第二十話 従姉妹と夏のお泊り会 前編
楽しいお泊り会の準備!
それから淡々と時間が過ぎて行き。白羽ちゃん達と約束していた日になった。昨日は二日の休みを貰うために、仕事をぎりぎりまでしていたせいか私は疲れ切っていた。せっかくのお泊り会なのだが、正直私は家でゆっくりしたい気持ちになった。首を左右にぶんぶんと振って気持ちを切り替える。疲労しきった身体を無理やり起こしてスマホを見てみると、アラームが鳴る十分前だった。アラームを解除して着替える。脱いだパジャマを洗濯機に持っていこうとした時に、お腹がぐっ~と鳴った。そういえば昨日はシャワーを浴びて、すぐに寝てしまったんだった。お腹が空いたと自覚した途端に、またお腹の音が更に大きく鳴った。朝ご飯の用意をしないと……と思うがなかなか身体が動かない。なんとか洗濯機にパジャマを入れて、洗濯機の前で棒立ちする。眠気を覚ますため、洗面台で顔を洗う。冷たい水で顔全体をささっと洗う。顔を洗ってやっとすっきりして、キッチンに向かう。
廊下の扉を開けてリビングに行くと、珍しく紅愛が私より先にリビングに居た。今日はテレビ前のソファではなく、ダイニングテーブルの椅子に座っていた。
「おはよう紅愛ちゃん」
「おはよう」
「今日起きるの早いね。昨日早く寝たの?」
「違うよ。今日の朝暑かったから起こされた。だからリビングで涼んでる」
確かにリビングには冷房が点いていた。基本的に朝にはエアコンは使いたくないんだけど……確かに今日はいつもより少し暑い気がする。スマホで今日の気温を見てみると、三十七度あった。こんなに暑いなら朝からエアコンを入れてもしょうがない。
「今から朝ご飯作るから、ちょっと待っててね」
「…………奏さ。なんか疲れてない?」
「え? どうして?」
「なんとなくだけど、疲れてるように見えたから……昨日も帰って来るの遅かったし」
「心配かけてごめんね。でも、大丈夫だよ?」
ほんとは大丈夫ではないけど、紅愛に気を遣わせないように少し嘘をついた。紅愛はまだ訝しげに私を見ていた。
「簡単なものでもいいなら、私が朝ご飯作るけど?」
「え? 紅愛ちゃん料理出来るの?」
「……その言い方だとまるで私が料理出来るの意外みたいに聞こえるんだけど……?」
「いや、紅愛ちゃんも料理出来るのかと思って……」
「本当に?」
「本当本当」
「ならいいけどさ」
「紅愛ちゃんは何を作れるの?」
「ピザトーストとか、スクランブルエッグくらいならなんとか作れる」
意外と紅愛が料理出来るとは思っていなかった。紅愛が料理出来ると分かると、更に料理する気力がなくなってきた。せっかくだしここは、紅愛の言葉に甘えて紅愛に朝ご飯を作ってもらおうかな。
「それじゃあ、朝ご飯作るの任せてもいいかな?」
「良いよ。いつもお世話になってるし」
そうして、紅愛がキッチンに立って冷蔵庫の中を漁り始めた。
「食パンもあるし、チーズもケチャップもあるから何とか作れそう」
冷蔵庫から食材を取り出して、朝ご飯を作り始める。食パンを二枚取り出して、食パンにケチャップを塗ってその上にチーズを乗せると、トースターで焼き始めた。三分焼いた食パンをトースターから取り出してお皿に移して完成。
「飲み物は麦茶でいい?」
「うん」
食器棚から二つコップを取り出して、冷蔵庫でキンキンに冷えている麦茶を注ぐ。コップ一杯分注いだらダイニングテーブルに持っていく。紅愛はお皿に盛りつけたピザトーストをじっと見ていた。
