃあ背中洗うね!」
ボディソープをつけたタオルで私の背中を白羽ちゃんが洗いだした。泡でもこもこのタオルで背中をごしごしと洗う。白羽ちゃんがご機嫌なのか鼻歌を歌っていた。白羽ちゃんが背中を洗っている間に、私は背中以外の場所を洗う。
「かゆいところとかない~?」
「大丈夫だよ」
すっかり上機嫌な白羽ちゃんの隣で、有紗ちゃんと紅愛は黙々と身体を洗っていた。心なしか隣に座っている紅愛がやけにこっちを見ている気がする……。紅愛の方に視線を向けたが、目が合った瞬間にぷいっとそっぽ向かれてしまった。
「お背中流しますよ~」
背中を洗い終わった白羽ちゃんが、今度はシャワーを片手にお湯で背中の泡を流し終わると、白羽ちゃんからシャワーを受け取り背中以外のところの泡を流した。
「今度は奏お姉さんの番ね!」
そういうと白羽ちゃんはバスチェアにちょこんと座った。私はバスチェアから立ち上がって、白羽ちゃんの後ろに立つ。
「それじゃあ背中洗うよ?」
「うん! お願いしまーす!」
濡らしたタオルにボディソープをつけて、白羽ちゃんの背中を洗っていく。ごしごしと洗っている間はどうでもいいことばかり思っていた。こうして白羽ちゃんの肌を触っているときめ細かいなぁ~とか、白羽ちゃん色白だなぁ~と思った。決して紅愛と有紗ちゃんの肌が綺麗じゃないとかそういうわけではなく、ただ単純にそう思ったのだ。
「気持ちいい?」
「うん! やりたいこと出来て幸せ~」
「背中を洗って欲しかったなら、家のお手伝いさんとかに頼んだりしなかったの?」
「奏お姉さん違うよ。私はただ背中を洗って欲しかったんじゃなくて、仲がいい友達に洗って欲しかったんだよ~」
「そうだったの?」
「うん。だから今は奏お姉さんに洗ってもらって嬉しいんだ!」
「このくらいの事でいいなら全然するよ?」
「ほんと!? じゃあこれからもしてもらおうかな~」
「うん。いいよ」
「……………」
背中を洗いながら白羽ちゃんと話す。そろそろ泡を流そうと思ってシャワーを取ろうと思ったところで、視線を感じて隣を見ているとジト目でこちらを見ている紅愛と目が合った。私を見ている紅愛の視線が少し怖くて視線を紅愛から白羽ちゃんの背中に戻した。
「……それじゃあ流すよ」
「うん!」
シャワーでお湯を出して背中の泡を流す。ついでに足元の泡も流したところでシャワーを止めた。
「終わったよ」
「ありがと! 奏お姉さん!」
「どういたしまして」
背中を洗い終わった私はシャワーを白羽ちゃんに手渡して、自分のバスチェアに座った。次は髪を洗うので髪を結んでいるゴムを外して腕に付けておく。シャワーで髪を濡らしてシャンプーをつけて洗う。ごしごしと洗ってお湯で流す。次にリンスを毛先からつけていく。少し髪を揉んで更にリンスを髪に馴染ませる。
リンスをつけて少し経ったらシャワーで洗い残しが無いように流す。流し終わったところでふと三人の様子をちらりと見てみると、ちょうどリンスを流し終わったところだったようだ。
「身体と頭も洗い終わったし、温泉に浸かろ!」
白羽ちゃんは真っ先に浴槽に入った。髪をまとめながら白羽ちゃんに続いて浴槽に入る。
温かい透明のお湯がじんわりと身体に広がる。今日の疲れが取れていくようだ。
「はあ……いい湯だね」
「やっぱり疲れた時の温泉は良いよなぁ」
「家族以外の人と温泉に入るの久しぶりー!」
「でも白羽ちゃんはお姉さんがいるんでしょ? 一緒に入ったりしないの?」
「……一緒に入ると凄いうるさいんだもん」
「妹の白羽がこんなのなら、こいつの姉もやばい奴なんでしょ……」
「それは妹の私でもそう思う」
明るくて元気な白羽ちゃんでも姉と兄の二人はそうはいかないらしい。
確かに私の姉の音色も似たような感じだから気持ちは分からなくもない気がする。
「ねえねえ! この後何しよっか! トランプとかやる? それともまたお喋りでもする?」
「私は結構夜遅くまで起きてたりするけど、あんたは夜更かし出来るの?」
「私はいつも十二時前には寝ちゃうけど、今日は皆が居るから大丈夫な気がする!」
「大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫! ね! 有紗ちゃんも大丈夫だよね!」