「どうしたの? 紅愛ちゃん」
「いや、いつも適当に作ってるからこれでいいかなと思って」
「十分美味しそうだけど?」
「私、奏みたいに料理しないから……」
「ううん、朝は適当でいいよ! 朝からちゃんと作るのも疲れるし、紅愛ちゃんが作ったものなら喜んで食べるし! そこは心配しなくて大丈夫だよ!」
「それならいいんだけど………」
「せっかくだから早く食べよ?」
「うん」
二人で席に着いて手を合わせる。
「「いただきます」」
まずは喉の渇きを潤す為に麦茶を一口飲む。冷たい麦茶が喉を潤してくれる。次に紅愛が作ったピザトーストを一口かじる。とろとろに溶けたチーズにケチャップがよく合う。そのまま二口、三口と頬張っていると紅愛がこちらの様子を窺うようにじっと見ていた。
「どう……? 奏の口に合う?」
「もちろん美味しいよ! また作るのお願いしてもいいかな?」
「……それならよかった……」
そう言うと紅愛は少しにこりとして、ほっと息をついた。私の口に合う朝ご飯を作れてご機嫌らしい。
「そういえば奏。今日のお泊り会のことなんだけど……」
「? 何か白羽ちゃんから連絡あった?」
「うっかり奏に言うの忘れてたんだけど……お泊り会をするの白羽の家じゃなくて、あいつの別荘でやるって」
「……別荘? 白羽ちゃんって別荘も持ってるんだ……」
流石白雪家。別荘の一つや二つ持ってるか。白羽ちゃんの豪邸を見れないのは少し残念だったけど、それでも全然よかった。白羽ちゃんからの連絡はその事だろうか? と思ったが、紅愛の顔はまだなにか言いたそうな表情をしていた。
「白羽ちゃんからの連絡はそれだけ?」
「いいや、あともう一つある」
「……もしかして、おやつを作って持ってきてとか……?」
「いや……そんなのじゃないけど……持ってこいってのは合ってる」
「えっ」
まさか適当に言ったことがほぼ合っていたとは……それじゃあ持ってくるものは何だろう?
「じゃあ、何を持っていったらいいの?」
「…………水着を持ってこいって」
「……え? 水着?」
紅愛が言った言葉を復唱する。水着が必要と言うことは……
「……水着が要るってことは、海かプールでも行くの?」
「あいつの別荘が海の近くにあるから、せっかくだから泳ぐんだって」
「海の近くかぁ……景色とか良さそうだよね」
「……奏さぁ、ちょっと呑気過ぎじゃない?」
「えっ? そうかな?」
「まぁそこが奏の良いところでもあるけど……ところで水着の用意は出来てるの?」
「あっ! どうしよう! ここ最近海とかプールに行ってなかったから、新しい水着買わなきゃ!」
友達から泳ぎに行かないかと言われた時もあったけど、仕事があったり、日焼けするのが嫌だったりで断ったんだった。だいぶ昔に海に行った時は、水着じゃなくて濡れてもいいTシャツに半ズボンで行っていた。でも流石に白羽ちゃん達と泳ぎに行くのにTシャツ半ズボンはまずい。
「私はこの間、有紗と買いに行ったからいいけど。どうするの? 今日白羽のところに行く前に買いに行く?」
「……そうだね。時間が少し忙しくなるけど、そうしよっか」
内心で「それなら早く教えてほしかったなぁ」と思ったが、その言葉を飲み込んだ。とにかく予定を変更して、これから準備をして終わり次第に、近くのショッピングモールで水着を見てから、白羽ちゃんと合流しよう。そういえば、白羽ちゃんと何処で待ち合わせなのか聞いてないけど。紅愛に連絡は来たんだろうか?
「そう言えば紅愛ちゃん。白羽ちゃんとどこで合流するの?」
「ああー、その事なら、白羽から連絡来てて、十一時に白羽の家に来ればいいってさ」
「白羽ちゃんの家って、あの高級住宅街の中でも一番大きい家で合ってるよね?」
「うん、合ってるよ」
「分かった! 十一時に白羽ちゃんの家ね!」
待ち合わせ場所も無事に確認出来たので、予定を立て直す為に時間を見てみると、現在の時刻は朝の八時半。これから洗い物と洗濯物を干して、掃除機をかけて荷物をまとめて、ショッピングモールで水着を見て、白羽ちゃんの家に行かなければならない。白羽ちゃんの家は、ショッピングモールから少し反対側にあるけど、そこは水着を早めに決めて白羽ちゃんの家を目指せばいいだろう。そうとなったら、今から急がなくては。私は朝ご飯を早めにもぐもぐと咀嚼して、麦茶で流し込む。黙々と咀嚼している私を、紅愛が?マークを浮かべながら見ていた。それもお構いなしに、私は朝ご飯を食べ終わった。
「ごちそうさまでした!」
食器を持って椅子から立ち上がり、流し台に食器を置く。そうしてメイク道具を取り出してメイクを済ませる。今回は、海に行くので水に濡れても大丈夫なメイクをする。ささっとメイクを終えて、そのまま部屋に戻り、キャリーケースにメイク道具を入れる。それから、クローゼットから、一泊二日分の着替えと下着を選んでキャリーケースに仕舞う。スマホと充電器も入れて、モバイルバッテリーも予備として持っていく。荷物を全部まとめ終わると、キャリーケースを閉じて玄関に置いておく。そのまま私は洗濯物をまわして、その間に掃除機をかけた。掃除も終わり、あとは紅愛の準備が出来るのを待つだけだ。掃除を慌てて終わらせたので私はソファで休みながら、紅愛を待つことにした。私が掃除機を大急ぎでかけていた私を紅愛は、少し苦笑い気味で見ていた。それから部屋に戻った紅愛を待っていると、しばらくして紅愛が荷物を抱えてリビングに来た。
「準備終わったけど……もう出るの?」
「そうだね。水着を決めるのか分からないし。早めに行って時間が余ったら、白羽ちゃんの家に早めに行けばいいし!」
「それもそっか。じゃあ、もう荷物積んで行く?」
「そうしよっか。お昼ご飯もせっかくだからショッピングモールで食べて行こう」
そう決めると、私と紅愛は荷物を持って家を出た。
――
それからショッピングモールに到着し、車から降りると真っ先に水着のコーナーを見てまわる。ちょうど夏本番なので色んな水着が沢山並んであった。久しぶりに水着を買うけど、どの水着にするか悩む。一番多いのはビキニタイプだけど、前に飾ってあるい水着はどっちかというと、若い子が好むような可愛いデザインの水着が多かった。色んな水着を手にとっては戻してを繰り返す。その隣で紅愛もいくつかの水着を見ていた。私が水着コーナーをしばらくうろうろしていると、紅愛が話しかけてきた。
「奏はどんな水着がいいの?」
「う~ん……。それが分からないんだよねぇ……」
「例えばとかないの? ビキニとかワンピースがいいとか」
「流石にこの辺にある水着は、私にはちょっと派手かなぁと思って……」
「それなら……。これとか似合いそうだけど」
すると紅愛は一つの水着を手に取った。紅愛が手に取った水着は、薄いピンクのワンピース型の水着だった。露出も少なくて、袖と胸元の部分にはフリルがあって普通のワンピースみたいだった。
「これなら露出も少ないし、ワンピースとそんなに変わらないからいいと思うけど」
「……でも、私にピンクとか似合うかなぁ……」
「大丈夫だって。とりあえずこれ着てみたら?」