「えっ……そ、そうだな」
いきなり話を振られた有紗ちゃんが少し困りながら返事をした。
「でも夜更かしはいけないんじゃない?」
「大丈夫だよ! 夏休みだし!」
「白羽ちゃんと有紗ちゃんは朝起きれるだろうけど、紅愛ちゃんは朝苦手だから……」
紅愛ちゃんを少しチラ見しながら言うと、紅愛がむっとしながらこっちを見た。
「……何?」
「紅愛ちゃん朝起きれそう?」
「多分」
「もし紅愛が起きなかったら私が起こすんで」
「ありがとね有紗ちゃんが」
「いえいえ、紅愛が学校で寝てる時も私が起こしてるんで」
本当に紅愛の学校での過ごし方が気になって仕方ないが、そこまで詳しく聞き出すと紅愛の機嫌が悪くなりそうなので止めておいた。
「トランプ以外にも色々持ってきたんだ~。何しよっかな~」
「白羽ちゃんが楽しそうならよかった」
「うん! 今日はとても楽しかった! また皆を誘ってもいい?」
「予定がない日だったらいいよ」
「やったー! 今度は冬休みに誘おうかな~」
白羽ちゃんが楽しそうに次の旅行の予定を立てる。もしかしたら白羽ちゃんとの旅行が恒例行事になるかもしれない。
「有紗ちゃんと紅愛ちゃんもまた誘ってもいい?」
「テストが終わった時ならいいよ」
「その時の気分による」
「えー! また行こうよー」
「考えとく」
いつも通りの白羽ちゃんと紅愛の絡みを有紗ちゃんと一緒に見ていた。
それからは露天風呂で肩まで浸かって十数えて温泉を出た。
――
温泉を出た私たちは別荘に戻ってきた。戻ってきた白羽ちゃんはキッチンに走っていくと、両手にアイスを持って戻ってきた。それをテーブルいっぱいに広げた。
「皆好きなの選んでいいよ!」
「選んでいいよって……何でアイスをこんなに持ってきたの?」
「だって、お風呂から出たらアイスでしょ!」
「……そこは牛乳じゃなくて?」
「お風呂上がりのアイスも美味しいよ! だから皆で食べよう!」
「そもそもなんでこんなにアイスがあるんだよ……」
「私アイス大好きだから毎日一つ食べるんだ~」
「それにしても、多すぎだろ!」
白羽ちゃんが持ってきたアイスの数は、ダイニングテーブルの上いっぱいに積まれていた。
この数を四人で食べきるのは絶対に無理だ。
「皆が選ばないなら私が先に選んでいい?」
「白羽ちゃんが好きなやつ選んでいいよ」
「じゃあ私これー♪」
白羽ちゃんがテーブルの上に積まれたアイスの山の中から一つのアイスを取った。
手元を覗いてみると市販で売ってるアイスだが、少し値段が高いアイスだった。
「皆も選びなよ!」
「……どうする?」
「じゃあ私はこれで」
「私もこれにする」
有紗ちゃんと紅愛が近くにあったイチゴアイスとチョコレートアイスを取った。
私もテーブルに積まれているアイスを軽く見る。上の方に積まれていたバニラアイスを取った。
「スプーンならここにあるからね~」
「うん。ありがとう」
白羽ちゃんからスプーンを貰ってアイスの蓋を開けて、アイスをすくって口に運んだ。
ミルク味が少し強めのバニラアイスだ。
アイスを黙々とテレビを見ながら四人で食べる。
私がアイス半分も食べきっていないうちに、白羽ちゃんが再びアイスを物色し始めた。
「……あれ? 白羽ちゃんもうアイス食べきったの……?」
「そうだよ~。だから次は何食べようかな~って」
「食べ終わるの早くない?」
「う~ん……あのアイスは意外と小さかったからね。今度は大きい奴にしよっかな~」
と上機嫌でアイスを選らんていた。
有紗ちゃんと紅愛もまだアイスを少し食べたところだったらしい。
短時間でアイスを完食した白羽ちゃんに驚いた表情をしていた。
そんなことをまったく気にしないで白羽ちゃんは新しいアイスの蓋を開けてアイスを食べていた。
結局この後私達三人はアイスを一個食べて終わったが、白羽ちゃんはアイスを一人で三個完食したのだった……。
――
アイスを食べ終わった私達は、歯磨きをしてリビングの中央に布団を四枚並べて敷いた。
「皆はどこで寝る? 私真ん中がいい!」
「じゃあ真ん中の一つは白羽ちゃんにするとして、有紗ちゃんと紅愛ちゃんはどうする?」
「私は白羽の隣だけは嫌だ」
「え~!? 一緒に寝ようよ~」