紅愛は水着を私に持たせると、試着室を指さして私の両肩を後ろからガシッと掴むと、そのまま試着室まで連行された。そして試着室に私を入れると、『着たら言ってね』と言ってカーテンを閉めた。私は改めて紅愛に渡された水着をまじまじと見る。こんなに可愛い水着が自分に似合うとは思えないけど、せっかく紅愛が選んできた水着を着ないわけにはいかないので、私は渋々水着を着た。紅愛が選んだ水着なのにサイズはちょうどぴったりで、見た目だけどぴったりのサイズを見つけた紅愛に少し驚いた。水着を着た状態で、試着室の鏡で全身を見る。似合っていないわけではないけど、まさか私がこんな可愛い水着を着る事になるとは……。自分でぶつぶつ考えても仕方ないので、外で待っている紅愛に見てもらうことにした。試着室のカーテンから首を出して外を見ると、試着室の前で紅愛が腕を組んで待っていた。
「着た?」
「着たけど……。あんまり自信ない……」
「私にも見せて」
そう言うと、紅愛が試着室の中に入ってきた。紅愛は水着を着た私の全身を上から下まで、じっと見ていた。流石に少し恥ずかしくなった私は、少し下を向いてあまり紅愛の顔を見る事が出来なかった。しばらくの間、紅愛は手をあごの下に当てながら、考え事をしている様に私をじっと見つめる。そろそろ恥ずかしさがピークに達しそうなので、紅愛に声をかけた。
「……そろそろ、着替えてもいいかな?」
「私的には、似合ってるけど奏はどう思う?」
「私? 私はそうだな……」
「もっと控えめなのがいいとかある?」
「別にそういうのは無いけど……」
「ピンクが嫌なら別の色とかあるけど」
「う~ん……」
色々な水着を提案してくれる紅愛の言葉に曖昧に答える。特にどんな水着が良いとかはないんだけどなぁ……。そこでふと気になることが頭に浮かんだ。紅愛は有紗ちゃんと水着を選んだと言っていたけど、紅愛はどんな水着にしたのだろうか? 気になって紅愛に聞いてみる。
「ところで、紅愛ちゃんはどんな水着にしたの?」
「私? 私は黒のビキニだけど?」
「ビキニ!? 紅愛ちゃんって意外と大胆だね……」
「ビキニって言ってもただのビキニじゃなくて、下がスカートで上もそんなに露出が多いわけじゃないし。ワンピース型の水着とそんなに変わらないよ」
「そうなんだ……」
紅愛はスタイルも良いから、水着もきっと似合うんだろうなぁ……。それに比べて私は……。
「結局水着はどうするの? 私が選んだやつでもいいし、他のがいいのならもう少し見てまわるけど」
「紅愛ちゃん的には、私に似合いそうな水着って例えばどんなの?」
ファッションに詳しそうな紅愛に聞いてみる。
「そうだなぁ……。奏は明るめな色でも、暗めな色でも似合うと思うよ。スタイルも悪くないし、歳に比べて童顔だから若い子が着るような水着でも大丈夫だと思う」
「私って童顔なの?」
「メイク薄めでも若く見えるし、多分学校の制服とか着たら分かんないって」
「そうなのかな……」
「こういう服とかを選ぶときは、自信を持つことも大事だから。特に奏は顔に出やすいんだから」
「……そんなに表情に出てた?」
「出てたよ。『……こんなの私には似合わない……』とか思ってたんでしょ?」
「うっ……」
思っていたことを全部紅愛に暴露され、紅愛が言ったことが自分の心にぶすりと刺さった。
「ほらね。図星だったでしょ?」
「はい……」
「とにかく。どうする? 他の水着探す? それとも、最初に選んだそれにする?」
紅愛に促されてしばらく考え込む。そしてやっと私が着たい水着が思い浮かんだ。
「……それなら私も紅愛ちゃんと同じビキニの水着にしよっかなぁ」
「分かった。それじゃあ、この水着は戻しておくから、良いのがあるかもう一回ちゃんと見てみて」
そうして紅愛は試着室から出て行った。私は水着から服に着替えて試着室から出た。紅愛は最初に着ていた水着を元の場所に戻すために、私とは別の方向に歩いて行った。それから私は一人でしばらくの間色んな種類のビキニを見ていた。
――
それから数分後。紅愛が戻ってきて私と一緒に水着を見ていた。
「どう? 気になるやつあった?」
「……一つあるんだけど。これとかどうかな?」
「そう言って私が見せた水着は、上が白と水色の柄物で、下が白のスカートになっている水着だった。これなら色もちょうどいいし、私でも着れそうだと思ったからだ。それを紅愛に見せると紅愛は少しびっくりした表情をしていた。
「? 紅愛ちゃん?」
「……ああ、ごめん。ちょうど私もそれが奏に似合いそうだなって思ってたから……」
「ほんと!? じゃあ私、これ試着して来るね!」
私と紅愛が考えていた水着が同じなのが嬉しくて、つい試着室に小走りで行ってしまった。それほど嬉しくてささっと選んだ水着に着替える。また紅愛が試着室の前に待っているだろうと思い。試着室の中から声をかけた。
「……着替えたよ」
と言うと。紅愛が試着室の中に入った。そして水着姿の私をじっと見た。
「……どう? 似合ってる?」
「うん。ちょうどいいんじゃない? 奏にはやっぱり明るい色の方が似合うみたいだし」
「ほんと? 良かった……」
「じゃあ、水着はそれにする?」
「うん! これにする!」
「それならさっさと会計を済ませてきたら? 意外と時間使っちゃったしね」
「それじゃあ会計してくるね!」
選んだ水着を持ってレジに小走りで向かう。レジで会計をしている間紅愛は後ろで待っていた。会計を済ませたところで私のお腹がぐっ~と鳴った。それと同時に紅愛が寄ってきた。
「お腹空いたの?」
「えっ!? 聞こえてたの?」
「耳は良い方だから。それよりお昼は何食べる?」
「フードコートに行ってから決めようかなぁ」
二人で会話をしながらフードコートに向けて歩く。それよりも夏休みの時期に賑わっているショッピングモールの中で、私のお腹の音が聞こえる紅愛は凄いなぁ……。いくら耳が良くてもそんなに聞こえるものなのだろうか? それとも私のお腹の音がそんなに大きかったかな? そう思っていると人が段々と多くなってきた。気付いたらフードコートに着いていたらしい。ちょうどお昼のフードコートはとても混んでいた。たくさんある席もほとんど埋まっているし、お店の前にはいくつか列も出来ていた。
「うわぁ~。凄く混んでるね……空いてる席あるかな……」
「それならフードコートは止めて、一階のレストランにする?」
「いや……。フードコートがこの状態なら一階のレストランも混んでると思うよ」
お昼の時間帯のフードコートを見渡して、多分一階のレストランも混んでいるだろう。二人でフードコートの入り口でどうしようと立ち尽くす。予定ではフードコートの中にあるオムライスを食べて、白羽ちゃんの家に行こうと思っていたのに……。この状態では注文するのにも三十分以上はかかるだろう。お店の中で一番列が少ないところでも二列は並んでいた。どうしようかと私が頭を抱えていると、紅愛が一言言った。
「白羽からメッセージ来て、『お昼ご飯食べた?』だって」
「白羽ちゃんから? なんて返したの?」
「まだ食べてないって言ったら、『それなら私の家で食べよ!』って」
「ええっ!? でも白羽ちゃんに悪いし……」
「そう奏が言うと思って、そう言ったら。『大丈夫大丈夫! シェフの人達が作った料理美味しいから!』の一点張り」
「う~ん……でも……」
「でもって言ってもしょうがないでしょ? 大人しく白羽の家で食べよ。私お腹空いたし」
そう言って紅愛は私の先を歩き出す。それを小走りで私は追いかけた。
――
ショッピングモールを去ってお昼ご飯を食べずに、白羽ちゃんの家に向かって車を走らせる。紅愛はお腹が空いているからか少し不機嫌気味で外を眺めていた。私もお腹が空いているためさっきからお腹がぐっ~ぐっ~と鳴っていた。早く白羽ちゃんの家に着かないかなと思いながらハンドルを握る。そういえば、白羽ちゃんはお昼ご飯は食べたのだろうか? それとお昼ご飯は何が出てくるのか等々。色々考えても仕方ないので白羽ちゃんの家に着いてから考える事にした。そうこうしていると窓の景色が段々高級な住宅街になってきた。カーナビに従いながら走っていると住宅街の奥の方に大きな門が見えた。門に近づいてみると大きな門の横にモニター付きのインターホンがあった。車から一旦降りてインターホンのボタンを押す。