「断る」
「え~~! じゃあ奏お姉さんは!? 私の隣嫌だ?」
「私は白羽ちゃんの隣でもいいよ」
「ほんと!? じゃあ私の隣は奏お姉さんね!」
「あとは端っこが残ってるけどどうする?」
「じゃあ私は奏の隣で。だから有紗は白羽の隣でいい?」
「それでいいよ」
こうして左から紅愛、私、白羽ちゃん、有紗ちゃんで寝る事にした。
白羽ちゃんが布団にダイブして、布団の上で横になった。
「それじゃあ皆でトランプとかする?」
「……まだ遊ぶの?」
「私はそろそろ寝たいんだけど」
時計を見ると時刻は十時を過ぎていた。
「これからが本番だよ! 夜は長いんだからもっと遊ぼうよ!」
「まぁ白雪さんがやりたいなら付き合ってあげるか……」
「ふ~ん。有紗が白羽の言うこと素直に聞くの珍しいじゃん」
「トランプやるだけだろ?」
「……それもそっか」
紅愛と有紗ちゃんもトランプに参加することにしたようだ。
「もちろん奏お姉さんもやるでしょ?」
「うん。ところでトランプやるのはいいけど、何する?」
「ババ抜きしよう! とりあえずこれやっとけば何とかなるよ!」
「じゃあババ抜きね」
そう言ってトランプを手に取ってカードをきった。何回かきってカードを三人に配る。
四人でババ抜きを始めた。淡々と同じ数字のカードを捨てて全て捨てた。
「順番はどうしよっか?」
「じゃんけんで決めよう!」
そして四人でじゃんけんをして買った白羽ちゃんから時計回りにカードを引くことになった。
順番は白羽ちゃん、有紗ちゃん、紅愛、私の順番になった。
それから私達はトランプを楽しんだ。
――
気づいたらババ抜きは三回もやっていた。最後の場面は私と有紗ちゃんの一騎打ちだった。
ふと有紗ちゃんの隣を見てみると、隣で白羽ちゃんが横になって寝ていた。
白羽ちゃんは全てのババ抜きで一抜けしていたので、ババ抜きを観戦している時が多かった。それゆえにずっと同じ光景を見ているのに飽きたのか、気が付いたら白羽ちゃんは眠っていた。
静かにババ抜きを終えたが、白羽ちゃんが寝てしまったのでもう寝る事にした。
私は布団の上で寝てしまった白羽ちゃんを抱えた。その間に有紗ちゃんが布団を上げてくれたので、そこに白羽ちゃんを寝かして布団を上からかけた。
「私達も寝ようか」
「そうですね」
白羽ちゃんが寝ているので小さめの声で話す。
私はトランプを集めて箱の中に仕舞うと、立ち上がってトランプをテーブルの上に置いて電気のスイッチが付いている壁まで歩く。
電気のスイッチに手をかけたところで振り返ると、有紗ちゃんと紅愛はもう布団をかぶって私を見ていた。
「じゃあ消すよ」
そう言って電気のスイッチを切った。リビングが暗くなり暗闇の中布団目指して歩く。
何とか布団までたどり着き布団を被って横になった。まだ目が暗闇に慣れていないので上を見ても何も見えない。
まだ眠気も無くしばらくぼーっと天井を見ていた。
「ねぇ……起きてる?」
しばらくしてから左隣から声がした。天井を見ていた視線を左に向けた。段々目が慣れてきたようで、隣でこちらを見ている紅愛が見えた。
「起きてるよ」
「今日は楽しかった?」
「もちろん楽しかったよ。海に来るのも久しぶりだったし。紅愛ちゃんは?」
「まぁ疲れたけど海も綺麗だったし、奏の水着を選ぶことも出来たから満足かな」
「そこなんだ……」
「奏はちょっと服のセンスがないから」
「そこまで言わなくても……」
ここでも紅愛の毒舌が発揮された。私的にはおしゃれだと思ってたんだけど……。
「奏が退屈じゃなかったんならいいや」
「誘ってくれた白羽ちゃんに感謝しないとね」
「……そうだね」
紅愛は少し間を開けて答えた。あんまり白羽ちゃんにお礼を言いたくないのかもしれない」
「ちゃんと朝は起きてよ?」
「分かってる。起きれなかったら有紗が起こしてくれるから大丈夫」
「有紗ちゃんなしでも起きてほしいけど……」
「分かった分かった」
紅愛は本当に適当に返事をした。多分絶対に分かってない気がする。
「じゃあ、おやすみ紅愛ちゃん」
「おやすみ奏」
そう言って私は目を閉じた。
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