『はい。白雪です』
「あっ、こんにちは。えっと……白羽ちゃんはいますか?」
『白羽お嬢様でしたらいらっしゃいますが。何の御用でしょうか?』
「え~っと……。今日は白羽ちゃんと遊ぶ約束をしていて、それで白羽ちゃんの家で待ち合わせすることになって来たんですけど……」
『少々お待ち下さい』
とインターホンからの声が途切れた。運転席に戻ってしばらく待っていると、門が大きな音を立てて開いた。これは入ってもいいのかな? 恐る恐る車を門の中に入る。門を抜けると大きな庭が広がっていた。手入れもちゃんと行き届いていて、その奥の真ん中には大きなお屋敷がどんっと建っていた。大きなお屋敷に圧巻しているとお屋敷の前に一人の使用人さん? が一人立っていた。その人の前で車を一旦止める。
「白羽お嬢様のお友達の方ですね?」
「はいっ! そうです」
「お嬢様がお待ちです。車はあちらの車庫に停めて下さい」
「分かりました」
使用人さんが言ったとおりに屋敷の左側に大きな車庫があった。そこに車を停止させて荷物を取り出して降りる。紅愛もちょうど降りたところでさっきの使用人さんがやって来た。
「それでは、白羽お嬢様の部屋までご案内します」
黒い燕尾服の使用人さんの後を着いていく。お屋敷の中の窓からは手入れされた庭が見えていた。窓の外の景色と私達の前の使用人さんを交互に見ながら歩く。すると使用人さんはある部屋の前で止まった。扉を二回ノックして扉の開けた。扉を開けた先は、白とピンクで統一された可愛らしい部屋だった。その真ん中の椅子に白羽ちゃんが座っていた。その隣には先に到着した有紗ちゃんが座っていた。
「白羽お嬢様。お友達をお連れしました」
使用人さんは白羽ちゃんの前で一礼すると後ろの扉の前まで下がっていった。白羽ちゃんは使用人さんが下がるのを確認すると、可愛い笑顔で私達に視線を向けた。
「いらっしゃい! 待ってたよ!」
大きな声で喜んでいる白羽ちゃんを見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。私の隣にいる紅愛は少しめんどくさそうな表情をしていた。
「それで、お昼ご飯は用意してあるの?」
「あっ、そっか! 二人はお昼ご飯まだだったよね? 食べたいものがあるなら作るから言って!」
「私は別になんでもいいけど。奏はなにかある?」
「そうだなぁ……。……オムライスとか?」
「それなら私もそれで」
「分かった! それじゃあ今からシェフに作らせるからちょっと待っててね!」
そう言うと白羽ちゃんは後ろに控えていた使用人に何かを言うと、使用人は一礼して部屋を出て行った。
「出来るまでは、一緒にお喋りでもしようよ! ほらほら! 二人も座って!」
白羽ちゃんに促されながら、隣の二人掛けのソファに腰かけた。紅愛はその隣に座っている有紗ちゃんと会話を始めた。白羽ちゃんにはいくつか聞きたい事があるのでこの際に聞いておくことにした。
「ところで、白羽ちゃんに聞いておきたい事があるんだけど」
「? 何? 聞きたいことがあるなら何でも聞いて!」
「今日のお泊り会の詳しい予定を聞きたくて……」
この後、白羽ちゃんの別荘に行くのは知っているけど、その後何をするのかは具体的には聞いていなかったので聞いてみる。
「このあとねぇ~、別荘に行って荷物を置いたら海で遊ぶ予定!」
「すぐに海行くんだね……」
「だって皆といっぱい遊びたいもん!」
白羽ちゃんはきらきらとした目で、楽しそうにこの後の予定を話す。楽しそうな白羽ちゃんを見ているとこっちまでなんだか楽しくなってきた。今日は白羽ちゃん達とたくさん遊ぼう!
「今日はいっぱい遊ぼうね!」
「うん!」
白羽ちゃんとそんな会話をしていると、私の隣で有紗ちゃんと話していた紅愛がこちらの事をじっと見ていた。視線に気づいた私は首を傾げながら紅愛に話しかけた。
「? 紅愛ちゃんどうかした?」
「……別に? やけに白羽と仲良さそうに話してるなぁと思って……?」
「私と奏お姉さんは仲良しだよ! ねぇ~、奏お姉さん!」
「そ、そうだね……」
そう言って白羽ちゃんは私の隣に寄りかかる。それを見て紅愛は更に訝しげに私と白羽ちゃんを見た。
紅愛の目が少し怖かったので、私は慌てて別の話題を紅愛達に振った。
「と、ところで! 海に着いたら何して遊ぶ?」
「海と言えばやっぱりスイカ割りとか?」
「それならスイカはどうするの?」
「スイカならうちの冷蔵庫にあるからスイカ割りやろうよ!」
有紗ちゃんの提案に紅愛がツッコミをして、白羽ちゃんがスイカを持っていく事になった。海で何して遊ぼうか話し合っていると、扉がノックされて使用人さんが入ってきた。
「白羽お嬢様。お友達の昼食の準備が出来ました」
「あっ、二人のお昼ご飯出来たって! 私と有紗ちゃんはここで待ってるから、ダイニングで食べてきなよ!」
白羽ちゃんに促されて私と紅愛は荷物を置いて、使用人さんに案内され白羽ちゃんの部屋を出た。使用人さんの後を歩いていくと、一つの扉を開けた。そこには長いテーブルに椅子が五つあった。その二つに座ると、別の使用人さんがお盆を持って来て、私と紅愛の前に出来立てのオムライスを置いた。
「「いただきます」」
卵はちょうどいい半熟で、中のチキンライスもケチャップがちょうどいい。それをとろとろの卵と一緒に食べるととても美味しい。お腹が空いていたのもあって更に美味しく感じた。隣で食べている紅愛も美味しいと思ったらしく、少し口角が上がっていた。そのまま私と紅愛はひたすらもぐもぐとオムライスを味わった。
――
「「ごちそうさまでした」」
オムライスをあっという間に完食した私と紅愛は、再び使用人さんに案内されて白羽ちゃんの部屋に戻った。部屋に戻ると白羽ちゃんと有紗ちゃんが楽しそうに話していた。
「あっ、二人共お帰り! ご飯美味しかった?」
「とっても美味しかった! ありがとう白羽ちゃん」
「うちのシェフが作ったご飯は絶品だもん! 有紗ちゃんも食べればよかったのに~」
「いや~、白雪家の料理を食べるのは恐れ多いから遠慮しとく……」
「え~。美味しいよ?」
白羽ちゃんがぶつぶつと言っていると、使用人さんが白羽ちゃんに声をかけた。
「白羽お嬢様、車の準備が出来ました。いつでも出発出来ます」
「分かった! それじゃあそろそろ出発しよっか!」
「かしこまりました。それでは車を家の前に出しておきます」
白羽ちゃんが勢いよく椅子から立ち上がり、出発することを使用人さんに言うと、一礼して使用人さんは下がっていった。
「皆もいつでも出発出来る?」
「私と白雪さんは、荷物を使用人さんに預かってもらったからあとは、車に乗るだけだな」
「私と紅愛ちゃんも、荷物は持ってるからいつでも行けるよ」
隣にいる紅愛に視線を向けると、紅愛はこくりと頷いた。
「それじゃあ、家の前に車を出してるから車に乗ろ!」
白羽ちゃん達と一緒に部屋を出た。廊下をしばらく歩いていると大きな広間に出た。その中で一番豪華な扉を開けると外に出た。そこにはぴかぴかに磨かれた黒い高そうな高級車が停まっていた。使用人さんが後部座席の扉を開けてくれた。
「紅愛ちゃんと奏お姉さんは、そこの使用人に荷物車に載せてもらって!」
白羽ちゃんが視線で示した先には、二人の使用人さんがいた。使用人さんの前に荷物を持っていくと車のトランクに荷物を載せた。
「荷物載せたら乗って乗って!」
白羽ちゃんと有紗ちゃんが先に車に乗り、その後から私と紅愛も車に乗り込んだ。全員が車に乗ったのを確認すると、白羽ちゃんが運転手さんに声をかけた。
「それじゃあ出発!」
白羽ちゃんがそう言うとすぐに車が走り出した。
「別荘には一時間半くらいかかるから、それまでお喋りでもしよ!」
私達四人は、別荘に着くまでお喋りすることにした。白羽ちゃんが持ってきたお菓子をたまに食べながら、ガールズトークをした。
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